ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第2章 火事

8 不穏な影

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その日、私は…本宅の自室にある、風呂に入っていた。
考え事をするには、風呂が一番!!だからね。

私は…湯船の端に頭をもたげるようにし、天井を見上げる。

そもそもラディルス達は…自身の身内の無念を晴らすのが目的…。
ゆえに…諦めるとは到底思えない。
でも…優秀だからこそ、どんどん自分たちが追い詰められていること、わかっているハズ。

ダメだ。

次の一手が…読めない。
避難民はどんどん出て行っているけど…、まだまだそれなりに人数がいるから、全部出ていく
までには、しばらくかかる。

そうなると…う~ん。

考えがまとまらないなぁ…と、私は少し…お湯に顎までつけて、頭を働かせようとした…。
でもその時…ふと…。

あれ…?

何だか…いつもと違う違和感を感じた…。

浴室の窓…一番向こうのやつ…開いてたっけ…?
…………………………………。
その考えに至った時、

「ジェードぉぉっっ!!!!」

私は思わず叫んだ。

「どうしました!!奥様!!」

浴室のすぐ外にいたジェードが、私のそばに…。
心底ほっとした…。

「特に変わりはなかった?」

私が聞けば、

「ええ…特に何も…」

ジェードの答えに…私はまた少し思案する。

「ひとまず出てから話すわ」

「わかりました」

私はすぐに湯船から出て、簡単に体を拭き、バスローブを羽織った。

浴室はそのままの状態を保つこと、外も含めて立ち入り禁止…と使用人に通達し、私は
急ぎ、服を着る。
そして、フォルトとエマ…フィリー軍団を招集する。

改めて…開いていた窓を詳しく調査した結果、

「確かに…外から誰かが開けたようですね」

みんなの見解はほぼ、一致した。

「やっぱり…」

風呂場…3階なんだけどね…。

「ジェードは…何か感じなかったのか?」

フォルト…少し責めるような口調だ…。
顔険しいし…。

「位置的に…オレの感じられる範囲の、ギリギリ外ですね…」

風呂場…無駄に広いからなぁ…。

「奥様も奥様です!!使用人を連れてお入りください!!」

私にもフォルトのお叱りが…。
うえ~ん。

「ごめーん。
考え事したかったから、全員下がってもらってたの」

その方が、集中できるから。

「これからは…ちゃんと浴室に入ってもらうわ。
あ、ジェードも入って、念のため」

「わかりました、奥様」

これには…フィリー軍団のみんなが、かなりぎょっとして、

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、奥様!!!
ジェードは男ですよ!!」

特にスペードが即、食いついてきた。

「別に…湯船に一緒につかるわけでもあるまいし…。
ジェードは眼が見えないから、今までも入ってもらったりしてたの。
気配にすっごい敏感だし、強いしで、まさに最適だったのよね」

私の言葉を聞いていたジェードは…大層ご満悦そうに笑っている。

「え~、奥様!!これからはハートがやりますぅ~!!」

不服そうな声を上げ、横から出てきた。

「あはは、もちろん今後、お願いするつもりよ」

「今からやります!!
ベッドの中にだって、はいりますよ!!」

なんだか…前世の経験上、ちと妙なものを感じざるを得ない…。

「まあそれも…いずれ…ね」

だから、濁す。

「わー、約束ですよ、奥様!!」

嬉しそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねてるね。

「だったら!!オレも目隠しして、奥様のそばにいます!!」

クローバが物凄く自信たっぷりな目をして、挙手しやがった…。

「オレ、暗闇で戦うのだって、上手いですよ」

まあ確かに…真っ暗闇でジェードと戦って…引けを取らなかったのは確かだけど…。
そして私は、今更裸体を男の目に触れさせることぐらい、どってこたぁない。
しかし…。

「ジェード以外の、男はダメだ!!」

帰ってきてから、ギリアムに話したら、あっさりと拒否された。

「え~、何でですかぁ?
見たりしませんよ!!」

クローバが食いついているが、

「見える可能性がある限り、ダメだ!!」

ギリアムの鉄壁要塞は崩れない。
結局、許可は出ませんでした…と。

「ところで…フィリーの風呂を覗いたという、不届き者は捕えたのか?」

机に座って、両手を顔の前で組んで…目が…さっきより厳しい…。

「捕まえていません。
そもそも…気づいた時には、影も形も無くて…」

ジェードが報告する。
そうなんだよ…。
本当に一体…何がしたいんだ?
そもそもファルメニウス公爵家の、私の風呂場なんて、警備がいるのも当たり前だし、
風呂の中にだって…。
今日は下がってもらったけど、メイドが何人か必ずいるぞ。

結局、警備を強化するしかない…という、何とも歯がゆい結論しか出ず、その日はお開きになった。

そして…フィリー軍団のみんなは、宿舎へと戻っていたのだが…。

「何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったらどうだ?」

ジェードは眼が見えないが…人の感情を感じ取る…。
そしてそれは、非常に正確。
スペードが…ずっと自分を睨んでいるのが、分かったのだろう。

最近スペードは…ファルメニウス公爵家では、本当に仮面を被らなくなったし、
表情豊かになった…。
それはいい事なんだけどね…。

スペードが怒っている理由は…言わずもがな、私の浴室にジェードが入ると言ったことだ。

「お前なぁ…いくら何でも、節度ってもんがあるだろうが!!
奥様は女性だぞ!!」

まあ普通…女性の浴室に男が入る…ってなるとね…。

「奥様の浴室に入るのは、ご当主様のご命令でもあったんだ。
だから、オレに文句を言うな」

と言いつつも、かなりのにやけ顔なもんだから、

「うるっせーよ!!喜んでるようにしか見えんわ!!」

余計スペードの癪に障ったようだ。

「何とでも言え。
オレは眼が見えないから、ずっとそばに付ける護衛としては、最適と判断されたんだ。
着替えだろうが、風呂だろうが、オレは見えないからな」

不敵な笑顔のまま、

「ご当主様は心の広い方だが、それと同じくらい…奥様に対する独占欲が強い。
本当は奥様が他の男に触れられるどころか、見られることさえよく思っていないんだ。
奥様はそのことをよくわかってらっしゃるから、大分…ご当主様を説得して、その質を
抑えてらっしゃる」

饒舌に語るジェード。
腕を大きく開き、まるで…挑発しているようだ。

「だから…お前らが仲間になった今も、オレを一番重宝しているのさ。
事実、今日はばらけて使用人を各自で見張る任務だったが、自分の護衛として残したのは
オレだったろう?」

そこまで言ったら、あえてスペードの方を向き、

「どうだ?スペード」

「な、なんだよ?」

にーっこりと、再度笑う。

「目が見えないってのも…、便利なもんだろ?」

茶化す様に言う。

「ふっざけんな、テメェ…」

歯噛みして悔しがっているスペードの横から、

「まあ…、眼が全く見えず、お前さんほどになれる者も、まれだがの」

ちょっとため息交じりに、ジョーカーが出てきた。

「爺さんにそう言われると、嬉しいねぇ」

本心だろう、ケラケラと愉快気だ。

「ま、とにかくそういうこった。
何か文句があるなら、奥様かご当主様に言ったらどうだ?」

やっぱり挑発しているようだ…。
普段だったら、そんな挑発に乗らないのだろうが…。

「ぜってーテメェより、役に立つって、証明してやる!!」

スペードが宣戦布告…。
というか、一方的に突っかかっているというか…。

結局、クローバに引きずられる形で、スペードはこの日、自室に戻っていった…。
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