ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第3章 正体

4 そしてそれから…

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そして現在…ギリアムと対峙するシェッツ…。

「おじちゃんはさ…約束をちゃんと守ってくれた…。
オレを虐めてた奴ら5人とも…翌日キッチリ連れてきてくれた。
どんな殺し方がいい?って聞かれたからさ。
やられたことを、やり返したい…って言った」

「最初の奴はさ…オレの事、口でバカにしてきたから…舌を切り取って、そのままにしたら…
そのうち死んだ」

「2人目は…よくオレの事殴ったからさぁ…金槌で頭を殴り続けた…動かなくなるまで。
そしたら…勝手に死んでた」

「3人目は…よくモノを盗むから、両手を斧で切り落とした。
暫くもがいていたけど…やっぱり気が付いたら死んでたなぁ…」

「4人目は…いたずら書きが酷かったから…そいつの全身にナイフで絵を描いてやったんだ。
途中で痛いって喚くから…頭殴ったら死んだみたいで大人しくなった」

「5人目は…他の奴と被るから…教えてもらったことを試したくて、ナイフで首をかき切った。
スッゴイ血が出て…もがいて死んだっけな…」

「その後は…おじちゃんとおじちゃんの友達に、死体の処理の仕方とか習ったよ。
学校のお勉強なんかより、ずっと楽しかったからさぁ…。
もうずっと、おじちゃんちの子でいさせて…って言ったんだ。
じゃあ、おじちゃんが殺したい人間を、殺してくれるかい?って言われたから…、
いーよ…って言って、気が付いたら56人になってた」

……………………………………。
絶句なんて言葉じゃ…とても言い表せない…。

「一つ貴様に聞きたい!!」

ギリアムの目が…かなり据わっている…。
自分の予想が…当たってほしくない…と、言っているようにも見えた。

「ん?なんだぁ~」

「その…殺した56人…殆ど、妊婦や子供…だったんじゃないのか?」

一層顔が…苦しくなる。
シェッツはそれを嘲笑うかのように、

「お、せいか~い。よくわかったねぇ…」

とだけ。
いびつに…本当におかし気にケラケラと笑う。

「シェ、シェッツ!!お前…なんてことを!!」

これに反応したのは、ラディルスだった…。
かなり…怒りを露にしたような表情…。
ジョーカーが言ってた…元来は弱い者いじめが嫌いっての…本当みたい。

ギリアムは…そんなラディルスに目もくれず、シェッツを睨み、

「父は…お盛んすぎるくらい、お盛んな人だった…。
特に私が病気になってからは…母との不仲も相まって、ダースで愛人を抱えているような
状態だった…」

ありゃま、精力馬鹿強は…血筋か…。

「なのに…庶子の存在が…とんとん聞こえてこない…」

……なるほど。

「父は…権威主義者でもあり、階級至上主義者でもある…。
私の母は…公爵令嬢だった…、それも王家傍流につながる公爵家のな。
その母と自分の子供である私以外を…、己が子として認めなかったのは、十分ありうる」

「ジョノァド・スタリュイヴェは…父にだいぶ取り入っていた…。
他の追従を許さぬ状態で…。
おそらく…ジョノァドがしたであろう、仕事の1つに…父の庶子の始末も含まれていたはずだ。
だが…父の相手は愛人とはいえ、全員貴族だ。
そして少し頭が良いなら、父がやりそうなことの予想はつく…。
当然、防衛したはずなのに…それでも…なのは、相手の意表を突けるような…優秀な兵がいた
としか思えん…。
お前がそうだったなら…なるほど合点がいく」

「ご名答~。
大人だと警戒する連中もさ…相手が子供だと、簡単に警戒心を解くからなぁ…。
面白いくらいだった。
オレが歳不相応に背が低かったのも良かった。
おかげで…実年齢よりも小さい子に見えたからなぁ~」

ここでシェッツの笑顔が…さらにいびつで強くなる。

「オレさぁ~、チビってよくバカにされたんだけどぉ…。
おじちゃんは言ったのさ…。
チビって言うのは、褒め言葉だって…。
体が小さいからこそ、出来ることが沢山あるんだって…。
チビって言葉が好きになるように、おじちゃんが色々教えてあげる…ってさ。
おじちゃんはこの約束も…守ってくれた。
オレは…今じゃチビって言われるの、好きだぜ」

シェッツの身長は…今でも160㎝あるかないか…。
男性にしては、低い方に入るだろう。

「これで分かっただろう!!」

ギリアムは…縛られたラディルス達に、叱責するように吐き捨てる。

「コイツは自らの意志で、ジョノァドの所に行ったんだ!!
さらわれたわけじゃない!!」

改めてシェッツを睨み、

「随分と嘘をついてくれたものだ…。
私は両親の醜聞以外で…、度々人を拷問している…という噂の的にもなっていたんだが…。
貴様が流した犯人か…」

苦悶の表情を浮かべる。
ギリアムにしてみれば、事実無根の上、侮辱以外の何物でもないだろう。
するとシェッツは、さも愉快そうに、

「いや~、それは誤解だなぁ…。
オレはおじちゃんの為に、人を殺すので忙しかったからさぁ…。
まあ、暇なときは言ってたけど~。
それを流したのは…オレが帰ってきた時、勝手に拷問されたと勘違いした、ギルドの
連中だよ」

「ジョノァドにそう仕向けるよう、言われていたんだろうが!!」

ギリアムの口調は強い…そして有無を言わせない。
通常の人間に対してなら、さも冤罪を被せようとしているように見えたかもしれない…。
しかしシェッツに対しては…。

「あはは、それもせいか~い。
でもさぁー、オマエが悪いんだよぉ…」

ここでシェッツの顔は…下卑た笑いから、一気に憤怒に変わる。

「あんなに頑張って色々やったおじちゃんを!!
真っ先に家から追い出したんだから!!
おじちゃんは…オレの前ではいつでもニコニコしてたのに!!
オマエに追い出されて…本当に落ち込んでた!!
だから…オレは言ったんだ!!
オレに出来ることは…なんでもやるって!!
おじちゃんの為だったら、オレは…死んでもいいって!!」

また…笑顔になる。

「そうしたら、おじちゃんは言ったんだ。
キミがいてくれて…本当に良かった…って。
だからさ…オレから言ったんだ。
オレが…拷問されたって事にすれば、アイツの評判を落とせるよ…って」

何かを思い出す様に、眼を細め…。

「あの時が一番…おじちゃん喜んでくれたなぁ~。
キミの為に、私がキミを拷問するよ…って、言ってくれてさぁ。
手下はいっぱいいるのに、本当に自分でやってくれた…。
オレって愛されてるなぁ…って、本気で感じられた」

「…あの男に愛情など、あるわけがない。
自分に有利ならば、赤子であっても、平気で拷問するような男だぞ」

「うるさいなぁ…。
オマエが愛されなかったからって、ひがむなよ…」

「あの男からの愛情など、頼まれてもいらん!!」

私もだよ、ギリアム…。

「もう一つ確認するが…貴様の父母の喉笛をかき切って…、殺したのも…貴様か?」

「!!!!」

「え…父親の私兵って…毒殺じゃあ…」

驚いてフォルトを見れば、

「実は…5名ほど、毒殺ではなく、刺殺された人間がいたのです…。
当時はすべて…一門の者たちによって、毒殺で処理されましたが…ね」

何だか…絶対に見たくないものが、見えてきた…。

「ヒガンザは…末期になると独特の症状を出し始める…。
それを知っている者は…服用を停止してもおかしくない。
オマエの両親も…そうだったようだな。
実際、オマエの両親は、刺殺体で発見された」

「ん~、それは…、ちょっと違うなぁ…」

シェッツの目が…また虚空になった。

「確かに…父さんはオレが喉笛かき切って、殺したけど~。
母さんは…自分で自分の喉、切ったんだよねぇ~」

「お、お前何で、父さんをっ!!」

シュケインが…さすがに口を開いたか…。
真っ青を通り越した…いびつに歪んだ…恐怖なのか何なのか…わからない表情だ…。
そして…シュケインと同じような表情をしながら、

「ちょっと待て!!姉さんが死んだとき…お前は近くにいたのか!!」

ラディルス…なるほどね…。
シュケインとシェッツは…甥っ子だったんだ…。

「もともとさぁ~、オレがファルメニウス公爵家に来たのは…おじちゃんに頼まれたからなんだ。
父さんと母さんが、おじちゃんの言う事、ちっとも聞かなくて困ってる…って言うからさぁ。
ちょっと芝居してくれない?って言われた。
オレは両親より、おじちゃんの方がよっぽど好きだったから、いいよ…って言ったんだ」

どんな芝居をしたか…聞きたくないなぁ…。
ジョノァドが関わっている以上、どうせロクなもんじゃない。

「簡単に言うとさ…両親の目の前で…泣きながら赤ん坊の首絞めたのさ。
あ、泣いたのはおじちゃんに言われたからで、完全に嘘泣きね。
そしたらさ…父さんと母さん…自分たちがやるから、オレにやらせないで…って、おじちゃんに
懇願してさぁ…。
でも変だよなぁ~、人殺すの仕事にしてたくせにさぁ…なんで赤ん坊の首絞める時…あんなに
泣いてたのかなぁ…。
抵抗されないんだから、簡単でいいじゃん」

まるで…無邪気な子供のように言ってのけるから…余計不気味だ…。

「バカ野郎!!!!」

叫んだのは…ラディルスだ。

「姉さんと義兄さんは!!
昔から子供を殺すような仕事を、一切受けなかったんだ!!
そんなことして食ってくぐらいなら…死んだ方がいいって言って!!」

…トランペスト達と…同じような性質を…持っていたのか…。
何だか私は…これだけはやりきれない思いに駆られた…。

「そうだってね…、おじちゃんから聞いていた…。
でも…あんなに泣くなんて思わなかったから…」

シェッツの口が…耳のあたりまで…

「すっごく、楽しかったぁ~」

大きくぱっくりと割れた…。

「いや~、あんなに苦しむんだったら、もっとたくさんやってやればよかったなぁ~。
おじちゃんに両親はまだ役に立つから、やりすぎるな…って言われたからさぁ~。
だから…おじちゃんに脅されている可哀想な子を演じつつ…、おじちゃんに頼まれた
殺しをコッソリすることで…鬱憤はらしてたんだよなぁ」

本当におかし気に…ケラケラと笑っている。

「ふざけんなぁぁっ!!」

シュケイン…目からとめどなく…涙があふれている。

「父さんと母さんは…お前が生まれた時…せめてお前だけは真っ当に…光の世界で生きて
欲しい…って言って…。
色んな所に頭を下げて…、お前を学校に行けるようにして…、ずっとずっと…頑張って、
いたのに…」

私はこれを聞いて…フッっと心に暗い影が灯った…。
私が…見たくないもの…。
今この現実だけじゃなく…前世の…過去の記憶が頭をもたげかけていたからだ…。

ああ…。
舞子さん…。

やっぱり…、逃げるって限界があるんだね…。
逃げ切ったように見えても…必ず…追ってくる…。

前世だ、今世だ…なんて関係ない…。
私が私である限り…この呪縛からは…逃れられないんだね…。

私の思考は…暗く…でも、冴えわたっていた…。
きっとシェッツの前半の人生は…状況や程度こそ違え…前世の私と同じなんだ…。

だったらおそらく…シュケインの言葉に対する、シェッツの答えは…、

「あのさ、兄さん…」

私と同じだろう…。

「オレがいつ…真っ当な光の世界で…生きたいと言った?」
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