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第5章 過去
1 公爵邸の夜
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私たち家族が公爵邸にやってきた夜。
公爵家本宅にある執務室で、ギリアムはフォルトと話をしていた。
「こちらが例の令息とその一家の調査書になります」
執務机に座ったギリアムに書類を手渡すフォルト。
「フム…相変わらず仕事が早いな。
素晴らしい」
「恐縮です」
「して…どうされます?」
フォルトはギリアムに鋭い牙をほうふつとさせる視線を送る。
「…今のところは何もしない。
こんなコバエを潰すのに躍起になって、フィリーの不興を買うでは
割に合わなすぎる」
ため息をつき、苦々しい眼をするギリアム。
「お義父様の件は?」
「ステンロイド男爵を騙した者たちについては、現在調査中です。
近日中に報告できるかと…」
「わかった…。
どうするかはお義父様の意向を聞いてからにせねばならん。
ひとまず打ち解けてもらうのが先だが…」
ギリアムの眼が鋭くなる。
「万全の準備はしておいてくれ」
「わかりました」
フォルトは胸に手を当て、頭を下げる。
「ところで本日はどちらでお休みになられますか?
ギリアム様」
本邸にはギリアムの寝室のほか、夫婦の寝室、奥様となる予定の
フィリーの寝室がある。
「…フィリーはご家族と離宮にいるのだろう?
もう少し仕事をしたら、今日は自分の寝室を使う」
「それでは準備してまいります」
フォルトが執務室から出て少し歩くと、向こうから小さな
シルエットがきょろきょろしながら歩いてくるのが見えた。
「フィリー様?」
「あ、フォルトさんだ~」
「フォルトでよいですよ」
「ん~、まだ正式な奥様じゃないですからね。
けど縁あってそうなったら、呼び捨てにさせていただきます」
「わかりました」
「そうそう。
夫婦の寝室の場所って何処ですか?」
「ご家族とお休みになったのでは?」
「??
父母はもう寝ましたけど…」
「離宮で一緒に休まれるのでは?」
「私は今日、ギリアム様と今後一緒にいるとお約束しましたから
何かない限りは夫婦の寝室にいるべきだと思いました」
「さようでございますか…ご案内いたしましょう」
「え?お仕事中なら、場所だけ教えて下されば…」
「フィリー様をご案内する以上に大切なお仕事はありません」
すっごいキッパリ言い切られたので
「お願いします」
とだけしか、言えなくなった。
----------------------------------------------------------------
フォルトは出来るだけ早足でギリアムの執務室へと向かった。
「ギリアム様」
ギリアムは書類から眼を離さず、
「何だ?忘れたことでも?」
「フィリー様が先ほど夫婦の寝室にお入りになったこと、お伝えしに
参りました」
「え…」
驚いて書類から眼を上げる。
「ご家族といるはずでは?」
フォルトは少し微笑んで、
「本日よりギリアム様と一緒にいると言ったので、今後は夫婦の寝室を
使うとおっしゃっておりました」
「そ…そうか…」
途端にそわそわしだすギリアム。
フォルトはそれを微笑ましく見守りつつ、
「急ぎの仕事がないなら、私が後片付けをしておきます」
「…よろしく頼む」
ギリアムは足早に執務室を出て行った。
フォルトは書類を整理していたが、ふいに
「今日は本当にご苦労だった」
執務室の一番闇が濃い部分に話しかけた。
「別に…それがオレの仕事ですから」
その声は低く…どこかはかなげで…しかし力強い…
とても変わった音だった。
「この度、よき奥様をお迎えになったようで何より…」
「…フィリー様だ。
そうお呼びするように」
すると声の主は少しいたずらっぽく笑い、
「庭園でのこともそうだが、特に二人っきりの温室でのことは
見事の一言に尽きる。
アンタだって本当はもう、奥様と呼びたいだろう?」
「…それはフィリー様が望まれていない」
「ははは!!正直だなぁ…だからアンタ好きなんだよ」
「今日は随分と口数が多いな」
「単純に嬉しいからさ。
古今東西、女に溺れて身を持ち崩した優秀な男は星の数ほど
いるけどね…。
どうやら我らがご当主殿は女を見る目が大変おありのようだ」
「…もう行け。
仕事はまだまだあるだろう」
「へーへー。
じゃ、いっちょ、頑張りますかね」
再び静かになった執務室で、フォルトは書類を整えた。
------------------------------------------------------------
皆様、フィリーでございます。
夫婦の寝室へやってまいりました。
予想はできておりました、ええ、出来ていたつもりでしたが…。
やっぱりすごい、すごすぎ!!
まず寝室だけで50畳はあると思われます。
さらにバスルーム(もちろんトイレ別)30畳ぐらい、クローゼット
…衣裳部屋と言った方が最早良い…30畳ぐらいでございますよ。
そして調度品…これだって、一つで普通の家だったら余裕で買える
値段のしそうなものが、まー普通にいくつも置いてあるわけですよ。
カーテンもベッドカバー一式もすべて総シルク!
うーん…。
ヘタなホテルのスイートルームより、よっぽどええわ。
まさかこんな空間を使わせてもらえるとは…。
さてさてそれでは衣装室にとつにゅーう!!
すっごい数の衣装が並んでいるのだが、ふーむ。
私は前世のスキル…エッチに都合のいい服を嗅ぎ分ける能力を
全開にする。
「この辺に…ありそうな予感…」
クローゼットの真ん中位の一見すると普通の服が並ぶ後ろあたりを
ごそごそごそ。
「っしゃ!ビンゴ!!」
私が奥から引っ張ってきたのは、イイ感じで透けているシルクの
キャミソールワンピ。
おそらく下に服を着て、上から羽織るタイプだ。
だからこそ、下に何もつけずに肌につければ、いわゆる見えそうで
見えない演出ができる。
という説明をしている間に、私はすべての服を下着も含め脱ぎ捨て、
キャミワンピ一丁になった。
うん、いい感じ。
しかしこれ一枚ではハッキリ言って二流である。
さてこれに更なる演出を…。
探し出したのはショール。
ちょーどいい具合に、色は淡いピンク!
しかも大きさはマントのように全身が隠せるぐらい大きい。
非常におあつらえ向き。
「さてと…」
ベッドに横になる。
「ギリアムが来れば良し…来なくてもこのまま寝ればオッケー」
とか言いつつ、ベッドの上で様々なシミュレーションを楽しむ
私だった。
----------------------------------------------------------------
ギリアム・アウススト・ファルメニウスは夫婦の寝室の扉の前で
金縛りにあったように止まっていた。
フィリーが夫婦の寝室に来てくれた嬉しさで執務室を飛び出したは
いいものの、自分はフィリーに会って一体何をする気なのか…と
自問自答しだしたら、自然の体が強張ってしまった。
夫婦の寝室でするコトは大体みな一つしか思い浮かべない。
そしてその一つを思い浮かべると、ギリアムの体は沸々と熱が
湧きだしてくる。
昼間、温室であれだけフィリーと睦み合ったのに…だ。
それを思うと、ギリアムの脳裏に浮かぶのは体の熱に比例した
ひどい嫌悪感と罪悪感だった。
(これじゃあ…私も…アイツらと一緒じゃないか…)
脳裏にこびりついた、拭い去りたくても拭い去れない記憶。
自分はアイツらとは違うと、必死に叫んで生きてきた。
しかしたとえ愛してやまない人に対してだとしても、情欲に
まみれる瞬間、自分の中にアイツらと同じ血を感じ、心が焼き切れ
そうになる。
自分はこの扉を開けて入らない方が良い…本気でそう思う一方、
そんな時だからこそ、フィリーの顔が見たい。
一目だけでもいいから…。
今までどんな情けない自分も、笑顔で受け入れてくれたフィリー。
きっとこの記憶だって受け入れてくれる。
わかってる…。
でも…やはり怖い…。
それでもやっぱりフィリーに会いたくて。
ギリアムは扉を静かに開ける。
フィリーはベッドに横になっていた。
それを見て、何だかホッとする。
おやすみのキスを額にして、自分の寝室に戻ろう…。
そんなことを考えながら、フィリーに近づくと、
「あ、ギリアムだぁ…。
お仕事お疲れ様です~」
むくりと体を起こし、くしくしと眼をこすっている。
「す、すみません。
起こしてしまいましたね」
「何言ってるんですか~、来てくれて嬉しいで~す。
初めて夫婦の寝室に来たのに、一人で寝るのかと思いました~」
ギリアムは一層、体が熱くなるのを感じる。
「フィリー…今日は色々あって疲れたでしょう?
ゆっくり休んでください。
私はここにいますから…」
正直フィリーが起きてくれて嬉しいのだけれど。
昼間あれだけやって、また夜には求めたくなっている自分の気持ち
など、ギリアムは知られたくなかった。
だから作り笑顔を顔に張り付け、この場を凌ごうとしたのだが…。
むにっ!
フィリーに頬を思い切り引っ張られた。
「フィ、フィリー…」
別にこの程度痛くはないのだが、なぜこうされるのかが皆目
わからない。
「約束…もう忘れちゃったんですか?」
「へ?」
「昼間、言いましたよね?」
「……」
「心の傷は言うって!!」
「!?」
どうしてわかったのだろう…。
今まで見抜かれたことなどなかったのに…。
「ギリアム」
「えっと…あの…」
どう話せばよいのか分からない…。
「もし話したくないのなら、それでもいいです」
「え…」
「でもせめて…傷ついていることは隠さないでください」
「……」
「無理して笑われると、私…辛いです」
その言葉を聞いた時、自然に涙がこぼれた。
昼間もさんざんフィリーの前で泣きながら泣き言をこぼしたのに…。
「失礼…」
「失礼じゃないですよ」
「でも…」
「でももかかしもないです。
泣くのは恥ずかしいことだと私は思ってませんから」
その言葉の後、暫しの静寂…そして
「横に寝ても?」
「もちろん!嬉しいです」
「少し話をしたいです」
「ええ、いいですよ」
話をしたいと言ったのに、言葉に詰まる。
でも今話さないと、いけない気がした。
意を決し、
「私の…両親の事について、どの程度知っていますか?」
「ギリアムが12歳の時に、相次いでお亡くなりになったと」
「それだけ?死因などは?」
「さあ?」
「社交界では結構有名ですよ。
ファルメニウス公爵家の事ですから、大口開けて話したりはしませんが」
「私、社交界出るの逃げまわってたんで…」
「そう言えばそうでしたね。
だから私に、優しいままでいてくれたのかな…」
「どういう事です?
一体何が?」
「………………」
沈黙がしばらく続いたが、やがて…。
ギリアムの口が静かに開いた…。
公爵家本宅にある執務室で、ギリアムはフォルトと話をしていた。
「こちらが例の令息とその一家の調査書になります」
執務机に座ったギリアムに書類を手渡すフォルト。
「フム…相変わらず仕事が早いな。
素晴らしい」
「恐縮です」
「して…どうされます?」
フォルトはギリアムに鋭い牙をほうふつとさせる視線を送る。
「…今のところは何もしない。
こんなコバエを潰すのに躍起になって、フィリーの不興を買うでは
割に合わなすぎる」
ため息をつき、苦々しい眼をするギリアム。
「お義父様の件は?」
「ステンロイド男爵を騙した者たちについては、現在調査中です。
近日中に報告できるかと…」
「わかった…。
どうするかはお義父様の意向を聞いてからにせねばならん。
ひとまず打ち解けてもらうのが先だが…」
ギリアムの眼が鋭くなる。
「万全の準備はしておいてくれ」
「わかりました」
フォルトは胸に手を当て、頭を下げる。
「ところで本日はどちらでお休みになられますか?
ギリアム様」
本邸にはギリアムの寝室のほか、夫婦の寝室、奥様となる予定の
フィリーの寝室がある。
「…フィリーはご家族と離宮にいるのだろう?
もう少し仕事をしたら、今日は自分の寝室を使う」
「それでは準備してまいります」
フォルトが執務室から出て少し歩くと、向こうから小さな
シルエットがきょろきょろしながら歩いてくるのが見えた。
「フィリー様?」
「あ、フォルトさんだ~」
「フォルトでよいですよ」
「ん~、まだ正式な奥様じゃないですからね。
けど縁あってそうなったら、呼び捨てにさせていただきます」
「わかりました」
「そうそう。
夫婦の寝室の場所って何処ですか?」
「ご家族とお休みになったのでは?」
「??
父母はもう寝ましたけど…」
「離宮で一緒に休まれるのでは?」
「私は今日、ギリアム様と今後一緒にいるとお約束しましたから
何かない限りは夫婦の寝室にいるべきだと思いました」
「さようでございますか…ご案内いたしましょう」
「え?お仕事中なら、場所だけ教えて下されば…」
「フィリー様をご案内する以上に大切なお仕事はありません」
すっごいキッパリ言い切られたので
「お願いします」
とだけしか、言えなくなった。
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フォルトは出来るだけ早足でギリアムの執務室へと向かった。
「ギリアム様」
ギリアムは書類から眼を離さず、
「何だ?忘れたことでも?」
「フィリー様が先ほど夫婦の寝室にお入りになったこと、お伝えしに
参りました」
「え…」
驚いて書類から眼を上げる。
「ご家族といるはずでは?」
フォルトは少し微笑んで、
「本日よりギリアム様と一緒にいると言ったので、今後は夫婦の寝室を
使うとおっしゃっておりました」
「そ…そうか…」
途端にそわそわしだすギリアム。
フォルトはそれを微笑ましく見守りつつ、
「急ぎの仕事がないなら、私が後片付けをしておきます」
「…よろしく頼む」
ギリアムは足早に執務室を出て行った。
フォルトは書類を整理していたが、ふいに
「今日は本当にご苦労だった」
執務室の一番闇が濃い部分に話しかけた。
「別に…それがオレの仕事ですから」
その声は低く…どこかはかなげで…しかし力強い…
とても変わった音だった。
「この度、よき奥様をお迎えになったようで何より…」
「…フィリー様だ。
そうお呼びするように」
すると声の主は少しいたずらっぽく笑い、
「庭園でのこともそうだが、特に二人っきりの温室でのことは
見事の一言に尽きる。
アンタだって本当はもう、奥様と呼びたいだろう?」
「…それはフィリー様が望まれていない」
「ははは!!正直だなぁ…だからアンタ好きなんだよ」
「今日は随分と口数が多いな」
「単純に嬉しいからさ。
古今東西、女に溺れて身を持ち崩した優秀な男は星の数ほど
いるけどね…。
どうやら我らがご当主殿は女を見る目が大変おありのようだ」
「…もう行け。
仕事はまだまだあるだろう」
「へーへー。
じゃ、いっちょ、頑張りますかね」
再び静かになった執務室で、フォルトは書類を整えた。
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皆様、フィリーでございます。
夫婦の寝室へやってまいりました。
予想はできておりました、ええ、出来ていたつもりでしたが…。
やっぱりすごい、すごすぎ!!
まず寝室だけで50畳はあると思われます。
さらにバスルーム(もちろんトイレ別)30畳ぐらい、クローゼット
…衣裳部屋と言った方が最早良い…30畳ぐらいでございますよ。
そして調度品…これだって、一つで普通の家だったら余裕で買える
値段のしそうなものが、まー普通にいくつも置いてあるわけですよ。
カーテンもベッドカバー一式もすべて総シルク!
うーん…。
ヘタなホテルのスイートルームより、よっぽどええわ。
まさかこんな空間を使わせてもらえるとは…。
さてさてそれでは衣装室にとつにゅーう!!
すっごい数の衣装が並んでいるのだが、ふーむ。
私は前世のスキル…エッチに都合のいい服を嗅ぎ分ける能力を
全開にする。
「この辺に…ありそうな予感…」
クローゼットの真ん中位の一見すると普通の服が並ぶ後ろあたりを
ごそごそごそ。
「っしゃ!ビンゴ!!」
私が奥から引っ張ってきたのは、イイ感じで透けているシルクの
キャミソールワンピ。
おそらく下に服を着て、上から羽織るタイプだ。
だからこそ、下に何もつけずに肌につければ、いわゆる見えそうで
見えない演出ができる。
という説明をしている間に、私はすべての服を下着も含め脱ぎ捨て、
キャミワンピ一丁になった。
うん、いい感じ。
しかしこれ一枚ではハッキリ言って二流である。
さてこれに更なる演出を…。
探し出したのはショール。
ちょーどいい具合に、色は淡いピンク!
しかも大きさはマントのように全身が隠せるぐらい大きい。
非常におあつらえ向き。
「さてと…」
ベッドに横になる。
「ギリアムが来れば良し…来なくてもこのまま寝ればオッケー」
とか言いつつ、ベッドの上で様々なシミュレーションを楽しむ
私だった。
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ギリアム・アウススト・ファルメニウスは夫婦の寝室の扉の前で
金縛りにあったように止まっていた。
フィリーが夫婦の寝室に来てくれた嬉しさで執務室を飛び出したは
いいものの、自分はフィリーに会って一体何をする気なのか…と
自問自答しだしたら、自然の体が強張ってしまった。
夫婦の寝室でするコトは大体みな一つしか思い浮かべない。
そしてその一つを思い浮かべると、ギリアムの体は沸々と熱が
湧きだしてくる。
昼間、温室であれだけフィリーと睦み合ったのに…だ。
それを思うと、ギリアムの脳裏に浮かぶのは体の熱に比例した
ひどい嫌悪感と罪悪感だった。
(これじゃあ…私も…アイツらと一緒じゃないか…)
脳裏にこびりついた、拭い去りたくても拭い去れない記憶。
自分はアイツらとは違うと、必死に叫んで生きてきた。
しかしたとえ愛してやまない人に対してだとしても、情欲に
まみれる瞬間、自分の中にアイツらと同じ血を感じ、心が焼き切れ
そうになる。
自分はこの扉を開けて入らない方が良い…本気でそう思う一方、
そんな時だからこそ、フィリーの顔が見たい。
一目だけでもいいから…。
今までどんな情けない自分も、笑顔で受け入れてくれたフィリー。
きっとこの記憶だって受け入れてくれる。
わかってる…。
でも…やはり怖い…。
それでもやっぱりフィリーに会いたくて。
ギリアムは扉を静かに開ける。
フィリーはベッドに横になっていた。
それを見て、何だかホッとする。
おやすみのキスを額にして、自分の寝室に戻ろう…。
そんなことを考えながら、フィリーに近づくと、
「あ、ギリアムだぁ…。
お仕事お疲れ様です~」
むくりと体を起こし、くしくしと眼をこすっている。
「す、すみません。
起こしてしまいましたね」
「何言ってるんですか~、来てくれて嬉しいで~す。
初めて夫婦の寝室に来たのに、一人で寝るのかと思いました~」
ギリアムは一層、体が熱くなるのを感じる。
「フィリー…今日は色々あって疲れたでしょう?
ゆっくり休んでください。
私はここにいますから…」
正直フィリーが起きてくれて嬉しいのだけれど。
昼間あれだけやって、また夜には求めたくなっている自分の気持ち
など、ギリアムは知られたくなかった。
だから作り笑顔を顔に張り付け、この場を凌ごうとしたのだが…。
むにっ!
フィリーに頬を思い切り引っ張られた。
「フィ、フィリー…」
別にこの程度痛くはないのだが、なぜこうされるのかが皆目
わからない。
「約束…もう忘れちゃったんですか?」
「へ?」
「昼間、言いましたよね?」
「……」
「心の傷は言うって!!」
「!?」
どうしてわかったのだろう…。
今まで見抜かれたことなどなかったのに…。
「ギリアム」
「えっと…あの…」
どう話せばよいのか分からない…。
「もし話したくないのなら、それでもいいです」
「え…」
「でもせめて…傷ついていることは隠さないでください」
「……」
「無理して笑われると、私…辛いです」
その言葉を聞いた時、自然に涙がこぼれた。
昼間もさんざんフィリーの前で泣きながら泣き言をこぼしたのに…。
「失礼…」
「失礼じゃないですよ」
「でも…」
「でももかかしもないです。
泣くのは恥ずかしいことだと私は思ってませんから」
その言葉の後、暫しの静寂…そして
「横に寝ても?」
「もちろん!嬉しいです」
「少し話をしたいです」
「ええ、いいですよ」
話をしたいと言ったのに、言葉に詰まる。
でも今話さないと、いけない気がした。
意を決し、
「私の…両親の事について、どの程度知っていますか?」
「ギリアムが12歳の時に、相次いでお亡くなりになったと」
「それだけ?死因などは?」
「さあ?」
「社交界では結構有名ですよ。
ファルメニウス公爵家の事ですから、大口開けて話したりはしませんが」
「私、社交界出るの逃げまわってたんで…」
「そう言えばそうでしたね。
だから私に、優しいままでいてくれたのかな…」
「どういう事です?
一体何が?」
「………………」
沈黙がしばらく続いたが、やがて…。
ギリアムの口が静かに開いた…。
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