ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

文字の大きさ
22 / 44
第2章 火事

11 災害現場での行動

しおりを挟む
私は…今日は朝から、馬車に揺られて市街地へと向かっている。
目的は、大火災の被災地の慰問なんだけど…私の私兵に不満を持っている、例の5人には
伝えていない。
もともとの予定を把握していると…、驚くだろうから、一つ見ものだなぁと思っている。

「着きましたよ、奥様…」

スペードのエスコートで降りた場所…。
そこは…急ピッチで作られた仮設住宅だった。
今日はここの人たちから話を聞くのと…、その後にこの近くにあるスラムっぽい所の
状況を見る予定だ。

「あ、あの…奥様…。
失礼ですが、場所をお間違いでは…」

言ってきたのは、ハリスだった。

「ああ、私についたのは急遽…だったから、連絡が行き届かなかったみたいね。
今日のゼッフェスのブティックに行く予定は取りやめよ。
被災者たちの救援が、最重要事項だからね」

ゼッフェスのブティックは、王都の3大ブティックの1つで、大抵の上位貴族の御用達となっている。
婦人服ももちろんだが、紳士服や子供服、装飾品、小物、靴などすべてが揃っており、オーダーメイドは
もとより、既製品であっても、間違いなく羨望の目で見られること間違いなしだ。

「し、しかし…そうなりますと、近々行われる、ビルフォネラル公爵家での舞踏会に着ていく
ドレスはいかがするのですか?
あの家は特に格式を重んじるゆえ…、しっかりしたものを…」

今度はムガルか…。

「あ、その舞踏会ね。
最初は確かに出席する予定だったけど…、先日ギリアム共々、欠席って返事をしたわ」

「ええ!!そ、それはマズいのでは?」

「なんで?そもそも私…というより、ギリアムの決定よ。
焼け出されて苦しんでいる人たちが多数いるのに、煌びやかなパーティーなんて、出てられるか…ってね。
私も自粛するべきだと思ったから、丁度良かったわ」

かなーりしっかりとした、笑顔で言う。
本心だしね。

「し、しかし…公爵家のパーティーを直前で欠席は、さすがに…」

「何もなければ、欠席するつもりはなかったわよ。
そもそも、今回の理由で欠席することにブツブツ言う家だったら、ギリアムも私も付き合い方を考える
いい機会になると思うからね」

余談だが…ビルフォネラル公爵家は、あれからルビディス公爵がまた当主になったそうな。
ピビュレオとルニヴィアは…謹慎処分含め、借金を自分たちの力で返し終わるまで、一切近づかせない
…ということで、辺境の城に送られたそう。
え?あとつぎ?
ん~、孫がいるらしくて…ルビディス公爵が生きているうちに、孫が成人すれば、そっちに譲るとさ。
まあ…詳しくは知らんし、介入する気もない。

さて…なーんか、私兵に文句を言ってきた全員が、青くなってるね…。

これが…テストだってこと、気づいたかな…。

そもそも今回、ゼッフェスのブティックに行ってみる事にしたのは、バカ王女の誕生パーティー対策
だったんだよ。
最近オーダーメイドしたのって、どうしても民間の店で作った物だったからさ。
一応…注文するしないはさておき、既製品なりオーダーメイドなり、最新の流行を備えた、超一流
ブランドのモノを、見ておかなきゃって思ってさ。

でもさぁ…今回の大火事で、バカ王女のパーティー…自粛のため中止だとさぁ~。
全く…本当にバカだねぇ…。
ちゃんと庭園開放していれば…、中止までは言い渡されなかったろーに。
中止を聞いたギリアム…ここ最近でいっちゃん喜んでた。
未だに纏わりついてくるから、本当に鬱陶しがっているからねぇ。
つまりもう、ゼッフェスのブティックには、しばらく用はないということ。

「じゃあ…今日のお仕事を始めましょうか」

私のその言葉を合図に…色々諸々始まった。
まず被災者の状況を確認し、仮設住宅での不安や不備が無いか…。
雪が降った時の対策や、避難経路の確認。
特にトラブルシューティングには、力を入れた。
どうしても住み慣れた場所が無くなり、不安が強くなると、一定数荒れる人間は出るものだ。
そういった人間達と、周囲の苦情を聞き取り、調査し、場合によっては双方の和解のために
行動する。

あ、すべてボランティアです。
まあ、護衛騎士とメイドは、お給料もらっているから、無給ってわけじゃないけど、もちろん
特別手当なんて出ない。

フィリー軍団は…非常に真面目に…真摯に対応してくれた。
もともとが最底辺にいた人間だし、交渉事は出来なきゃ生きてこれなかったし、多少の暴言や
暴力にムッと来ることもない。
ただし、火事場泥棒的な甘えを見せる人間には、毅然とした態度で接して、絶対譲らなかった。
取り立てて、私が非常に助かったのは…。

「いましたよ、奥様…」

焼け出された孤児や…どうしたらいいのかわからず、街角の影で埋もれるように暮らす子供を
見つけるのが、とってもうまい。
大人を怖がって、隠れちゃう子もいるからさぁ。
なかなか見つけようと思っても、見つからない事がある。

「ありがと~、施設の手配するわね。
もし、親がいて探しているなら、早く見つけてあげないとね」

フィリアム商会の職員も一緒に来ているから、その人たちに手配はお願いする。

「でも、助かるわ~。みんな、見つけるのが上手くて…」

「いや~、オレたち、そういう子供でしたから。
だいたいどこに隠れているかとか、勘でわかるんですよ」

そんな感じで和気あいあい。

一方、一緒に来た5人はと言うと…。
見事にわかりやすく、疲れ果てていた…。

ま、覚悟して来たって、お貴族様にゃ辛い場所だし、仕事だ。
こいつ等からすれば、今日はブティックで優雅に試着する私の横で…おべっか言ってりゃいいと
思ってたんだろうからなぁ。
甘えよ!!
一桁の歳の頃から、大人に混じって一日中働いていた、ド庶民の私からすれば、まだ楽な方だよ、
今日のことは。

というワケで、昼食の時間(30分ほど)以外は、全て避難民の為に奔走することで、今日1日は
終りを告げたのだった。

ファルメニウス公爵家に帰ってきた私は、フォルトとエマに、今日のことを報告した。
そして…。

「避難民の様子は?」

「仮設住宅が急ピッチで建築されている事に伴い…、続々とこの家を出ています。
当初の半分ほどになりました」

「なるほどね…ラディルス達も、そろそろ潜むのがキツくなってきているだろうな…」

私は少し考えつつ、

「これからの彼らの動き…どうなると思う?」

ジョーカーに聞けば、

「そうですね…。黙って撤退するか、それともイタチの最後っ屁を繰り出すかの、どちらかでしょうな」

「何をやるかな…?」

「さあ…わかりません。
ラディルスの所は、危険を顧みないので…結構激しいこともしてくるかと…」

そーなんだよね…。

内部に潜んでいる以上、なかなか見つけられない。
ファルメニウス公爵家の敷地…広大過ぎるし。

仕掛けだって…しようと思えば、できるだろうし…。

私が唸っていると、

「おねーちゃーん!!」

お久しぶりのギルディスが…。

「ボクまだ、お外に出ちゃ、いけないの~」

……石牢にいた時の事、思い出しているのかな…?
何だか不満げな目をして、私を見てくる。

「ごめんね…。お外に人が…いっぱいいるの見えるよね?
あの人たちがいなくなるまで、お外に出ないでね」

私は…ギルディスの頭を撫でながら、思いをはせる。
ギルディスがいたのは…ジョノァドの屋敷だ。
だから…多くの人目には…まだ晒したくない。
せめて、もう少し知識がつくまで。
自分の判断で、自分の事が決められるようになるまで…。

できるだけ遊んであげたいのだが、私もギリアムも…火災のせいで一気に多忙になってしまった。
もちろんフィリー軍団もだ。
力が強いだけに、他の人間とはあまり遊ばせたくないし、ギルディスも…私たちの方にばかり
くるからね。

「でもお外…なんか変な感じがするから、お姉ちゃんが心配…」

ギルディスが…何かを感じ取っているようだ。
侵入者が入り込んでいるの…わかるのかな…。

「大丈夫よ…フィリー軍団の皆も、ギリアムもいるし…お屋敷の皆だって、いるから…」

「そうなの?」

「そうよ。だから…全部終わるまで、ギルディスもいい子にしていて…。
全部終わったら…いーっぱい、遊んであげるから」

「うん…」

何だか…やっぱりいつもと調子が違う。
私は、ギルディスの頭を撫でつつ、思案する。

この前…敵が私の風呂場に侵入しようとした事。
私の命?身?を狙った…。何のために?
ただ…ファルメニウス公爵夫人である以上、常に暗殺は付き物だ。

証拠品の保管してある建物に侵入しようとした事。
王家に頼まれた?
今まで…一切アクションが無かったのに?
水面下で…動いていたのか?

過去の私兵の事…。
ラディルス達の目的は…まずこれだろう…。
だから…探すものは、書庫とか記録庫…でも、解放した場所にはそんなものないし、そもそも
探し当てたとして、ちょっとやそっとじゃ中に入れないようにしてある。
鍵だって、普通のじゃないし。

ギリアムが話してくれた、過去の奇妙な事と悲劇…。
これは…そもそも関係しているかどうかすら、謎。
でも…シュレンソとライラの死が関わっているから、関係ないとは言い切れない。

ダメだ…。

一貫性が無さすぎて、繋がらない。
複数の依頼を…同時に受けている…は、あり得るけど。
でも…相手はファルメニウス公爵家なんだぞ。

1つの目的の為に…一丸となっても、目的を達成できるかわからないってのに…。

第一、これら全部をラディルス達が行っている…かどうかも、分からない。
今のファルメニウス公爵家は…普段と比べて、かなり侵入者が入りやすい状況になっているから。
便乗犯が出ても、おかしくない…。

脳みそが…プスプスと音を立てる。

「お姉ちゃん?」

ギルディスが心配そうに、私の顔をのぞき込んでいた。

「大丈夫よ、大丈夫…」

私は…まるで自分に言い聞かせるように、いつまでもギルディスの頭を…撫でた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...