ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第3章 正体

2 バケモノ

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雄叫び…その表現がとても似合う…その咆哮を発したのは…。

シェッツだった。

「ひゃぁっ!!」

ギリアムが…私を掴んだかと思ったら、ジェードの方に放り投げた。

「フィリー軍団!!私の事は気にするな!!
フィリーから離れるな!!フィリーを守れ!!守り通せ!!
フォルト!!ラルト!!お前たちも一緒にだ!!
私の下す、最重要命令である!!」

「はい!!ギリアム様!!」

みんなの声は…ほとんど同時にハモった。
私は素直に、みんなの囲いの中に入った…。

ギリアムに後で聞いたんだけど…。
これって、出来れば使いたくない、諸刃の剣もいい所だったらしい…。
でも…こうしないと、正体を現してくれそうになかったから、使ったそうな…。

なにをしたか…一言で言えばさ。
熱狂的な信者に対し…、教祖をバカにして、存在を否定したってところ…。
それも…強力な武力を持つ、信者に対して…。

「オマエは!!おじちゃんを困らせるだけじゃなく!!
存在まで否定するのか!!」

シェッツの下半身が…大きく沈む。
その様はまるで…ネコ科の猛獣さながらだった。

「オマエが…死ね!!」

体一つで…ギリアムに突撃してきた。
ギリアムが拳で応酬しようとしたが、その拳を僅かに体を捻ってよけた…ように見えたんだ、
私には!!
でも…ギリアムの腕は…。

「ご当主様!!」

血を噴いた。
見ればシェッツの口に…ギリアムの服の切れ端が…。
嚙み切ったってこと…。
私は…初めてぞっとした。

「ちっ…、だから拘束しなくていいのか…って言ったんだ!!」

ジェードがかなり苦々しい声を発する。

「どういう事だよ、アイツ…下っ端だろ?」

クローバが聞けば、

「オレは眼が見えない…。
代わりに…眼あきには見えないものが、見える…。
その一つに…肉体から出る覇気みたいなものがある!!
それが強ければ強いほど、そいつは手練れなんだ」

ジェードが叫ぶように答えた。

「それで言うとな…あの6人の中で…」

シェッツを指し…、

「アイツが…一番強い!!」

「!!!!」

「そしてオレに捕まった時…ワザと自分の力を出さなかった…」

「な、何でそんな事…」

「知るか!!あいつに聞け!!」

そんな話を私たちがしている間にも…。
シェッツはギリアムとの間合いを、一気に詰めた。

ギリアムは強い…。
剣を持たず、肉体1つであったとしても…だ。

しかし…。

「ぐっ!!」

ギリアムの…もう片方の手から、血しぶきが上がる。
しかし…ギリアムの顔は、まだまだ余裕がある…。
まるで…。
シェッツがそうできて、当然…と言わんばかりに…。

「……やはり、精進はおこったっていないようだな…」

「当たり前じゃん…おじちゃんの為なら…ね」

かなり愉快そうに…シェッツは笑う。
だがその笑いは…暗黒に満ちた…何とも暗い…でも明るい…、どう表現してよいか、
わからない笑いだった。

「ちょっ、マジで強いじゃないですか、アイツ!!
何で今まで隠して…」

クローバが驚きながら叫んでいるから、

「……他の誰かのための…力だから…だと思う」

思わず口をはさんだ。

「あとは…指示されていたんじゃないかな…力をあまり出すなって…。
それは…自分の為だけに使え…って」

「だ、誰に!!」

「そんなの…決まっとるじゃろ!!ジョノァドじゃ!!」

ジョーカーの推測は正しいよ、多分…。

「ギリアムが、ハッキリとジョノァドを殺すって言ったからね…。
それで…出す気になったんだと思う…多分」

私は…ギリアムとシェッツの戦いから目を離さない…。
イヤでも拳に…力が入る…。

「貴様は…昔も今も、奴の優秀な私兵のようだな…」

「まあねぇ…それがオレの…唯一の生きる目的であり、道だから…」

シェッツはフォルトとラルトに一瞬だけ視線をやり、

「あの2人…やっぱり殺しておけばよかったかな…。
おじちゃんには、殺れたらでいい…無理はするなって言われていたから、一応
見逃したんだよね…。
間合いに絶対、入ってこなかったし…」

そこで一旦、何かを思い出したように、言葉を切り、

「ああ、違うなぁ。
オマエがオレの間合いに…あの2人を入らせなかったんだ」

これには…フォルトとラルトの2人が驚愕した…。
言うまでも無いけど。

「オマエってさぁ…あの当時から、おじちゃんを困らせてただけあって…。
勘が鋭いよなぁ~。
両親・家族・仲間でさえ、見抜けなかったオレの事…。
オマエは見抜いていたみたいだしぃ」

「当然だ…フォルトとラルトは、私の数少ない味方なんだ!!
殺されてたまるか!!」

そこでラルトが、思い出したように…

「それで父と私に…アイツが自分に何をやっても、近づくなと言ったのか…」

「な、何やったの?」

「ギリアム様に嫌がらせと言うか…最初はごみを投げつける程度だったのが、
エスカレートして、石になり…落とし穴の中に刃物があったり…。
ギリアム様は、私よりよっぽどそういうのに敏感だったから、全部避けられましたが…。
そうでなければ、シャレにならなかった…」

うっわ、最悪…子供のいたずらレベル超えてきてるぞ…。

「それで一度…きつく言ったら、優しいおじちゃんを困らせる、ギリアム様が悪いと言って、
やむどころか、ますます酷くなって…。
結局、ギリアム様の父君が亡くなって、ジョノァドがこの家を出ていくまで続きましたね」

……ラルト、かなり困り顔と言うか…呆れ顔と言うか…。

マジですかぁ?

「理由は言わなかったの?」

「聞いても…教えてくださいませんでした。
時が来たら、話すから今は聞くな…と」

まあ当然か…。
10歳そこそこの子供が暗殺者だって言って…、いったい何人の大人が信じるんだろう…。

「だいたいお前の体には…おびただしい量の血の匂いがこびりついていた。
すぐにわかった…お前は醜悪な殺人鬼だと!!」

ギリアムのその言葉に、シェッツは少し宙を見つめ、

「気が付いたの、お前だけだけどなぁ~。
お前にちょっかいかけるまでに…ちょーっと殺しすぎたかなぁ…。
おじちゃんが喜んでくれたからさぁ…。
ついつい殺っちゃったんだよなぁ…」

「ちょ、ちょっと待てシェッツ!!
お前には殺人なんて、させていないぞ!!今だって!!」

震える声で…シュケインが出てきた。
顔が…青いの通り越してるぞ。

「なら、お前たちに隠れてやっていたと言う事だ。
あれだけいびつな臭いがしたんだ…。
私に近づくまでに、ジョノァドに言われて、いったい何人殺したんだ?
一人二人ではあるまい」

すると空虚なシェッツの目に、いきなり光が灯り、

「56人!!」

私も顎が外れたよ…。
10歳そこそこだよ…ねぇ…。

「さっきから…何をいっているんだ、お前は!!」

ここで出てきたのは…シュケインだ。
震えて…信じられないものを見ているような…そんな目だ。

「シェッツはさらわれて、ファルメニウス公爵家に拉致されて…ずっと父さんと母さんを働かせる
ための、人質にされていたんだ!!
しかも…当時10歳だったシェッツに酷い拷問までして!!
お前の父親が亡くなった隙をついて、逃げてきた時のシェッツには…弟の体には、生々しい拷問の
傷が、くっきりとついていたんだ!!
血だって沢山にじんで…。
忘れるもんか!!」

今度はギリアムを見据え、

「一体今度は、弟に何をしたんだ!!
弟は…両親が死ぬまでも…死んでからも、汚れ仕事なんて一切手を付けさせてないんだ!!
こんな嘘をつかせるなんて…なんて…」

時として…人は受け入れがたい現実を…拒絶する。
確実に…そうだと言われても、否定することはままある。

だが…現実とはいつも残酷なものだ。

「シェッツ…もう、本当の事をしっかりと、自分の口から言ったらどうだ?
本当に実力を…ジョノァドの為の力を晒した以上、ここにいる全員を…生かしておくつもりは
ないのだろう?」

ギリアムの発した言葉が聞こえているのか、いないのか…。
シェッツは半分…空を見上げている。
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