ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

文字の大きさ
2 / 44
第1章 取締

1 フィリー悩む

しおりを挟む
新年早々、私・フリーは悩んでいた。
現在…フィリアム商会関係は、大分順調で何かなければ、私が出る必要はない。
ラルトも、ウリュジェとフューロットも帰って来たし、シルスは…相変わらず忙しそうに
しているが、急ぎの用事はない。
トールレィ卿とエリオット卿も…年末年始は家族と過ごす余裕がある。
新商品の売れ行きも好調だし…で、とてもいい状態だ。

だから…ファルメニウス公爵家の使用人たちと、フィリー軍団の間に入ることに勤しんで
いるのだが…。

事は、数日前に遡る。
この日も朝から、使用人の皆様との懇談会をやって…、一息ついたところだった。

「奥様…お客様がいらしているのですが…」

「…予約なし?だれ?」

序列第一位のファルメニウス公爵家に予約なしは…大変失礼である。

「テオルド卿が…」

ありゃまぁ。

「いいわ、お通しして」

「よろしいのですか?」

「ええ…普段しっかり礼儀をはらえる人が、予約もなしに来るってことは…。
それだけの事が起こってる…と、考えるからね」

「わかりました」

そうして…応接間で皆に会う。
あ、フィリー軍団ももちろん一緒だ。

「急に来たにも関わらず、お時間作って頂き…ありがとうございます」

「構わないわ、何か問題が発生したようだし…」

すると…話していたテオルド卿が、かなり難しい顔になり、

「私は相談役という立場上…団員の悩み相談や、希望などを受けるのですが…」

まあ、それがテオルド卿の仕事だしなぁ。

「このところ団員から…オルフィリア公爵夫人の私兵に志願したい…という声が、
一定数上がっておりまして…」

かなり…言いずらそうな声で話してくれた…。
まあこれも…想定内だよ、うん。

「どういった対応を?」

「選ぶのは…団長と奥様だから…と」

「なるほど…しかしそれでは…、声はなかなか…収まらないのでは?」

「はい…」

だよねぇ…。
テスト受けて失格ってなれば、諦めもつくけど…。
どーすっかなぁ…って、私が考えていたら、

「奥様が悪いんですよ…」

いきなりジェードが口を開いた。

「ジェード?」

私が驚いて振り向けば、随分と不敵な笑みを向け、

「オレみたいな…ドラ猫ばっかり、そばに置くから…。
アイツがやれるなら、オレだって…って奴が、沢山出てきたんですよ…」

まあ確かになぁ…、トランペストに襲われ出したころから…ジェードを連れ歩くことが
本当に増えた。
だって…暗殺者に対抗できる人間が、必要だったから…。

「お前なぁ…いくら何でも、そんな言い方…」

スペードが脇から出てきた。
しかも雰囲気がかなり険しい…。
あ、いかんと思い、私は思わずジェードの頭を撫でた。

「あはは、その通りだねぇ…。
そもそもジェードはそういう事、しっかり言ってくれるから…ついつい重宝しちゃうの
よね~」

頭を撫でられたジェードは…満足げ~にゴロゴロと喉を鳴らしている…。
…………………いや、猫か!!ホントに!!

フィリー軍団の他の皆が…ちょっとあっけに取られてるね…。
あ、テオルド卿もだ…。

「まあ、事情は分かったわ…。
ファルメニウス公爵家での比武は普通にやっているけれど…、一度しっかりと王立騎士団でも
腕試しをした方が良さそうね…」

「ご配慮くださり、ありがとうございます」

まあそれが…数日前の話なのよ。
で、テストと言っても、学校の試験じゃないんだから…まあ、彼らなら普通の比武だって、
遅れは取らないが…それだけってのも楽しくない…。
できるだけ…王立騎士団の仕事の範疇を抑えた上で…納得させられる形を取りたい。

前世の世界の知識もフル活用…したら、出てきましたよ!!
いい案が!!

「ギリアム~~~」

早速帰ってきたギリアムにご相談!!

「フィリー!!今日はずっと暇を見つけて作っていた、アナタの木彫りが、ついに完成…」

私の網膜に映り込んだのは…ひらひらのローブを身に纏った、まさに神話の中の女神像そのもの。
顔だけ私…。
……………………………。
思わず…私はスッゴイ作り笑顔のまま、その木彫りを…手で叩き落とす。

「何をするのですか!!」

はっっ、しまった!!
最近、還暦越え…ばばぁから見て、あまりに痛々しい行動が目立つから、頭より先に手が出て
しまった!!

「一生懸命作ったのにぃ~」

あああ、涙目で木彫りを両手で包み、撫でている…。
キモイな、全く…。

しかし…どうする?
これから、交渉しようと思っていたと言ふのに!!

いや、あらゆる男のご機嫌取りをして来た、私の前世を舐めるな!!

「申し訳ございません、ギリアム…」

私は…しゅんとして悲しそうに、眼を潤ませる。

「私が居るのに…アナタがあまりに木彫りを大切にしているから…つい…」

涙が勝手ににじみ出てきちゃってま~す、アピール…と。
するとギリアムは私の木彫りを机に置き、

「すすす、すみません!!アナタの気持ちも考えず…私としたことが…」

私を抱きしめ、なでなで…。
……ほんっと、ちょれぇな、へっ。
なまじ遊んでない男は…助かる。

「いいえ…私こそアナタの気持ちを考えず…申し訳ございません、ギリアム…」

暫く茶番に付き合って…と。

「あの…実は…色々考えていたことがあって…それを聞いていただきたいのですが…」

「何でしょう?」

とても優し気な微笑み…、よっしゃ、機嫌直ってる。
これならいけそう!!

「王立騎士団で…取り締まり週間をやりませんか?」

「はい?」

前世の警察が良く…やっていたのを思い出した。
常時臨戦態勢とはいえ、特にこの週は強化しましょう…というものを設けるのはいかが
かな…?ということ。
今の王立騎士団は…軍隊の性質も強いゆえ、こういった事はやっていなかった。

「なぜ突然、そんな事を?」

おお、やっぱ頭いい。

「実は…」

私は今日…テオルド卿との会話を話し、この考えに至った…と、言った。

「ふむ…つまり…、フィリー軍団の力を、王立騎士団と一緒の業務をさせ、示そうというの
ですね」

やっぱり話が早い。

「そうです…、それが…一番手っ取り早いと思うので」

末端まで…実力本位主義だからね。

「では…一体何を取り締まり対象にしますか?」

「それは…」

私がギリアムに耳打ちすると、ギリアムは随分と楽しそうになった。
よし、これならいける。

私がギリアムと、寝室で話をしていたころ…。
フィリー軍団のみんなは…。

「お前…さっきのあれ、何なんだよ?」

スペードがジェードに絡んで?いた。

「あれってなんだよ?」

からかう様な笑顔…っつーか不敵な笑みを浮かべるジェード。

「奥様に…失礼なこと言って…」

「失礼じゃないだろ?
現に奥様は、オレを褒めてくださった」

「ぐっ…」

スペード…言葉失ってる…。

「オレは…ずっと奥様についていたからな…」

動きが止まったスペードに満足したのか、

「そして目が見えないからこそ、オレの言った言葉に、奥様が本当の所どんな気持ちになるか…
わかるんだよ」

ジェードは弾んだ感じで、言葉を紡ぐ。

「奥様はさ…へりくだられるの、あまり好きじゃない。
ざっくばらんな物言いがお好きなのさ。
オレはそばにいて、それを痛感した」

「なるほどな~、確かにオレらの言葉使い、直されたこと無いな」

「よね~」

クローバとハートが、妙に納得した声を出す。

「……お前さんの能力だったら、先ほど言った事、お前さん自身が感じた…ということか?」

ジョーカーの言葉に、ジェードは再度ニヤリとし、

「そうさ。
前にも言ったが、オレをかなりの頻度で連れ歩くようになってから…あからさまな嫉妬の感情を感じた。
王立騎士団でも、ファルメニウス公爵家でもな…。
ご当主様の時より…強く、だ!!」

「と言う事は…言葉で説得できない奴が、これから湧いてくるかもしれんな」

ダイヤが何だか…楽しそうにしている。
するとスペードが、

「誰が来たって、このポジションはやらねーよ!!」

かなり速攻で言ってのけた。
皆もそれに…頷く形で、この日の夜は更けていくのだった…。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...