ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第2章 火事

5 んじゃ、テメェがやれや

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何だか…変な睨み合いに突入しちゃったよ…。
女性は相変わらず泣き続けているし…、男2人はこっちを威嚇するしで…とてもじゃないけど、
マトモに話しはできん…。

「とにかく…話が平行線ですので、私は行きますね。
他にやることが…山ほどありますので」

ちょっと挑発してみることにした…。
こいつ等が私の予想通りなら、多分次の行動は…、

「ちょっと!!逃げるんですか!!」

「あんまりですよ!!いたいけな一般庶民を置き去りにして!!」

やっぱりか…。
かなり食いついてきやがった…。
そうなると…。

私が思案に入ると、

「あの…奥様…」

いきなり護衛騎士が話しかけてきた。

「もう少し…ここに置いておいても、よろしいのでは?」

はい?

にこやかに話しているが…明らかにさっさとこの場を収めたい…という気持ちがにじみ出て
いる…。
私だってもちろんそうだが、収め方によるぞ。

この護衛騎士…歳はギリアムと同じくらいか…。
名前は確か…ムガル…下の名前は忘れた。
ファルメニウス公爵家の護衛騎士は…年齢がかなり幅広い。
能力があれば採用する、ファルメニウス公爵家ならではなんだけど…。

最近入ってきたばかりの新人で…しきりに私の護衛任務に就きたいって希望したから、
今回…屋敷内ということもあって、採用してみたんだった…。

もう一人は…やっぱり同い歳ぐらいに見えるが、完全に我関せず…だな。
これも…ギリアムの評価にはマイナスに働くぞ、ったく…。

「なぜそう思うのか…教えてくださいな」

あくまで…ポーカーフェイスは大事に、護衛騎士に聞いてみた。

「い、いえ…、困ってらっしゃる方を…見捨てるのは、ファルメニウス公爵家の理念に
反すると思いますので…」

あくまで穏やかに、にこやかに言ってもよ、筋が通っていないことを、私は了承するつもりはない。

「あら…さすが、ご立派な意見ですね…。
でしたら、この3人の今までとこれからの、必要物資は…すべてアナタのお給料から引くよう
手配しますね」

にっこやかーにね。

「え…」

なに、驚いてやがる?
私は言ったぞ。
あの2人の男に…自分たちで養えってな。
当然、テメェもそうだぞ。

「そ、そう言った事を言っているのではなく…」

何か慌てだしたね。

「では、どういう事でしょうか?」

頭のそれなりに働く奴は、理詰めに限る。

「奥様…その辺でおやめください。
もう行きましょう…」

おいおーい、もう一人!!こんな所で出てくんな。
名前は…ハリスだったか…やっぱり下の名前は忘れたわ!!

コイツも新人で…私の傍希望だったな…。

「……この人たちとの話が、終わっていないです」

相変わらず泣きわめく女と、男2人な。

「もう気にせず行くと、申していたでしょう?
さっさと行きましょう」

……。
お前が決めるな!!

も~、ただでさえ、変なの3人のせいで、頭痛いってのにぃ~。

「奥様…ただいま戻りました」

この声は…。
私の振りむいた先には…ジョーカーが!!
ああ、なんていいタイミングで戻ってくるのぉ~。

「奥様のご所望通りに出来ました」

私は…ジョーカーの後ろにいる、全身フードを被った男を見て、

「素晴らしいわ…やっぱりジョーカーに頼んで正解ね」

「恐縮です…というワケで、早速よろしいですか?」

おお、仕事が早い~。
何やら…フードの男がジョーカーに耳打ちしている。

ジョーカーは私を困らせていた3人を指さして、

「そいつらは…全員ラディルス達の仲間ですよ」

と。

「あら、そうなの?」

「ええ。
ラディルスのギルド自体は…少数精鋭ゆえに、下請けをいくつか持っているんです。
そのうちの一つ…ネルェクのギルドの人間ですよ」

「どんな役目?」

「陽動作戦…が多いですね。
主に大衆心理を利用して、相手を追い詰めることを得意とします」

なるほどね…私の推測とほぼ一致する。

「何を訳の分からないことを…」

「オレたちは…ただの一般庶民で…」

同様を見せず…サラッと言ってのけるのはさすがプロだが…。

「ネルェクのギルドの人間は…必ず体に刺青を入れるんですよ…。
大衆に混じるゆえ、一目でわかるように印を入れている。
その刺青は全員同じ故…服を脱がせてみれば、すぐにわかります」

ジョーカーだって、ガチプロだぞ、オイ。

「ちょっ!!私は女よ!!服を脱がせるなんて…」

いきなり顔を上げた女が何か言い出す。
噓泣きかい。
ジョーカーはフードの男とひそひそ。

「ああ、奥様…。その女は脱がせる必要ありませんよ。
その女の戸籍…ニーナで記録されていませんか」

「ええ、そうだけど…」

「ニーナというのは、その女の双子の妹です。
その女に子供はいません。
双子の妹は堅気で…現在夫と子供と暮らしています…。
その女が申告した住所に人をやってください。
よく…双子の妹の戸籍を流用するようですので」

ああ、やっぱり…。頼りになるなぁ…。

「わかったわ。それじゃ…」

私が言い出したのとほぼ同時に…、女が一目散に走り出した。
あーあ、やっぱり下っ端か。

「確保っ!!」

私の声に一番に反応したのは、やっぱりジョーカーだった。
腕に隠していた小刀を即座に投げ、女の足にクリーンヒット。

逃げた先にいた騎士に、即座確保された。
男2人は…騎士に囲まれ、違うと言い続けたが…まあ、刺青を見つけられ、3人仲良く
御用となった。

女は…人をやって調べた結果、ジョーカーの言う通りだった。

それを伝書鳩で知らせた時点で…すぐにギリアムが帰宅してきた。
まあ…由々しき事態だと判断しての事だ。
正直助かった。
やっぱり罪人の処罰については…、私じゃなくてギリアムにやってもらいたい。

3人に対する処罰は…殆ど見せしめのようなものだった。
防寒具を一切つけず、門前でやった罪…ファルメニウス公爵家への不当な利益搾取と
慈善活動の強要の罪で、晒しものだってさ。
冬だから…そのまま凍死もありうるな。

「ま、待って下さい!!私たちは末端なんです!!」

「そうです!!ただ命令されて、従っただけで!!」

こう言えば、ギリアムは見逃してくれると思ってるなら…甘すぎる!!
ギリアムが末端ではなく頭を潰すのは有名な話だが…末端に何も罪を償わせないか…と
言ったらそれは違うからさ。

「だろうね…」

ギリアム…笑顔が怖い。

「ちなみに…これに見覚えはあるな?」

ギリアムが袋の中から取り出したのは…人間の生首だった。

「ひっ…」

3人が怯えたのは…それがよく知った人間だったからだろう。
それは…己のギルドの…マスターである、ネルェクの首だった。

「ああ、まだあるぞ…」

ギリアムが門前に並べた首…それは、ラディルスのギルドの下請けの…ギルドマスターの
首だった。
フィリー軍団が今日不在だったのは…これなんだよね。
ジョーカー以外は…そっちに回ってもらったんだ。
早々と解決するかはわからなかったから、ジョーカーに面通し出来る人間を準備してもらう
こともしたんだけど…。

ギリアムは…殲滅すると決めたら…やっぱり早いってことか…。

結局3人は…見逃されることなく、王立騎士団にしょっ引かれた。
今までずっと罪を犯してきたのだから…当然覚悟はできていただろう。
出来ていなかったのなら、本気で救いようが無いから、知らん。

門前にこれ見よがしに…並べられた、ギルドマスターの首が晒された、翌日…。

点呼を取ったら、何人か…消えていたんだよね。
やっぱりあの3人以外も…ネズミが入り込んでいたみたい。

一般大衆から徐々に…ファルメニウス公爵家を責めるつもりだったのかな。
まあ、未然に防げたのは…やっぱりフィリー軍団のおかげだな。

みんなをたっぷり褒めてあげなきゃ…。
アジトに向かえば、みんなと…あのフードの男が。

「……ご苦労だったわね、このお礼はいずれしっかりさせてもらうわ」

私の言葉に…、

「いえいえ…アナタに借りを作れる機会など、滅多にないですからね」

フードを取りつつ、笑う…。
その正体は…イシュロだ。

「わしはどうしても…数年離れていましてからな…。
現役でやっていた奴の方が、詳しいと思って、連れてきて正解です」

ジョーカーに頼んでいたんだ…今の連中の顔をより知っている奴を、連れてきてもらうよう。

ひとまず…私はイシュロとみんなによ~く、お礼をした…。
ラディルスのギルド本隊は残っているんだから、気は抜けない。
気を引き締めなきゃ…。
私は決意を新たに、みんなと英気を養った。
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