ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第3章 正体

1 いったい誰が…

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「これで…テメェの武器は、全て破壊したぜ」

スペードが改めて、仕込み杖を構える…。
ラディルスも…流石と言えばさすがだが、己に何が起こったのか…予測も含めて理解した
ようだ…。

「その武器…あの時は無かったな…」

その顔は…驚愕も含むが、どこか諦めに似た笑いがこびりついていた。

「まあな…、王立騎士団員を救うために、置いてきちまったからなぁ」

その声と共に、再度スペードが仕掛けた時…ラディルスの体が地面に崩れ落ちた。

「安心しろ…殺しちゃいない」

みねうち…か。
……そんなの教えていないのに、仕込み杖が片刃だったから、自分で編み出したんだ…。
やっぱ、すげぇ。

そんな感じで…ラディルス達はお縄になったんだけど…。
縛られるとほぼ同時に、ラディルスは眼を覚ました。
他のギルド員達は…気絶して無かったから、そもそも目を開けている。

「ぐぁっ!!」

そんな中、ギリアムの前に引き出されたのは……シェッツだった。

「さて…それでは…断罪を始めるか…」

ギリアムの声は静かで…とても暗い…。
その顔には、深淵の帳が降り…表情が読めない…。

シェッツは…縛られていなかった。
ジェードが、

「ご当主様…コイツは…」

何か言おうとしたが、

「何もせんで構わん。
コイツだけは…完膚なきまでに叩き潰さねばいかんからな」

ギリアムの目が…ジェードにそれ以上の事を、言わせなかった。

「おい、ちょっと待て!!
そいつは…下っ端なんだ!!
お前の主義は…上を叩くことなんじゃないのか!!」

ラディルスが吐いた言葉は…悲痛を極めているが…。

「だからだ」

ギリアムの…深淵の色は変わらない。

「そもそも…今回の一連の事…端を発している原因となったのは…すべてコイツの
罪から始まっている…」

シェッツを指さすと、

「なあ…優しいおじちゃんの…僕よ」

少し微笑んだような…なんとも言えない顔を向ける。
シェッツは何を思っているのか…叩きつけられた地面に、突っ伏したままだ。

「そもそも今回の騒動…私を悩ませたのは、お前たちの行動に、あまりに一貫性が無かったからだ」

やっぱり…ギリアムもそこを気にしていたか…。

「最初…明らかにシュレンソとライラの件…それを白日の下に晒したい…。
そんな思いをヒシヒシと感じた…。
だから、包み隠さず公表したのだが…、それが違うと言うじゃないか」

「私だって書類を見ただけだったら、誰かの改ざんを疑ったかもしれんが…。
私が直接検死に立ち会ったのだ…。状態を実際見ている以上、間違っているのはお前たちの方…」

するとラディルスが、

「それ自体が…まず信じられん…。
検死って…いくつの時だよ」

「12歳だ」

「12の子供に、やらせるか?そんな事…」

「父には…およそ道徳精神などというものはない。
私は…ちょうど虎視眈々と、ジョノァドの悪事を暴きたくて…色々見たかったんだ。
勉強のため…と言ったら、すんなり許可が出た」

「いかれてやがる」

「その意見には賛成しよう」

無表情な会話…でも、凍えそうになるのはなぜだろう…。

「話が脱線したから戻すが…、今回お前たちは、依頼と言うより、己の私怨で動いている。
そんなお前たちが…火事に乗じて入ってこないはずはない。
だから…書庫のダミーまで用意して、証拠をつかもうとしたが…なかなかしっぽを出さなかった」

「それどころか…フィリーを襲おうとするなど、不可解な行動が目立った」

「はあ?ちょっと待て!!どういう事だそれは!!」

ラディルス…本当に驚愕してる。
……やっぱり。
私を…襲おうとしたのは、別のヤツ。

「そして…町の大火災…一通り調べたその焼け跡から…火付けをしたのがお前たちだと言う…
証拠が多数出てきた…」

「なに…」

「そして…目撃者もな」

ここでラディルスの顔が…驚愕から…諦めに変った。

「なるほど…」

「そうだよな…、お前としては、私兵の事実なんて…いくら自分がやったことじゃないとはいえ、
公表されたくないものだもんなぁ」

「これで全ては…闇の中…か」

諦めの色に…嘲笑を込め、

「やっぱり…テメェは父親とそっくりだ」

ラディルスがはき捨てる。
ギリアムは…それに対して、全く反応を示さず、

「まあ…この一連の事実をもってして…」

勝手に話を進める。

「私は火付けも、フィリーを襲ったのも…キミらでは ない!! と判断した」

「へ?」

これは…本当に予想外だったよう。
ラディルスが…いや、ラディルス達全員が、呆けた。

「フィリーを襲ったほうはまだしも、火付けに関しては…キミらだという証拠がありすぎるんだ」

「……」

「フィリー軍団は優秀でね…。その彼らが、キミらを一流と称した。
そんなキミらが私怨であれ、仕事であれ…火付けをやるなら、もっとうまくやるはずだ。
わかりやすい証拠など、一切残すまい…。
ほんのかすかに…ともすれば見逃してもおかしくない…そんなものしか残すまいよ」

「だが…キミらはまず、スペードをさらい、さらに…私を監禁している。
そして…その場で自分たちの目的が、強い私怨から来ていることも示している。
私でなければ…キミらが私怨から、ファルメニウス公爵家に入り込むために、火付けを行った…。
そう解釈しても、何らおかしくない」

「さて…じゃあ、ここからは。
火付けの罪を、キミらに被せようとした人間は、何を考えていたか?」

「キミらは…火事でファルメニウス公爵家が庭園を開放すれば、これ幸いに入らないわけがない。
事実、他ギルドの協力も取り付け、入り込んできた。
そんな最中で…フィリーが襲われれば、キミらの仕業だと皆が疑うだろうし、警備も強化される。
つまり…キミらはより袋のネズミとなるわけだ」

そこまで言えば…さすがに一流どころ…

「つまり…オレらへの私怨で…動いていた奴がいる…と」

分かったようだ。

「そうだ。
ついでに言えば、火付けの処刑は、例外なく火刑となっている。
処刑の中で…最も苦しむ死に方だ」

「さて…心当たりは?」

ギリアムのこの言葉に、ラディルスは大笑いし、

「聞いてるだろ?オレらは…危険な仕事ばかり、請け負ってきた…って」

「オレらを…最も苦しむ方法で殺したいと願う奴なんざ…」

「心当たりがありすぎて、誰だかわからん」

笑い続けるラディルスに、ギリアムは…少し首をひねり、

「そうなのか?
実は、今回の事を計画した奴と、シュレンソとライラを殺した人間は…同一人物なんだがな」

「え…」

これは本当に意表を突かれたようだ。
目の焦点が…一瞬ぼやけた。

「つ、つまり、先代の頃からの因縁…私怨だと?」

レグザクが…言葉を止めたラディルスの代わりに、出てきた。

「まあ…私の憶測も入るが、恐らくそうだ。
しかし…貴様たち自身の罪が、帳消しになるわけじゃない」

「そ、それはわかっているが!!そいつの正体がわかっているなら、せめて教えてくれ!!」

まあ、そうなるよね。
ギリアムは…口の端を少し持ち上げ、

「ただでは教えられん。私が倒したい敵を倒すのに…、協力してくれたら、教えよう」

「だ、誰だ…」

「ジョノァド・スタリュイヴェ侯爵…」

この名前を言った時…やっぱり全員がひきつった。
一流どころ程…やっぱり奴の恐ろしさは、わかるんだなぁ。

「ああ、そうそう。
もしジョノァドを捕えて、叩き潰すのに協力してくれた…と、私が判断したら、
格別の計らいをしようではないか。
キミたちがファルメニウス公爵家にしたことに関しては、許してやってもいい。
何せ…あの男は、一刻も早く、この世から消えた方がいいんだからな。
本当に…この世にいるだけで迷惑千万だ!!
面倒くさいし、しょーもない事しかしないし、迷惑しかかけないし…」

ちょっと…芝居がかってきてる…。

「神というものが、この世にいるなら…是非問うてみたい。
なんであんな、この世に存在するだけで害悪にしかならないものを、作ったのか…?とね
ああ、さっさと天命を尽きさせて、さっさと持ち帰ってくれとも言いたいですね。
そうすれば…この世はとーっても、住みやすくて快適な場所になりますからね~」

……乗りに乗ってるなぁ。
本気で本当に思っている事だから、余計だろうなぁ。
私は…この時、ギリアムの足元にいる人間の空気が…変わってきたのを感じていた。
何だか…寒気?悪寒?恐怖?…その全てなんだろうか…。
ギリアムがいるところで…そんなものを感じたこと…あまりないんだけどなぁ…。

「ぐっ、ああああああああああああああ!!!」

凍てつく空気を…切り裂く咆哮…。まさに…獣…。

耳が痛てぇぇ!!
ギリアムが…おびき出したいって言っていた敵が…姿を現す…。
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