ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

8 聞きなさいダイヤ

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「ダイヤ…タイミングを見計らって、この証拠の品々は、公にしましょう…」

「嫌ですよ!!オレは…」

ダイヤは…このまま隠しておきたいようだ。
今までの経験から、貴族には…関わりたくないのだろう。
スペードがクライアントの対応を一手に引き受けていたようだが…スペードが動けない時は、ダイヤが
かわりにやってたみたいだからな…。
嫌な部分…たくさん見ているんだろうな…。

「聞いてダイヤ…」

私は…ダイヤの顔を両手でつかみ、眼を…真っすぐ私の方に向けさせる。

「あのね…この世は…何があるかわからないの…。私やギリアムが…アナタより長生きできる
保証もないの」

「何言ってるんですか!!奥様!!縁起でもない!!オレ…奥様の代わりにだったら、死ねます!!」

ダイヤ…どこぞの恋愛小説張りのセリフを吐かなくていいから…。本気だろうから、余計ハズい。
ってゆーか、みんな同じこと言いたそうな眼をして、私を見んでくれ!!
羞恥プレイはよくやったが、お客とじゃなきゃ、マジでハズい!!

でも…本当なんだよ…。
私は前世で…46歳で死んだ…。
私の生きた世界の…女性の平均寿命の半分ちょっとしか、生きられなかったんだ。
それを考えたらさぁ…。

「ダイヤ…。この世にはいい人ばかりじゃないって、アナタはよく知っているでしょう?
ラスタフォルス侯爵家の人たちは…確かに悪い人たちじゃないけど、アナタの希望を聞かない
時点で、私はアナタにとっては害があるとみなした。
でも…それ以上に、最初から殺害の意図をもって、近づいてくる奴もいるはずよ」

「それ全てに…一度片を付けておいた方がいい…。
秘匿して逃げられるならいいけど…、アナタは流れ流れて生きるのではなく、ここに…
ファルメニウス公爵家にいたいのでしょう?
そして…私とギリアムはそれを了承したわ。
だから…私とギリアムが…しっかりと対応できるうちに、いい形に持っていきたい…。
わかって欲しい…」

私の真っすぐな目の色が…ダイヤの真っ赤な目とまじりあって、色が少し鈍ったように
見えた…。

「奥様…オレ…ここにいたいです…。みんなと一緒に…」

「わかっているわ。
私もギリアムも…絶対にあなたを見捨てないわ。約束する…」

するとダイヤは…一度ぎゅっと目をつぶったが…やがて静かに開き…。

「奥様とご当主様に…お任せします…」

とだけ。
私は…少し安堵して、

「信じてくれて、ありがとう。ダイヤ…。
どういう形で、情報を出すかは…また検討しましょう」

「バートンさん…。
私兵の事からは外れるかもしれませんが、もし必要なら、弁護をお願いします。
そして…恩赦兵の法整備については、今後もご相談したいので、それまでは専属契約を結んで
頂きたいです」

するとバートンさんは微笑んで、

「恩赦に関する法整備は、私もぜひお願いしたいのです。
だから…専属契約は、むしろこちらからお願いしたいです」

こんな感じて…私は私兵の事を、みんなと一緒に一から勉強しなおした…。
バートンさんは…流石30年の歴があるだけあって、かなり的確な所を捕えて、話してくれた。

ひとまず…備えあれば患いなし…。
私達は知識という武器を、揃えていくのだった。


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王宮というのは…皆さまのご想像通り、広い…広すぎる。
土地のない日本ですら、かなりの敷地…。
土地が有り余っている海外では…例外はあるかもしれないが、徒歩で外周を一回りするのは、
1日では到底無理だろう。
ケラチィエス王国の王宮も御多分に漏れず、めっちゃ広い。

その中に…もちろん近衛騎士団の演習場や控室…宿舎まで備えている。
近衛騎士団は…家から通うものもいるが、王宮内の宿舎住まいの者もいるのである。
ケイシロンを辞めたエトルは…宿舎住まいを選んだ。
その方が…対象のプライベート空間を、より確認できるからだ。

だが…今日の目的地は、倉庫の中の…平坦な壁。
その壁の…レンガの一枚を押すと…そこがゆっくりと沈み、取っ手のようなでっぱりが、
周りのレンガに現れた。

ゆっくりとそこを押すと…中は…漆黒の闇に…足元に辛うじて、下に続くように見える、
階段がある。
階段を数段下り…中から扉を閉めると…本物の漆黒の闇。
容易に精神を飲まれそうなその闇の中…明かりもつけずに、一歩一歩歩みを進める。

やがて…。
先の方に、ほのかに…ぼうっ…と、明かりのような僅かな色彩が見えた。
その部分をゆっくり押せば…軋んだ音と共に、扉が開かれると…僅かなろうそくの明かりの中、
辛うじて…人だとわかるモノが、その中に佇んでいた。

「揃ったか…」

誰かの声と同時に、エトルは扉を閉める。

すると…蝋燭以外にランプがともされ…中にいた者たちの顔が、映し出される。

そこにいたのは…ローエン、ローカス、ベンズ…そしてグレンフォだった。
そこまでだったら、王宮内にいても、何らおかしくないのだが…。
明らかに異物と言える、イシュロとラディルスもいるのだから、この密会が知られてはならぬ
ものであること…それだけでよくわかる。

「収穫は?」

エトルが…イシュロとラディルスに問えば、

「その前に…お一人増えましたね」

2人の視線は、グレンフォへと向かう。
その視線は…この場にいる人間を、信用はしているが、何の説明もなく納得はしない…。
あくまで同志であり、対等な存在である…と、アピールしているかのようだった。

「ああ…紹介しよう。わしの腹心を長年務めてくれている、グレンフォじゃ。
かなり気骨のある男じゃから、ジョノァドの牙に対抗するなら…いてもらった方がいいと
判断した」

ローエンは…決して偉ぶることなく、2人に説明した。

ローエンのその態度で、警戒を溶いたようだ。
2人はこれまでの成果と…今後の補充人員にまで、調査の手を伸ばしている事を報告するのだった。

「なるほど…それなりに接触はしているようじゃな」

「はい…。やはり貴族はどこかで繋がっていますし、利権問題を握るのは…ジョノァドの野郎の
得意技のようで…」

ちょっと悔しそうに…ラディルスが口をとがらせている。

「しかしそれにしても…良く調べましたな」

この会合に始めて参加したグレンフォは、素直に感嘆しているようだった。

「わしらだけじゃ、無理でしたよ…。
オルフィリア公爵夫人が…ファルメニウス公爵家とフィリアム商会の、情報収集能力を駆使して
集めた情報を、定期的に提供してくださってますからね…」

「ジョノァドの使っている別名義とか…かなり正確に調べてくれるんですよ。
だから…そこから芋づる式に、枝葉の情報や接触したヤツを調べていくと、行きつくんです」

イシュロとラディルスが…腕を組んで頷いている。

「!!オルフィリア公爵夫人が、この件に絡んでいるのですか?」

するとローエンは、イシュロとラディルスを見て、

「こやつには…近衛騎士団に悪さをしようとしている者を、秘密裏に調べているとしか
言っとらんのだ。
もしお前たちが良ければ…、ジョノァドにまつわる経緯を、聞かせてやってくれんか?」

すると2人は…顔を見合わせて、

「なんだ。言ってなかったんですか?」

随分と…意外そうな顔をする。

「あまり他人が…おいそれと喋っていい事とは、思わなんだからな」

ローエンの…さも当然じゃろ?…と、言いたげな雰囲気に、2人は…ちょっと苦笑いして、

「貴族でも…たまにアンタらみたいなのがいるから、世の中は面白いんだよなぁ」

その様は…この世界のちょっといい所を、見つけたような…少しばかりの幸福感をもたらして
いるように思えた。

イシュロとラディルスは…グレンフォに自分たちに起こったことを、正確に話した。

それを聞き終わったグレンフォは…、まあ、予想通りと言えば予想通りだが、壁を…部屋が崩れる
のでは…という勢いで叩き、

「そんな非道がまかり通るのか!!!ふざけるなぁぁ―――――――――――っ!!」

激高したその怒号は…部屋の石を揺らしまくり、漆喰が剥がれるんじゃないかと思しきものだった。

「残念だが…通ってしまったんじゃ。
坊主が言っとったよ。己の父の非道は…半分はジョノァドの案じゃったと」

怒号に耳を塞ぐこともせず、ローエンが静かに語る。

「しかし…幼い子供や妊婦までいたのでしょう!!それなのに…」

暗がりのせいで顔の輪郭がぼやけても…激怒しているのは、誰もがわかるだろう…。
その体から…湯気が出ているようだったから…。

「グレンフォよ…。ジョノァドを人じゃと思わんほうがいい。
人の皮を被った何か…。それも、悪魔や魔物ですら、裸足で逃げ出す代物じゃと、思うておけ」

ローエンは、深くため息をつく。

「……先代ファルメニウス公爵が居なくなって…、落ち着いたとばかり思っていたのですが…」

「わしも同じじゃよ。だから…若いローカスに任せて、引退することが出来た…。
じゃが、甘かったようじゃ」

ローエンは…致し方ない事情があったとはいえ、自分の不甲斐なさを嚙みしめるように、
しばし下に目線を移すのだった…。
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