ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

9 王宮での密談

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王宮の地下…暗い暗い空間に…さらに暗く澱んだ空気が重く…のしかかった。
誰が誰とも…人ならざる者との戦いを、覚悟した瞬間だったのかもしれない…。

「まあ…そういう訳じゃから、この場所も…この件も極秘にせい。
誰が味方で誰が敵か…非常にわかりずらいんじゃ」

ローエンは…眉毛をへこませつつ、口角を曲げつつで、グレンフォに言った。

「わかりました…。極秘事項とは聞いておりましたし、今の話を聞く限り…生半可な
相手ではないようですからね…」

顎に手を当てつつ…眉間に深い皺を寄せている。
こんな事だったら、せめて自分だけでも、近衛騎士団にいるべきだった…。
そんな後悔を、よぎらせているようにも見える…。

「ひとまず…この名簿に載っている人間は、私がそれとなく探りを入れてみます。
イシュロのギルドの連中と一緒に、裏表で挟み撃ちにして…どう出て来るか…だと
思いますので…」

「その辺はお前に任せる、エトル…。
そもそもお前は、そう言った事が得意じゃからな…。しかし、無理はするなよ。
何かあったら、こちらも手を貸すからな」

「はい…ローエン様…」

あんなことになったが、長年の信頼関係は…まだ健在のようだ。
悪い奴はハッキリしている…というのも、あるのだろうが。

「他に…何か特筆して、市勢を騒がせていることは無いか?
正直…お前らから入る情報は、こちらの情報機関より役に立つこと多くてな…」

ローカスが出てきた。
これは…ある意味当たり前なのだが、人は住む世界が違うと、それだけで警戒する。
レオニールが王立騎士団で力を発揮できた理由は、まさにこれが一番デカい。
元遊び人だからこそ、同じような人間の心理をわかっており、そこを的確につく。
そして何より平民であるため、裏に近い人間に、口を割らせるのもうまいのだ。

「ん~、そうですね…。
例のオルフィリア公爵夫人が、流星騎士団団長…でしたよね、確か…。
それに襲われて…の話は、かなりもちきりですよ」

「え!!!あれは、終わったんじゃないのか?」

ローカス…めっちゃ驚いて、思わず身を乗り出す。グレンフォも同様に…眼を見開いた。

「あ~、多分そちらの機関には、そう伝わっているでしょうね」

イシュロとラディルスが…ちょっと呆れたように言う。

近衛騎士団に、ジージョンを置くためだけに作られた諜報機関は、ローエンが解体した。
しかしもともと、王宮自体に…情報統制機関のようなものは、存在する。
ただ…王立騎士団の第3師団と比べたら…殆ど力はない…と、言われているが…。
その理由は…。

「まずですね。身分持ちが諜報活動をしようとしたら、大抵下請けにやらせます。
でも…下請けが持ってくるのは、本当の情報じゃなく…依頼者が欲しい情報ですよ。
もちろん嘘をつかない範囲で…ですが」

「な、なんで?」

ローカス…かなり驚く。

「だって…身分持ちを怒らせたら、その場で首が飛ぶでしょう?
長年の信頼関係で、そう言った事をしない…と、わかっているなら別でしょうが、
そうでなければ…です。本音と建て前…ってやつですよ」

これは…ほぼ全員が頭を抱えたのは、言うまでもない。
ラディルスは…イシュロをちらりと見つつ、

「もうこの際言いますけどね…。エトル殿が妹さんを探していた時…、オレの知り合いの
連中も、何人か事情を聞かれたけど…何も答えなかったって、言ってましたよ」

「え…?」

これは…エトルがまるで、物凄い衝撃を受けたような…そんな顔をした。

「理由は単純明快です。あんたが…生粋の貴族だからだ。
あんたは隠し方が上手い方だが…見る者が見れば、直ぐにわかりますよ。匂いも…ね。
仮にあんたが平民だったら、もう少し…違ったかもしれないな」

エトルが…膝から崩れ落ちてしまった。
イシュロは…そんなエトルを気遣ったのか、はたまた自分に投影したのか…。

「…相手が巧妙すぎる相手でしたから、それでどうにかできたとは思えない。
実際…アナタはタイリュン小伯爵とは、面会できたのでしょう?
平民だったら、それは無理だったと思いますよ。
わしらは…タイリュン伯爵家に訴えましたが、門前払いでしたよ」

空気が…重く沈む…。

「まあ…話が逸れたので、戻しますがね。
結局…住む世界が違うと、情報を得るのは一苦労なんですよ」

ラディルスが…ため息とともに、締めくくった。

「そ、それで…。巷ではオルフィリア公爵夫人と流星騎士団の事…どう言われているんだ?」

グレンフォが…特に聞きたいと、大きな体を折り曲げつつ、迫っている。

「まず…流星騎士団ですけど、かなり悪し様に言われていますよ。
オルフィリア公爵夫人は…平民人気が凄いですからね」

「…それについては、オルフィリア公爵夫人が、自分の非もある…と、収めたのでは?」

ベンズも…不思議そうに前に出てきた。

「ええもちろん。それで…一度は収まったんですよ。でも…また再燃しちまったんです」

「な、なんで?」

不思議そうな顔をし、答えを待つローカス。

「流星騎士団の団員が酒場で…オルフィリア公爵夫人の悪口を、吹聴してたからですよ。
…ッと、ここからは、爺さんの方が詳しいだろう?」

イシュロにバトンタッチ。

「まあの…。その場にウチのが偶然居合わせて…飲ませつつ、理由を聞いたからな」

イシュロの次の言葉を…固唾をのんで見守る貴族達…。

「そしたら…どうもギリアム様にかなりアピール&アプローチしていた、人間だったようでな。
まあ…早い話が嫉妬じゃよ。ただ…罵り方がなぁ…」

イシュロは顎を撫でつつ、

「どんなに力があっても、所詮は卑しい名ばかり男爵令嬢だの。
平民に媚びを売るしか、脳が無いだの…。
かなり画期的な事をやってらっしゃるのも、伝統を重んじないだの、節操がないだの…。
挙句の果てには…身分持ちのご当主人に気に入られたのは、股を開くのが上手いからだの…。
単なる下品な女だ…とかな」

本当にしょーもない…と、ため息つきつつ…だった。

「それ聞いてオレは、お前らの口の方が、よっぽど下品だと思ったがな…」

ラディルスの言葉は…本当にその通りだとそこにいる皆が思ったようだ…。
お通夜のような、冷え切った空気が…その場に激流のように流れた…。

「そんなわけで…前以上の大炎上になって…現在進行形の状態だ…」

ローカスは…ばっかじゃねぇの…と顔に書きながら、あほ面を晒している。
グレンフォは…机に突っ伏して微動だにせず、心配そうなベンズとエトルに見守られている。
ローエンが…深いため息とともに、眼を余計に落ちくぼませていた。

「まあ、じゃが…。嫉妬の感情は、非常に御し難いからの…。
ギリアム様は本当に…求婚が山のように来たんじゃから、そういった事は別に、流星騎士団じゃ
なくたって、巷には結構あるぞ。
うちのが報告してきた内容によると、悪口言っていた奴らは、あきらかに20になるかならないか…
らしいからの」

イシュロが…フォローにならないフォローを入れている。

「だよな~。でも、馬鹿だと思うぜ?
オルフィリア公爵夫人の平民人気を、少しは考えて喋ればいいのにさ。
自分の屋敷で喋る分には、問題ないのに、なんで人のいるところで、愚痴るんだよ?」

2人して顔を見合わせ、うんうん頷いている。

「それは、どうにかできんのか?」

めちゃくちゃ複雑な心境を、そのまま顔に映し出したローエンが、2人に問う。
火消しの事を言っているのだろうが、

「無駄じゃないか?」

ラディルスの答えは冷淡なものだった。

「まず…流星騎士団の連中に、複数いるんだよ。そういう事言っているお馬鹿がさ。
そんで…さっきも言った通り、身分持ちに面と向かって注意できるのは、身分持ちだけだ。
平民は…その場限りで話を合わせて、あとで…フィリアム商会か王立騎士団に報告するだけ。
誰にも注意されないから、気を良くしたのか…悪口自体も、現在進行形中だぞ」

何だか…お仏壇の鐘の音が…どこからともなく聞こえてくる…。

「き、貴重な情報ありがとう…。本当にお前らの情報は…こっちの調査機関より役に立つ…。
知り合いがいるから…注意しとくよ…」

未だ復活できぬグレンフォの代わりに、ローカスが声を震わせながら答える。

「まあでも…今わかって良かったのでは?悪口をやめれば、収まるでしょう」

ベンズもまあ…グレンフォを慰めるために言ったのだろうが、

「そりゃちょっと、楽観視しすぎじゃな」

イシュロが…待ったをかける。

「そーそー。一度罪人の烙印を押された人間ってな、つまはじきにされるだろ?
一度やっちまったことは消えない。まして…平民人気が全く違うからなぁ…。
流星騎士団って…特筆して平民の為に、何かしているワケじゃ無いだろう?」

ラディルスもそれに賛同するように、首を振りつつ答える。

「ま、待ってくれ!!災害が起こった時には、率先して支援に行っている!!
物資の供給とて、各家から集めて…被災者に渡したと…」

グレンフォ…何にもしていない…に反応したようだが、2人はことさら厳しい顔つきになり、

「流星騎士団の支援って…オレら末端に言わせれば、多くは振りだけだぜ?
まあ…これは他の貴族共にも言えるから、別に…流星騎士団が珍しいワケじゃ無いけど」

呆れ口調半分、怒り口調半分…だ。
末端で生きてきた人間にとっては…口だけの奴が一番ムカつくと言いたいのだろう。
ラディルスが…さも勘違い野郎が多い…と、言いたげに大袈裟に首を振る。

「じゃな…ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人は…そこがまさに凄いんじゃよ。
平民への貢献度も考え方も…一般の貴族とは全く違うからなぁ…」

イシュロは…随分と楽しそうに話している。

「どう言う事じゃ?」

ローエンの目は…真剣そのものだ。

「ちょっと前の大火災の時さ…。オレらはファルメニウス公爵家の中に入って、実際にどういう
支援をするか…見たのさ。
オルフィリア公爵夫人は平民と…同じ目線で話しているんだ。
汚れている人間にも、平気で触って、支援をしていた…。
ああ、下の世話もしていたぜ、普通に」

これには…そこにいた全員が驚いたのは、言うまでもない。

「対して流星騎士団は…何だか今回の災害、やたらと出張って来たみたいなんだけどさ…」

ラディルスの顔は…本当にワケがわからないし、どうしようもない感情がにじみ出ているようで、
口をへの字に曲げ、眉毛が歪んでいる。

「まず…出張るのは良い事かもしれんが、やり方がな…。
救援物資をそれぞれの街を、仕切っている奴に渡しちまったからさ…」

「そ、それのどこがいかんのだ?」

グレンフォが、大きな体で乗り出してきた。

イシュロとラディルスは…やっぱりわからんのか…とでも言いたげに、肩をすくめている。
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