ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

6 恩赦兵って、法律上は?

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「いやはや…こう言ったことは、恩赦兵に隠す人間が多いんですけどね…。
オルフィリア公爵夫人は…潔いのですね…」

なるほどね…。
隠した方が、何かあった時のごまかしがききやすい。
それに…人間の扱いをしないなら、余計な知識は邪魔だ。

「まず…先ほど恩赦した場所で面倒を見るのが、暗黙の了解…とありましたが、法律上では
恩赦した家が…恩赦兵のその後を決める…となっているだけです」

「つまり…いらなくなったり、手に余ると…他の家への押しつけが可能…か。
でも、いったいどうやって?」

「貴族の間で…使用人の貸し借りをするでしょう?」

ファルメニウス公爵家じゃやらないが、他の家じゃたまにあるみたい。
馴染めない使用人同士を…交換してみて、馴染めれば向こうの家に引き取ってもらう…みたいな。

「それを悪用して…力の強い家が、弱い家に、恩赦した人間を行かせて…そのまま帰らせない。
もしくは逆に、役に立つと見たら、返さない」

「……裁判沙汰案件では?」

「もちろんです。よく裁判になるのは、そのパターンですね。
ですがやはり、お金の関係やパワーバランスで、泣き寝入りもあります」

「つまり…私が恩赦兵を抱えてから、そう言った問題がかなり出てきていると?」

「仰る通りです」

アホ草…。
階級って、こういう時厄介なんだよなぁ。

「あとよく問題になるのは、恩赦兵に対する、体罰ですね…。
酷い所は酷くて…」

「でも…恩赦兵って扱いだと、普通の使用人みたいに、訴えることは出来ませんよね?」

「ああ、そこ…勘違いしている人が多いんですよ」

なぬ?

「恩赦兵になった場合…、使用人と同等の権利は…法律で保障されます。
だから…不当な体罰を与えた場合、法律に引っかかります…。
もちろん、食事や健康管理、不眠不休で働かせるのもダメです」

あらまぁ…。でもここで、私は考えた。

「でも法律はどうあれ…貴族の屋敷だと、特に…発覚しずらいですよね…」

「その通りです」

これは…現代日本で問題になっている、児童虐待の状況とよく似ている。
どんなに怪しくても…家に踏み込んで確認することは出来ない。
だから…発覚した時には、手遅れ…ということが、往々にしてある。

「それに…家のパワーが強いと、逃げ出した後の事を考えて、足踏みする人もいる…。
もし見つかったら…それ以上の罰を喰らうと思えば余計…」

「それも、その通りです」

暗くなったなぁ…多分…言わないけど、先代のファルメニウス公爵家の事だろうなぁ。

「でも、そうなると、恩赦兵はゼッツェリゼ施設への駆け込みも、可能なんですね」

「ええ、もちろん。
ただ…普通の使用人と違い、脱走兵の扱いになるので、労役をせねばなりませんが…」

「そ、そうなんですね…。勉強不足でした」

ギリアムだったら…知っていたんだろうが、とにかく説得に尽力してしまったからな。
反省反省。

「でも確かに…普通の使用人と同じにしてしまうと、ずるがしこいのは、恩赦されてすぐ
逃げ出して…無罪放免になっちゃいますからね…。
あとは裏の人間が、貴族と結託して、それを商品のようにしてしまったり…」

「やはり鋭いですな。
それを防止するために、その仕組みになったようです」

そうか…前にもしっかりと、考えた人がいるんだな…よかった。

「しかし…どのくらいやればよいか…というのは、担当する人間のさじ加減です。
この辺は…厳密に決まっていません」

「大事なところで、ガバガバですね…」

袖の下とか…要求する奴ぜってーいるぞ、それ。

「でも…確かに恩赦兵って、それだけ難しいんでしょうね…。
正規の人間でも、仕事ぶりはわかりずらいのに、まして…何をしていたかが、証明できない
となると…」

「それも仰る通りです。
だからと言って…記録を取ると、膨大になってしまいますからね…。
難しい話です。
なにより逃げだした者に対して、正しい記録を家側が出すか…というのも、ひとつ論点に
なるのです」

そりゃそーだ。

「それに…恩赦兵に関しては、記録を取らない家も、多くて…」

……だいたいは、汚れ仕事要員だろうからなぁ…。
ギリアムも…父親時代の私兵の記録は…殆ど残ってなかったって言ってた。
シュレンソとライラだって…ギリアムが検死に立ち会ってなかったら、殆ど闇から闇だった
ろうし…。
どこかに隠したか、ジョノァドが保管しているか…本当に記録を取らなかったか…。
家で使い捨てにする気なら、それも十分あり得る。

「ウチは一応…雇用契約書は作りました。
そして、私の一日の行動を、事細かに記録しておりますので…。
それに伴って、私兵の記録も結構とれておりますね」

「拝見しても?」

「もちろんです。率直な意見をお聞かせください」

私が指示すると…フォルトが持ってきてくれた。
その量に…バートンさんが…ちょっと引いてる…。

「えっと…ギリアムは自他ともに認める、神経質で几帳面な性格をしておりまして…。
どうしても、量が多くなってしまうのです。
まあ…保管場所は沢山ありますので、ギリアムの望みならば…と、思っております」

私は…その中でも、まず雇用契約書を出した。

「あ~、そう言えば、私勝手にあなた達を終身雇用にしちゃったけど、いいの?」

みんなに聞けば、

「むしろそれでお願いします」

だってさ。

「お互いが合意の上なら、問題ありませんよ」

ひとまず…法律上は問題ないようで、良かった…。
まあ、あったらギリアムの性格上、私に絶対何か言ったろうけど。

雇用契約書を一通り確認したバートンさんは、

「いや~、この条件でしたら、私も終身雇用で雇っていただきたいですね。
当代のファルメニウス公爵家が、頭一つ抜けて倍率高いの…よくわかりました」

感心された…。
まあ、ホワイトすぎるくらいホワイトだからな、ウチ…。

「しかし…日々の記録は膨大ですね」

「ええ…そもそも私は商会の仕事や、慈善事業で…外に出ている方が多いんです。
ただ行くところは、ファルメニウス公爵家関連施設が多くて…だから、必然的に報告せねば
ならず、事細かな記録を求められるので、何やかやでこうなりました」

いや、マジで。
ストーカーレベルで知りたがるからさ…。
ただ…こっちも業務報告兼ねているから、細かいのは別に気にならなくて…。

……………………………違うな。

前世にストーカープレイ、結構やったから…、麻痺しちまったんだ。
普通の女じゃ無理だったろうな…。
男4桁以上喰いまくった弊害だ、うん。

その証拠に…、バートンさんが絶句しとる…。

「しかし…ちょっと見ただけでも、だいぶ人目に触れさせているようですね」

「ええ、もちろん。
最初のうちは慣らしで家の中でしたが、その後は少しずつ…そもそも相手がどうしてもと
指定しない限り、私の護衛は彼らにやってもらっています」

……って言うか、護衛がこいつ等じゃヤダってやつとは、原則付き合わん。

「それに…下手に隠し立てすれば、人の邪推を生みます。
バートンさんに今回…存分に見分して頂こうと思ったのは、それも一つの理由です」

「いや、素晴らしいお考えだ」

かなり…感動してくれているよ。
それだけ…秘匿されてしまう物なのだろう。

「他に…バートンさんが手がけた、特殊事例などあったら、お聞きしたいです」

私が言うと、ちょっと首をひねりつつ…。

「そうですね…恩赦兵になったのち、無罪が証明された事例…ですかね」

「あ~、ありますよね。捕まって裁かれた後、新事実が出る場合…」

これは…化学分析技術が発達した、前世の日本でもあったんだから、そんなものないこの世界では
本当にそれなりにある。

「無実が証明された場合は…基本、恩赦兵ではなくなります」

「そうすると…何が変わるのですか?」

「まあ…原則罪人ではなくなりますから、まずゼッツェリゼ施設での扱いが変わります。
それ以外は…あまり使用人の雇用と変わらないでしょうな。
しかし…後ろ指をさされることは、無くなりますからね…」

なるほど…。

「でも…行動範囲は広がりますよね。
恩赦兵って、あまり自由度がないように思います」

すると…バートンさんはちょっと眉をひそめて、

「恩赦兵にどこまで自由を許すかも…その家の裁量次第なんですよ」

「え?じゃあ、閉じ込めておこうが、自由に歩かせようが、その家が決めていいんですか?
街中で…隠れて犯罪行為をしたら、どうするんですか?」

「まあ…それは、普通の使用人や護衛騎士にもありますからね。
もちろん…冤罪もしかりです」

まあ法ってのぁ、抜け穴が必ずあるって、言われているくらいだからなぁ。
全てを法の下で…ってのは、限界がある。

「あとは…恩赦兵に嘘をつかせているのは、多いですよ。
雇用条件が…かなりひどい事が多いんですが、それを隠すために…ね。
私が手掛けた恩赦兵は…かなりその家を怖がっていて、心を開くのが大変でした。
でも…最後は信用してくれて、健康状態・医師の診断などによって、扱いが酷いことが
証明されたので、その家から出せました」

「なるほど…。そんな家もあるんですねぇ…」

……ってか、先代ファルメニウス公爵家って、そんな感じだったんじゃ…。

「結局最後は、人対人なんじゃないですか?」

スペードが…唐突に話し出す。

「オレたち別に…恩赦兵じゃない時だって、真っ当なことして、金貰っているワケじゃ無かったから、
蔑まれたり、馬鹿にされたり、濡れ衣着せられたり…なんてこと、しょっちゅうでしたよ」

「そうそう。
ギルドにも所属しない、ハズレ者だったから、表だけじゃなく、裏の人間にまで色々やっかみ
受けたし(ダイヤ)」

「割に合わない仕事、だいたいオレらに回って来たよな(クローバ)」

「その上なんだかんだで、報酬渋られて、追い出されて(ハート)」

「まあ、どこにでも小ずるくてヒドイ人間はいますが、裏では倍増しますから(ジョーカー)」

「オレは眼が見えないってだけで、いらんって放り出されたこと、星の数ですよ。
あとは…どうせ見えないだろうって、金の代わりに石入れた袋渡されたりとか(ジェード)」

普段喋らないけど…こいつ等に不幸自慢させたら、いくらでも出て来るんだろうなぁ。

「まあでも…確かにそうですね。
何も悪い事をしていない人を、騙してはめる人だって、いますからね」

「そうですね…」

何だか…バートンさん感慨深そう…。
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