27 / 44
第3章 正体
4 そしてそれから…
しおりを挟む
そして現在…ギリアムと対峙するシェッツ…。
「おじちゃんはさ…約束をちゃんと守ってくれた…。
オレを虐めてた奴ら5人とも…翌日キッチリ連れてきてくれた。
どんな殺し方がいい?って聞かれたからさ。
やられたことを、やり返したい…って言った」
「最初の奴はさ…オレの事、口でバカにしてきたから…舌を切り取って、そのままにしたら…
そのうち死んだ」
「2人目は…よくオレの事殴ったからさぁ…金槌で頭を殴り続けた…動かなくなるまで。
そしたら…勝手に死んでた」
「3人目は…よくモノを盗むから、両手を斧で切り落とした。
暫くもがいていたけど…やっぱり気が付いたら死んでたなぁ…」
「4人目は…いたずら書きが酷かったから…そいつの全身にナイフで絵を描いてやったんだ。
途中で痛いって喚くから…頭殴ったら死んだみたいで大人しくなった」
「5人目は…他の奴と被るから…教えてもらったことを試したくて、ナイフで首をかき切った。
スッゴイ血が出て…もがいて死んだっけな…」
「その後は…おじちゃんとおじちゃんの友達に、死体の処理の仕方とか習ったよ。
学校のお勉強なんかより、ずっと楽しかったからさぁ…。
もうずっと、おじちゃんちの子でいさせて…って言ったんだ。
じゃあ、おじちゃんが殺したい人間を、殺してくれるかい?って言われたから…、
いーよ…って言って、気が付いたら56人になってた」
……………………………………。
絶句なんて言葉じゃ…とても言い表せない…。
「一つ貴様に聞きたい!!」
ギリアムの目が…かなり据わっている…。
自分の予想が…当たってほしくない…と、言っているようにも見えた。
「ん?なんだぁ~」
「その…殺した56人…殆ど、妊婦や子供…だったんじゃないのか?」
一層顔が…苦しくなる。
シェッツはそれを嘲笑うかのように、
「お、せいか~い。よくわかったねぇ…」
とだけ。
いびつに…本当におかし気にケラケラと笑う。
「シェ、シェッツ!!お前…なんてことを!!」
これに反応したのは、ラディルスだった…。
かなり…怒りを露にしたような表情…。
ジョーカーが言ってた…元来は弱い者いじめが嫌いっての…本当みたい。
ギリアムは…そんなラディルスに目もくれず、シェッツを睨み、
「父は…お盛んすぎるくらい、お盛んな人だった…。
特に私が病気になってからは…母との不仲も相まって、ダースで愛人を抱えているような
状態だった…」
ありゃま、精力馬鹿強は…血筋か…。
「なのに…庶子の存在が…とんとん聞こえてこない…」
……なるほど。
「父は…権威主義者でもあり、階級至上主義者でもある…。
私の母は…公爵令嬢だった…、それも王家傍流につながる公爵家のな。
その母と自分の子供である私以外を…、己が子として認めなかったのは、十分ありうる」
「ジョノァド・スタリュイヴェは…父にだいぶ取り入っていた…。
他の追従を許さぬ状態で…。
おそらく…ジョノァドがしたであろう、仕事の1つに…父の庶子の始末も含まれていたはずだ。
だが…父の相手は愛人とはいえ、全員貴族だ。
そして少し頭が良いなら、父がやりそうなことの予想はつく…。
当然、防衛したはずなのに…それでも…なのは、相手の意表を突けるような…優秀な兵がいた
としか思えん…。
お前がそうだったなら…なるほど合点がいく」
「ご名答~。
大人だと警戒する連中もさ…相手が子供だと、簡単に警戒心を解くからなぁ…。
面白いくらいだった。
オレが歳不相応に背が低かったのも良かった。
おかげで…実年齢よりも小さい子に見えたからなぁ~」
ここでシェッツの笑顔が…さらにいびつで強くなる。
「オレさぁ~、チビってよくバカにされたんだけどぉ…。
おじちゃんは言ったのさ…。
チビって言うのは、褒め言葉だって…。
体が小さいからこそ、出来ることが沢山あるんだって…。
チビって言葉が好きになるように、おじちゃんが色々教えてあげる…ってさ。
おじちゃんはこの約束も…守ってくれた。
オレは…今じゃチビって言われるの、好きだぜ」
シェッツの身長は…今でも160㎝あるかないか…。
男性にしては、低い方に入るだろう。
「これで分かっただろう!!」
ギリアムは…縛られたラディルス達に、叱責するように吐き捨てる。
「コイツは自らの意志で、ジョノァドの所に行ったんだ!!
さらわれたわけじゃない!!」
改めてシェッツを睨み、
「随分と嘘をついてくれたものだ…。
私は両親の醜聞以外で…、度々人を拷問している…という噂の的にもなっていたんだが…。
貴様が流した犯人か…」
苦悶の表情を浮かべる。
ギリアムにしてみれば、事実無根の上、侮辱以外の何物でもないだろう。
するとシェッツは、さも愉快そうに、
「いや~、それは誤解だなぁ…。
オレはおじちゃんの為に、人を殺すので忙しかったからさぁ…。
まあ、暇なときは言ってたけど~。
それを流したのは…オレが帰ってきた時、勝手に拷問されたと勘違いした、ギルドの
連中だよ」
「ジョノァドにそう仕向けるよう、言われていたんだろうが!!」
ギリアムの口調は強い…そして有無を言わせない。
通常の人間に対してなら、さも冤罪を被せようとしているように見えたかもしれない…。
しかしシェッツに対しては…。
「あはは、それもせいか~い。
でもさぁー、オマエが悪いんだよぉ…」
ここでシェッツの顔は…下卑た笑いから、一気に憤怒に変わる。
「あんなに頑張って色々やったおじちゃんを!!
真っ先に家から追い出したんだから!!
おじちゃんは…オレの前ではいつでもニコニコしてたのに!!
オマエに追い出されて…本当に落ち込んでた!!
だから…オレは言ったんだ!!
オレに出来ることは…なんでもやるって!!
おじちゃんの為だったら、オレは…死んでもいいって!!」
また…笑顔になる。
「そうしたら、おじちゃんは言ったんだ。
キミがいてくれて…本当に良かった…って。
だからさ…オレから言ったんだ。
オレが…拷問されたって事にすれば、アイツの評判を落とせるよ…って」
何かを思い出す様に、眼を細め…。
「あの時が一番…おじちゃん喜んでくれたなぁ~。
キミの為に、私がキミを拷問するよ…って、言ってくれてさぁ。
手下はいっぱいいるのに、本当に自分でやってくれた…。
オレって愛されてるなぁ…って、本気で感じられた」
「…あの男に愛情など、あるわけがない。
自分に有利ならば、赤子であっても、平気で拷問するような男だぞ」
「うるさいなぁ…。
オマエが愛されなかったからって、ひがむなよ…」
「あの男からの愛情など、頼まれてもいらん!!」
私もだよ、ギリアム…。
「もう一つ確認するが…貴様の父母の喉笛をかき切って…、殺したのも…貴様か?」
「!!!!」
「え…父親の私兵って…毒殺じゃあ…」
驚いてフォルトを見れば、
「実は…5名ほど、毒殺ではなく、刺殺された人間がいたのです…。
当時はすべて…一門の者たちによって、毒殺で処理されましたが…ね」
何だか…絶対に見たくないものが、見えてきた…。
「ヒガンザは…末期になると独特の症状を出し始める…。
それを知っている者は…服用を停止してもおかしくない。
オマエの両親も…そうだったようだな。
実際、オマエの両親は、刺殺体で発見された」
「ん~、それは…、ちょっと違うなぁ…」
シェッツの目が…また虚空になった。
「確かに…父さんはオレが喉笛かき切って、殺したけど~。
母さんは…自分で自分の喉、切ったんだよねぇ~」
「お、お前何で、父さんをっ!!」
シュケインが…さすがに口を開いたか…。
真っ青を通り越した…いびつに歪んだ…恐怖なのか何なのか…わからない表情だ…。
そして…シュケインと同じような表情をしながら、
「ちょっと待て!!姉さんが死んだとき…お前は近くにいたのか!!」
ラディルス…なるほどね…。
シュケインとシェッツは…甥っ子だったんだ…。
「もともとさぁ~、オレがファルメニウス公爵家に来たのは…おじちゃんに頼まれたからなんだ。
父さんと母さんが、おじちゃんの言う事、ちっとも聞かなくて困ってる…って言うからさぁ。
ちょっと芝居してくれない?って言われた。
オレは両親より、おじちゃんの方がよっぽど好きだったから、いいよ…って言ったんだ」
どんな芝居をしたか…聞きたくないなぁ…。
ジョノァドが関わっている以上、どうせロクなもんじゃない。
「簡単に言うとさ…両親の目の前で…泣きながら赤ん坊の首絞めたのさ。
あ、泣いたのはおじちゃんに言われたからで、完全に嘘泣きね。
そしたらさ…父さんと母さん…自分たちがやるから、オレにやらせないで…って、おじちゃんに
懇願してさぁ…。
でも変だよなぁ~、人殺すの仕事にしてたくせにさぁ…なんで赤ん坊の首絞める時…あんなに
泣いてたのかなぁ…。
抵抗されないんだから、簡単でいいじゃん」
まるで…無邪気な子供のように言ってのけるから…余計不気味だ…。
「バカ野郎!!!!」
叫んだのは…ラディルスだ。
「姉さんと義兄さんは!!
昔から子供を殺すような仕事を、一切受けなかったんだ!!
そんなことして食ってくぐらいなら…死んだ方がいいって言って!!」
…トランペスト達と…同じような性質を…持っていたのか…。
何だか私は…これだけはやりきれない思いに駆られた…。
「そうだってね…、おじちゃんから聞いていた…。
でも…あんなに泣くなんて思わなかったから…」
シェッツの口が…耳のあたりまで…
「すっごく、楽しかったぁ~」
大きくぱっくりと割れた…。
「いや~、あんなに苦しむんだったら、もっとたくさんやってやればよかったなぁ~。
おじちゃんに両親はまだ役に立つから、やりすぎるな…って言われたからさぁ~。
だから…おじちゃんに脅されている可哀想な子を演じつつ…、おじちゃんに頼まれた
殺しをコッソリすることで…鬱憤はらしてたんだよなぁ」
本当におかし気に…ケラケラと笑っている。
「ふざけんなぁぁっ!!」
シュケイン…目からとめどなく…涙があふれている。
「父さんと母さんは…お前が生まれた時…せめてお前だけは真っ当に…光の世界で生きて
欲しい…って言って…。
色んな所に頭を下げて…、お前を学校に行けるようにして…、ずっとずっと…頑張って、
いたのに…」
私はこれを聞いて…フッっと心に暗い影が灯った…。
私が…見たくないもの…。
今この現実だけじゃなく…前世の…過去の記憶が頭をもたげかけていたからだ…。
ああ…。
舞子さん…。
やっぱり…、逃げるって限界があるんだね…。
逃げ切ったように見えても…必ず…追ってくる…。
前世だ、今世だ…なんて関係ない…。
私が私である限り…この呪縛からは…逃れられないんだね…。
私の思考は…暗く…でも、冴えわたっていた…。
きっとシェッツの前半の人生は…状況や程度こそ違え…前世の私と同じなんだ…。
だったらおそらく…シュケインの言葉に対する、シェッツの答えは…、
「あのさ、兄さん…」
私と同じだろう…。
「オレがいつ…真っ当な光の世界で…生きたいと言った?」
「おじちゃんはさ…約束をちゃんと守ってくれた…。
オレを虐めてた奴ら5人とも…翌日キッチリ連れてきてくれた。
どんな殺し方がいい?って聞かれたからさ。
やられたことを、やり返したい…って言った」
「最初の奴はさ…オレの事、口でバカにしてきたから…舌を切り取って、そのままにしたら…
そのうち死んだ」
「2人目は…よくオレの事殴ったからさぁ…金槌で頭を殴り続けた…動かなくなるまで。
そしたら…勝手に死んでた」
「3人目は…よくモノを盗むから、両手を斧で切り落とした。
暫くもがいていたけど…やっぱり気が付いたら死んでたなぁ…」
「4人目は…いたずら書きが酷かったから…そいつの全身にナイフで絵を描いてやったんだ。
途中で痛いって喚くから…頭殴ったら死んだみたいで大人しくなった」
「5人目は…他の奴と被るから…教えてもらったことを試したくて、ナイフで首をかき切った。
スッゴイ血が出て…もがいて死んだっけな…」
「その後は…おじちゃんとおじちゃんの友達に、死体の処理の仕方とか習ったよ。
学校のお勉強なんかより、ずっと楽しかったからさぁ…。
もうずっと、おじちゃんちの子でいさせて…って言ったんだ。
じゃあ、おじちゃんが殺したい人間を、殺してくれるかい?って言われたから…、
いーよ…って言って、気が付いたら56人になってた」
……………………………………。
絶句なんて言葉じゃ…とても言い表せない…。
「一つ貴様に聞きたい!!」
ギリアムの目が…かなり据わっている…。
自分の予想が…当たってほしくない…と、言っているようにも見えた。
「ん?なんだぁ~」
「その…殺した56人…殆ど、妊婦や子供…だったんじゃないのか?」
一層顔が…苦しくなる。
シェッツはそれを嘲笑うかのように、
「お、せいか~い。よくわかったねぇ…」
とだけ。
いびつに…本当におかし気にケラケラと笑う。
「シェ、シェッツ!!お前…なんてことを!!」
これに反応したのは、ラディルスだった…。
かなり…怒りを露にしたような表情…。
ジョーカーが言ってた…元来は弱い者いじめが嫌いっての…本当みたい。
ギリアムは…そんなラディルスに目もくれず、シェッツを睨み、
「父は…お盛んすぎるくらい、お盛んな人だった…。
特に私が病気になってからは…母との不仲も相まって、ダースで愛人を抱えているような
状態だった…」
ありゃま、精力馬鹿強は…血筋か…。
「なのに…庶子の存在が…とんとん聞こえてこない…」
……なるほど。
「父は…権威主義者でもあり、階級至上主義者でもある…。
私の母は…公爵令嬢だった…、それも王家傍流につながる公爵家のな。
その母と自分の子供である私以外を…、己が子として認めなかったのは、十分ありうる」
「ジョノァド・スタリュイヴェは…父にだいぶ取り入っていた…。
他の追従を許さぬ状態で…。
おそらく…ジョノァドがしたであろう、仕事の1つに…父の庶子の始末も含まれていたはずだ。
だが…父の相手は愛人とはいえ、全員貴族だ。
そして少し頭が良いなら、父がやりそうなことの予想はつく…。
当然、防衛したはずなのに…それでも…なのは、相手の意表を突けるような…優秀な兵がいた
としか思えん…。
お前がそうだったなら…なるほど合点がいく」
「ご名答~。
大人だと警戒する連中もさ…相手が子供だと、簡単に警戒心を解くからなぁ…。
面白いくらいだった。
オレが歳不相応に背が低かったのも良かった。
おかげで…実年齢よりも小さい子に見えたからなぁ~」
ここでシェッツの笑顔が…さらにいびつで強くなる。
「オレさぁ~、チビってよくバカにされたんだけどぉ…。
おじちゃんは言ったのさ…。
チビって言うのは、褒め言葉だって…。
体が小さいからこそ、出来ることが沢山あるんだって…。
チビって言葉が好きになるように、おじちゃんが色々教えてあげる…ってさ。
おじちゃんはこの約束も…守ってくれた。
オレは…今じゃチビって言われるの、好きだぜ」
シェッツの身長は…今でも160㎝あるかないか…。
男性にしては、低い方に入るだろう。
「これで分かっただろう!!」
ギリアムは…縛られたラディルス達に、叱責するように吐き捨てる。
「コイツは自らの意志で、ジョノァドの所に行ったんだ!!
さらわれたわけじゃない!!」
改めてシェッツを睨み、
「随分と嘘をついてくれたものだ…。
私は両親の醜聞以外で…、度々人を拷問している…という噂の的にもなっていたんだが…。
貴様が流した犯人か…」
苦悶の表情を浮かべる。
ギリアムにしてみれば、事実無根の上、侮辱以外の何物でもないだろう。
するとシェッツは、さも愉快そうに、
「いや~、それは誤解だなぁ…。
オレはおじちゃんの為に、人を殺すので忙しかったからさぁ…。
まあ、暇なときは言ってたけど~。
それを流したのは…オレが帰ってきた時、勝手に拷問されたと勘違いした、ギルドの
連中だよ」
「ジョノァドにそう仕向けるよう、言われていたんだろうが!!」
ギリアムの口調は強い…そして有無を言わせない。
通常の人間に対してなら、さも冤罪を被せようとしているように見えたかもしれない…。
しかしシェッツに対しては…。
「あはは、それもせいか~い。
でもさぁー、オマエが悪いんだよぉ…」
ここでシェッツの顔は…下卑た笑いから、一気に憤怒に変わる。
「あんなに頑張って色々やったおじちゃんを!!
真っ先に家から追い出したんだから!!
おじちゃんは…オレの前ではいつでもニコニコしてたのに!!
オマエに追い出されて…本当に落ち込んでた!!
だから…オレは言ったんだ!!
オレに出来ることは…なんでもやるって!!
おじちゃんの為だったら、オレは…死んでもいいって!!」
また…笑顔になる。
「そうしたら、おじちゃんは言ったんだ。
キミがいてくれて…本当に良かった…って。
だからさ…オレから言ったんだ。
オレが…拷問されたって事にすれば、アイツの評判を落とせるよ…って」
何かを思い出す様に、眼を細め…。
「あの時が一番…おじちゃん喜んでくれたなぁ~。
キミの為に、私がキミを拷問するよ…って、言ってくれてさぁ。
手下はいっぱいいるのに、本当に自分でやってくれた…。
オレって愛されてるなぁ…って、本気で感じられた」
「…あの男に愛情など、あるわけがない。
自分に有利ならば、赤子であっても、平気で拷問するような男だぞ」
「うるさいなぁ…。
オマエが愛されなかったからって、ひがむなよ…」
「あの男からの愛情など、頼まれてもいらん!!」
私もだよ、ギリアム…。
「もう一つ確認するが…貴様の父母の喉笛をかき切って…、殺したのも…貴様か?」
「!!!!」
「え…父親の私兵って…毒殺じゃあ…」
驚いてフォルトを見れば、
「実は…5名ほど、毒殺ではなく、刺殺された人間がいたのです…。
当時はすべて…一門の者たちによって、毒殺で処理されましたが…ね」
何だか…絶対に見たくないものが、見えてきた…。
「ヒガンザは…末期になると独特の症状を出し始める…。
それを知っている者は…服用を停止してもおかしくない。
オマエの両親も…そうだったようだな。
実際、オマエの両親は、刺殺体で発見された」
「ん~、それは…、ちょっと違うなぁ…」
シェッツの目が…また虚空になった。
「確かに…父さんはオレが喉笛かき切って、殺したけど~。
母さんは…自分で自分の喉、切ったんだよねぇ~」
「お、お前何で、父さんをっ!!」
シュケインが…さすがに口を開いたか…。
真っ青を通り越した…いびつに歪んだ…恐怖なのか何なのか…わからない表情だ…。
そして…シュケインと同じような表情をしながら、
「ちょっと待て!!姉さんが死んだとき…お前は近くにいたのか!!」
ラディルス…なるほどね…。
シュケインとシェッツは…甥っ子だったんだ…。
「もともとさぁ~、オレがファルメニウス公爵家に来たのは…おじちゃんに頼まれたからなんだ。
父さんと母さんが、おじちゃんの言う事、ちっとも聞かなくて困ってる…って言うからさぁ。
ちょっと芝居してくれない?って言われた。
オレは両親より、おじちゃんの方がよっぽど好きだったから、いいよ…って言ったんだ」
どんな芝居をしたか…聞きたくないなぁ…。
ジョノァドが関わっている以上、どうせロクなもんじゃない。
「簡単に言うとさ…両親の目の前で…泣きながら赤ん坊の首絞めたのさ。
あ、泣いたのはおじちゃんに言われたからで、完全に嘘泣きね。
そしたらさ…父さんと母さん…自分たちがやるから、オレにやらせないで…って、おじちゃんに
懇願してさぁ…。
でも変だよなぁ~、人殺すの仕事にしてたくせにさぁ…なんで赤ん坊の首絞める時…あんなに
泣いてたのかなぁ…。
抵抗されないんだから、簡単でいいじゃん」
まるで…無邪気な子供のように言ってのけるから…余計不気味だ…。
「バカ野郎!!!!」
叫んだのは…ラディルスだ。
「姉さんと義兄さんは!!
昔から子供を殺すような仕事を、一切受けなかったんだ!!
そんなことして食ってくぐらいなら…死んだ方がいいって言って!!」
…トランペスト達と…同じような性質を…持っていたのか…。
何だか私は…これだけはやりきれない思いに駆られた…。
「そうだってね…、おじちゃんから聞いていた…。
でも…あんなに泣くなんて思わなかったから…」
シェッツの口が…耳のあたりまで…
「すっごく、楽しかったぁ~」
大きくぱっくりと割れた…。
「いや~、あんなに苦しむんだったら、もっとたくさんやってやればよかったなぁ~。
おじちゃんに両親はまだ役に立つから、やりすぎるな…って言われたからさぁ~。
だから…おじちゃんに脅されている可哀想な子を演じつつ…、おじちゃんに頼まれた
殺しをコッソリすることで…鬱憤はらしてたんだよなぁ」
本当におかし気に…ケラケラと笑っている。
「ふざけんなぁぁっ!!」
シュケイン…目からとめどなく…涙があふれている。
「父さんと母さんは…お前が生まれた時…せめてお前だけは真っ当に…光の世界で生きて
欲しい…って言って…。
色んな所に頭を下げて…、お前を学校に行けるようにして…、ずっとずっと…頑張って、
いたのに…」
私はこれを聞いて…フッっと心に暗い影が灯った…。
私が…見たくないもの…。
今この現実だけじゃなく…前世の…過去の記憶が頭をもたげかけていたからだ…。
ああ…。
舞子さん…。
やっぱり…、逃げるって限界があるんだね…。
逃げ切ったように見えても…必ず…追ってくる…。
前世だ、今世だ…なんて関係ない…。
私が私である限り…この呪縛からは…逃れられないんだね…。
私の思考は…暗く…でも、冴えわたっていた…。
きっとシェッツの前半の人生は…状況や程度こそ違え…前世の私と同じなんだ…。
だったらおそらく…シュケインの言葉に対する、シェッツの答えは…、
「あのさ、兄さん…」
私と同じだろう…。
「オレがいつ…真っ当な光の世界で…生きたいと言った?」
36
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる