ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

4 何があったの?

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「みんな、お疲れ~、成果抜群じゃ~ん」

私の所へ1人…また1人と戻ってきたフィリー軍団のメンバーを、ねぎらう私。

「奥様の為なら、何なりと~」

嬉しい事を言うてくれるのぉ…。
感傷に浸りつつ…はたと気づく…。
1人たりない…。

「スペードは?」

珍しい事もあるもんだ。
スペードはサクッと仕事を終わらせて、一番初めに帰ってくると思ったから。

「時間かかっているんですかねぇ…少し大きめのヤマに行きましたから…」

なんて話していると、向こうから急いで駆けて来る人物が…。
暗いから最初…てっきりスペードだと思ったんだけど…どうも違う。

「オルフィリア公爵夫人~!!」

おりょ、デイビス卿だ。
確か…スペードは今日、デイビス卿と一緒のチームだったはず…。

「どうしました?」

私はこの時…スペードがどうにかなったとは、考えなかった。
だって…生存能力が一番強い人間だと、思っていたからさ。

「時間が惜しいので、かいつまんで話します…」

デイビス卿…かなり必死そう…ヤな予感…。


--------------------------------------------------------------------------------------


王立騎士団とフィリー軍団の、共同作業開始直後…みんなはばらけて、それぞれの師団長たちと
一緒に、行動をしたんだ。
その方が…効率がいいし、みんなの力も…より分かりやすかったから。
それぞれが…卓越した能力を持っているからね…。
よりそれを…生かせるように、工夫して組ませた。

「ここか?」

「そうだ」

話をしているのは…スペードとデイビス卿…。

「奴らは…こういった場所に潜伏することが、多いんだよ」

そうやって指さした建物は…明らかに豪奢な造り…それに家紋が掲げられていることから、
貴族の持ち物だと、すぐにわかる。

「管理がずさんだったり…あとは、顧客の貴族から間借りしていたり…状況はいろいろだが、
大抵は…な」

「今回はどっちでしょうね…」

「どっちでも、やることは同じだろう?」

「まあ…そうですね」

そう言ってデイビス卿は、その建物を包囲し、自身が先頭に立ち乗り込んだ。
もちろん予約はなし。
王立騎士団に捜査権があると言っても、当然貴族側は、突然の来訪をかなり嫌がる。
まあ、当たり前だ。
対面を保つ意味でも、貴族の支度には時間がかかる。

だが…それは同時に、犯罪が起きていた場合、隠蔽する時間を与えてしまうと言う事。
だからギリアムは…無視して突っ込めと言った。
何か言われたら、全て自分に回せ…と。

建物の中に入ると…バスローブに身を包んだ男…当主だろう。
あと、使用人が2人とどう見ても…ごろつきにしか見えない男が3人いた。

「こ、こんな無体な…」

包囲されて、いきなり乗り込まれたら、そう言いたくなるのもわかるが、

「苦情はギリアム・アウススト・ファルメニウスまでどうぞ…とのことです」

バスローブに身を包んだご当主は、それを言われて言葉が出なくなっている。

「そちらのお歴々…どう見ても貴族の関係者に見えませんねぇ…。
どうしてこんな時間に、そんなカッコのあなたといるのか…お聞かせ願います」

言葉は丁寧だが…明らかに犯罪的なことが行われている…と、デイビス卿は確信しているようだ。

「い、いやそれは…、最近何かと物騒で…護衛として…」

「アナタの所は、立派な護衛騎士がいるはずでは…?」

この辺の尋問は…デイビス卿の得意中の得意だ。

その間スペードは…ごろつき連中を見据えつつ、

「なあ…お前ら、クローゼットの中に、何隠してる?」

言った…。

ごろつきたちは何も言わない…。
ただ…。
3人いるうちの2人は…かなりビックリして、怯えているが…。
1人だけ…平常心でいるのがいる…。

歳は40代くらいだろうか…赤黒い髪をして、白髪…がもう少しで混じるんじゃないか…といった
ところだ。
ほんのわずかに皺による堀の深さは出ているが、細い眉と眼がかなりきりっとしており、鼻筋と
口にかけてがかなり端正…でも、弱々しさはなかった。
体とて、突出した筋肉があるわけではないが、鍛えている…と一目でわかる。
身長は…高い…180を確実に超えている。
師団長たちと打ち合っても…それなりにやるのでは…?と思われる体つきに見える。

スペードの声には、デイビス卿が反応した。

「確認しろ!!」

デイビス卿の師団員が、すぐさまクローゼットを開けると…。

中から、猿ぐつわをされた、人間が2人…。
明らかに…拷問されたのだろう。
体中…傷だらけだ。
いくら娼婦とはいえ、傷害罪が適応できる状態である事…一目瞭然だった。

「貴様ら…!!」

デイビス卿が怒りを露にすると、途端に…一番怯えだしたのは、貴族…。
なら、やるなや!!

貴族は…一人だけ平常心を保っているごろつきの後ろに、隠れようとしたのだが、

「ふぎゃっ!!」

貴族の首根っこ掴んで、デイビス卿の前に弾き飛ばした。
それを合図とするように、スペードと…デイビス卿がその男を捕えるため、前に出る。

その時無表情だった男の顔が、わずかにほころんだ…。

「!!!」

それを見た瞬間、無意識だったのか、野生の勘だったのかはわからない。

「下がれぇぇっっ―――――――――――――――っ!!」

その声と共に、スペードは自身の仕込み杖を、デイビス卿の服の首筋に突っ込んで、そのまま
地面に縫い付けた。

「!!??」

何が起こったかわからないデイビス卿だったが、次の瞬間…。
ごろつきたちのいる下の床が…わずかに軋んで、瞬く間にひびが大きく広がった。
デイビス卿や団員たちが、そのひびを確認できた時には…すべてが終わっていたと言っても
いいくらいだ…。
ごろつきたちは、床に空いた穴から下へと落下した…。
スペードも一緒に。

ひびは…もとより入れてあったらしく、一定範囲以上広がることは無かったため、それ以上の
被害は無かった…。
あ、貴族はもちろん、お縄になったよ。


---------------------------------------------------------------------------------------


「申し訳ございません、オルフィリア公爵夫人…。
その後、その建物の周囲…円周状にくまなく捜索したのですが…ごろつきたちもスペードも…
影も形も無くて…。
どうやら下水道まで穴が繋がっていたらしく…そこから逃げたのでは…と」

デイビス卿…本当に申し訳なさそう…。
スペードの仕込み杖…私に渡してくれた…。

「分かりました…。
引き続き捜索を続けてください。
あと、場合によって、動いていただきますので、準備はしておいてください」

「もちろんです!!」

私は…スペードの仕込み杖をしっかり握りしめた。
大丈夫…無事でいる…。
それは…何より私自身…自分に言い聞かせた。

「ジョーカー…デイビス卿から聞いた特徴…思い当たる人物いる?」

するとジョーカーは、いつもの余裕が見えず、

「おそらく…ラディルスのギルド…だと思われます」

とだけ。
すると…やっぱりみんなの顔色が変わった。

「え~、よりによって、あいつんとこかよ…」

「けっこうヤバ目?」

私の問いには、

「けっこうじゃなく、かなり…ですよ。
危ない仕事ばかり引き受ける…って、裏社会じゃ有名ですよ」

ジェードが答えてくれた。

「そこにいたのは、本人って事かしら?」

「特徴からして…間違いないかと…」

ジョーカーの言葉に、ふっとわいた疑問…。

「ギルド長って…そんなに暇なの?」

普通…会社のトップって、そんなに簡単に出てこないだろ…。
よっぽど小さい所なら、まだしも…。

「あいつのギルドは…少数精鋭なのと、ラディルス自体が…上でふんぞり返るより、下に交じって
仕事する方が好きなんですよ」

ダイヤが答えてくれた。
まあ確かに…そういう人間もいるよなぁ…。

「スペード…やっぱり捕まっちゃったのかな…」

私が不安げにすると、

「大丈夫ですよ!!奥様!!
あいつはオレらの中で、一番頭良くて、生存能力高いんですから!!」

クローバが励ましてくれた。

「そうそう、これからラディルスの本拠地に乗り込んで、ちゃちゃっと助けてきますよ」

ハート…どうもありがとうね、でも!!

「私も行くわ!!」

するとみんなが驚いて、

「止めてください!!
イシュロたちとは、訳が違う!!
本当に危険です!!」

まして…一人かけているからなぁ…。

「大丈夫よ…ギリアム~」

呼んだら来ました、ギリわんこ。
最近とみに…ギリアムを見ると、架空の耳としっぽが見える…。

「何でしょう?」

私に呼ばれただけで、とっても嬉しそう。
もう、面倒くさいから突っ込まない。

「これから…ラディルスって奴に会いに、そいつの本拠地に行きますので…少々お付き合いを
お願いします」

「ダメです!!待っていてください!!」

「連れて行ってくれないと、一人で勝手に行きますよ?いいんですか?」

私の本気の笑みは…

「わかりました」

本当にどこかに行って帰ってこない…その恐怖を与えたよう。
最近…調教がしっかりできてきたからね。
私が…こうと決めたら、止まらない…って。

みんなが、え~って、顔になってら…。
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