ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第2章 火事

4 殺伐とした現場…しょうがないけどね…

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「テメェ!!ふざけんな!!それはオレのだろうが!!」

「はあ?これはもともとオレが持っていたものだ!!」

避難民が取っ組み合いの喧嘩をしている…。
止めに入る護衛騎士も…かなりお疲れのご様子だ。

大規模火災から…1週間ほどたったが、未だに避難民が出ていく目途は立たない。

「あまり…いい状況ではありませんな…」

私のそばにいるジョーカーが、ため息交じりに話しかけてきた。
財産をもって逃げられた者もいたが…、殆ど着の身着のままで、何も持たずに逃げてきた
人もいたからさ…。
どうしたって、火事場泥棒的な者は出てきてしまう。
そうならないように、護衛騎士や使用人には、よくよく見ていてもらっているんだが…。
限界はある。

「ラディルス達に動きが無いけど…無いように見えるだけかもしれないしね…」

「その通りです…おそらくこちらの疲れと混乱を、注意深く見守っているのでしょう。
今が正念場…です」

「よね…」

人員を補充したいところだが、王立騎士団だってフィリアム商会だって、最低限やらねば
ならない、通常業務がある。
そして王立騎士団は…今、急ピッチで焼け跡の整備と仮設テント…それに冬場ゆえの燃料確保に
奔走しているから、本当にウチに応援に来れる余裕はない。

「おーい、オルフィリア公爵夫人~」

おりょ、ローカス卿だ。

「どうされました?」

「いや…おじい様に状況を、確認して来いって言われて…」

おやおや、さすがローエンじい様。

「ケイシロン公爵家も、避難民を受け入れてくださったそうで…。
ありがとうございます」

「いや…当然のことと思っていますよ」

これは本当に、助かる。

「でも…まあ、王家がな…」

「ああ…やっぱり…」

私は…苦笑いしか出なかった。

「避難民を受け入れなかった上に…受け入れなかった理由が…また…」

「そうなんだよなぁ~」

受け入れなかった理由は…バカ王女のせい。
バカ王女の誕生日…近いんだよね…。
だから…庭園にかなりの祝いの為の…色々諸々を設置したらしく…、それを全てふいにしなきゃ
ならないため、門を開けることを拒否したらしい。
この時、国王陛下不在で…ケイルクスのバカは部屋から相変わらず出てこないし…。
王后陛下は王女の味方だから、やっぱり門を開けなかった。

折悪く、ローエンじい様もローカス卿も…国王陛下の護衛で外に出ていたから…。
国王は必要が無ければ王宮を出ないが、出る時はある。
でも、話を聞いたローエンじい様は、すぐさまケイシロンを開放するよう指示したんだよ。
国王陛下だって指示はちゃんとした。
だから…王宮は当然、避難民でごった返していると思ったら…そんな状況だからさ。
じい様だけじゃなく、国王陛下も怒り心頭だったらしい。
ただでさえ…最近、王家の醜聞が多いってのに。

……ざまぁ~~~~っっ!!

「ひとまず…救援に使った物資の書類を、後日出してもらいたいです」

「ええ、用意でき次第、提出いたしますわ」

にこやかに言う。

「それにしても…やっぱりどこも、避難民は苛ついているなぁ…」

ローカス卿も、さっきの喧騒が聞こえたようだ。

「財産全て…失くしてしまった人も多いので…」

「だよなぁ…。
ウチに受け入れた人間も…いざこざが絶えないみたいだし…」

お互い…ため息しか出ない…。

「まあ、ひとまずオレは戻るよ」

そう言って、ローカス卿は戻っていった。

その夜…私たちは恒例になった、報告会をギリアムの書斎にて始める…。
メンバーは…ギリアム、フォルト、エマ、王立騎士団師団長+テオルド卿…、フィリアム商会総括部、
私とフィリー軍団…そしてガフェルおっちゃんだ。

「ひとまず…現在冬場ゆえ、仮説はテントではなく、最低限の防寒が必要と判断いたしましたので、
仮説の小屋を建てております。
しかし…木材もすぐには提供できず…薪も必要なので、難しい所です。
廃材を利用するようにしていますが、すぐに尽きてしまいまして…」

「それについては、フィリアム商会の方で、順次用意していますが…やはり需要と供給が追い付き
ません。
冬場というのが痛いですね…。
毛皮や…オルフィリア公爵夫人が考案された、防寒具がだいぶ役に立っておりますが…それでも
出せる量には限界が…」

そうだよね…。
綿花がかなりの量、手に入ったから、防寒具に力を入れていたのが、幸いしたけど…。
無尽蔵に湧いてくるわけじゃなし、機械が一切ないこの世界では、追加で作るにしても手作業だから、
時間はかかる。

「避難民の状態はどう?」

私の問いには、

「やはりみな…寒さのせいで、気が立っていますね。
家を失った者たちは、今後の行く末への不安もあって…余計かと思われます。
健康状態も…悪化している者が、一定数います」

フォルトが答えてくれた。
こういう時の為の…国の支援が無いのよね…。
あくまで…任意になっているから。
弱者救済法で…賄える部分が増えているから、まだいいけど。

「医療施設でも、なるべくやってるけどな…。
民間病院や他の施設に…早々に受け入れてもらった方がいい。
オレは慣れているからいいが…、他の職員には疲れが出始めている」

おっちゃん…さすが僻地医療を、ガチでやってきた人だけある…。

「それも考えているんだけど…、ファルメニウス公爵家所有の民間病院も…ごった返している
のよね…。
他に移ってもらう事も、進めているんだけど…説得になかなか手間取っていてね」

ファルメニウス公爵家ブランド…強くなりすぎてるんだよなぁ…。
それが有難い時も、沢山あるんだけど…、こういう時は負の方向に行っちまう。

ひとまずこの日は…報告が大部分で終りを告げた…。
ギリアムと私は寝室で寝転がりつつ、

「ああ、本当に…ここ最近の忙しさと来たら…」

泣きたくなってくる。

「ラディルス達は…未だ怪しい動きはありませんか?」

ギリアムとしては…家を離れたくないのだろうが、災害後というものは、犯罪も残念ながら
増える。
ギリアムが王立騎士団を不在にするわけには、いかない。

「ええ…こちらの疲労と隙を…伺っていると思われます」

「気が抜けないのは…正直キツイですね」

「でも…別に誰にも狙われていないと思っても、狙われていたりするのが、ファルメニウス公爵家
ですから…。
むしろ、狙われていることがわかっていて、良かったと思いましょう」

これ…本当の本心ね。

「そうですね…」

この日…私はその言葉を境に…泥のように眠ってしまったギリアムに、寄り添う形で寝た…。
ああもう、快適なエッチライフはどこ~(泣)。

次の日…。
フィリアム商会総括部は、朝に備えて昨日のうちに帰ったし…。
ギリアムは早朝から、王立騎士団を指揮するために出て行ったしで…。

ファルメニウス公爵家の事は、私が全部やらねばならない。
特に多いのが…避難民のいざこざの仲裁と、今後の展望に対する説明および説得だ。

「お願いします!!ここにいさせてください!!」

ある避難民からのお願いなんだが、

「申し訳ありませんが、家を失っていない方には、そろそろ出ていただくことにしております。
物資の補充は、王立騎士団からの定期便が来るので、そちらで受け取れますよ?」

食べ物だけじゃなく、燃料もちゃんと補充するんだ。

「しかし…不安で…。
子供もまだ、小さいですし…」

「それなら…なおさら、家に帰ってしっかりと基盤を作った方が、よろしいかと…。
証明書の発行は行っていますし、それがあれば、大抵の支援は受け取れますよ」

仕事の斡旋だって、場合によってするしね。

「そのようなことを、おっしゃらず…、何卒お願いいたします…」

女性は突っ伏して…泣きじゃくっている。

何だが…ひっぱたきたくなってくるのは、私だけか?
避難民で…小さい子抱えている人間、沢山いるんだぞ。
家も財産も、失っちゃった人、沢山いるんだぞ。

「オルフィリア公爵夫人…そのような事を言わず、置いてやってください…」

「そうですよ…今回の大規模火災で、心に傷を追っちまって不安なんですって…」

何だが…男が2人出てきた…。
どこにでもいるなぁ…カッコつけの男って…。

「そんなのは、ここにいる皆さんが一緒だと思います。
住むところのない人に、出て行けとは言っておりません」

すると…男たちの目が、あきらかに不満の色を放ち、

「あのですね…仮にも聖女と名高い方が、そのようなことを言うべきではないと思います」

「そうですよ…もっと惜しみない愛情を注いだって、いいじゃありませんか」

……あのさ、本気で殴っていいか?

「私は神様じゃありません。
ですのでやれる限界の範囲で、やっているんです。
そこまでおっしゃるなら、ご自分たちでやればいいじゃないですか」

私のそばには…フィリー軍団じゃなく、今日は護衛騎士2人なんだよね。
フィリー軍団はどうしてもやってもらいたいことが、他にあって…全員出はらってる。
だから…調子が出ないなぁ。

「はあ?仮にも焼け出された人間に、そんなこと言うんですかぁ?」

「幻滅ですよ」

うるっせーよ、お前らにはむしろ、幻滅されてぇわ。
あ~、もう、フィリー軍団だったら、こういう時…かなり厳しい事言ってくれるんだと
思うんだけどな…。

周りがかなりざわついているな…。
まあ、しょうがないかぁ。

「どう思われようと、こちらの方針は、変わりません。
ファルメニウス公爵家もフィリアム商会も関連施設も…目一杯やっているんです。
それを否定されたくはありません」

すると…。

「あのですね…俺たちは被害者なんですよ!!」

「普通に暮らしていただけなのに…いきなり全部なくした人間に…優しくしてくださいよ!!
こんないい場所に暮らして、いいモノ食べているんだからさぁ!!」

あのさ…デカい家って維持費半端ないのよ?
ファルメニウス公爵家っていう、家が負わなきゃならない責任は…十二分に負っているつもり
だよ?

しかしこいつ等…完全にこっちを威嚇している感じだ…。
どうもきな臭いよな…。

そして…護衛騎士…本当に役に立たねぇ…。
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