ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

5 私兵についての諸々

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「この度は…私などの面会要求にこたえていただき、ありがとうございます!!」

そう言って、深く平伏するのは、眼鏡の男…。

「わたくし、名をバートンと申します」

「存じておりますわ。
平民ですが奨学金を得て、法科大学を卒業…その後、弁護士となり、主に…恩赦兵や
私兵に関する裁判を担当されていらっしゃるのでしょう?」

私が言えば、

「さすがに…、ファルメニウス公爵家でございますね…」

「お会いする方の身辺調査は、当然致します。
ちなみにそちらの秘書の方も…クォモナさんと仰って、やはり法科大学を卒業後、
バートンさんの事務所で…秘書を務めつつ、弁護士の勉強中と聞いております」

秘書の女性も少し驚いたみたいやけど…、やっぱりファルメニウス公爵家なら当然と
思ったみたいね。

私は…今日、ファルメニウス公爵家で、少し前に受け取った嘆願書を読み、会う必要が
あると感じていた。
ただ…目まぐるしい忙しさに、なすすべなく今になってしまった。

「申し訳ございません…。色々ありすぎまして、面会が今になってしまって…」

私がちょっとすまなそうに言えば、

「とんでもないです!!災害救助は何より優先!!
沢山の人を助けてらっしゃる、オルフィリア公爵夫人に何も言う気などございません」

おべっかとかじゃなく、本気なのが嬉しいね。
ここからは…真面目な話。

「私が…秋に恩赦して私兵にしたこと…波紋を呼ぶとは思っておりましたが、やはり…
そちらにも大分及んだようですね」

どこにでも…推しをまねる、ミーハーはいる…。
でも…。

「困りますね…。ドレスや宝石、小物など…物をまねるのとは、訳が違う。
対象が人である以上…様々な問題を生じてしまいます」

「仰る通りです」

そうそう、訴えを聞く前に…。

「私の恩赦兵と…お話をしたい…とのことでしたね。
せっかくですから、私兵6人、全員とお話しませんか?」

「よろしいのですか?」

これは…ちょっと驚いているな…。
まあ、包み隠す人、多いんだろうなぁ。

「ええ。ファルメニウス公爵家は、包み隠す気はございません。
逆に…30年という長きにわたり、私兵の裁判で、様々な人やパターンを見てきた…
バートンさんの率直な意見が、お聞きしたいです」

極上の笑顔を向けたら、少し緊張を解いてくれいた…。

さて、面接開始。
面接は…しっかりと見定めてもらうため、私の同席はなし。
まずは…スペードから。

席に着いたスペードは、

「まず…仮面を外しますけど…思った事、言っていいですよ」

そう言って、仮面を外す…。
クォモナは少し引いたようだが、バートンは、

「その傷は…ここ最近のモノではありませんね…。
10年以上は経過していそうだ」

顔色を変えることなく、静かに答えてた。

「よくわかりましたね」

「そりゃあね…。30年間色々見てきましたから…」

スペードは…私を襲う事になった経緯や、ファルメニウス公爵家に来た時のこと、
私が…最終的に恩赦して私兵にしたこと…ジョノァドの事は避けつつ、かなり正確に話した。

「この顔はね…子供のころからなんですよ。
随分とそのせいで、辛い目にもあいました。
それでも…自分が頑張れば、いつか認めてもらえるとも思っていた…。
でも、現実は甘くなかった。
もうすっかり…人間として扱われることなんて、諦めたころ…人間として扱ってくれる人間が
現れるなんて…皮肉なもんです。
でも…オレはここにきて…ここに居られて、とても幸せですよ。
ぜったに離れたくない…だから、日夜頑張っています」

「なるほど…」

こんな形で、スペードの面接は終わった。
次はダイヤだ。

「まあ…スペードと少し被りますけどね…。
オレも親に捨てられて…この世界に入りました。
仲間は信頼できるし、家族みたいなもんだから、良かったけど…。
オレらみたいなのの扱いは、酷いもんですよ。
どうせマトモな死に方は出来ない…そう思っていましたが、それにしたって…って思うくらい、
ゴギュラン病は苦しかった。
そこから救い出してくれたのが…まさか2度も襲った人間とはね…。
しかも…最初っからまるで…、襲われたことなんかなかったみたいに、大切にしてくれた。
人間の扱いはもちろん、信頼してくれて…武器も最高のモノを用意してくれて…。
ちょっとでも怪我したり、具合が悪そうだと心配してくれた。
ここは最高ですよ!!オレは…死ぬまでここに居たい」

次はクローバ。

「オレは…難しいことはわからないです。
昔っから…頭悪いんで。
でも…それでバカにしてくるような事、奥様は一切しない。
いつも…いい所を見つけて褒めてくれて、ダメなところは少しずつやっていこうと言ってくれる。
今まであった人間の中で…一番身分が高いのに、一番優しくて…。
なにより同じ人間として、接してくれる。
オレは…これからも奥様に信頼してもらえるよう、頑張るだけです」

ハートは…。

「アタシは…まあ、よくありますけど、親に娼館に売られたんですよ。
それだけで…酷い人生を歩むこと、決定したようなものだったし、実際そうでしたよ。
文字の読み書きより…男の相手をする技術を…学ばされたから。
それで…病気になったら、ごみを捨てるみたいに、追い出された…。
運よく拾ってもらえたけど、他に出来る仕事もないし、仲間と仕事したり、食い詰めたら娼婦
やったりで…何とか生きてきた。
人生にそもそも、光があること自体知らなかったし、分からなかった。
それを…教えてくれたのは奥様です。
アタシが娼婦をしている…って言うと、大抵の人間は眉をひそめるか、発情するか…。
でも奥様は…ありのままを受け入れてくれて、普通に接してくれている。
そしてアタシらみたいなのが、できるだけ幸せになれるように…って、日夜考えて、法案作ったり
慈善事業したり…。
タダのふりじゃないって、傍で見ているからこそ、よくわかる…。
アタシは…死ぬまで奥様のそばに居たいです」

ジョーカーの番。

「アナタは…これが何だか、分かりますか?」

己の腕をまくって見せる。

「……罪人の刺青…。でもそれは、本人ではなく子供に彫られるものだ」

「やはりよくご存じですね。
だったら…わしの人生は、あまり説明しなくてもわかるでしょう。
自分のした罪でもないのに、闇に追いやられて、卑下されて…だからこそ頑張ろうと踏ん張った
時期もありましたが…上手くいかなかった。
それでも非道な人間にはなりたくなくて、子供を拾って育てて…でも、その子たちは、断頭台へ
行かなければならない罪を負ってしまった。
でも…本来なら…一番何の手も差し伸べてくれないハズの人間が…助けてくれた。
助けてくれただけでなく、人間の扱いをしてくれた。
だからわしは…戻ろうと思った。
忘恩の徒になるくらいなら、血反吐と泥まみれになって、死んだ方がマシだから。
命ある限り、ここにいて…恩返しがしたいのです」

トリはジェード。

「オレはまあ…他の奴らとは、やって来た経緯がちと違いますがね。
でも…人生史は似たり寄ったりですよ。
この目だから、マトモな職は無いし…、やれることをやっているうちに、暗殺者なんぞになっていた。
それに何一つ…後悔はないけれど。
闇に生き…闇に死ぬ…。
それがオレの人生だと、もう早い段階でそう思ってた。
それなのに…。
事実は小説より奇なり…なんて言葉が、まさかオレの人生にやってくるとはね。
オレはね…自分の楽しみが一番だから、楽しくない所からは、直ぐにお暇します。
そのオレが…一生ここにとどまりたいと思う…。
これだけで、ここの良さがわかるでしょう?」

全員の面接が終わった後、私は再び応接間に入り、

「ご所望にあった、医療施設での健康診断の結果は送りましたが…、場合によっては、そちらの
指定の医師に見せることも、了承いたしますので…」

「いや…どうやら必要ないようです」

バートンさんは…随分と穏やかな顔で、私を見ている。

「私は…30年この仕事をやってきましたが、その中でもトップクラスですよ。
アナタと私兵の信頼関係は…」

「私兵を手なずけて…死ぬほどこき使う人間を、随分と見てきましたがね。
アナタは…私兵があまりやりすぎようとすると、必ず止める…と、皆が言っていました。
体を大事にするように…とね」

「それは…当たり前では?
しっかりとしたパートナーシップを取れない人間を、そもそも私はそばに置く気は無かった。
信頼して欲しければ、信頼するべきだし、私を大事にしてくれているからこそ、私は大事にした…。
それだけの事ですよ」

すると…バートンさんは少しだけ口を持ち上げ、

「それが…わかっていない人間が、あまりに多いんですよ…」

ちょっと諦めも入った…寂しそうな笑顔だった。

「では…改めてお話をしましょうか…?
どう言った問題が起きているのですか?」

すると…バートンさんの顔が引き締まり、

「まず…罪人を恩赦して、使用人にするのはいいのですが…、やはり盗みや…物が壊れる…
などの時に、その使用人が真っ先に疑われます。
それ以外にも…罪人に変わりはないから、罪状によっては、一緒に居たくない…などの使用人からの
声もあがって…」

ここで私は…ちょっとピキッときて、

「あの~、その貴族の方々って、アカデミー出てますよね?
まず…恩赦しても罪人であることが、帳消しになるわけではありません。
罪状によっては、使用人がものすごく不安がり、怖がるのは当たり前。
私は…彼らを信頼していましたが、最初のうちは長い時間、本宅に滞在させなかったし、
私のそばから絶対離しませんでした。
その上で…同じ目線で、使用人と何度も話し合いました」

「それに…盗みや物が壊れる…これは、恩赦した人間がやっているのか、それとも…使用人が
憂さ晴らしや…追い出すためにやっているのか…非常に見分けるのは困難です。
本当は宿舎を分けるなり、仕事を分けるなりした方がいいのですが…。
そうできるところばかりじゃない。
諸々色々…問題を抱えても、恩赦したいのか…を、まず考えてやるべきだと思うんですが…」

「私は…ギリアムはもちろん、使用人にも…大分頭を下げましたよ。
彼らは…私のやりたいことに、どうしても必要な人間だから…と」

一気にまくし立てたら、ちょっとあっけに取られていた、バートンさんが、

「いや…オルフィリア公爵夫人は、お歳に似合わず、大変老獪だとお聞きしていたのですが…。
本当に、そうなのですね。
そこまでのお考えを持ち、状況を…考慮してやっていない方、多いのに…」

まあ…わたしゃ、還暦越えばばぁやし…。

「単純に…有名人の真似をしたい…だけでやったら、ヒドイ目に遭うの、本当にわからなかった
のでしょうかねぇ…。
あまり…考えたくないですね。
でも、一度恩赦したら、その家で面倒を見る…が暗黙の了解ですよね?」

「そうなんですがねぇ…」

バートンさんも頭痛そう…。

「ひとまず、お手紙にも書いたように、一度…今の恩赦兵の法律にのっとって、ご説明頂けますか?
私の私兵の皆にも…聞かせてあげたいので」

「なぜです?」

「だって…自分たちの身に関わる法律なのですから、知るべきだと思います。
しっかりとした知識を…身につけないと、身を守れないと思いますから」

最近…ダイヤの件で、一度学習しなきゃと思ったんだ。
ツァリオ閣下に頼んでもいいんやけど…あの人も忙しい人だから…な。

なんて思っていたら、なぜかバートンさんが、再度あっけに取られてる。
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