ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

8 囚われのギリアム

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ラディルス達が用意した檻に…何の抵抗もせず、入るギリアム。

「お前は…本当におかしな奴だな…。頭いかれているんじゃないか?」

檻に入れて少し強気になったのか…それとも本気でわからないのか…。
何とも不思議そうな顔で、ギリアムを見つめる。

「これで…スペードは開放するんだな?」

「もちろん。俺たちも、約束は守るタチだ」

「それは…いい事だな」

やっぱり涼しい顔のギリアム。
それが癪に障ったのか、足で勢いよく鉄格子を蹴り飛ばすラディルス。

「お前は…本当に父親にそっくりだな…」

怒りを…露にしている。

「まあ…残念ながら外見だけはな。
ただ私には、どうしようもないことだが」

やっぱり…シレっとしている。

「マスター!!ダメです!!ひとまず発表を待たないと…」

シュケインが慌てて止めに入る。

「わかってるよ!!」

荒れているラディルスの代わりに、

「いつ頃…発表されると思っている、ギリアム公爵」

レグザクが尋ねてきた。

「……明日の朝刊をチェックしてみろ。出ているハズだ」

「ほお…さすがファルメニウス公爵家と言った所か…」

ファルメニウス公爵家の権力と財力は他の貴族より、頭いくつぶんも飛び出ている。
今は真夜中だがその気になれば…朝刊の一面を変えることはおろか、タダで号外だって出せる。

「しかし…そう簡単にいくかな…」

レグザクの笑みは…随分と不敵だ。

ギリアムは…その意味が分かったのだろうが、

「簡単にいくさ…。
ここにいたのはフィリーと…フィリーが信頼し、私が認めた者たちだからな」

やっぱり…不敵な笑みを顔に張りつける。

「いつまでその余裕が続くかな?」

再びラディルスが…イライラしながら怒鳴る。

「言っておくが…発表がされるまで、飯はおろか、水さえ口にはさせん!!」

「……好きにしろ」

やっぱり余裕のギリアム。
ラディルスは…それ以上何か言うことは無く、その部屋を…出るのだった。


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ギリアムが、スペードの代わりに人質になり、ラディルスたちは…消えた。
ようにみえたのだが、

「スペード!!大丈夫?」

対岸まで運んでもらい、スペードに駆け寄る私。

「気絶していますが、命に別状はありませんよ」

クローバが、戒めを解いている。

「ひとまず…即急にファルメニウス公爵家に帰りましょう。
資料を探して…発表の準備をしないと!!」

「奥様!!危ない!!」

ジェードは…声と共に、闇から襲い掛かった者の…刃を止めた。
私の目には…その後ろ…そして上からも…文字通り人が降ってくるような…襲撃だった。

だが…フィリー軍団だって、ギリアムが…その武力を認めているんだ!!
私の護衛に…相応しいって!!

襲い来る敵を…空中で迎え撃ち、撃墜していく。

「奥様!!行きますよ!!」

スペードはクローバが、私はジェードが抱え上げ、一気に移動する。

私には…正直何が何やら、分からなかった。
とんでくる暗器や矢…それを、まるで来ることがわかっていたかのように、叩き落とし…。

フィリー軍団はよどみなく進む。
たまに…人自体が飛んできても、それすら軽くいなし…進んでいく。

程なくして建物の外に出て…私たちは王立騎士団の元に!!
事情を説明して、伝書鳩を飛ばし…馬を借りてひた走った。

絶対に、明日の朝刊に間に合わせてやる!!
私は…その強い意志のみで、動いていた。

「フォルト!!準備は!!」

「出来ております!!」

ファルメニウス公爵家に着いてすぐ、フォルトは資料を出してくれた。
私は資料をババっと見て、

「お金に糸目は付けないわ!!新聞社、印刷所!!全部に声かけて刷らせなさい!!」

私の号令の下…全ての人間がよどみなく動く。
すごい勢いで刷られていく新聞たち。

そして次の日の朝…新聞の一面を飾ったのは…ラディルス達との取引内容だった…。


-----------------------------------------------------------------------------------


朝刊の一面は…もちろん色々な物議を醸しだしたが…。
それはまた、後日話をしよう。

「これはどういう事だ!!」

ラディルスが…新聞を、ギリアムの檻の中に、叩きこんだ。
ギリアムは…拾って目を通す。

「キミらの…要求通りにしたが?」

「ふざけるな!」

前日以上に…激しく檻を蹴る。

「死因が…全く違うじゃねぇか!!」

シュレンソとライラは…度々折檻を受け、最後は喉を切られて死亡…となっていた。

「……何故違うと思う?」

ここでギリアムは…少し訝しむような表情となる。

「知ってるからだよ!!
姉さんと義兄さんは…餓死したんだ!!
過酷な任務を日々やらされて…休養ももらえなくて…食事ももらえなくて…。
庭の草を喰って、何とか食いつないで…それも限界になって、死んだんだ!!」

「……まるで、見てきたように言うのだな」

「…見てきた人間に、聞いたからだよ」

ここで…ギリアムの顔色が変わる。

「なるほど…やはり私が残って正解だったな」

「はあ?」

「私が…スペードを返さねば公表したくなかったのは…そもそもキミらの望む情報と
こちらが出す情報が…一致するかわからないからさ。
もっと言えば…難癖をつけて処刑することは、いくらでも可能だ」

「こっちだって、正確な情報を出せば、放免する気でいた!!」

「何を持って、正確と判断するのだ?
その情報をもたらした者が…嘘をつくとは思わないのか?」

ここでラディルスのこめかみが、逆立ち、

「アイツは嘘をつくような奴じゃない!!それだけは…保証できる!!」

怒鳴った。

「……随分と信用しているようだが…一体どういう関係なんだ?」

「お前に関係ない!!」

吐き捨てると、ギリアムの檻の中に、紙とペンを投げ入れた。

「さっさと手紙を書け!!本当の真実を…もう一度公表しなおせ…とな…」

するとギリアムが唐突に

「シュレンソとライラの検死は…私も立ち会ったのだ」

喋り始めた。

「な…に…」

「だから…資料と共に、正確な状態を覚えている。
あの2人は…栄養状態がいいわけではなかったが…直接の死因になるほど飢えていたわけじゃない。
間違いなく…刃物により頸動脈を切られたことによる…失血死だった」

ラディルスは一瞬止まっていたが、

「はっ!!それこそ…信じろと言う方が無理な話だ。
こんな状態で閉じ込められて…何とか逃れようと必死なんだろう?」

不敵に笑い、両手を肩の上で振る。

「まあ…信じたくないなら、いいがな…。
しかし、情報は正確に把握しないと…いつか大きな間違いを犯してしまうぞ?」

「テメェに言われたくねぇよ!!この嘘つき野郎!!」

ギリアムは…ここらへんで諦めたようだ。

「とにかく…」

「マスター!!来てください!!」

部屋に…ギルド員が飛び込んできた。

「どうした?」

「あの…例のクライアントが…」

「待たせておけ!!」

「し、しかし…」

ここで…ギルド員はおどおどしつつも、

「もし…直ぐに来なかったら、何かあった時の支援は…しないと…」

「ちっ!!」

口惜しそうにギリアムを眺め、部屋を出たのだが、

「おい!!」

外で待機していた連中に、

「刃を削った槍でついて…半殺しにしろ!!
そうすれば…、もう少し従順になるはずだ」

「わかりました」

10人ほどのギルド員が…ラディルス達と入れ替わり、入って行った…。
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