ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

6 アジトに乗り込むと…

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見事なくらいに?即興で結成された凸凹?チーム…。

私とギリアムとフィリー軍団(スペード除く)で、ラディルスの本拠地にやってきました。

王立騎士団のみんなには、もう少し連れて行けって言われたんだけどさ…。
師団長たちは一斉摘発後の、事後処理が残っているし…。
デイビス卿には、大多数の王立騎士団を率いてもらわなきゃだし…。
団員は…まだフィリー軍団との連携が、確実に取れるか…と言うと、難しいから、結局のところ、
このメンツが最適…っていう判断になったわけ。

ラディルスの本拠地は…一言で言えば、完全なスラムのど真ん中…。
治安が悪い事は、周りを見ればすぐにわかる。
浮浪者がそこかしこにいる上、野犬が吠え、物乞いだか盗りだかわからん人間達が、一定の
間隔をあけ、ついてきている。

その一角…半ば廃墟と化していそうな建物が、その本拠地だそうな。
かなりデカい…でも、ぼろい…ってとこ。

アニメや漫画のギルドって…もう少し普通の建物の中にあったような…。
などと私が思っていると、

「ここか?」

「ええ…以前と変わっていなければ…」

「とても貴族をクライアントに持てる人間達が、いるとは思えないな…」

ギリアムも…私と似たり寄ったりな事を思ったっぽい。

「奴らはもともと…危険な仕事ばかりを請け負いますからな。
他のギルドからの紹介だけでも…食っていけるのですよ」

ジョーカーが答えてくれた。
ああ、なるほど…。

「だから…本拠地を立派に構える必要がないと?」

「その通りです。
立派な建物に住むのも…手続きが色々厄介ですからね」

そりゃそーだ。
借りるにせよ、買うにせよ…それなりの所は、身分の証明が必要になるし、偽造がバレたり
したら、それはそれで厄介。
表の顔があれば、それで持つことも可能だろうが、表の顔があれば、また…別の面倒くささが
出るだろうしなぁ。

「ひとまず…入り口から入るか…」

ギリアム…堂々としているのは良いけどさ、

「罠があるんじゃないですか?」

私が思わず言えば、

「ないと思う方が、おかしいですよ…。
でも、スペードが捕まっている以上、行くしかないでしょう?
そのために来たのでは?」

うう、その通りだよぉ…。

「じゃあまず…オレらが先に行きますよ…」

ダイヤとクローバが、入り口付近を調べてくれた。

「あった!!」

クローバが早速、仕掛けを見つけてくれた。
よくある…線に引っかかると、様々なトラップが作動するタイプの奴。

通路のそこかしこに仕込まれており、丁寧にナイフで切って進んでいく。

みんな…同じようなことやったことあるからこそ、正確に的確に…トラップを解除してくれて
助かるなぁ…。

「そこ…落とし穴になってますので、気を付けてください」

ダイヤの声に、私は思わず足をどけた。

「よくわかるよねぇ~」

「まあ、作ったことありますからね。
よけた回数ならそれよりずっとあるし」

当たり前だけど、経験って…大事だなぁ。

「あ、ここ、壁にしかけがあるよ~。
みんな気を付けて~」

壁伝いに歩いていたハートが、発見してくれた。

「でも…あの貴族の建物…あれもラディルスの連中が、作ったのかなぁ…」

ふと疑問に思う。

「そうでしょうな…。
準備期間が十分あれば、ある程度は可能です。
相手を落とすことはもちろん、自分たちの逃げ道にもできますからな」

そう言えば…、ジョーカーも前の家に…結構長めの脱出通路作ってたっけ…。

「ふむ…そうなると…一度君たちに、研修をしてもらいたいものだ。
王立騎士団では、なかなか対応しきれない部分もあるからな。
デイビス卿も…随分と自分を責めていたよ」

「ん~、それなら…。
ファルメニウス公爵家で少し…そういう館を作ってもいいかもしれませんね。
それが上手く言ったら、そういう訓練施設を作ったり…」

「そうだな…」

「みんな…協力してくれる?」

みんなを置いてきぼりにしちゃ、いかんからね。

「もちろん!!奥様のご希望なら!!」

笑顔で答えてくれた…。
ありがたいなぁ。

「じゃあ…スペードをさっさと助けて、みんなで家に帰ろう!!
そんで…美味しいご飯を食べて、色々話をしよう!!」

「はい!!奥様!!」

そんな事を話しつつも、しっかり罠への警戒は怠らず…解除してくれるんだから、本当に
頼もしい人間を仲間に出来たもんだ。
我ながら…よくやったと、自分を褒めたくなる。

私たちは警戒しつつも、サクサク進んでいく…。

「罠はいっぱいあるけれど…敵は出てきませんねぇ…」

私が当たり前?の疑問を投げかける。
イシュロたちの時は…けっこういっぱい、出てきたからさぁ。

「あ~まあ、オレらと同じで、少数精鋭だから…。
他の仕事を手掛けていた場合、あまり裂ける人員はいないと思います」

ダイヤが答えてくれた。

「臨時で雇うって手もありますがね…基本ファルメニウス公爵家に粉かけるなら…すごく
嫌がるじゃろうし、お金もかかるから…あまり現実的じゃあ、無いですねぇ…」

ジョーカーも…同意見みたい。
まあ…イシュロの時は、こっちに粉かけて来る理由が…ちゃんとあったからなぁ…。

そんな事を言っている矢先…。

「……奥様、下がって!!」

ハートが…ううん、みんなに緊張が走る…。

暗い通路の奥に…怪しく光る無数の丸い点…。
鼻を突く獣臭と…唸り声…。

犬?…だ!!!

ネズミも嫌だが、犬だって…訓練積めば人間くらい、簡単に殺せる。

狭い通路に…何匹いるんだ?
多分…10匹以上はいる!!

だが…みんなだって、犬に後れを取るような、鍛え方はしていない。
襲い掛かってくる犬を…武器でけん制しつつ、的確な位置を攻撃し…叩く!!
体が大きく、訓練されているからこそ、ちょっとやそっとじゃ引かないが、やがて…。

「ふう…あらかた倒しましたね」

犬は逃げていったり、殺されたり…で、全て撃退された。

「フィリー…ケガは?」

ギリアムが心配そうに見てきたので、

「大丈夫ですよ…みんなも…、何よりギリアムがいますから」

そう言って笑えば、ホッとした顔をする。

「全く…さっさとスペードを救出して、帰りましょう」

少しでも私が傷つく可能性のある所に…おいておきたくないんだなぁ。
愛情って…素直に伝わってくると、嬉しいもんだ。

そんな事を思っていたら…なんだか大きな部屋に出た。
それはいいんだが…。

「うっ…何この臭い…」

思わず鼻をつまんだ…。
私は…農作物の肥料開発もやっているから…、割と肥溜め臭とか、鶏糞臭とか、慣れているん
だけど…。
それにしたって…って、言いたくなるような匂いだった。
汚物や汚泥…廃油や…腐敗臭その他もろもろの汚いものを、全て集めて、煮詰めて、凝縮したような…、
そんな臭いだったからね…。

よくもまあ…ここまで…と、思ったよ。

ギリアムは…適地だからこそ、平静を保っているが…やっぱりきついのでは?
私がギリアムに視線を向けると、

「フィリー…下がって…」

ギリアムの手が、私を自身の背中に導く。

「人の気配が…します」

「え…?」

私にも…この時初めて、緊張が走った…。
嫌な汗が出る…。
それを嘲笑うかのように…。

「え?ええ!!」

ランプ…と、松明が…その空間を照らしていく…。
少しずつ…少しずつ…暗闇に包まれていた視界が…開けていく。

どうやら…ドーム状になっているようだ…。
デカい建物だとは思っていたが…、この空間は…2階どころか5階までぶち抜きの空間…と言える。

「ここは…」

私のその声と共に、中央に…ひときわ大きな明かりが灯る。
その中心にあるものを見た時…私は…心臓が凍った…。

「スペード!!」

思わず身を乗り出すが、ギリアムに止められる。

中央にいたスペードは…文字通り磔にされていた…。
磔刑…そんな絵は見たことがあるけれど…まさにそれだった。
手足を十字架にきつく縛り付けられ…血がにじんでいるように見えた。

他のみんなにだって…戦慄が走ったろう。

私は…今までその可能性を考えないワケじゃなかった…。
でも…口にしたくなかったんだ。
だって…だって…。

その時の私は…酷く不安げな顔で、震えていたと思う…。
今にも泣きだしそうな…。

「……リー…フィリー…」

だから…ギリアムが呼びかけてくれているのに、しばらく気づかなかった。

「ギリアム…」

「大丈夫です…必ず助けますから」

その…力強く、優しい笑顔が…、

「はい…」

この時ほど…頼もしかったことは…無い…。
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