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第9章 決戦

6 これ以上はないってくらい、心のこもらぬ謝罪

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さて悪趣味な余興が終わった後は、お決まりの紹介タイム。

しかし女性陣は…うん、予想通りっちゃ予想通りだな。
クレア嬢とタニア夫人、フェイラ嬢は私に対して、めっちゃキツイ目を
向けてきてる。
ルイーズ嬢だけは…ずっと下向いててわからんな。

「いやーしかし閣下!
閣下とオルフィリア嬢のお揃いの衣装は、美しいの一言ですね。
私はこういうものにはかなり疎い人間ですが、二人のダンスでの一体感は
素晴らしかったですよ」

テオルド卿…私のこと気に入ったからか、いたく上機嫌でほめてくれる。
テオルド卿は空気を読めないのか、読む気がないのか…うん、両方だな。
ギリアムはとっても嬉しそう。
まあ私も嬉しいんだけどね~、でもね、にぶちんお二人さん。
私今、すっごく敵愾心向けられとるのよ、複数人から。
まあ、こういうの慣れてるからいいけど。

「し、しかし閣下…せっかくパーティーにいらしたのですから、テラスに
こもってばかりいては…そろそろ中に戻られては…」

リグルド卿…父親よりは空気読めるみたいね。
大事よ、それ。

「いや…それがな…。
私としても、そろそろ戻りたいのだが…」

うそこけ。
二人っきりの時に、散々このまま誰も来なきゃいいのに~とか、言っといて。

「ケイルクス王太子殿下に、ここにいるように言われていてな…。
なにやら話したいことがあるようなのだが、どうしても抜けられない用が
あって、それを済ませたらすぐ来ると言っていたな」

「ほう…王太子殿下をずっと見かけないのは、そういうことでしたか」

この建国記念パーティーにおいては、よほどのことがない限り、王族は会場に
いるのが通例だ。
王家と貴族の親交がこのパーティーの主目的でもあるからだ。

「ああ、だから私とフィリーはずっとここにいるんだ。
それが終わったら、もちろんパーティー会場に戻るつもりだ」

「な…なら!!」

おや、ずっと私のこと睨んでたフェイラ嬢が出てきた。

「パーティー会場に戻ったら、私と踊ってください!!」

おお、積極的やな~。
ギリアムの数々の失礼伝説知っとるやろーに。

ここで補足だが、ギリアムは私を探すために、一年前から社交界に出る
ようになった。

しかしダンスのお誘いは、身分に関わらず一切お断り。

もちろん自分から誘ったことなど一切なし。

身分が高いとはいえ、かなり失礼に当たるが、そこはギリアム。
今のところ、咎められてはいないよう。

次にレティア王女なのだが、誘って断られた王女が、ギリアムの目の前で
扇子を落とした。
これは女性が男性を誘うときの一つの手で、扇子やハンカチをわざと落とし、
拾ってくれた男性と縁を作るという、社交界の暗黙の了解。
なのだが…。

ギリアムはまあ、無視、ガン無視、当然無視。

で、王女がめげずに

「拾ってくださらないの?」

と言えば、呆れたように

「あなたは子供ですか?自分で落としたものぐらい、自分で拾ってください」

と言い捨て、行ってしまったそう。

……うん。
失礼極まりない。

それでやっぱりお咎めなしどころか、どこの社交パーティーでも出禁に
ならないのは、やはりギリアムが序列一位の貴族&英雄だからだろう。

ちなみに王女に限らず、すべての女性にこんな感じに接したそーな。

一体どれくらいの塩と辛子を混ぜて、キョーレツにした対応やねん。

……………合掌(ちーん)。

「…確かフェイラ嬢は今日、デビュタントでしたね」

「はい!!ドレスは三か月前から、今日のために準備いたしました」

これ見よがしに、ギリアムの目の前でクルクルして見せる。

「……わかりました、いいですよ」

フェイラ嬢の顔が、ぱぁ~っとなっている。
しかし、間髪入れずギリアムは

「クレア嬢とルイーズ嬢もどうですか?」

と。

ルイーズ嬢は何が起こったかわからなくて呆けたが、クレア嬢は、

「ぜっ、ぜひお願いします!!」

さーすが、あきんどの娘。
反応いいな。

するとフェイラ嬢の顔から、先ほどの明かりが消えた。
ありゃ、ホントに自分だけ特別扱いされたと思ったのかい?
婚約者がいる男に?
この子大丈夫かいな…。

そんな時だった…。

「失礼…入ってもよいか?」

「!!!」

男連中に緊張の色が…ギリアムまで…ってこたー、相手は…。

「…お入りください、国王陛下」

やっぱし~~~~~。

テラスのカーテンと扉が開く。
テラスにいた全員が頭を垂れる。
ギリアムはいつの間にか、一番前に出ていた。

「お久しぶりです、国王陛下…。
ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵がご挨拶申し上げます」

「ああ、形式ばった挨拶は不要だ。
他の者たちもな。
今回はわが娘が犯した過ちについて、詫びに来ただけゆえな」

見れば国王の後ろから、王后陛下、ケイルクス王太子殿下、レティア
王女殿下が続いている。
んで、やっぱり王女は化粧で隠し切れない、泣きはらした目で、
私を睨んでますねぇ。

「レティア」

国王の声に、レティア王女がびくりとして、

「お父様…お人払いを…」

「必要ない」

ありゃま、国王陛下って結構潔い人なのね。
レティア王女は唇をかみしめていたが、国王に睨まれて、観念した
ようだ。

「こ…このたびは…オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢に…大変
無礼なふるまいをし、申し訳ありませんでした…」

ふ~ん。
まあ、声と目つきと態度からわかるよ。
かんっぜんに言わされてるって。
反省なんかシテネー、まあ、求めてもいないけどね。

でも、残念ながらこれで終わりにしとかんとな~。
ギリアムより身分上だし、国王に逆らうことになるのは避けなきゃ
いけん。

「謝罪を受け入れます、レティア王女殿下…」

私も行儀よく礼をする。
すると国王が柏手一つ打ち、

「よろしい!!それではこれにて、この件はしまいとしよう!!
よいな、オルフィリア嬢?」

あ~、はいはい。
つまりこの一件、他言するなよ…と。

「もちろんです、国王陛下…。
私は真摯に謝罪してくださった方を、貶める趣味はございません」

王女が心からの謝罪なんてしてネーし、する気もないのはわかり
きってんだけどね。
ま、この国王と王太子はある程度マトモみたいだし、今んとこは
様子見だな、うん。

「して、ギリアム公爵とオルフィリア嬢はこの後どうするのだ?」

「もうここにいる必要もないので、会場に戻ろうと思います」

ギリアムがそう言うと、私の前にケイルクス王太子が歩み出て、

「では、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢。
私と踊っていただけませんか?
いいだろう?ギリアム公爵」

「……」

ギリアムは黙ったままだ。

ちょいと、ギリアム!このことについては、話したよね!!
今更ダメとか言うなよ!おい!!

まして相手は王家なんだから!!

私はこの日初めて、イヤーな汗が背中を伝うのを感じた。
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