ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第4章 収拾

4 当たって欲しくない予想

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「あの時はすまなんだ。
お前以外に、あの家で適任がいなくてな…」

ローエンじい様がフォルトの方を向き、すまなそうにしたから、

「とんでもございません、ローエン閣下。
ローエン閣下にご指名頂き、むしろ光栄でございました」

当時のファルメニウス公爵家の状況を考えれば…、色々言われたろうに。
こういうところが、フォルトのいい所なんだよなぁ。

かくして…ローカス卿はファルメニウス公爵家に来ることになった。
そして騎士の型を、ギリアム父、ギリアム、ジョノァド、フォルトのいる前で、披露した。

「見せたら…お前の父親には褒められたなぁ…。
さすがおじい様の直伝だけあるって…」

「わしもそれは、驚いたわい。
てっきり、けなすためだと思ったからな」

本当に喧々諤々だった当時…重箱の隅をつつくようなことばかリ…ギリアム父はローエンじい様に
やってたみたいだから。
ローエンじい様…もちろん、意に介していなかったみたいだけど。

「そんで一通り見せた後…お前と模擬決闘して…負けたんだよなぁ…。
ファルメニウスの純粋培養だけあると、思ったっけ…」

「……あの時が、生まれて初めてだ」

「は?」

「騎士の型を私が見たのは…ローカス卿がやったモノが、初めてなんだ」

「……」

ローカス卿だけでなく、その場の人間全員が…絶句した。

「そもそも父は…私をとかく外に出したがらなかった。
理由はいくつかあるようだが…一つには私に初代の構えのみやらせ、余計な不純物を入れたくないと
いうのがあったようだ。
だから…私はファルメニウス公爵家内の護衛騎士の訓練所にも、行くことを禁じられていたんだ」

「お…お前、何言ってるんだよ…」

ローカス卿は…当然信じられないようだ。

「お前の騎士の型は…非常に綺麗だったし…打ち込みだって完璧に…」

「それは、その直前に見せてもらった、ローカス卿の型と打ち込みが、綺麗で完璧だったからだ」

冷たい静寂が…その場を包む。

「あのなぁ、ホラを吐くにしたって、もうちょっとマシな…」

「やめんか!!ローカス!!」

ローエンじい様の激は…静寂の空間を、いとも簡単に粉々にした。

「わしは昔…いや、今でも、オマエにも皆にも、腰を落とせと散々言っておろう!!
落とせるようになったら、あげるのは簡単だとも!!
それがわかっておれば…坊主の言っている事に、間違いが無い事がわかるはずじゃ!!」

私は全く分からん。
解説求む。

「先ほどの…獣のごとき重心の低さ…。
あの重心の位置で、バランスを保ち…飛び出せる瞬発性を可能にする筋肉を持つならば…」

「それに…坊主はどんな複雑な剣舞も、一度見ると完璧にマスターしてしまえた。
お前が一度だけ見せた型を完璧にマスターしたなら…後は単純に、筋力と瞬発力が
より高い方が…勝つ!!」

私は…そうなんだ…ぐらいしか思わなかったが、周りの手練れの皆様が大人しくなったって
ことは、的を得ているのだろう。

「まあ、大分話がそれたから戻すが…。
私が父の庶子について尋ねたのは、外に出てこないだけで、相当数いただろうことが
推測できるからだ」

「……それが、今回の件と何の関係があるんだ…」

ローカス卿…ちょっとやさぐれちゃった…。
まあ、本物の天才ってのを、見せつけられるとね…。

「私が3歳の時の…父とジョノァドの会話…。
父は…私に何かを統率させる気でいた…。
それは何なのか…」

「王立騎士団じゃ…」

「王立騎士団は騎士の集まりだ。
わざわざ初代の構えを教える必要はない」

ここにきて…ローエンじい様の顔色が一気に悪くなった。

「まさか…秘密裏に育てた庶子に…教えていた…」

「ええ…おそらく…。
そしてモノにできた庶子だけ育てて、モノに出来なかった者は、シェッツに処分させた
のでしょう…。
父の死後…生き残った庶子は、どこに行ったのでしょうね…?」

私の肌にも、すうっと嫌な空気が流れて来るのを…感じた。

ギルディス…1人だけだと思わない方がいい。
それどころか、ギルディスは知能が低いから…約に立たないとして、半ば石牢に捨てられていた
と見るのが自然だ…。
捨てられていなかった者が…いたとしたら?

「坊主…、お前の予想では、どのくらいいると思う?」

「おそらく…5人もいないかと」

「根拠は?」

「1つ…私も随分と後になって分かったのですが…、初代の構えは、初代と同じ体質が無いと
威力が半減します」

「同じ体質?」

「何かで…身体能力が爆発的に向上する…です」

「2つ…父が愛人として、上位貴族しか相手にしなかったと言う事…」

「なるほど…、どうしても数は限られてくる…か」

ツァリオ閣下…顎髭触りながら、難しい顔してる。

「相手が上位貴族であれば、愛人とはいえ…父の子が出来れば、色々な利権を要求しても
おかしくない。
シェッツが殺した中に…妊婦が一定数いたようですので、子供だけ秘密裏に引き取りたい…
という要求を飲まなかった者は…始末されたのでは?と、思うからです」

ギリアムの説明はいちいちもっともだった。
兵を作る目的なら、むしろ下位の方が扱いやすかっただろうに…。
条件だって、飲みやすいし、金で動く人間もかなり…いたと思う。
でもギリアム父は、下位の者と自分の血が、混じることを非常に嫌がっていたらしい。
実際…どうもジョノァドが見繕ってきたのが、下位だった時…かなり不満げにしていた
ことを、フォルトが目撃している。
当然寝室にも入れず、直ぐに帰らせた。
この性質ばかりは、ジョノァドもどうしようも無かったろう。

「以上を踏まえ…一連の件にまつわる懸念事項を、聞いてもらいたい。
気が付いたのはフィリーだから、フィリーから説明してもらう」

いきなりふられた!!しゃーねぇ…。

「そもそも…私が引っかかったのは、シェッツと戦っている時に出た、シェッツの言葉…。
半年以上、ジョノァドからの連絡がない…という点です」

「半年前と言えば…ちょうど私がファルメニウス公爵家に来たか来ないかのあたりで…
正式な婚約発表すら、まだの時期です。
その頃のジョノァドは、全く健在で、特に心配事も無かったように思えます。
それなのに、シェッツとの連絡を絶ったとするなら…、ジョノァドはシェッツを切る気だったと
思わざるを得ません」

「あんなに…使える兵をか?」

みんなが、信じられない…と、言いたげだが、

「理由として私が考えたのが…、シェッツがかなりの狂信者だと言うことです。
狂信者というのは、教祖にとってはありがたいものですが、同時にかなり厄介な者でも
あります。
何かが狂えば、その強すぎる愛情が、憎悪に変り、牙をむいてもおかしくないからです」

「それがわからないジョノァドではない…。
捨て置くにしても、もっともらしい言葉を並べて、うわべだけでも上手く取り繕う方が良い…。
そう言ったことが、得意な男でもありますしね」

「なのに切ったと言う事は…ジョノァドには、シェッツを迎え撃てるだけの戦力が…あったのではと
私は結論付けたのです」

ここでギリアムに代わった。

「先ほど…父の庶子について話したが…父の愛人の管理は、ほとんどジョノァドがやっていた…。
同時に庶子の管理も始末も…ジョノァドの役目だったのだろう…」

もうね…。
場の空気が凍るを通り越して、永久凍土化したよ…うん。
そんな中、ローエンじい様が、

「すべての状況証拠が…お前の父の庶子…それも特筆すべき力を持った兵が、ジョノァドの元にいると
言っているようなものだな…」

「ええ…。
どのくらいのレベルかは、わかりませんがね…」

「えっと…対応策は?攻略法は?」

みんなして聞いてきた…。
まあ、当然か…。

「残念ながら…ない!!
初代の時代…他国の列強が、初代を攻略できなかったからこそ…、大陸で一番肥沃な土地を持つと
言われる我が国が起こること…許すしかなかったのだ」

まあ…その後はね…ギリアムが、みんなに、

「お前の良すぎる頭で、何か考え出せぇー!!」

と、詰め寄られていたよ…うん。

「ギリアム坊主…一度ファルメニウス公爵家に残っている、初代に関する書物を…閲覧させて
貰う事は出来るか?」

「もちろん。
今日ここにいらしている方には、閲覧していただいた方がいいと思っていますよ」

「それは…ありがたい」

私はそこで、ピンときた。

「逆に…ガルドベンダ公爵家やケイシロン公爵家にある…初代に対する書物も、確認した方が
よいのでは?」

「フム…もう一度探ってみるとしよう」

ローエンじい様とツァリオ閣下が、頷いてくれた。

「ああ、それで思い出したんだが…」

ツァリオ閣下が唐突に、

「若いころ、ガルドベンダ公爵家の初代が、ファルメニウス公爵家の初代について、書いた
走り書きを見かけたな…。

あの四肢喰らいは…歳を経ても全く落ち着かん…

と。
四肢喰らいとは何だったのかな…」

「ああ、それなら…初代は第2段階に入ると…攻撃方法として、かなりの頻度で噛みつきが
出たそうです。
私も今日、少し使いましたが…。
初代に噛みつかれると、噛みつかれたと認識した時には、食いちぎられているのが、普通だった
ようで…。
付いた異名の1つが、四肢喰らいだそうです」

場の空気が…落ちた!!沈んだ!!見事に…。

「ギリアムゥゥゥっっ―――――――――――――っ!!」

ローカス卿がギリアムの肩をがっしりと掴み、

「ホントに何か、対策考えろ!!捻り出せ!!絞り出せぇぇぇっ!!」

涙目になりながら…ギリアムの体をゆすっていたよ…。
ずっと…。
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