ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

9 裏で暗躍する者たち…

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「ほんっと急だよな、アンタが来るのは!!」

ラディルスが悪態付きながら言った相手は…全身をフードで隠しているため、歳どころか
男女かすらわからない。
ラディルスの横には…レグザクとシュケインがいる。

「致し方あるまい…。こちらも今…かなり忙しくてな…」

再度舌打ちしたラディルスは、

「で?一体なんだ?」

「医者の件は…感謝するが…この報告書は間違いないのか?」

渡されたであろう報告書を、懐から出し、無造作に突きだす。

「ああ、残念ながらな」

「そうか…」

フードの人物も…なんだか残念そうだ。

「新聞の件は…上手くいったようだな…」

顔は見えないが、明らかにわかることが一つある…。
ファルメニウス公爵家を…出来るだけ貶めたい。
その空気だけは…隠す気もなく出している。
もっともラディルスたちに対するなら…その方が良いだろうが。

「そうでもない!!」

ラディルスの声は、非常に口惜し気だ。

「そうなのか?」

「ああ!!死因が全く違う!!それに…もっと凄惨な状態だったんだ!!
だから…再度要求をかける」

「……可能なのか?」

「ああ、方法はある!!」

「なるほど…では、期待して待つとする」

顔が見えないので、表情が読めない。
だが声の抑揚から、とても楽しそうだ。

「しかし…ギリアム公爵は本当に…火消しをしないと思うか?」

「わからんが…火付けはこちらだって、得意なんだ。
何とかするさ」

「さすが…危険な仕事ばかり請け負う、腕のいいギルド…という名目に、恥じないようだな」

「当たり前だ。先代の時から…変わらない方針さ」

「なら…私はそろそろ、お暇するとしよう…」

フードの人物は…さっさと帰って行った。
ラディルスは、気を取り直してギリアムの部屋に、再度向かうが…その途中、

「マスター!!」

飛び出してきた人物に、進路を塞がれる。

「なんだ、シェッツ!!テメェは任せた仕事をしっかりやりやがれ!!」

シェッツ…そう呼ばれた20歳越したばかりくらいの男…、栗色の髪と丸っこい目が特長。
背の低さも相まって、小動物と思しき装いだ。

「いやです!!」

「何だとぉ?」

「ファルメニウス公爵家の悪事を…暴く手伝い、オレもしたいです!!
荷物運びなんかじゃなくて…」

「バカ言うな!!相手は仮にもファルメニウス公爵家だぞ!!
今回はお前は外れろ!!大人しく荷物を運んで、代金を取り立てて来る仕事だけ
やってりゃいいんだ!!」

「何でですか!!オレばっかり、いつも…下っ端仕事のまま!!
オレは…ここで生まれたんです!!年季だけなら、下手なベテランより長いんですよ!!
腕だって、磨いているのに!!」

必死に訴えるが、

「うるせぇ!!とにかくテメェは、危ないことはするな!!
アイツの部屋には近づくな!!いいな!!」

言い捨てると…すたすたと行ってしまった。
レグザクとシュケインが、

「そういう事だ、ひよっこが背伸びすると、ろくなことが無い」

「お前はとにかく…危なくない仕事だけしてろ」

そう言って、ラディルスの後を追って行ってしまった。

1人残されたシェッツは、

「馬鹿じゃね~の」

…ぼそりと呟いたそれを、聞いた人間はいない。
やがてシェッツは…3人とは反対方向に歩き出すのだった。


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再びギリアムの部屋の前までやって来た3人が…異変に気付いたのは扉の前に立った時だ。

「……静かすぎるな…」

裏社会の人間は…貴族と切っても切らないが、その代わり不当な目に遭っていることも
非常に多い。
だから…痛めつける時は、たいてい罵詈雑言が出る。
そして…肉を叩く音だって、当然聞こえていいハズだ。
それなのに…部屋の中からは、一切の音が…聞こえない。

「何があっても、対応できるようにしろ!!」

他の2人に指示したラディルスが…ゆっくり扉を開けると…。

「うっ!!」

凄惨なものは見慣れているハズの…3人の顔が歪んだ。

その部屋には…10人の人間…だったものが、無造作に床に転がっていた。
誰もかれも…一撃で首の骨を折られたと、素人目にもわかるくらい…首があり得ない方向に
曲がっていた。

「何だよオイ!!こいつ等…それなりに腕があるのに…抵抗した後が、殆どないぞ!!」

レグザクが…叫びに似た声を、青白い顔であげている。

「それに…この檻…」

檻の鉄格子が…まるで不規則な、出来損ないのオブジェのように、あり得ない方向にひん曲がり、
伸ばされ…中は空だった。

「だ、誰かが助けに来たのか?」

閉じ込められていたのが、ギリアムだから、それは十分あり得たのだけれど。

「馬鹿を言うな!!そのために…見張りを強化していただろうが!!
外から何かが来たって報告は!!一切上がらなかった!!」

「マ、マスター!!!!」

「どうした!!何が攻めてきた!!」

「い、いえ…。この周囲を囲んでいた王立騎士団が…、撤退していきます」

「なに?」

ラディルスが急いで窓から身を乗り出せば…、確かに波が引くように、王立騎士団が撤退して
行く様が見えた。

「一体…何が起こっているんだ?」

さすがに…予想の範疇外だ…と、言いたげに、ラディルス達は…その様子をいつまでも眺めていた…。


-------------------------------------------------------------------------------------------


「よろしいのですか?団長…彼らを殲滅しなくて…」

テオルドが…随分と不思議そうに、馬に乗りながら、ギリアムに話しかけているが、
ギリアムは前を向いたまま、

「……どうしても、殺しておかねばならない人間が、私には数人いるんだがな…。
その一人が…どうも連中と関係しているようなんだ」

「なんと…」

「だから…殲滅させるより、泳がせて…その人間がどこにいるか、探りたいのだ」

「そういう事でしたら…もう何も申しません」

そのまま…軍団は王立騎士団に帰還した。
そして…。

「フィリー!!ただいま!!」

「ギリアム!!」

私は…一瞬呆けたが、直ぐにギリアムに抱きついた。

「よくご無事で…」

思わず…本気で泣いた。
ギリアムだったら大丈夫…そう思ってたけど、万が一はどこにだって転がっている。

「ご当主様!!」

フィリー軍団の皆も…寄ってきてくれた。
皆口々に…スペードの事に対するお礼を言っている。
スペードは…今医療施設に入院中だが…。

しかし…私ははたと気づいた。
この場で…一番にギリアムに纏わりつきそうなギルディスが…何故かちょっと遠巻きに、
ぽつんと座っている。

「どうした?ギルディス…」

ギリアムも…異変に気付いたようだ。

「お兄ちゃん…嫌な事してきたの?」

明らかに…悲しげな表情だ。

「いやな事…とは?」

すると…ギルディスは、少し戸惑いつつも、

「あの石牢で…ボクが眠るとね…。たまにどこかに連れていかれたの…。
そこで…嫌な事をやらされるんだけど…。
お兄ちゃんの体から…嫌な事をさせられたあとのボクと…同じ臭いがする…」

これで…ギリアムはわかったようだ。

「キミは…それが嫌だったのかい?」

「うん…」

「そうか…でも、やらないとキミが酷い目に遭ったんじゃないか?」

「うん、そうだよ…」

「なら…嫌な事…と位置付けていいが、罪悪感は持たなくていい」

「ざいあくかんって、なーに?」

「フム…。今日は色々やることがあるから、また今度教えるがね。
この世の中には…キミの知らないことが、まだまだたくさんあると言う事さ。
それを…ちょっとずつ知っていきなさい。
私が…手伝うから」

「…よくわかんないけど、わかった」

ギルディスは…初めて笑うのだった。
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