ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

3 フィリー軍団の功績

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「ぎゃ~~~~~、検挙はもう、終わったんじゃなかったのかよ!!」

そこは…少し古びた事務所だった。
本棚の奥に隠し扉があり…その奥の部屋には…檻と怯える…やせ衰えた人々が、所狭しと
入っていた…。
栄養状態は非常に悪く、骨と皮だけ…にしか見えない…。
目に生気はなく、何が起こったかも…わかっていないよう…。

事務所の人間達は…ごく普通の人々に見える。
明らかに強面でもなければ、人に恐怖を与えるような威圧感も無い…。

しかし…完全に闇の世界の住人…だった。

行っていたのは、非合法の人身売買…の…後処理だ。
売り物にならないと判断されたり、売れ残ってしまった者たちを…秘密裏に処理することを
生業としている人間達。
処理とは…ありていに言えば、殺して死体を遺棄することだ。

「捕えられている人々の保護を!!
この事務所の者たちは…残らずひっ捕らえろ!!」

王立騎士団員に抑えられ、次々とお縄になっていく事務所の人々。

「ひとまず…これでオッケーか…」

リグルド卿が言いつつ、全体を見回すと、ダイヤがしきりに床を気にしている。

「どうしたんです?」

怪訝な顔で、声をかければ、

「ん~、多分…ありそうなんだよなぁ…」

と言い、床を靴のかかとで、ちょっと強めに叩いている。

「なにが?」

「……この部屋…外観と比べて、不自然に床が高いように見える」

ダイヤの言葉に答えるかのように、床が他と違う…不自然な音を立てた。
にいぃっと笑い、

「ここ…剥がしてみたら、いいもん出てきそうですよ」

「そっ、そこは!!」

捕えられた事務所の人間が、思わず叫んだようだ。

「ね?」

ダイヤは…それを見て確信したように、言った。

程なくして剥がされた床の中には…まあ、裏帳簿が山ほど。
そして…禁制品や偽造した様々な模造品。
色々出ましたなぁ。

「念のため…床は全部剥がすことをお勧めします」

それだけ言うと、ダイヤは足早に事務所を出てしまった。
後に残されたリグルド卿は…団員に指示して、床板を全部剥がしたそうな…。


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「ひいいぃぃ!!そ、そこは…!!
止めてくれぇ―――――――――――――っ!!」

王立騎士団員に抑えられたまま、叫ぶ質屋の店主…。

質屋って商売は、どこの世界でも…まあ、普通にありそうなもんだが、この世界もそう。
そして真っ当にやる人間もいれば、悪徳業者がいるのも、どこの世界でも常。

この質屋…客から預かった物品が価値ありだと、模造品作ってそれ渡すのが日常茶飯事。
本物は…マニアや固定客に、そのまま横流し。

その顧客のリストと物品を…強化週間期間中は、別の場所に隠していた模様…。

「良く気づきましたね」

テオルド卿がジョーカーに言えば、

「まあ…長年培った勘ですよ。
店に入って、店主を見て…ああ、自分らの世界の人間だなぁ…って」

何だか平然と…、言ってのける。

「じゃあ、後はよろしく」

さっさとその場を去ってしまった。


-------------------------------------------------------------------------------------------


「うっりゃぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

「ひょえぇぇぇ――――――――――――っ!!」

クローバが…同じくらいの体格の男を、見事に宙に吹っ飛ばした。

「やっぱ当たりだろうが!!ここ…あるぜ!!」

その場所は、かなり簡素な住宅街だった。
ただ、計画性なくどんどん増築を繰り返したせいで、路地が複雑に迷路化し、暮らしている人間でも
なければ、迷う事があるような場所だった。

門番であろう、屈強の男たちを即座に倒し続け、ガイツ卿と…その師団と共に、クローバが
目指したのは…。

非合法な闇の格闘場…。

殺しがもちろんオッケーな場所で、むしろ人を殺すまで痛めつけることを…、楽しみ、賭ける
人間達の巣窟…。

「全員、確保ぉぉ―――――――――――――――――――っ!!」

ガイツ卿の拡声器要らずなその声を合図に、団員たちが一斉に散る。

客と闘技場の戦士たち…すべからくどんどんお縄になる。

「…何やってるんだ?」

ガイツ卿がふとクローバを見れば、しきりに壁をじろじろ見ていた。

「こういう所には…大抵あるんだよ」

やがてクローバは…壁にあるほんの僅かな凹凸に気付く。

「お、あったあった」

その凹凸を押すと…壁が開き、隠し部屋が…。
中には…非合法な物品の数々が。

「掛け金として…こういうものを出すことは、往々にしてあるからな」

クローバ…得意そうやな。

「んじゃ、後はよろしく~」

早々にその場を後にした。


--------------------------------------------------------------------------------------------


「一斉摘発かっいしぃ~」

ハートの陽気な声と共に、レオニール卿の師団がその建物に入っていった。
すでに包囲された建物は…どこにでもあるようなアパートだった。
全部で10部屋程度…明かりは付いているところが半分、消えている所が半分…と、いった所だ。

乗り込んだ先にあったものは…男女のまぐわいの現場…。
しかし…問題は、女性の方が…まだ年端の行かない少女であったこと。
いわゆる…未成年の少女を斡旋する場だった…。

「お前ら、ふざけんな!」

レオニール卿と団員たちは、次々と客の男と店員たちをとっつかまえる。

「全員確保したかぁ!!」

「はい!!」

団員たちの声に安堵しつつ、ふと…。

「ハートどこ行った?」

言われた団員たちも、キョロキョロするが、影も形もない。

それもそのはず。
ハートはその時…。

「おい!!一斉摘発は、終わったんじゃなかったのか?」

「知らねぇよ!!摘発強化週間があるって言うから…その間は静かにしてれば大丈夫って言ったの、
そっちだろう!!」

「とにかく、逃げるぞ!!」

2人の男たちは…闇に紛れていたのだが…。

「そーは、いかないわよ、アンタたち!!」

その声と共に、

「ぐぎゃっ!!」

男の一人が倒れ込む。

「ど、どうした!!」

その時…雲に隠れていた月が顔を出し…あたりを僅かに…てらす…。

「ひっ!!」

ハートの姿が見えた時…男の一人が怯えて後ずさる…。
その表情が…とてもいびつだったからだろう…。
笑いと…憤怒が混ざったような…何とも言えない表情だった。

後ろを向き、一気に駆け出す男だったが、

「ぎゃっ!!」

足に巻き付いた何かにバランスを崩し…顔からスッ転げた。

「いってぇぇっ!!」

それはロープと分銅…ジェードが前に…オーダーしたものの改良版。

「いたいた、いました!!師団長!!」

レオニール卿の部下が、ハートを発見した。

「あら、ナイスタイミンーグ!!
こいつ等と…周りに散乱してる、上客名簿回収よろしく~」

「え…?」

辺りを見回せば…確かに2人の周りに、かなりの紙が散乱している。

「上客名簿?」

レオニール卿が追い付いてきた。

「そ、かなりヤバ目の人間と、金払いがいい人間は、リスト分けするのが普通だからさ~。
それさえあれば…また同じような事、できるし~。
逆にばれると、自分たちが制裁食らう事もありうるからさ~」

「なるほどな…」

「というワケで、後ヨロシク~」

ハートはそれだけ言うと、さっさと闇に消えていった。


---------------------------------------------------------------------------------------


「それとそれ…ああ、それにも入ってるぞ」

ジェードの言葉を…ちょっと意外そうな顔をしながら、聞いているヴァッヘン卿。

「ありました!!師団長!!」

「こっちもです!!」

ジェードとヴァッヘン卿の師団が来ているのは…いくつもの倉庫を持つ…運送会社だった。
その倉庫の広さと言ったら…東京ドームレベルで広い。
それが敷地に10個…調べるだけで、どれだけかかるっての?

「どうしてわかるの?」

ジェードが発見しているのは…倉庫に山と積まれた荷物に入っている…非合法麻薬だった。

「ん?そりゃー、オレは眼が見えないから…その分、鼻がいいのさ」

麻薬というのは…大荷物の中に隠されてしまうと、なかなかに発見が難しい。
特に…犬の嗅覚を麻痺させるような代物の中に、隠されてしまうと、人間が発見するのは困難だ。

確実にある…と、わかっていれば人海戦術を使ってもいいが、他の荷物だって場合によって
傷付けないようにしなければならないから、厄介だ。
ただの一部隊だったら、どこかを探している所に、他の所へ隠して…などと言う事を、やられて
しまうだろう。

ひとしきり倉庫を見て回り、どんどんと発見していくジェード。

倉庫の職員は…全員青くなる意外に何もできない。

「まあ…こんなとこかな…。
じゃあ、後はアンタらの仕事だ」

それだけ言い残し…ジェードはさっさと去って行った。
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