ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

7 ダイヤの事

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「だから…奥様もご当主様も…オレらの力を…働きを正当に評価してくれて、身分持ちに
しっかりと言ってくれること…当たり前だと思ってらっしゃると思いますが…、オレらが
経験した限り、そんな所ここだけですよ」

スペードの言に、

「そうだよなぁ。
危険な任務だって、出来て当たり前で、褒めてなんかもらえない」

「それどころか粗探されて、報酬引かれたりとか…」

「必要経費なんか、一回も払ってもらった事な~い!!」

まあ…私も前世、ブラック寄りで働いたことあるから、少しわかる…。

「確かに…ウチが異常なのかもしれませんね…、いい方向にですけど」

私の言葉に、

「まあ…今のファルメニウス公爵家ほど、しっかりと考えてやっている所は、珍しいですよ。
もっと言えば…オルフィリア公爵夫人の人となりかと…。
先ほど出たように、人対人ゆえ、信頼関係を常に築けるか…は考える必要があります」

なるほどね。

「でも…そうでない所が大半である以上…、法の整備は必要ですね…。
結構ガバガバだと、お聞きしました」

「仰る通りです。
恩赦した家の良心に任せている部分が、かなりあるのです。
そもそも罪人だから、信頼関係を築く必要が無いと、考えている所もあります」

だよなぁ…。
思い出したけど…スペードだってウチに最初に来た時…自分を使え…なんて、言ったくらいだし。
使う方も使われる方も、その考えなんだろうなぁ。

昔はあった奴隷制度…。
この国で廃止されて、もう300年くらい経つらしいけど…。
その奴隷の代わりを…恩赦兵が担っているような気がしてならない。
先代のファルメニウス公爵の使い方は特に…。

「わかりました…では…、もうすぐ新法の見直しの相談と報告で…ツァリオ閣下とお会いしますから、
この件についても、お話してみようかと思います」

「おお、それはありがたい。
あの新法は素晴らしいですね…。
しかし、貴族の反発は凄かったのでは?」

「まあ…それなりには…。
でも…それを言っていたら、何もできません…。
元々のモノだけで満足するか、変えていい世界にするか…どちらを選んでも、幸せになれるかは
選んだ後にしかわからないのです。
私はいつだって…後悔ない選択をしているにすぎません」

「なるほど…」

「ただ…選んだ道を良くする努力は、怠りませんがね」

にかっと笑うと、

「オルフィリア公爵夫人は…本当に良い方ですね…」

向こうも笑ってくれた。

ここで私は…ふと、最近おきたダイヤの件を、聞いておいたほうがいいなと思った。

「あの…私の疑問に思った事…お聞きしても?」

「もちろん、どうぞ」

「例えば…恩赦兵が貴族の…庶子ではなく、正式な跡取りだったりした場合、どうなるのでしょうか?
それも…恩赦している家ではなく、別の家…」

すると…やっぱりバートンさんは面食らって、

「それは…随分と、突飛な例ですね…。
私の30年の歴の中でも…それは見たことも聞いたこともない事例だ。
正直申し上げますと…様々な要因が絡んできますので、簡単にはお答えできません」

そりゃそーだ。まず…あり得る事じゃない。
さて…どうしよう。
バートンさんにどこまで話すか…。

私が悩んでいると、横からダイヤが…。

「奥様…。この際真実を話してはどうでしょう?」

「……いいの?」

「はい…。オレはここに…ファルメニウス公爵家に居たいです。
一生…奥様の私兵でいたいです。
その為の不安要素は…、立ち切っておきたいのです。
だから…お願いします、奥様…」

ダイヤが頭を下げたから、私は決意した。

「バートンさん…正式な依頼として…ご相談してもよろしいでしょうか?」

正式な依頼…として書面を交わしたら…その場で守秘義務が発生する。
そうすれば…大抵の事は話せる。

バートンさんは一瞬下を向くと、

「私で…よろしいのですか?」

これは当然の反応だった…。
貴族の弁護の担当に…平民弁護士が起用されることは、もちろんある。
しかし…貴族ならば一定数いる、貴族の弁護士に頼むことが多いからだ。
ああ、貴族の弁護士って…。
前も少し話したけれど、嫡子以外は自分の職を持たなきゃならないから、その人たちさ。

「餅は餅屋…今、当家で抱えている弁護士で、あなたほど私兵に携わったことのある弁護士は
1人もおりません。
ましてバートンさんは…優秀な上で年季の入った方です。
そういった方は…嫌がらない限り、積極的に雇用するのも、当代ファルメニウス公爵家の方針で
ございます」

その私の言葉に…ちょっと微笑みが漏れ、

「わかりました…。お受けいたします」

正式な契約書をその場で交わしたのち…。
フォルトにダイヤの事で、調べた資料を持ってきてもらった。

そして…私は一つ一つ丁寧に、説明したのだった。

バートンさんは…さすがに目が白黒してた。

「いやはや…大抵のものは見てきたと思っておりましたが、世の中は…わかりませんな」

30年の歴をもってしても、そうなのか…やっぱ。

「では…現段階での、私の見解を述べさせていただきます」

下手な貴族より礼儀正しいお人や。
でも…戦う相手が貴族なら、当然と言えば当然だ。

「まず…恩赦兵となった段階で、司法上の罪は帳消しになります。
だから…望めばラスタフォルス侯爵家の家系図に載ることは、できるでしょう」

「オレ、ヤですよぉ~、奥様~」

何だか…私に対して、助けを求めるような声を上げている…。
バートンさんは…クォモナさん共々みょーな顔してらぁ。

「あはは。やっぱりこういう話って…喜ぶ人の方が多いんでしょうねぇ」

私が何とも愉快気に言えば、

「その通りです。権利があると言われて、落胆する人は滅多にいないです」

バートンさんのその言葉を聞いて、

「何言ってるんですか!!オレはさっきの面接で言ったでしょ!!
一生奥様の私兵でいたい!!…って。
そして…オレがダイヤとして、みんなと生きてきた時間は…、オレにとってかけがえのない
ものです!!
他の何者にも…なりたくありません!!」

「ついでに言えば…ラスタフォルス侯爵家の物なんて、何一つ欲しくありません!!
仲間がいて…奥様とご当主様がいるファルメニウス公爵家に居られるなら、オレは他に何も
いりません!!」

ダイヤは再度、スゴイ必死な表情で訴えている。
皆は…そんなダイヤを落ち着かせつつ、慰めつつ…だ。

「ハーイ、みんな、そろそろ静粛にして。
私が考えうる、懸念事項も聞いとかないといけないから!!」

さすがプロ。
ぴたりと大人しくなって、着席した。

「でも…家系図に入れるとなると、ダイヤは長男になっちゃうんですよ…。
正式な跡取り…嫡子になっちゃうんでしょうか?」

「それはその家の考え方にもよりますから、一概には言えません」

ですよね。長子相続とはいえ、例外も多々ある。

「ただ…私の調べた限りで、ラスタフォルス侯爵家は、国で1、2を争うくらい、傍系が多いん
ですよ。
司法上裁けないとしても、罪が無かったことになるわけじゃないですから…相当なお家騒動が
巻き起こる可能性…ありますよね?」

まだ調査段階だけど、複数…ラスタフォルス侯爵家の後継の座を…狙ってるのがいるんだよね。

「もちろんです…。そのような事例は、貴族社会では日常茶飯事ですから」

「という事は…後を継ごうとしたら、誰もが納得するような、功績が必要になってきますよね…」

「でしょうねぇ…。ギリアム公爵閣下レベルとは申し上げませんが…」

「そもそも、ラスタフォルス侯爵家の為に、そんな事したくないし、する気も起きない!!」

スッゴイ渋い顔で、言ってのけるダイヤ。

「あ、でも、奥様とご当主様とみんなの為なら、いくらでもやりますよ!!
その気概で!!」

今度は…いい笑顔だなぁ~、オイ。
顔の筋肉疲れない?ダイヤ…。

「そもそも…ラスタフォルス侯爵家が正式にダイヤを取り戻したい…と、裁判を起こすことは
可能でしょうか?」

「もし…そんな裁判を起こすなら、ダイヤ氏が確実に…その家の血を引いていることを、
証明せねばなりません。
父親と瓜二つの外見だけでは…難しいと思います」

証拠は…だいたい抑えているから、それはオッケーか…。

「ただ…この証拠の品々を見る限り、血を引いていることは、確実と思われますから…。
秘匿するなら、バレた時に…覚悟せねばなりません。
裁判では…わかっていた事実を言わないのも、不利になります」

ありゃま…。その辺は考えんといかんな…。

「なぜですか!!オレはファルメニウス公爵家にいたいんです!!
ラスタフォルス侯爵家になんか、戻りたくありません!!」

ダイヤが…私に再度縋ってくる…。

「あの~、本人がこんなに、戻りたがっていないんですけど…」

「もちろん…本人の意思が最重要ですから、裁判を起こすためには、ダイヤ氏の意志が不可欠です。
もしも家に戻りたがってないとわかれば、引き受ける弁護士はいないと思います。
それに裁判長も…本人の意思を無視して、戻すという判決はしません。
よほど…保護が必要な場合でなければ…ね。
ただ…この辺りは私兵の事とは、ズレますので、ファルメニウス公爵家お抱えの弁護士にも、
聞いてみてください」

なるほどね…。まあ、ちっさい子供ならいざ知らず、いい大人の主張を聞かないってのもな…。

「じゃあひとまず…どこかの段階で、証拠については、あちらに言ったほうがいいってことですかね…」

「そうですね…。一生隠しておきたいと思っても、どこかからバレる事もありますからね…」

だよね…。この世の中…絶対はない…。嘘をつくならバレた時の全責任を…取る覚悟をしなきゃ。
私は…何が正解かわからない中…一つの答えを出す。
それは…。
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