ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

文字の大きさ
38 / 44
第5章 処罰

4 ギルディスの言葉

しおりを挟む
フィリー軍団は…見事に敵の、本当のアジトを急襲し…証拠品を抑えてきた。
虫を仕込んでいない契約書を抑え、アジトは…一斉検挙。
ギルドマスター以下、主要幹部は全てお縄になった。

「ご苦労だった、フィリー軍団!!」

ギリアムは…とってもホクホクだ。
私も鼻が高い。

でも…新年最初の月が、こんなに慌ただしく、過ぎ去るとは…。
全ての避難民が出ていって…気が付けば2月も半ばに入ろうって所になった。
身分が高いのも、いいことばかりじゃないなぁ。
まあ、覚悟してたけどさ。

「それじゃ、みんな!!
お疲れ様の意味も込めて、今日は内輪でパーティーやりましょう!!」

「さんせ~い!!」

皆大はしゃぎ。

「お兄ちゃ~ん、お姉ちゃ~ん」

遠くから、ギルディスが走ってきた。

「お仕事終わり?」

「ああ、みんな終わった」

「じゃあ、あそぼ!!」

「いいぞ」

ギリアムは…とってもご機嫌だ。
ギルディスも…ようやっと避難民が出て行って、外で遊べるようになったので、嬉しそうだ。
寒いとはいえ…ずっと狭い所に閉じ込められていたから、駆けまわれるのが嬉しいのだろう。

いつかギルディスも…もっとたくさんのモノを、経験して欲しいなぁ。
出来れば…友達とかも作って…。

「変な奴いなくなったから…もう大丈夫だね」

これを聞いたギリアムが…、

「……感じていたのか?」

と。
シェッツの事だろうか…。

「うん、なんとなく…。
ボクと…同じことできるような奴がいるな…って。
倒そうかと思ったけど、おにいちゃんもおねえちゃんも、お外出ちゃいけないって…。
でもね、おにいちゃん!!
今度からおにいちゃんのいない時は、ボクがおねえちゃんを守るよ!!
だから安心して!!」

拳を握って、眼をキラキラさせて…、純粋なんだなぁ。

「そうか…」

ギリアムは、ギルディスの頭を撫でつつ、

「キミは…あんな目に遭ったのに、いい子だな」

「うん!!」

何だか…微笑ましいなぁ。
兄弟だけど、親子みたい。

「ギリアム様、奥様…」

そんな中、フォルトが来た。

「輸送は滞りなく、終えて参りました」

「ご苦労様…」

輸送…ラディルス達だ。
結論から言えば、ラディルス達は…イシュロと同様、エトルの下につけた。
イシュロたちはあまり、戦闘が得意ではない。
そこを補うために、どうか…と。

双方の話や、条件がまとまったので、ひとまずそちらに送った。
あとは…彼ら次第だ。
近衛騎士団の補充は…災害があった故、一時中断したが、落ち着いて再開したそうだから、
ひとまずそちらは様子見。

一番気になっていた、ラスタフォルス侯爵家の動きは…今の所無いから、それも様子見。

平和が一番だから、いいんだけどね。

「フォルト…。避難民が無事出て、色々な件が落ち着いたから…ひとまず内輪でパーティー
やることにしたわ」

「それは…良いですね」

フォルトも…純粋に笑ってくれた。
内輪だけのパーティーだから…ってことで、私やギリアムも用意を手伝った。
使用人たちは、恐縮してたけど…たまにってことで。

できるだけ話しをしたからこそ、力を…しっかり見せたからこそ、最近は…フィリー軍団に
対しての、妙な空気は殆どなくなった。
皆は敏感に察知できるからこそ、それがわかったようで、

「楽しいです~、奥様!!」

「オレら、ここに来れて、良かったです!!」

「一生ここに、いさせてください!!」

口々に…言ってくれた。
ひとまず…これでいいかな…。

永遠なんてものがない事は、わかっている…。
でも…永遠にこんな日が続くといいな…。
私はそう願わずには、いられなかった…。


--------------------------------------------------------------------------------------


その場所は…町の一等地にある、雑居ビル…といったところだろう。
だが…雑居ビルとはいえ、仮にも一等地。
中は品のいい調度品が並び、勤め人だろう人々も、パリッとしたスーツに身を包み、
平民でも…高い教育を受けた人々なんだと、一目でわかる。

その…事務所のような場所には、さらに奥へと続く扉がある。

中は…クライアントと話をするための場所…、そう見て取れる。
対面式の…高級感のあるソファーが中心にデンと構えているし、下にひかれた絨毯も、
細い糸で美しい斑紋を紡ぎ出している、まさに芸術品だった。

ソファーには…対面で人が座っている。
1人は男性…50代くらいで、きらびやかさはないが、ノリのきいたスーツに身を包んで
いる。
手には書類を持ち、眼鏡を時折直しつつ、一枚一枚確認している。
その脇には…秘書と思しき女性。
それと対するように…座っているのは、全身がフードに包まれているため、男か女かも
わからない。

やがて…書類の全てを確認し終わった男は、静かに机に置くと、

「この状態では…とても救い出すために…と言う名目で、訴えるなど不可能ですよ」

首を振る。

「な、なぜですか?過去…私兵に酷い扱いばかりを、していた家なのですが…」

「まず…代替わりしている…と仰いましたね。
その場合…先代のモノよりも、当代でどうか…が見られます。
当代での扱いを見る限り、問題なければ無理です。
この医者の診断書を見る限り…しっかりと人間の扱いをしている事がわかりますからね」

「酷い扱いをされている私兵と認定されるための要項は、いくつかありますが…。
まずは健康状態が悪い事、あきらかに休息を貰えていない状態である事。
これは大前提です。
そして…日常的な体罰があれば、なお良し…という所ですね。
どれもない…では、無理ですよ」

「し…しかし!!裁判を行っていないのですよ!!
それなのに罪人と認定してしまうのは…」

「本人たちが自供して、認めれば可能です。
その後しっかりと人間の扱いをしていれば、恩赦兵としては問題ありません」

「何とか…保護する名目をたてられませんか?」

フードの人物は…どうしても諦めがつかないようで、ぐいぐいと身を乗り出している。
男は、静かにため息をつきつつ、

「アナタのお勤めの家が…そうとは言いません。
しかし…一部貴族にはいるんですよ。
恩赦した私兵が、思った以上に役に立つのを見て、不当に奪い取ろうとする奴が。
そう言った輩を私は…それなりに見てきましたのでね。
しっかりと管理しているにもかかわらず、下手な横やりを入れては、逆に名誉棄損訴えられますよ。
ひとまず…どの家の私兵かはわかりませんが、諦めた方がよろしいかと」

すると…暫く微動だにせず、佇んでいたフードの人物は…。

「一つ…確認させていただいても?」

「……いいですが」

男は…諦めの悪い人間には慣れているのか、普通に対応している。

「そもそも…私兵に嘘をつかせている可能性は…法律上どうなっているのでしょうか?
劣悪な環境でも、それを見せないように…。
もしくくは、その家から出ていきたいと言っているのに、それを認めないなど…」

すると…眼鏡の男はちょっと怪訝そうな顔をして、

「それは大変難しいです。何らかの形で、私兵とコンタクトを取り…確認するしかありません」

「家が…隠してしまっていたら?」

「我々弁護士であれば、ある程度は間口を開きます。
家のパワーバランスにもよりますが、上位の家の要求なら、のむことは多い」

「低い家では難しいと?」

「まあ…断れば何か…やましい事があると言われてしまいかねないので、開くところは開きます。
その家の…潔さが重要になってくる」

「い、潔さなら、恐らく国でトップかと…」

「なら…会うには会えると思いますよ。
もっとも会えたとしても…私兵の心を開かせるのは、容易ではありませんがね」

「でしたら…それで行けると言う事ですね」

少し…上ずった声になる。
まるで…会う事が出来るなら、何とかなるとでも言いたげだ。

「過去確かに、そう言った事例があるにはありますが…」

「わかりました、ありがとうございます!!」

フードの人物は、書類を持ち、すぐさま部屋を出てしまった。

「大丈夫なんでしょうか?あの方…」

秘書が心配そうに見ている。

「まだ…一番大事な注意事項があると言うのに…」

眼鏡の男も、額に手を当て、

「まあ…相談したいと持ちかけられただけで…正式に依頼されたわけじゃない。
正式に依頼して来たら…再度注意すればいい。
だいたい…散々聞いたのに、どこの家の私兵かも言わないし…
せめて爵位の上下だけでも…と言っても、言わないし…」

本当に呆れている。
客用のポーカーフェイスは剥がしたようだ。

「そうですねぇ…。
そもそも爵位が上か下かで、全く違うアドバイスになりますし、どこの家に対して行うか…
によっても、またやり方が全く違うんですがねぇ…」

秘書も…呆れているよう。

「でも…前年の秋から、依頼が急増しましたね…。
ウチとしては、ありがたいんですが…」

「まあなぁ…」

「秋に…オルフィリア公爵夫人が、己を襲った罪人を恩赦して…私兵にしましたからね。
それから…変に真似して、トラブルになる人が増えましたよ…本当に…」

「本当だ、全く…。罪人を恩赦して私兵にする場合は…。
絶対的に人を見る目が無ければだめだし、何かあった時に、抑えつける力が必要だし…」

そんなに甘いことじゃない…。
そう言いたげに、また言葉を紡ごうとした時、

「失礼いたします」

別の職員が入ってきた。

「あの…お手紙が届いております」

「緊急か?」

「いえ…そうではございませんが、オルフィリア公爵夫人からでして…」

「なに!!」

眼鏡の男は…急いで開け、眼を通すのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...