ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第六章 黒幕

11 国王たちの怒り

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「それについては…しっかりと配慮せいと、言ったはずだが?」

すこーしばかり静かになったティタノ陛下の怒気オーラが…さらに強くなっちまった。
さて…どうするか…。
ここで追い詰めてもいいんだが…。
社交界って場所は、そんな事はきりなく出てくる場所だからな…うん。

私よりギリアムの方が、耐えられないのだろうが…。

「それにつきましては…。あまり目くじらをたてぬことを、お勧めいたします」

しょーがないから、私が出る。

「ティタノ陛下…、ギリアム…。そのような話をする輩は、ウジのようなもの…。
退治したところで、またどこからか湧いて参ります。ただ…」

だからって、完全放置もする気はない。

「あまり行きすぎますと…新聞記事同様、ティタノ陛下への侮辱となります。
その事のみよ~く、言い聞かせておけばよいかと…」

その程度に…まずはとどめないとね…。
するとティタノ陛下は…ちょっと怒りのオーラが、少なくなり…。

「……お前は面白いのぉ。殲滅してしまえばよいのに」

興味本位的な質問に聞こえたから、

「……殲滅したら殲滅したで、また別の何かが湧き出ますよ。
私は…人の世とはそういったモノと思っております…。
だから…その都度その都度、対処していけばいいし、あまりそればかりしか見なくなると、
別の何かが湧いている事に…気づかぬやもしれません。
そちらの方が痛手と言う事も、あり得ます…」

本当にさ…。これは私の人生観だからね…。

「それもひっくるめて、やろうとは思わんのか?」

私は…少し考えた。
確かに…私は今、力がある…でも…。

「ティタノ陛下…。初めてお会いした時、私が言った言葉…覚えてらっしゃいますか?」

「ん?」

「ウジを潰すのが楽しければ、それだけやるのもいいかと思いますが…。
私にはそれよりも、楽しい事が沢山あります。
ですから…潰すのはほどほどにして、私や私と接する人々には…楽しんでもらいたいのです。
そして私はそれを楽しみたいのですよ…」

すると…ほんの一瞬だけ、キョトンとした後…。

「なるほど…」

妙に納得した顔をしてくれたのだが…。
あ、ギリアム不満そう。

「……この際ですから、叔母上に言っておきます」

だからかな…。かなりきつめの声を出している。
まあ…不機嫌そうなのも、きつめな声も…私だからわかるって程度だけどね。

「どうもアナタの取り巻きたちは…何とかフィリーを追い出したいようなのです。
まあ…どこにでも階級至上主義者はいますから、いいんですけどね…。
ただ…一つどうしてもわからない事があります」

…今度はちょっとワザとらしくなったな…。

「フィリーは…ティタノ陛下の接待の件も含めて、随分と…国に貢献したんですがね…。
今回の経済発展だって、ひとえに国を潤そうとした結果です。
それを痛めつけると言う事は、国に仇なそうとしている事に…ならないのですかねぇ。
アナタは仮にも…王家の親戚でしょう?
あまり…自分の首を絞める行動を、するべきではないのでは?
どんなに忠誠心が強い人間だって、あからさまに害されれば、少し考えるモノですよ」

……これ暗に、私を虐めたら、国に貢献するのやめよっかな~って言ってるようなもんだ。
まあ確かにさ。やってあげても仇しか返されないんじゃ、嫌になっても無理ないけどね。

「何を言うかと思えば…。社交界の噂など、ただのやっかみや嫉妬が大半…。
気にしすぎる方がおかしいというもの」

甥が相手だからか、涼しい顔で言ってやがる。
まあ…それも最もなんだが…。

……と、私がちょっと思考していると、

「出て行け…」

地の底からの地響きのような…そんな音が響く…。
それが…ケルカロス陛下の声だって気づくのに、少しかかった…。

「今すぐこの場から、出て行け!!ゾフィーナ・ドラヴェルグ公爵夫人!!」

「な…何を…」

ゾフィーナくそばばぁは…ケルカロス陛下に言われるとは、予想していなかったようだ。
明らかに動揺している。

「今まで!!3年前の政略結婚の恩があるからこそ、眼をつぶって来た部分もあったんだ!!
だが…それももう、限界だ!!
国にしっかりと貢献している人間を、貶めるしかできない人間が、この場にいるな!!
出て行け!!」

ありゃままま、とうとう…か…。

「お待ちください!!私は…コードロガスの外戚でございます…。
私もまた…あちらとの仲を、取り持ってまいりました!!」

多少の動揺はあるが、まだ…目は死んでないな…。
さすがに、社交界でそれなりの力を持ってるだけある…。

けどさ…。

う~ん。

ゾフィーナくそばばぁよ…。
確かにアンタは、コードロガスの外戚かもしれんが…。
コードロガスって、ギリアムに聞いた限りじゃ…国交をあまり積極的に行っていないと
聞いたけど…。
そもそも向こうの状況とパワーバランスって、どうなっているのかなぁ…。
ギリアムじゃなきゃ、わからん…。

「ギリアム公爵!!」

おや…怒り心頭のまま、ギリアムの方を向いたよ。

「なんでしょう?国王陛下…」

涼しいギリアム…。温度差が凄いな…。

「コードロガスを潰す自信…あるか!!?」

「!!!!!」

おおおおい、そりゃまた…う~ん。

「……ご所望とあらば」

わあぁ、涼しい顔…。
戦争は良くないけど…う~ん、この場は…ちょっと様子を見よう。
ちなみに…ティタノ陛下とドライゴ陛下は、ギリアム同様涼しい顔だ…。
ゾフィーナくそばばぁ…さすがにひきつりがポーカーフェイスを崩してやがる。

「その場合は一枚かませろ!!」

あ…ティタノ陛下の援護射撃が入った…。

「お、お待ちください!!そのような事をこの場で…」

「……私が何も、知らないと思っているのか?」

ケルカロス陛下は…何だか怒りもあるが、諦めもあるように見える…。

「お前の娘…あちらの王族とあまり仲良くできていない」

え~、マジっすか?

「この前…国交会議の時に、外交官がちらりと言っていた!!
もし嘘だと思うなら…早々に問い合わせてみろ!!
そして…戦争を防ぎたいと言うなら、早々にあちらとの、国交回復を行え!!
それが出来るまでは…貴様の訴えは全て退ける!!
場合によっては、ドラヴェルグ公爵家も、どうなるかわからんぞ!!
王宮への出入りも、全面的に禁止だ!!
わかったら、さっさと出て行けぇっ!!」

あ~ら、ままま。とうとう、王宮にまで出禁になっちゃったよ、クソばばぁ。
今度から、出禁クソばばぁと呼んだろか。

ケルカロス陛下の剣幕は、より一層ひどくなる。
ゾフィーナくそばばぁも…娘の話は初耳だったようで、形勢が悪いと判断したようだ。
早々に…出て行った…。

へっっ!!ざまっ!!

私が改めてレファイラに目をやれば…下を向いたまま震えている。
だが、やがて…。

「ティタノ陛下…」

その声は…小さいがハッキリしていた。

「レティアを…ダルダリスに行かせることだけは…免除していただきたい…。かわりに…」

ここで顔を上げる。
その眼は…血走っている…と言うより、血で染まっていると言ったほうが適切だろう。
必死さが…尋常じゃない。
ダルダリスの酷さは…王族の方がよく知っているようだ…。

「こちらが差し出せるものは…差し出しますので!!」

唇が…歪む。

ほお…大きく出たね。

ただ…私は少し、おかしいなとも思った。
子供を平等に扱わない親には…会ったことは当然あるが…。
ケイルクスとバカ王女の…可愛がり方に、落差がありすぎじゃねぇか?

こっちの調べで…かなり心を病んじまってるケイルクスの元に、レファイラが行っている
形跡がないみたいなんだよね…。
そのくせ…バカ王女はホンットに、過保護に扱っちまってる。
馬鹿な子ほどかわいいなんて言葉もあるが…それにしたって…。
もう可愛がってるってより、執着してる…ってレベルだぞ。

何だか…しっくりこないなぁ…。

私が思考の波に乗っていると、

「なら…こちらの要求は3つじゃ」

ティタノ陛下のお言葉が始まったから、波乗りをやめて戻る。

「1つ…。ケルカロス国王にも言ったが、わしとオルフィリア公爵夫人の仲を邪推して
揶揄や憶測をする輩はしっかりと抑えよ!!
わしの目と耳は、様々な所にあるからな…。心せよ!!」

ああ、ギリアムが水を得た魚のような顔をしている。
耳に入ったらティタノ陛下にチクる気だ。絶対。

「2つ…。これ以上、ラスタフォルス侯爵家の問題に王家は関与するな。
もう裁判とて終わって、収束したのだからな」

……ダリアに書かせた書類、握りつぶす気だってわかってるな。

「3つ…。貴様の娘…二度とわしの眼前に出すな!!」

あらまままあ、公式行事に顔出せなくなるねぇ。

「以上の3つを一度でも破れば…お前の娘は一切の容赦なく、ダルダリス行きだ!!
わかったら…証文にまとめろ!!」

もう観念しているようで、黙ってサクサクと証文が完成する。
それに…レファイラだけじゃなく、ケルカロス陛下も署名したよ。

ああ、どうなるかと思ったけど…何とかまとまった…。
さっさとダイヤを助けに行かなきゃね…。

私は…疲れた体に、どっこいしょ…と、気合を入れるのだった。
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