ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

2 非情なる答え

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「なん…だと…」

さすがにラディルスがひるんだ…。

「あのさ、一口に人殺しって言うけどさ。いろんな種類があるの、私なんかよりアンタらの方が
よく知ってるでしょ?」

「傭兵しかり、暗殺者しかり…。
それに…どう考えても理不尽な殺しもあれば、殺されて当然のヤツを殺す場合もある。
ああ、地下闘技場の剣闘士だって、それに入るわね。
あれ…人殺した方が、観客が盛り上がるって言うし」

「その通りだ。
地下闘技場の剣闘士は…対戦相手を無残な殺し方をする方が、人気が出る。
皮肉な話しだ。
だが…シェッツには適任だったと思うぞ?
自分の両親を…笑いながら殺せる奴なんだから」

ギリアムが…補足してくれた。

「フザケンナ!!それが救国の英雄様と聖女様の言う事かよ!!」

鬼面の表情で必死に怒鳴ってくるが、私の頭は…。
聖女なんてもんじゃないし、なりたくもないんだけどなぁ。
私が思っていると、

「お前たちの件の…少し前にな。地下闘技場を検挙したんだ」

唐突にギリアムが、

「大抵の剣闘士は…無理やり連れてこられて、やらされている奴だったから…感謝されたのだがな」

「2人ほど…感謝どころか、自分は…別の所に移るから、それが嫌なら殺してくれ…と、話した
奴がいたそうだ。
自分は…人を殺さねば生きられない。
もう…生まれつき神に…そう作られたとしか思えないんだと…」

つらつら述べる。

「シェッツの親も、お前たちも…ある意味マトモな人間だ。
せめて…シェッツだけでも、マトモな世界で生きて欲しい…。
これは…親という生き物が、多かれ少なかれ…思う事だろう」

「だが…大きな間違いが一つある。シェッツの気持ちを無視した事だ。
シェッツがどう生きたいのか…。
それとお前たちがどう生きて欲しいのか…。
この折り合いを付けようとせず、ただ自分たちのいいと思うものを押し付けた。
だから…私はシュレンソとライラがああなったこと…同情はせん。
シェッツが何も言わなかったならまだしも、ずっと訴えていたのだろう?
自分は…裏社会で生きたい…とな」

「その訴えを…裏社会で生きるお前たちの誰も、聞いてくれなかったから…」

「シェッツはジョノァドという…史上最悪の悪魔の手を…取ってしまったのだ」

ギリアムの顔は…本当に無表情で、感情が読み取れない。
まあ…彼らに同情する気が無いんだろうなぁ…。
私もだ。
どんなに周りがいい言っても、決めるのは本人なんだ。
それに…真っ当に生きている親が言うならまだしも、真っ当に生きろって言った人間が、
ほぼ全員、真っ当な生き方してないんじゃなぁ…。

「もうこの際言うがな。
そもそもシェッツを虐めるところから…ジョノァドの策略だったんだ」

「え!!そうだったんですか!!」

初耳だぞオイ!!驚いたぁぁ!!

「ああ…私は…当主になったらできるだけ早く、ジョノァドを追い出したかった。
だから…ジョノァドの犯罪の記憶は、なるべくしておきたくてね。
父が死ぬ1年ほど前…話していたのを聞いたのだ」

「当時…シュレンソとライラのギルドは…度々父の邪魔をするような仕事を、請け負っていた。
ただ、だからこそ…その手腕をジョノァドは買っていたんだろうなぁ。
父に…一計を案じたのさ」

「民間学校に枝葉を入れ、シェッツを痛めつけさせた。
そして少しでも抵抗を見せれば、これだから犯罪者の子供は…と、先生に言わた。
結果として親は…シェッツに勉強して偉くなって、見返せ…としか、言いようがなくなった。
これで、シェッツ自身の反撃は封じだ」

「次に…いじめをエスカレートさせた…。
これによって…シュケインが、子供に脅しをかけたのさ。
そうだろう?」

シュケインを見れば…あっけに取られて言葉が出ない。
これだけで、真実と言っているようなものだ。

「先生に脅しをかければ、今度こそシェッツが民間学校を追い出されるかもしれない。
子供だったら、ちょっと脅せば、黙ると思ったのかもしれんが…。
ジョノァドは、当然それを読んでいた。
いや、そうするように仕向けたのに、貴様が乗ってしまったのさ」

「そして…シュレンソとライラが…また学校に呼び出された。
そこには…父の配下ばかりで固められた、王立騎士団員達が配備された状態でな…。
お前に脅された子供の親たちは…一様にこういった。
自分の子供が…お前に酷い暴行を喰らって、重症だ…とな」

「そ、そんなの嘘だ!!少し言葉で脅したら…もういじめないって言うから、解放した!!」

シュケインは訴えるが、

「そんなのはいくらでも、捏造可能だ。
シュレンソとライラは…シュケインに確認を取りたいと言ったが…。
父の手下たちは…直ぐに逮捕に行く、抵抗するなら殺すこともやむなしだから、そう思え…と」

なるほどね…そうすると、いくらでも難癖付けて、殺せる…。
そもそも裏社会で生きているなら、そうなること、日常茶飯事だってわかるし。

「結局シュレンソとライラは…シュケインに手を出さない事と、シェッツを今まで通り学校に
通わせてもらう事を条件に、逮捕され…私兵となった。
まあその後は…おおむねシェッツ本人が、お前たちに言った通りさ」

「最も…ジョノァドもあそこまで、シェッツが使える人間だとは思っていなかったようだ。
本当に、シュレンソとライラに言う事を聞かせるために、さらったんだろうが…。
父に言っていたよ。
子供の方が…仕込めばよっぽど使える…。
自分の私兵にさせて欲しい…とね」

「……本当に、悪だくみにかけては、下手な裏の人間より、よっぽど才能ありますね…」

感嘆したくないが、せざるを得ない…。

「その通りだ…。そして、表の身分も高いから、さらに厄介にしている。
学校の先生たちや、生徒の親たちを…意のままに動かせたのは、その高い身分と…。
ジョノァドが常に腰を低くし、接していたからだ」

「あ~、やっぱりその辺は間違わないし、力があるんですね」

「当たり前だ。
ジョノァドはおべっかで、父の最側近になったんじゃない。
その有能さで抜擢されたんだ。
必要とあれば、心の中でゴミと思っている人間に対しても、平身低頭ぐらいするさ」

まあ確かに…。
私と初めて対面した時だって…、一応の礼儀は払っていた。

「なんだそりゃ!!フザケンナ!!」

ここで…震えながら…、シュケインが立ち上がる。

「そもそもお前が、ジョノァドなんて怪物を、放置したのが原因じゃねぇか!!
危険性がわかっていたなら、なぜさっさと始末しなかったんだ!!」

シュケインにとっては…耐え難い、到底やりきれない真実だったのだろう。
だからこのセリフが出た…。
それはわかっていた。
頭では…。
しかし…。

「テメェこそ、ふざけんなぁ―――――――――――――っ!!!!!」

私は…ブチ切れた、本気で!!
相手を最大限に威嚇しようとする動物のように…、息を荒くして、涙を溢れさせた目で、
目一杯睨んだ。

「テメェは今!!
何言ったか、わかってんのか!!
ギリアムがいくつだと思ってるんだ!!
シェッツと歳、変わらないんだぞ!!
お前の両親が捕まったころ…ギリアムはほんの子供だったんだ!!
しかも…味方が殆どいなかったんだ!!
生き残るのに、必死だったんだ!!」

私は、息を吐き切って、空っぽになった肺に、ありったけの空気を吸い込んだ。

「だいたい人を殺せば、相手が悪人でも、罪に問われるだろーが!!
幼い子供に、んーなコト要求するなんざ、どうかしてる!!
ジョノァドと一緒だよ、テメェは!!」

私は…いつの間にか前に出ようとするのを、止めるギリアムの腕を抱きながら…大泣きしていた。

「フィリー…ありがとう…でも、もういい」

ギリアムのその声を聞いて…私はようやっと止まった…。

「ご当主様…今すぐシュケイン…処刑していいですか?」

代わりに出てきたのは…スペードだ。
仮面を被っているからこそ表情は見えないが…、氷の張った湖の下に、マグマを湛えている…。
そんな様子が体から、にじみ出ている。

「12歳の子供に、殺人を強要するような奴…奥様がおっしゃったように、ジョノァドと同じ
利己的で、残忍極まりない非人間です。
生かしておく価値、なくないですか?」

一瞬止まったギリアムは…、

「そうだな。
こいつ等の処置は、こちらに一任すると言われているからな…」

興味なさげに、吐き捨てた。

「んじゃ、許可も出た所で…」

スペードは仕込み杖を抜き、シュケインの檻の方に近づいて行く。
檻は一人一つになっていて、広さもそんなにないから…逃げ場はなかった。

「ま、待ってくれ!!」

鉄格子に体を張りつけるように出てきたのは、ラディルスだった。

「も、申し訳なかった!!アンタのやったことがあまりに凄すぎて…。
たまにアンタの実年齢を忘れちまうんだ!!」

まあ…これは結構な人数が、そうなんだよね。

「シュケインに…いじめてくる子をちょっと〆てやればいい…そう言ったのはオレなんだ!!」

ありゃまぁ。

「だから…オレが全部…悪いんだ…。お前は…悪くない…シュケイン…」

シュケインと共に…ラディルスの嗚咽も混じり始めた時、

「なあ…アンタらは…ジョノァドと戦うんだろう?」

レグザクが…ベッドの上から言葉を発した。

「オレも仲間に入れてくれよ!!あいつだけは!!
絶対に苦しめて殺してやらねぇと気が済まねぇ!!
頼むよ!!」

「オレもだ!!その後だったら、どんな処罰も処刑も受ける!!」

「ボクも加えてください!!」

3者3様の激しい願いが…矢のように撃ち込まれるのを感じる…。

「ギリアム…」

私は…当初の予定通りにしては…と、耳打ちした。
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