ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第2章 火事

12 スペードの再戦

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「いったい、何事だ!!状況を説明しろ!!」

ギリアムの怒号が…ファルメニウス公爵家の庭に響き渡る。
それもそのはずだ…。
所々から火の手が上がり、火に対して恐怖心が強くなっている避難民たちは、
もう、パニックになって庭どころか、屋敷の中まで入り込んで、縦横無尽に動き回って
いる…。

「ギリアム!!どうなっているんですか!!」

私は…今日、フィリアム商会と避難所の梯子をしていた。
ここの所、日課となっていたので、朝から出かけていたのだ。
ギリアムも…今日は普通に王立騎士団で勤務があったため、私とほぼ同時に出かけていた。

もちろん…知らせを聞いて、私もギリアムも急遽、戻ってきたのだ。

「お二人が外出されてから…、暫くして、また…例の建物に人が侵入しようとしたようだと、
報告を受けまして…、私が確認をしている時…、このような事態に…。
申し訳ございません!!」

フォルトがスッゴイ詫びてくれたが、

「今は、避難民を落ち着かせて、保護するのが最優先だ!!
とにかく全員、手を動かせぇっ―――――――――――――っ!!」

王立騎士団からも応援が来たようで、皆で避難民を集めたり、パニックを起こした人を、
隔離及び落ち着かせる作業に取り掛かった…。
しかし、ほんの少し前に火に巻かれ、火によって全てを失った人たちの心の傷は、当然深く、
ちょっとやそっとでは、落ち着いてくれない。

しかし…やるしかない!!

私がフィリアム商会から連れてきた応援も加わって、騒然としながらも、何とか…形になりつつ
あった…。

そのころ証拠品のある建物では…。

「この建物なんだな?」

「そうよ…。侵入してみて、見張りが厳重になったのは…この建物だけ。
もし資料が入っていなくても…、重要なものがしまってあるはずだから、手に入れれば交渉に
使えると思う…」

そう言って部屋に入っていくと…、

「!!?」

部屋は…見事に何もなかった。

「どういう事だ!!」

ラディルスが2人に叫ぶが、

「よく見て!!あの壁…仕掛け扉よ」

「確かか?」

「ええ、マスタ―…、わずかに凹凸があります」

レグザクが…壁を確認する。

見つけるとはさすがだね…。
そうさ。
大事なものを……鍵1つで入り込めるような所に、置くと思うかい?
仮にも武のファルメニウス。
外敵への備えは、万全だぞ。

「開けられそうか?」

「難しいですね…こういう類のものは、鍵とはわけが違う…」

その通り。
ウリュジェとフューロットが…開けられるのは、彼らが貴族の家専門の泥棒だからさ。
大抵のお宝を、仕掛け扉の中にしまっているヤツラ、多いからね。

ラディルスは一瞬だけ下を向き、考えたが、

「わかった…今回はここまでだ!!撤退する!!」

苦渋の決断…だろうね。
顔が歪んでる。

「嫌だ!!オレが開ける!!」

「やめろ、シェッツ!!
こういうタイプの物は、専用のヤツを連れてこないと無理だ!!」

「嫌だ…せっかくここまで来て…嫌だ…」

ブツブツ言っているシェッツをよそに、

「庭園公開時期になれば、平民に混じって入り込むことは出来る。
…今度はじっくりと対策を練ってくればいい。
捕まったら、元も子もない」

「はい、マスター!!」

シェッツ以外は、大変いい返事をして、撤退を開始したのだが…。

「シェッツ!!とにかく行くぞ!!」

シュケインの声に反応しているのか、いないのか…。

「開けられないなら…奴らに開けさせればいい…」

その言葉と共に…己の服を脱ぎ捨て…何やら液体を振りかけた…。
直ぐに服から煙が上がったと思ったら…それはすぐに着火し、火の手が上がる。

「お前は!!本当に何やってんだ!!」

シュケインがシェッツをぶん殴り、背負おうとするのだが…、

「オレは…証拠をつかむまで、帰らない!!」

かなりジタバタして、収集がつかない。

「本当にお前、どうしたんだ!!」

その間も火の手は瞬く間に大きくなり…、

「報告!!火事があちらの建物からも!!」

王立騎士団員の報告により、証拠品の建物から火の手が上がっているのが、確認できた。

「ギリアム!!おそらく…」

「ああ、フィリー…やっぱり行くのか?」

「行きたいです!!」

「わかった…私から離れるな!!」

「はい!!」

師団長たちに、その場の指揮を任せ、私とギリアム…フィリー軍団、フォルト・ラルトが現場に
向かう。

私たちがついた時…ちょうどジタバタするシェッツを抱えたシュケインが、ラディルス達の後を
追いながら、その場を去ろうとするところだった。

ギリアムは…弓…と言うか槍で、ラディルス達を襲うのかと思いきや…。
振りかぶって投げた槍は、ラディルス達が出てきた、建物に刺さった。
建物から追い立てるがごとく…1本2本3本…と。

そして建物から、ラディルス達が離れたら、中の日を消す為だろう…。
いくつもの水の入ったワイン樽を…ギリアムが的確に投げ入れた。
おかげで中の火は、直ぐに消える。

「全員聞けぇ――――――――――――っ!!」

ギリアムのその時の声は…咆哮だが、耳に不快ではない…。
どこまでも透き通り、空気をより振動させ、出来るだけ遠くまで…声の波動を届けるためのものの
ように思えた。

「曲者6名が邸宅に入り込んだ!!男4人、女2人!!他にもいる可能性あり!!
これより厳戒態勢を敷く!!
正門及び裏門はすべて封鎖!!
臨戦態勢を取れ――――――――――――――っ!!
歯向かうものは、全て拘束してかまわ―――――――――――――――――んっ!!」

拡声器ってレベルじゃないな…。
巨大な野外コンサート会場の…アンプみたいだ…。

ギリアムの声に答えるように…歓声と言うか…咆哮が上がる。
避難民は、落ち着かせることさえできれば、後はフィリアム商会の人たちに任せられる。
王立騎士団員達は…だいぶ手が空いたみたいだ。
これで…逃げ道は塞いだ。

「シュケイン!!レグザク!!
オレがしんがりを務めるから、まっすぐ走れ!!」

ラディルスが叫ぶが…遅いよ!!

「そうはいくかっての!!」

フィリー軍団はすでに…アンタたちを囲い込んでいるから。

シュケインにダイヤが、レグザクにクローバが、女2人にはハートとジョーカーが…
それぞれ相対した。

シェッツは…ジェードに対応してもらう。

「よぉ…この間の借り…返しに来たぜぇ」

ラディルスには…借りを返したいであろう、スペードが対する。
今回はしっかりと…仕込み杖を携えて。

「……すっかり元気に、なったようだな…」

ラディルスの皮肉に、

「当たり前だろ?
ファルメニウス公爵家の医療は最高クラスだぜ。
飯もうまいし、休息もしっかりとらせてもらえるんだから、元気にならない方がおかしいだろうが」

ファルメニウス公爵家への賛辞で、真っ向から返した。

するとラディルスは歯を食いしばりながら、

「あれだけ外見が瓜二つのくせに…なぜ父子でこうも性格が違うんだ…」

と。

それを最後に…お互いが言葉を発することは止めたようだ。

自然と構えを取り…武器を手に睨み合う。

ジョーカーの話では…ラディルスはかなり多彩な武器を扱えるという。
まあ、ジョーカーもそうだけど…その場その場で使える武器を、使いこなさないと、生きてこれない
生活をしているんだろう。

この時ラディルスが持っていたのは…小太刀サイズの剣2本…。
それ以外にも…暗器を多数隠しているだろうことは、容易に想像がついた。
スペードは…仕込み杖を最初から抜き、その刀身を露にした。

そして…。

2人の地面にあった草が、音もなく揺れる…。
一瞬の鍔迫り合いの…音が響いた時…。

「うおっ!!」

ラディルスの剣の一本が…根元から折れた…。
いや……切られた!!

スペードの攻撃は…緩むことは無い。
仕込み杖の切っ先が、ラディルスに迫る。
ラディルスは、その切っ先を残りの小太刀で受けようとしたが…。
残りの小太刀も、その性能を発揮する間もなく…、切られた…。

そしてラディルスの横をスペードが通り過ぎ…また踵を返してラディルスの方を向いた時…、
ラディルスは持っていた隠し武器に、持ち替えていたのだが…。

乾いた…弾ける音と共に…。

ラディルスの武器は、砕け、その場に散逸した…。
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