ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第1章 取締

10 スペードの容体は?

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「おう…嬢ちゃんか。公爵様も…スペードに会いに来たのか?」

ギリアムは…帰ってそうそう、スペードの事を心配していたから…、早速ガフェルおっちゃんの
ところへ。

「ええ、意識は?」

「戻ってるよ」

私はその言葉に…さらに安堵した。

「おーい、嬢ちゃんと公爵様来たぜ」

おっちゃんの声に反応して、

「わあ!!すみません…こんな姿で…」

「けが人なんだから、無理しない!!」

私の言葉で…とりあえず、わたわたするのは止めるスペード。
まあ…少しわかる。
上半身裸…で、腰から下は掛布団の中…でも、服一枚着ておらんみたい。
前世の仕事の賜物ね、こういうのわかるのは。

そんな中、おっちゃんが説明してくれた。

「全身打撲はあるけど…動くのに支障がある状態じゃない。
それより…殴打された方が、酷いぜ?
まあそれも…数日で治るだろうな。
ホントに鍛えてるよな、お前…」

「そ、そりゃあ、もちろん…。
拾われた恩に報いたいから…」

嬉しい事を言ってくれたが、その後…暗い表情になり、

「あ、あの…オレよりご当主様の怪我は…」

「心配ない。
捕まっている時は、ずっと檻の中だったし、脱出もそれほど難しくなかった」

この時は…誰も知らなかった。
ギリアムが…ギルディス同様、鉄格子を破壊して逃げ出した事。
猛獣用の檻をものともしない人間って…。

それを聞いて…スペードは本当に安堵したようだ。

「いや~、良かったなスペード!!
これでオレとお前は、拉致られ仲間だ!!
これからも、よろしくな!!」

クローバの陽気な声…。
なんだ?
拉致られ仲間って…。
でも、私が思ったそんな疑問を…スペードは怒りと共に思ったらしく、

「ふっざけんな!!てめぇ!!
オレは油断して拉致られたんじゃねぇっっ!!」

思わずベッドから立ち上がり…、クローバに掴みかかった…んだよ。
ああ…本当に、怒り心頭だったんだなぁ…。
だって…。

「ちょっ!!オイ!!スペード!!」

ダイヤのめっちゃ慌てた声…。

「奥様がいらっしゃるんじゃぞ、このバカたれ!!」

ジョーカーもかなり慌ててる…。

「え…」

この時初めてスペードは…己の格好について思い出したらしく…。

「わ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」

悲鳴とも取れる叫びと同時に、頭から掛布を被ってしまった。

「オ、オ、オ、オレの服~~~~っ!!」

慌てふためくスペードに、

「ひとまず、これを着ろ!!」

ダイヤが…近くにあった病院着を差し出す。
それをひったくるように受け取り、掛布を頭からかぶったまま…着用した。

そして現在…私の前で土下座する、スペード…。
土下座できるんだから、たいしたことなかったんだな…良かった。

「スペード、もういいよ。
怪我しているんだから、ベッドに戻って」

と、言っても、

「いえ…このような無粋なものを、奥様の眼前に晒しましたこと…。
一生の不覚でございます…。
何卒…厳しい処罰を…」

いや…男のモノを晒されたからと言って…罰を下すのは…ちょっと…。
前世では、晒されないと仕事にならんかったし…。
だいたいスペード…かなり立派なものを持っていたから、目の保養になったよん。

だがそんな私をよそに、ギリアムは明らかに不機嫌そうに、

「全くだ…。
フィリーの護衛でありながら、このような不始末をするとは…」

「仰る通りです、ご当主様…」

頼むから、話を暗い方向で、纏めようとせんでくれ!!

「もう!!二人ともいい加減にしてください!!
私は気にしていないって、言ってるでしょ!!
スペードは私の護衛なんですから、1日も早く、傷を治すのが仕事です!!
ギリアムもわかっているでしょ!!」

少し強めに言うと…不機嫌そうな顔ながら、後ろに下がるギリアム。

「いや~、良かったな、スペード!!
奥様許してくれるってさ」

だからクローバよ…。
アンタは何でそんなにタイミング良く…人の神経を逆なでできるのかね?

スペードは土下座の態勢のまま、

「テメーだけは、元気になったら、ぜってー殺す!!」

と、ぼそぼそ言ってるじゃないか…全く。
するとクローバは、あからさまに私の方に来て、

「奥様~、スペードがオレのこと、いじめる~」

って、アンタ…。

「あ~、わかったよ!!今殺されたいんだな、てめぇは!!」

ほら、切れちゃった…。
キリが無いので、ギリアムに仲裁してもらう…。

「とにかく!!スペードは体を治すまで、仕事はお休み!!
わかった!!」

私が強めに言うと、

「はい…奥様…」

何だか、不服そうだなぁ…。
怪我を引きずって、出てこられても困るだけなんだけど…。
まあ…動ける程度の怪我で、休んでいられない生活を、していたんだろうなぁ。

「ああ、そうだ…これ!!」

私は仕込み杖を、スペードの前に差し出す。

「アナタの物だから…アナタが持っていなさいな」

そう言って差し出されたものを…スペードはまるで…信じられないものを見たかのように…
眺めていた。

「どうしたの?」

私が怪訝な顔をすれば…、

「いや…これは奥様の物で…オレは…今回ミスっちまったから…。
これを持つ資格は…もう…」

なるほどね…それで苛々して、暗かったわけだ。

「ミスって何?」

「え?」

スペード…素直に驚いてる…。
ギリアムが…私の脇から出てきた。
もう…不機嫌そうな顔は無い。

「誰かが死んだわけでも…何か重大なものが無くなったわけでもない。
全てを完璧にやれる人間なんて、いやしない。
キミは…デイビス卿や他の皆を、身を挺して救っただろう?
立派な功績だ…。
それを考えれば…今回はミスと相殺して…トントンと言った所だろう」

やっぱりギリアムだ。

「だから…これはまだ、アナタの物よ、スペード…」

私が再度差し出すと…スペードは震えながら…でもしっかりと、受け取った。
そして木目をゆっくりと…震える手でなぞりながら…、

「あんまり…優しくしないでくださいよ…」

泣き出した…。

「オレ…ご当主様にも散々…ご迷惑おかけしたのに…、奥様にも…恥…かかせたのに…」

何だかなぁ…一瞬たりとも、気の抜けない世界で生きてきたんだろうけど…。
それにしたって、あまりにも…。

私がかける言葉を失っていると、

「だったら、まずはしっかり体を治せ!!
これは…私が皆に言っている事だが…、生きていれば挽回のチャンスはある。
それをモノにするために…休息をしっかりとることは…恥でも何でもない!!
むしろ…必要な事だ!!」

いい事言うなぁ…20歳そこそこのハズなのに…。
還暦越えとしては、冷や汗出るわぁ…。
なら私も…。

「そうよ、スペード…。
アナタが治りきらない体で無茶して…、ずっと苦しそうにしていたら、私はすっごく
悲しいわ」

芝居じゃなく…本当に心配しているんだよ…ホントだよ…。

私とギリアムのそんな気持ちは…、

「ありがとうございま…す…」

また泣きだしたスペードに…伝わったようだ。

そんな様子を…周りのみんなは、微笑ましく見守ってくれた…。

こうして数々の謎と、この先の不安を残しつつも…私はつかの間の幸せと、誰も死ななかった事に
安堵するのだった。
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