ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

3 証拠品の管理

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ラディルス達の件が落ち着いたころ…。

「ご当主様…例の証拠品…オレ以外にも管理を担当させますか?」

唐突にジェードが聞いてきた。
ああ、そう言えば…すっかり忘れていたよ。
事後処理が大変過ぎて…。

「そうだな…どの道、あの証拠品の存在は…あまり使用人には明かしたくなかったから、
むしろちょうどいいか…」

ギリアムもオッケーしてくれた。

「じゃあ、みんなを呼んできましょう」

改めて、フィリー軍団勢ぞろい。

「まあ…少し落ち着いたから、例の証拠品…キミらにも管理を手伝ってもらう事にした」

「あ~、あの例の、奥様に無礼を働こうとした…」

何だかみんな、怒っている。
複雑だなぁ…だって…。

「う~ん、でも私は…牢屋に入っている時、初めて顔を見たから…。
あんまり無礼だとかの意識は、無いのよね~」

本当なんだよ…。
私の腕を掴んだ、近衛騎士はまだしも…ね。

「具体的に、何をしようとしたんですじゃ?」

ジョーカーはまずそこ…と言いたいのだな。

「ん?私を強姦しようとしたみたい」

あ……空気が変わった…。
良かったなぁ…こういうこと、嫌いな連中で。

「大丈夫だったんですか!!奥様!!」

「奥様!!」

うぉっ!!凄い勢いで詰め寄られた。

「だ、大丈夫!!ジェードが速やかに確保してくれたから!!」

「そうでしたね、奥様…」

ジェードがいきなり出てきて、頭を差し出す…。
大人しくなでてあげた。
……本当に、嬉しそうに撫でられるなぁ…ジェード…。

「まあ…ジェードは会ったことが無い人間だったようだが、調べたら、アジトの場所を吐いたのでな。
事務所ごと確保して、書類一式も全部こちらにある…。
王家に対して要求する時のネタとして、取ってあるのだ」

「なるほど…。
書類を拝見しても?」

「何か…気になることでもあるのか?ジョーカー」

ギリアム…不思議そうだ。

「いえ…取り越し苦労なら良いのですが…、この年まで裏社会で生きて来ると…どうにも
勘繰り深くなるのです」

少し考えつつも、

「わかった…フォルト!!」

指示を出す。
もうみんなを…仲間と思ってくれているんだなぁ…本当に…。
私は…それを思うと、胸が熱くなった。

「こちらに…」

フォルトが持って来た書類の束…袋に入っていたのだが…開けてみると…。

「こ、これは…っっ!!」

なんと…書類がボロボロの状態になっている…。
文字が…殆ど読めない。

「なぜボロボロなんだ!!誰かにすり替えられて…」

「あり得ません!!
書庫の隠し扉の中…ギリアム様と私しか知らない所に、保管してあったのですよ!!」

フォルトもかなり…慌てている。

「すり替えられたのではありませんよ」

ジョーカーは…ボロボロになった書類をじ…っと見ながら、

「虫…ですね。おそらく…」

言ったのだが、

「バカな!!完璧を期すために、虫干しは必ず行っている!!」

だよね…。
ギリアムの徹底主義を考えればね…。

「通常であれば…それで大丈夫でしょうが…。
最初から虫を紙に仕込んでおけば…いくらか生き残ることもありえます…」

「なぜだ!!最初から書類を破棄するつもりなら…わざわざ書かせる意味が無いだろう!!」

ジョーカーは顎に手をあて、少し考えたが、

「虫は…一定の条件がそろわないと、孵化しません。
特に寒い時は…。
そんな状況を作れるところに保管すれば、書類が損なわれることは無いのです」

「つまり…ファルメニウス公爵家にある、冷蔵室のような所に…ってこと?」

「そうです」

ギリアムが…頭、抱えちゃったよ…。
痛恨のミスだよね…これ…。

「ギリアム…そんなこともあると…わかっただけ良かったじゃないですか」

私は…精一杯慰めようとしたが、ギリアムは動かない。
黙って頭を撫でるぐらいしか…できないなぁ。

「ご当主様…、ひとまず、証拠品を見せてくれませんか?」

ジョーカー、やっぱり冷静だなぁ。

「ギリアム…行きましょう。手がなくなったわけではないです…きっと」

証拠品の入った塔…。
仕掛け扉をフォルトが開けると…そこには地下へと続く階段が。
蝋燭の明かりを頼りに、闇の底に到達すると…。
フォルトが燭台の蝋燭に、火を灯してくれた。

ぼんやりとした光の中…浮かび上がる牢の姿…。
暗く湿った石畳を…幾重にも積み重ねて出来上がった強固な姿は…入った物を二度と
外へは出さない…。
そんな、確固たる自信に満ちているようだ。

数はそんなに多くないが…その中腹に、証拠品はあった。

「誰だ…」

無機質な問い…。
横たえた体を起こし…僅かに問う。

天井は…真ん中がくりぬかれたように穴が開いている…。
天窓だ。
太陽光が僅かだけ入る仕組みに…なっているあたりは画期的と言えるだろう。

証拠品…と、呼ばれている3人は…それぞれが無機質で…暗い声を出す。

「お前たちに…確認したいことがあってきた…」

ギリアムのはきはきした言葉は…

「もうすべて…話した…」

彼らの無気力な言葉を、余計際立たせる。
だが、唐突に…。

「クッ、クククッ…」

笑い出した者が…。
私が驚いて振り向けば…それはスペードだった。

「どうした?」

ギリアムにもわかったようで、少し不快気に振り向いた。

「ご当主様…。
こいつ等が吐いた本拠地って…××地区の、〇〇って建物じゃなかったですか?」

するとギリアムはピクリとし、

「よくわかったな…」

「ええ…こいつ等の顔…見覚えがあるんで」

スペードはギリアムの横を通り抜け、鉄格子の前まで行くと…。

まるで柔らかいパンでも切るように、すっぱりと鉄格子を切り刻んでしまった。

「な、なんだ…」

その様のあまりの異様さに…中にいた証拠品が後ずさる。
スペードはその腕を掴み上げ、肩に足を置いたかと思ったら、その肩口の服を…
引っぺがした。

「見えますか?ご当主様…」

その肩には…刺青が。

「こいつ等はねぇ…肩に刺青を入れるのが、慣習なんですよ。
それから…ご当主様にゲロした場所は…ダミーです。
本拠地はちゃんと…他にありますよ」

「な…何を言って…」

無気力な男の言葉に…初めて力がこもった。

「その様子だと…真実のようだな」

ギリアムは…さすがに犯罪者を日夜相手にしているだけあって、僅かな変化にすぐ
気づいたようだ。

「オレに…オレたちに行かせてください、ご当主様…。
見事にこいつ等の親玉を…締め上げて御覧に入れましょう」

すると男が…、

「テメェ…その声…どっかで聞いたことあると思ったら…。
スペードか…」

「そうだよ…久しぶりだなぁ…。
相変わらず、下種な仕事を引き受けているみたいだなぁ…」

「いつの間に貴族の犬になりやがった!!」

「あ?そういうテメェはギルドの犬だろうが!!
それも下種い犬のな」

ここでスペードはジェードを見て、

「どうだよ?ジェード…」

「なんだ?」

「目が見えるってのも…便利なものだろう?」

随分と挑戦的だが、ジェードは少し笑って…

「確かに…」

とだけ。

…仲良くしてよぉ~、頼むからさぁ。
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