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第六章 黒幕
12 一難去って…
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「失礼する!!」
ギリアムのその言葉と共に…轟音が響き渡る。
……皆さま、ご想像できたかと思われますが、ギリアムがラスタフォルス侯爵家のスペースの
扉を、蹴り破ったのでございます。
いや…ダイヤを迎えに行ったら、キッチリ鍵がかかっててさ…。
スペアキー持ってくるよう、お願いしようかと思ったら…ギリアムが必要ないって…。
……いいのか?
ここ…王宮なんだけど…。
でも…中に入ったら、私の思考は悪い意味で停止した。
だって…ダリアのバカが、自分の首に刃物を突き付けてるからさ…。
しょーがねぇなと、思ってたけど…ここまでキチガイじみたことをするとはね…。
シャレにならん!!
「ダイヤ…。帰るぞ」
ギリアムは…そんなダリアの姿には、眉一つ動かさない。
それどころか、存在さえない者の如く…まったく気にしている素振りが無い。
「はい、ご当主様…」
ダイヤも…本当にいつも通り…と、言った素振りだ。
ダリアの方を振り向きもせず、ただ私と…ギリアムの方だけ向いて、こちらに来ようとするから…。
「お待ちなさい!!
誰に断って、ダイヤを連れ出そうとしているのですか!!
ダイヤは…もうずっとここにいるのです!!
もし不当に奪おうとするなら…私は死にます!!」
……なんだか、ダリアも中二病か?と、思っちまうなぁ…。
幼稚過ぎるぞ、やる事が…。
「ダイヤはファルメニウス公爵家の籍だ。私がいいと言えば、いいのだが?」
ギリアムは…非常に冷静と言うか、事務的に対応してら…。
呆れてんのかもな…やっぱ…。
「ダイヤはラスタフォルス侯爵家の人間です!!」
ダリアの目は…もう、誰の言う事も聞く気が無いようだ。
どうするかね…。
このままここで死のうが、もうどうでもいい人間になってきてるけど…。
こっちが悪いと言われるのも癪だし…。
なんて私が考えていたら、ギリアムは私…と言うより、私の後ろに目をやり、
「……ダイヤは連れて帰ります。
ダリア夫人の行動の責任は、本人に取らせてください。
これ以上迷惑をかけるなら、どうなろうと、こちらの知ったことではありません」
「まったくもってその通りです。申し訳もございません…」
その声に、バッと振り向けば…いつの間にかグレンフォ卿が。
後で聞いたけど…王宮のホールから一番遠い所の警護を任されていたらしい…。
これにも作為的な感じがするな…うん。
ケルカロス陛下との話が終わった時点で、ギリアムがローエン閣下に頼んで、連れてきて
貰ったんだとさ。
ダリアは…グレンフォ卿が現れるとは思っていなかったらしく、行動が止まってしまった。
ダイヤはとっとと私の方に来て、
「申し訳ございません、奥様…。大事無いですか?」
「大丈夫よ。よく頑張ったわね」
私が微笑んであげると、ようやくダイヤの顔が緩んだ。
「じゃ、帰りましょうか」
「はい…」
別動隊には、作戦が完了したら、速やかにファルメニウス公爵家に戻るよう伝えてある。
さっさと家に帰って、みんなを褒めてあげたい。
ああそうそう、ティタノ陛下も先に帰ってらっしゃるよ。
あくまで滞在は非公式だからね。
私らがさっさとその場を去ろうとすると、
「お待ちください!!ギリアム公爵閣下!!
もうすぐこの場に…レファイラ王后陛下がいらっしゃるのです!!
無視して帰るなど…いかにアナタと言えど、許されませんよ!!」
ダリアが復活しやがった…ちっ!!
でもギリアムは、それも涼しい顔で、
「レファイラ王后陛下なら、ご気分がすぐれないと言って、早々に自室に戻られました。
ここで待っていたところで、いらっしゃることはありませんよ」
「なっ!!そんなウソを…」
「嘘ではないわい。わしも確かに確認した」
ローエンじい様の言葉に、手に持っていたナイフを落とし…呆けるダリア。
ギリアムはもちろん気にも留めず、
「では、失礼します」
さっさと去ろうとしたら、
「ご当主様…一ついいですか?」
ダイヤが挙手した。
そして…グレンフォ卿に、
「オレはちゃんとアンタに言ったよな…。カミさんをしっかり抑えとけって…」
鋭く突き刺さる、目線と声を向ける。
グレンフォ卿は…何も答えない。
「散々奥様が…ご当主様が、温情をかけてくださったのに…。
アンタのカミさんは、見事にそれを打ち砕いた…」
ダイヤの怒気が…一本の剣のように固まり、
「だからもう、容赦はしない!!
オヤジが…グレッドがオレに残した日記と遺書…全面的に公開させてもらう!!」
場を切り裂いた…。
「!!!??そんなものがあったのか?」
グレッド卿は非常に驚いているが、
「ま、待ってください!!それは…ラスタフォルス侯爵家の物です!!
今すぐこちらに引き渡してください!!」
私は少し違和感を覚えた。
ダリアの必死さが…グレンフォ卿のそれとは違うから…。
「ラスタフォルス侯爵家の物じゃねぇよ!!くそばばぁ!!
親父が!!オレに!!残したものだ!!オレのモノなんだから、オレの好きにさせてもらう!!」
ダイヤの声は…非常そのもの。
「っていうかよ…」
グレンフォ卿の方を改めて向き、
「親父の日記の事…アンタ、知らないのか?
親父の日記の中の記述に…複写を家の自分の部屋に、置いて来たって言ってたぜ」
「な、なんだって!!?」
グレンフォ卿…本当に寝耳に水だったようだ。
「まあ…オレは知らないし、どうでもいいけどよ」
それだけ吐き捨てて、帰ろうとしたのだが、
「ダイヤ…ちょっと待ちたまえ」
意外な事にギリアムのストップがかかり、
「遺書には…ローエン閣下とツァリオ閣下に当てたモノもありました。
ご覧になりたければ、時間の都合がついた時に、我が家にお越しください。
改ざんしたと言われないために、未開封の状態です」
「な、なにぃぃ?」
振って湧いたような話に、ちょっと眉毛がひしゃげたローエン閣下…。
「そ、それとて一度、ラスタフォルス侯爵家に…」
「法律の勉強をしたらどうだ!!
遺書は…故人が宛てた人のモノだ!!ラスタフォルス侯爵家の物じゃない!!」
ダリアが再度馬鹿な事言ってきたから、ぴしゃりと遮断したよ。
さすがだな、ギリわんこ。
「もういいでしょう?ご当主様…。あんなくそばばぁ、相手にするだけ無駄ですよ」
ダイヤはさっさとこの場を去りたいようだ。
「そうだな…。もう行こう…。フィリーの体も心配だしな」
その言葉と共に、ひょいっと私を抱きかかえ、足早にその場を去る。
ギリアムの足早って、常人のかけっこに近いから…直ぐに部屋の扉は遠ざかった。
ダリアの…叫びにならない叫びが聞こえているような気がしたが、知らん。
後は…グレンフォ卿に丸投げでいいよ。まったくもう…。
ギリアムの体温と…心音が、まるで子守唄のように、私を寝かしつけてくれた。
うとうとしながら思うのは…何だったかな…。
どうも…夢を見たような気がするんだけどね…。
思い出せないなら、いいや…。
安堵感に溢れる腕の中で、私はしばし…休息したのだった…。
先に外に出したフォルトとエマは、しっかりと馬車を用意してくれたようで、馬車乗り場には、
新しい馬車が止まっていた。
ギリアムは私を起こさないように乗り込んだが、馬車が走り出したゴトゴトと言う音で、目が覚めた。
そこには…ギリアム以外は乗っていなかった。
「ギリアム…」
「起こしてしまいましたか?できるだけ静かにと言ったのですが…」
心配そうに私を見つめ、額に口づけてくれている。
「少し寝て…元気になりました。
それより…私と別れてから、部屋に来るまで…何があったか聞かせてください」
「休んだ方が…」
「お願いです!!」
私の要請を嫌とは言えないようで、ギリアムはポツポツと話してくれた。
結果、私が思ったのは…聞いてよかった…だった。
「そうなると…スペードの刀…余計欲されるでしょうね…。
断れば…関係性が悪くなってしまう…。
あと…ドライゴ陛下に見られたのも、マズかったですね…」
「まあそこは…私の方で、何とかしますよ」
いや…アナタに任せられないと、私の直感が言っている…。
アナタは間違いなく完璧超人ではあるが、それゆえたまに…実力行使してしまうから…。
それに融通利かないし…。
あ…。
私の直感が、稲妻となって脳みそを打った。
「ギリアム…。こうしたらどうでしょうか?」
私がギリアムに耳打ちすると、
「フム…。それが一番か…。でも、こうするともっと…」
「あ、それいいですね」
策を良くするのは、得意なギリわんこ君。
しばし話をし…。
「じゃあ、ダイヤを呼んでください」
「なぜ?」
「日記と遺書の公表で…提案したいことがあるのです」
「明日でいいのでは…」
ギリアムは…もう私に休んでほしいようだが、
「大切な事ですから、早めに言いたいのです!!」
明日どうなるかなんて、わからんし!!
こうして…ダイヤが馬車の中に呼ばれると、
「ダイヤ…。日記と遺書の件なんだけどね…。最初は匿名公表になさい」
「え…?」
私からそう言われるとは思っていなかったらしく、あからさまに不機嫌そうになった。
ダイヤとしてはもう…彼らを地獄に落としたいのだろう。
「別に彼らに温情を与える気は、もうないわ!!」
だから私も何か言われる前に、先制パンチ。私だっていい加減休みたいし。
「逆に…ダリア夫人は今後も収まらない可能性がある。それを封じるためよ」
「と言うと?」
先ほどとは打って変わって、真剣な眼差しを向けてきた。
「まずね…。日記の内容が、使用人にも及んでいるのよ。そしてそれぞれ、家族がいる。
だから…攻撃を受けるとすれば、むしろ本人より、弱い家族に行ってしまうやもしれないの。
よほど頭が悪くなければ、これは容易に想像できる。
でも…匿名公表すれば、ワンクッション置ける。
もしこれ以上、こちらに迷惑をかけるなら、実名公表する…とね」
「なるほど。害を与えられたくなければ、自分たちで何とかしろと?」
頭良いね。助かる。
「そうよ。ダリア夫人だって周りが動かなければ、やれることは限られる。
そうすれば…こちらは対処がしやすい」
するとダイヤはニヤリと笑い、
「わかりました。確かにその方が…オレらにとって、利点がありますね。
奥様の言う通りに致します」
スッと頭を下げた。
私は…それで本当に安堵し、ギリアムと2人だけになった時、早々に眠りにつくのだった…。
--------------------------------------------------------------------------------------
「切って来たか?」
ドライゴが…お付きの人間に、無造作な言葉を投げかける。
「もちろんです」
その言葉に…安堵するでもなく、怒りをあらわにし、
「全く!!あんな空前絶後のバカと組まされるなど、聞いとらん!!
完全な規約違反じゃ!!ふざけるな!!」
声を荒げている。
「私も…聞いた時耳を疑いました…。ティタノ陛下にとって、母親への侮辱は…本人へのモノより
よっぽど怒りを買うのは、有名な話なのに…」
「本当じゃ…。まさかこの歳になって、人生最高峰のバカ人物記録が更新されるとはな…。
したくもなかったわ、まったく…」
ドライゴは声も言葉も、隠す気はないようだ。
「どうされます?もう、帰られますか?」
「お前も馬鹿になったのか?」
お付きの人の言葉に対する、ドライゴの痛烈な一言。
「あの…ファルメニウス公爵家が所蔵する刀を見ただろう?
あんなものを見せられて…黙って帰るなど、それこそ馬鹿の極みじゃろうが」
「しかし…。今回我々は、敵対したわけですから…」
「バレとらん。いや、例えバレていたとしても、証拠など残しとらん。
その状態でわしに何かするほど、ギリアム・アウススト・ファルメニウスは馬鹿ではないわ。
そうと決まれば、さっさとファルメニウス公爵家へ行くぞ」
そう言って…今度はカラカラと笑い出した…。
一体何をする気なのやら…。
-------------------------------------------------------------------------------------------
第11巻 終了~。
さてさて…ダイヤ編は次回でようやっと、片が付きます。
一週間後の発表を、お楽しみにぃ~。
ギリアムのその言葉と共に…轟音が響き渡る。
……皆さま、ご想像できたかと思われますが、ギリアムがラスタフォルス侯爵家のスペースの
扉を、蹴り破ったのでございます。
いや…ダイヤを迎えに行ったら、キッチリ鍵がかかっててさ…。
スペアキー持ってくるよう、お願いしようかと思ったら…ギリアムが必要ないって…。
……いいのか?
ここ…王宮なんだけど…。
でも…中に入ったら、私の思考は悪い意味で停止した。
だって…ダリアのバカが、自分の首に刃物を突き付けてるからさ…。
しょーがねぇなと、思ってたけど…ここまでキチガイじみたことをするとはね…。
シャレにならん!!
「ダイヤ…。帰るぞ」
ギリアムは…そんなダリアの姿には、眉一つ動かさない。
それどころか、存在さえない者の如く…まったく気にしている素振りが無い。
「はい、ご当主様…」
ダイヤも…本当にいつも通り…と、言った素振りだ。
ダリアの方を振り向きもせず、ただ私と…ギリアムの方だけ向いて、こちらに来ようとするから…。
「お待ちなさい!!
誰に断って、ダイヤを連れ出そうとしているのですか!!
ダイヤは…もうずっとここにいるのです!!
もし不当に奪おうとするなら…私は死にます!!」
……なんだか、ダリアも中二病か?と、思っちまうなぁ…。
幼稚過ぎるぞ、やる事が…。
「ダイヤはファルメニウス公爵家の籍だ。私がいいと言えば、いいのだが?」
ギリアムは…非常に冷静と言うか、事務的に対応してら…。
呆れてんのかもな…やっぱ…。
「ダイヤはラスタフォルス侯爵家の人間です!!」
ダリアの目は…もう、誰の言う事も聞く気が無いようだ。
どうするかね…。
このままここで死のうが、もうどうでもいい人間になってきてるけど…。
こっちが悪いと言われるのも癪だし…。
なんて私が考えていたら、ギリアムは私…と言うより、私の後ろに目をやり、
「……ダイヤは連れて帰ります。
ダリア夫人の行動の責任は、本人に取らせてください。
これ以上迷惑をかけるなら、どうなろうと、こちらの知ったことではありません」
「まったくもってその通りです。申し訳もございません…」
その声に、バッと振り向けば…いつの間にかグレンフォ卿が。
後で聞いたけど…王宮のホールから一番遠い所の警護を任されていたらしい…。
これにも作為的な感じがするな…うん。
ケルカロス陛下との話が終わった時点で、ギリアムがローエン閣下に頼んで、連れてきて
貰ったんだとさ。
ダリアは…グレンフォ卿が現れるとは思っていなかったらしく、行動が止まってしまった。
ダイヤはとっとと私の方に来て、
「申し訳ございません、奥様…。大事無いですか?」
「大丈夫よ。よく頑張ったわね」
私が微笑んであげると、ようやくダイヤの顔が緩んだ。
「じゃ、帰りましょうか」
「はい…」
別動隊には、作戦が完了したら、速やかにファルメニウス公爵家に戻るよう伝えてある。
さっさと家に帰って、みんなを褒めてあげたい。
ああそうそう、ティタノ陛下も先に帰ってらっしゃるよ。
あくまで滞在は非公式だからね。
私らがさっさとその場を去ろうとすると、
「お待ちください!!ギリアム公爵閣下!!
もうすぐこの場に…レファイラ王后陛下がいらっしゃるのです!!
無視して帰るなど…いかにアナタと言えど、許されませんよ!!」
ダリアが復活しやがった…ちっ!!
でもギリアムは、それも涼しい顔で、
「レファイラ王后陛下なら、ご気分がすぐれないと言って、早々に自室に戻られました。
ここで待っていたところで、いらっしゃることはありませんよ」
「なっ!!そんなウソを…」
「嘘ではないわい。わしも確かに確認した」
ローエンじい様の言葉に、手に持っていたナイフを落とし…呆けるダリア。
ギリアムはもちろん気にも留めず、
「では、失礼します」
さっさと去ろうとしたら、
「ご当主様…一ついいですか?」
ダイヤが挙手した。
そして…グレンフォ卿に、
「オレはちゃんとアンタに言ったよな…。カミさんをしっかり抑えとけって…」
鋭く突き刺さる、目線と声を向ける。
グレンフォ卿は…何も答えない。
「散々奥様が…ご当主様が、温情をかけてくださったのに…。
アンタのカミさんは、見事にそれを打ち砕いた…」
ダイヤの怒気が…一本の剣のように固まり、
「だからもう、容赦はしない!!
オヤジが…グレッドがオレに残した日記と遺書…全面的に公開させてもらう!!」
場を切り裂いた…。
「!!!??そんなものがあったのか?」
グレッド卿は非常に驚いているが、
「ま、待ってください!!それは…ラスタフォルス侯爵家の物です!!
今すぐこちらに引き渡してください!!」
私は少し違和感を覚えた。
ダリアの必死さが…グレンフォ卿のそれとは違うから…。
「ラスタフォルス侯爵家の物じゃねぇよ!!くそばばぁ!!
親父が!!オレに!!残したものだ!!オレのモノなんだから、オレの好きにさせてもらう!!」
ダイヤの声は…非常そのもの。
「っていうかよ…」
グレンフォ卿の方を改めて向き、
「親父の日記の事…アンタ、知らないのか?
親父の日記の中の記述に…複写を家の自分の部屋に、置いて来たって言ってたぜ」
「な、なんだって!!?」
グレンフォ卿…本当に寝耳に水だったようだ。
「まあ…オレは知らないし、どうでもいいけどよ」
それだけ吐き捨てて、帰ろうとしたのだが、
「ダイヤ…ちょっと待ちたまえ」
意外な事にギリアムのストップがかかり、
「遺書には…ローエン閣下とツァリオ閣下に当てたモノもありました。
ご覧になりたければ、時間の都合がついた時に、我が家にお越しください。
改ざんしたと言われないために、未開封の状態です」
「な、なにぃぃ?」
振って湧いたような話に、ちょっと眉毛がひしゃげたローエン閣下…。
「そ、それとて一度、ラスタフォルス侯爵家に…」
「法律の勉強をしたらどうだ!!
遺書は…故人が宛てた人のモノだ!!ラスタフォルス侯爵家の物じゃない!!」
ダリアが再度馬鹿な事言ってきたから、ぴしゃりと遮断したよ。
さすがだな、ギリわんこ。
「もういいでしょう?ご当主様…。あんなくそばばぁ、相手にするだけ無駄ですよ」
ダイヤはさっさとこの場を去りたいようだ。
「そうだな…。もう行こう…。フィリーの体も心配だしな」
その言葉と共に、ひょいっと私を抱きかかえ、足早にその場を去る。
ギリアムの足早って、常人のかけっこに近いから…直ぐに部屋の扉は遠ざかった。
ダリアの…叫びにならない叫びが聞こえているような気がしたが、知らん。
後は…グレンフォ卿に丸投げでいいよ。まったくもう…。
ギリアムの体温と…心音が、まるで子守唄のように、私を寝かしつけてくれた。
うとうとしながら思うのは…何だったかな…。
どうも…夢を見たような気がするんだけどね…。
思い出せないなら、いいや…。
安堵感に溢れる腕の中で、私はしばし…休息したのだった…。
先に外に出したフォルトとエマは、しっかりと馬車を用意してくれたようで、馬車乗り場には、
新しい馬車が止まっていた。
ギリアムは私を起こさないように乗り込んだが、馬車が走り出したゴトゴトと言う音で、目が覚めた。
そこには…ギリアム以外は乗っていなかった。
「ギリアム…」
「起こしてしまいましたか?できるだけ静かにと言ったのですが…」
心配そうに私を見つめ、額に口づけてくれている。
「少し寝て…元気になりました。
それより…私と別れてから、部屋に来るまで…何があったか聞かせてください」
「休んだ方が…」
「お願いです!!」
私の要請を嫌とは言えないようで、ギリアムはポツポツと話してくれた。
結果、私が思ったのは…聞いてよかった…だった。
「そうなると…スペードの刀…余計欲されるでしょうね…。
断れば…関係性が悪くなってしまう…。
あと…ドライゴ陛下に見られたのも、マズかったですね…」
「まあそこは…私の方で、何とかしますよ」
いや…アナタに任せられないと、私の直感が言っている…。
アナタは間違いなく完璧超人ではあるが、それゆえたまに…実力行使してしまうから…。
それに融通利かないし…。
あ…。
私の直感が、稲妻となって脳みそを打った。
「ギリアム…。こうしたらどうでしょうか?」
私がギリアムに耳打ちすると、
「フム…。それが一番か…。でも、こうするともっと…」
「あ、それいいですね」
策を良くするのは、得意なギリわんこ君。
しばし話をし…。
「じゃあ、ダイヤを呼んでください」
「なぜ?」
「日記と遺書の公表で…提案したいことがあるのです」
「明日でいいのでは…」
ギリアムは…もう私に休んでほしいようだが、
「大切な事ですから、早めに言いたいのです!!」
明日どうなるかなんて、わからんし!!
こうして…ダイヤが馬車の中に呼ばれると、
「ダイヤ…。日記と遺書の件なんだけどね…。最初は匿名公表になさい」
「え…?」
私からそう言われるとは思っていなかったらしく、あからさまに不機嫌そうになった。
ダイヤとしてはもう…彼らを地獄に落としたいのだろう。
「別に彼らに温情を与える気は、もうないわ!!」
だから私も何か言われる前に、先制パンチ。私だっていい加減休みたいし。
「逆に…ダリア夫人は今後も収まらない可能性がある。それを封じるためよ」
「と言うと?」
先ほどとは打って変わって、真剣な眼差しを向けてきた。
「まずね…。日記の内容が、使用人にも及んでいるのよ。そしてそれぞれ、家族がいる。
だから…攻撃を受けるとすれば、むしろ本人より、弱い家族に行ってしまうやもしれないの。
よほど頭が悪くなければ、これは容易に想像できる。
でも…匿名公表すれば、ワンクッション置ける。
もしこれ以上、こちらに迷惑をかけるなら、実名公表する…とね」
「なるほど。害を与えられたくなければ、自分たちで何とかしろと?」
頭良いね。助かる。
「そうよ。ダリア夫人だって周りが動かなければ、やれることは限られる。
そうすれば…こちらは対処がしやすい」
するとダイヤはニヤリと笑い、
「わかりました。確かにその方が…オレらにとって、利点がありますね。
奥様の言う通りに致します」
スッと頭を下げた。
私は…それで本当に安堵し、ギリアムと2人だけになった時、早々に眠りにつくのだった…。
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「切って来たか?」
ドライゴが…お付きの人間に、無造作な言葉を投げかける。
「もちろんです」
その言葉に…安堵するでもなく、怒りをあらわにし、
「全く!!あんな空前絶後のバカと組まされるなど、聞いとらん!!
完全な規約違反じゃ!!ふざけるな!!」
声を荒げている。
「私も…聞いた時耳を疑いました…。ティタノ陛下にとって、母親への侮辱は…本人へのモノより
よっぽど怒りを買うのは、有名な話なのに…」
「本当じゃ…。まさかこの歳になって、人生最高峰のバカ人物記録が更新されるとはな…。
したくもなかったわ、まったく…」
ドライゴは声も言葉も、隠す気はないようだ。
「どうされます?もう、帰られますか?」
「お前も馬鹿になったのか?」
お付きの人の言葉に対する、ドライゴの痛烈な一言。
「あの…ファルメニウス公爵家が所蔵する刀を見ただろう?
あんなものを見せられて…黙って帰るなど、それこそ馬鹿の極みじゃろうが」
「しかし…。今回我々は、敵対したわけですから…」
「バレとらん。いや、例えバレていたとしても、証拠など残しとらん。
その状態でわしに何かするほど、ギリアム・アウススト・ファルメニウスは馬鹿ではないわ。
そうと決まれば、さっさとファルメニウス公爵家へ行くぞ」
そう言って…今度はカラカラと笑い出した…。
一体何をする気なのやら…。
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第11巻 終了~。
さてさて…ダイヤ編は次回でようやっと、片が付きます。
一週間後の発表を、お楽しみにぃ~。
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