ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

1 ラディルス達をどうするか…

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「さて…ラディルス達をどうするか…」

ギリアムが…思案に暮れている。
他のメンバーは帰り、ここには…フォルトとエマとフィリー軍団しかいない。

「スペードを拉致して、ギリアムを拉致して…あと、デイビス卿の師団に、姿を見られて
いますからね…。
まったく処罰無しは、無理ですよね…」

それに…私は心情的に彼らの処罰無しは、納得が出来ない。
確かに…シェッツの事で、彼らも十分ショックを受けていると思われる。

シェッツは…元々、ああいう性質だったのかもしれない…。
けど…それを助長したのは、間違いなく周りの環境…人間だ。

シェッツがやりたいことを、わかってあげてたら…あそこまでいびつにはならなかった…。
そう思うのは…私だけだろうか…。

「奥様…、ご当主様…」

ジョーカーが改めて、跪いた。

「良い機会なので…言わせてください」

そう前置きして、

「わしは…重犯罪者の子でした…」

「そう…今更驚かないわ」

私も…もちろんギリアムやフォルトも、平常心だ。

「だから…幼いころから裏社会で生きるしか、選択肢が無かった。
それでも、非道な人間にはなりたくなくて…随分ともがきましたがね…。
あまり成果は出ませんでした」

「そんな折…人々から石を投げられている、スペードを見かけましてね。
話を聞いたら…悪さをしたわけではなく、ただ顔が気味悪いだけでやられたそうで…。
大分憤って…護身術ぐらい教えてやろうと、そばに置きました」

「それからまぁ…引き寄せてしまったのか、いつの間にか4人になってましてね…。
こいつ等に仕事を仕込むかは…だいぶ迷いました。
でも…特にスペードは…、マトモな仕事につけないと、自分でわかっていたようで…。
しきりに教えてくれと言われて…。
結局押し切られる形で、4人とも仕込むことになりました」

「やがて…こいつ等が一人前になったころ…、また他にも子供を引き取ることになりましてね。
裏社会に嫌気がさして…疲れていたわしは、引退して子供たちと暮らすことを選びました。
でも…現実はそんなに甘くなかった。
隠れるように暮らすには…金が必要だったから。
あった蓄えはすぐに底をついて…。
そんなころ、こいつ等が…恩返しだと言って、自分達だけで仕事を始めました。
そして…金を送ってくれるようになって…」

「死ぬよりひどい目にあった人間を、たくさん見てきたからこそ…。
手放しで喜べなかった…。
でも…他の小さい子供の事を思えば、止めることもできなかった。
事実ボロボロになって帰ってくることも多くて…、でも自分らでまた出て言ったから…、
任せていました」

「本当は…真っ当に生きて欲しかった…。
でも…わし自信すら知らぬ、その方法を示してやることなどできなくて…。
力のない自分を、随分と責めたし、不甲斐なく思いました。
でも…どうすることもできなかった」

「そして…長く便りが途絶えたから、最悪の事態も考えましたが…、ありがたい事に全員無事に
戻ってきた…」

「でも…関わってはいけない人間と関わったことで、追われる身になった。
捕まれば、死ぬよりひどい目にあう事は、必然だった。
わしは…4人を仕込んだ身として、事の顛末を見ることを決めた…。
でもここで、信じられないことが起こった」

「ともすれば、見捨てようと酷い目にあわせようと、誰も何も言わないであろう人間が、何度も
助けてくださるとはね…。
いや、助けてくださるだけでなく、光の世界に導いてくださった…」

「わしは神を信じたことなど、一度もありませんがね。
あの時ばかりは…神という存在はいるのかも…と、思わせてくれました」

改めて頭を下げたジョーカーが、

「ありがとう…ございました」

本当に…感銘を込めた…感謝のみを現していた…。
ジョーカーは…ここで少し間を置き、

「わしはね…シェッツの親の気持ちが、少しばかりはわかるのです…。
わしも…こいつ等に出来ればわしと同じことを…して欲しくなかったから」

トランペスト達が…驚いているね…、初めて聞いたんだなぁ…。

「ですが…やはりシェッツの件は…同情できません。
わしは…裏社会に50年以上つかり、様々な人間を見てきましたが…。
シェッツ程、闇で生きることに、相応しい人間はいないと思いましたからな…。
裏社会でそれなりにやって来たなら…、正確に見抜くべきだった」

「そうだな…。
あれほど邪悪な人間を、いたい場所から無理に追い出そうとすると…かなりのしっぺ返しを
覚悟しなければならないんだ」

ギリアム…眉間に深いしわ作ってら…。

「……やはりジョノァドも、水面下で色々やらかしたのでしょうね」

ギリアムが追い出そうとしているの…わからない奴じゃ無かったろうからなぁ。

「ああ、わかっているだけで、かなり…な」

と言う事は…、わかっていないのも含めたら…想像もしたくない。

「あのー、わかっているだけで、何をやらかしたんですか?」

「ん?まずは私に対する悪評を、大分ばら撒いたな。
私がお披露目されていなかったこともあって、かなり信ぴょう性のありそうなものも、
混じっていたから、始末が悪かった」

「未成年の私を戦争の総大将にのし上げたのだって、裏でかなりアイツが動いたはずだ」

だよねぇ…正気の沙汰じゃないもん。

「まあ…この話は、いずれじっくりやろう」

……ってことは、長いのか?
長い話になるのか?
可愛そうに…。


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ファルメニウス公爵家の地下牢…暗くさびれたその場所に…3人の人間の姿があった。
ラディルス、シュケイン、そして寝たままのレグザクだ。
レグザクは結構な怪我だが、手練れには違いないので、基本治療は牢の中…となった。

暗く湿った空間に…嗚咽が混じった声が聞こえる。

「叔父さん…オレ…何がいけなかったんですか?
オレ…オレ、本当にアイツの事…考えて…思って…学校に行かせて…。
立派になって欲しいって…思って…」

その後の言葉は…慟哭に飲み込まれる。

人は…失わないと、間違いに気づかない…モノなのだろうが。
それにしても…だ。

「マスター…オレは…確かにライラさんが好きでした…。
でもそれ以上に…シュレンソさんが…前マスターが好きだった。
路地裏で…野垂れ死にしかけていたオレを…自分の家に入れてくれて…。
あったかい飯を出してくれて…。
色々仕込んでくれて…。
今のオレがあるのは…全部シュレンソさんのおかげなんですよ…。
だから…オレはシェッツを本当に可愛いと思ってましたよ…」

「わかってる!!」

ここで初めて…ラディルスが口を開いた。

「オレだって…義兄さんや姉さんが望んだように…、アイツだけは真っ当に行きて欲しかった。
何でこうなったかだって?
オレにだって、分からねぇよ!!」

その叫び声はかなりのモノだったから…。

「本当にわからないワケ?」

ちょうど…地下牢に来た私達にも聞こえた。
ギリアム・私・フォルト・フィリー軍団…。
口を開いたのは、私だ。

「シェッツの件…私の知り合いの女性で、よく似た話を聞いたから、ちょっとしてあげる」

私の声は…非常に冷たかったと思う。

「その女性の親はね…その女性をとてもかわいがっていたの。
自分たちの寝食は二の次で働いて…その女性の為に、綺麗なドレスや宝石を買い与えた。
立派な淑女になるための教育もしっかりして…、周りはみんな…その女性を羨ましがった」

「でもその女性は…一度も親に感謝したことは無いそうよ」

「!!?」

「その女性の親は…成人間際に亡くなったそうだけど…。
もう50近いその女性は…一度も親の墓に詣でていないし、今後行く気もないそう…。
どう?
シェッツの例と…似ていると思わない?」

まあこれ…今世の知り合いなんかじゃ、もちろんない。
前世の私の親のこと…この世界に合わせて、若干設定を変えただけ。

「なぜ…その女はそこまでしてもらって、親が嫌いだったんだ?」

…ラディルスの声は…ホントはもう、答えがわかっているように…聞こえた。
でも…信じたくないんだろうなぁ…。
自分の大切な人が…別の大切な人たちを憎んでいて…無残に殺した…。
その原因が自分たちにあるなんて…認めたくないよな。

「……その女性の親はね…その女性が美しく着飾って、いい男を捕まえて、結婚すること。
女性の喜びと幸せは…それしかないと決めつけた」

「でも…そうじゃなかった」

「その女性の夢は…自然豊かな所で、動物に囲まれて…生き物に触れて暮らすこと。
その上で結婚出来ればいいけど…、もしも結婚できなければ、それはそれでいいと思ってた。
そして…ドレスや宝石で身を包むより、動きやすい服で運動している方が好きだった。
わかる?」

「女性の親が与えたものは…大半、女性の欲しくないものだった。
必要のないものだった。
極めつけは…」

「女性がそれを…いくら訴えても、親は聞かなかった…。
訴えを退け、自分たちが、なって欲しい姿を…押し付けた」

「シェッツ程…過激な事をする奴は、そうそういないだろうけど…根っこの部分は同じよ。
たとえどんなに、その人間の事を思っての事だったとしても!!
自分の声を…存在を無視された…。
本人がそう思ってしまったら…、それは本人の中に、憎しみしか宿らせない。
大抵…ね」

「じゃあどうすればよかったんだよ!!」

ラディルスが…鉄格子を勢いよく激突するように掴み、

「アイツを人殺しにすればよかったのかよ!!オイ!!」

私に迫ってきた。
私の答えは…。

「そうよ!!」

これだ。
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