ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

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第6章 暗雲

4 ルイザーク伯爵邸でのパーティーの後…

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王太子の持ってきたワインを全員で乾杯した後…。

レティア王女はまたさりげなくギリアムのほうに行こうとした
のだが、そこで大きな柏手が響いた。

テオルド・ルイザーク伯爵だ。

「来賓もすべて出そろったところで…改めて今日はわが娘の
卒業を祝うパーティーにご出席くださり、ありがとう
ございます!!
娘よりアカデミーで学んだことと、今後の抱負について、
来ていただいた皆様にご報告もかね、発表させて頂きたいと
思います。
しばしご清聴をお願い致します」

発表自体は結構長かった。
人を楽しませる語彙力や文章を作る能力は、それなりに高い
ようだ。

そんな中、ギリアムは使用人に呼ばれ会場を出た。
レティア王女はそんなギリアムに続こうとしたのだが、
ギリアムに

「祝いの席で、主役の舞台を何の理由もなく退席するの
ですか?」

と咎められる。

それでもレティア王女殿下は、ギリアムについて行こうとしたのだが、
険しい顔をしたケイルクス王太子殿下に引き留められる。

そして発表が終わると、

「皆様、ご清聴ありがとうございます!!
夜はまだこれから!!
引き続き、宴をお楽しみください!!」

ルイザーク伯爵の威勢のいい声とともに、皆が用意された
食事を手に取り、再び歓談を始めた。

「お父様!お父様!!」

「おお、フェイラ。
素晴らしかったぞ」

にこやかに話すルイザーク伯爵とは対照的に、フェイラ嬢は
きょろきょろとあたりを見回し、暗い顔になる。

「あの…ギリアム様はどこに…」

「ああ、それがな…今日はお帰りになったよ」

「ええっ!!」

フェイラ嬢はあからさまに驚いたが、ルイーズ嬢やクレア嬢、
両殿下も声には出さないが、顔にゆがみが出ていた。

「なっ、なんで!!」

「私も詳しくは聞いていないが、家のことで問題が発生した
らしく、わざわざフォルト殿が迎えに来こられて…、
お帰りになられた」

「どっ、どうして引き留めてくださらなかったの!!」

するとその言葉を聞いたルイザーク伯爵の顔がみるみる
険しくなり、フェイラ嬢はびくりとする。

「バカも休み休み言え!
今日のパーティーはあくまで内輪のもの。
公務でも何でもないのに、お引止めできるわけがないだろう!」

下を向いてしまったフェイラ嬢を捨て置き、ルイザーク伯爵は
両殿下のもとへと行き、

「お見苦しいところをお見せし、面目次第もありません」

深々と頭を下げた。

「い、いや、致し方ない…。
そうか…ギリアム公爵は帰ったのか」

「はい…、しかしそれはそれ、両殿下は今宵ごゆるりとお楽しみ
ください。
皇后陛下からも直々に、もし遅くなるようならこちらに泊まらせて
ほしい旨、手紙を賜っております。
さあ、どうぞ。
宴はまだまだ続きますぞ」

ルイザーク伯爵の言葉通り、宴はかなり盛り上がり、皆が両殿下を
囲み、様々な話を始めた。

その後宴は三時間以上続き、夜も遅くなったので、どうぞお泊り
くださいというルイザーク伯爵を振り切る形で、両殿下は馬車へと
戻っていった。

「ふう…やっと解放されたぁ…」

王家の馬車の中で、ケイルクス王太子は足を延ばし、ぐったりと
体を横たえる。
対してレティア王女は座席に座って、背中を丸めたまま、何やら
ぶつぶつとつぶやいている。

「なんで…なんで帰っちゃうのよ、ギリアム…。
せっかくお母様に教わって…万全の準備をしてきたのに…」

ケイルクスはそんな妹の姿に、さも面倒くさそうなため息をつき、

「仕方ないだろ!!運が悪かったんだ!!諦めろ!!」

強めに言えば、

「お兄様は私が、どれだけ今日という日を心待ちにしていたか
知らないんでしょ!!
だったら帰ればよかったじゃない!!
こんな何の面白みもないパーティーなんか!!」

ケイルクスは頭を掻き、

「オレだって、できればそうしたかった!!
けどギリアムがいないからって、あからさまにすぐ帰るような
真似をしたら…ギリアムが目的だったと公言するようなものだ!」

「帰っちゃったんだから、わからないでしょ!!」

「後日絶対、ルイザーク伯爵から報告が行く!!
これ以上警戒されたいのか!!」

イラついていることもあり、ケイルクス王太子殿下はいつもより口調が
強くなる。

「な…なによ、警戒って…。
私は今までギリアムと仲良くなるために、必死で頑張って…」

レティア王女殿下は、そんな兄に負けじと食って掛かる。

「もういい加減、認めろ!!
自分が嫌われているって!!」

そうハッキリ言われたレティア王女殿下の眼は、僅かに潤んだが、
次の瞬間、顔を背け、

「ギッ、ギリアムと私はお似合いだって…。
ギリアムは女性に慣れていなくて、照れているだけだってみんな
言っているわ!!」

必死に抵抗するが、

「そりゃ、お前がそう言えば、決まって機嫌が良くなるからだろ
うが」

立場を考えれば、ケイルクス王太子殿下の言うことは、至極まっとうだった。
するとレティア王女殿下は、キッと兄の顔を睨み、

「ギ…ギリアムはアカデミー時代、孤立無援の私を助けてくれた
のよ。
やってもいない罪でみんなが私を責めている時、証拠もないのに
疑うのは良くないって言って…。
そして見事に、私の冤罪を晴らしてくれた!!
ギリアムはその時から、私の…私だけの騎士なのよ!!」

「あのさ、ギリアムの性格知ってるだろ?
ギリアムはお前じゃなくて、他の誰かでも同じことをしたぜ、
絶対に!!」

そう…。
レティア王女殿下は、その激しく我儘な性格から、アカデミーに入るころには、
皆から良く思われていなかった。
レティア王女殿下の耳には入っていないが、レティア王女殿下と同学年になるのが
イヤで、わざと理由を付けて、学年を違えた令息・令嬢が数人いたほどだ。

だから、レティア王女殿下がやったわけでなくとも、証拠がなくとも、庇おうとする
人間は、取り巻きぐらいだった。
そしてそういった人種は御多分に漏れず、口ではレティア王女殿下を慰めていたが、
実際に何か行動を起こして、無実を晴らすような面倒くさいことは一切しなかった。

もちろんギリアムとて、レティア王女殿下にいい感情は持っていなかった。

しかしそこはギリアム。

個人的感情はさておき、無実の人間を貶めることは、己の矜持が許さなかった。
結果としてレティア王女殿下の冤罪を、ほぼ一人で晴らした。
このことが、後々余計にレティア王女殿下が、ギリアムに執着する理由になったのだ。

「バカ言わないで!!
私だから、やってくれたに決まっているわ。
けど奥手だから、そんなこと言えないのよ。
だから私からどんどん積極的に…」

「お前さー、頼むからもう少し、頭使ってくれよ。
あと、周りの状況をよく見ろ」

「な、なによそれ」

「見てなかったのか?
ギリアムはこちらが出したワイン…オレとお前が飲むまで、絶対に
口をつけなかった。
それぐらい、こっちを警戒しているんだよ」

「お…お兄様だって、私とギリアムにくっついてほしいって
いつも言ってたじゃない!!」

「当たり前だ!!!
ギリアムがお前の夫になれば、それだけでオレの治世は安定する
し、財政その他の問題もだいたい解決するからな!!
けどそのためには…お前自身がギリアムとの距離を縮める必要が
ある!」

「だ…だから今日…」

「今日はもう失敗しただろうが!!」

「だ…だったら来月の建国記念パーティーで…」

「それはかなり難しい…」

「ど…どうして!!」

ケイルクス王太子殿下は背もたれに寄りかかりながら、ため息をつく。

「…今日ギリアムは…ワインを飲んじまったんだ!!」

「あ…」

「あんなにすぐに帰るなら、飲ませるんじゃなかった!!
くそっ!!」

「で…でも私たちがやったかどうかなんて…」

「あんな小規模パーティーの客で、誰が疑わしいかなんて、
奴ならすぐわかる!!」

「……」

「アイツに同じ手は効かないと思ったほうがいい。
そして今まで以上に警戒する…。
クソ!!
計画は一から練り直しだ…まったく…」

「なんで…なんで…なんで…」

すべての謀略と負の感情を飲み込むように、夜の帳の深い
部分に、王家の馬車は吸い込まれていった。
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