ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第5章 処罰

10 貴族と平民の温度差

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「まずさ。街を仕切っている奴って、善良なのもいるが、悪辣なのもいるのさ。
だから…悪辣な奴に渡せば、半分以上はピンハネすると思ったほうがいいし、実際そうなった。
そんな構図がある場所だと…結局末端には平均して2割程度しか、物資は届かん」

ラディルスの言葉は…まさに末端の現場を見ているからこそ、重みが違った。

「フィリアム商会も王立騎士団も…救援物資にマークを入れているんだがな。
それは…ゴミを回収した時に、どれくらい浸透しているかを調査するためでもあるんだ。
フィリアム商会は独自の慈善事業団体を持ってるから、そちらでやっちまうが、全てに行き渡らせる
ためには、どうしても他の所の良心に、頼らざるをえない。
ただ…その良心がしっかりと機能しているかどうか…は、きちんと調査してる」

「その調査結果によれば…流星騎士団の物資って、酷い所じゃ1割も末端に届いてないぜ?
んで…市勢の噂に一番関与するのは、この末端だ。
だから…総じてたいしたことしてないのに、自分たちを助けてくれる人間を卑下する酷い人間…って
言う構図が、成り立っちまってんのさ」

ここでイシュロも参戦して、

「さっき下の世話の話をしたがの。
流星騎士団の人間が…王立騎士団やフィリアム商会に…ボランティアとして来たらしいんじゃが…。
野戦病院的な、災害救護施設というのは…とにかく不衛生で悪臭が凄いんじゃ。
人手が足りなくて、垂れ流しになっちまうことも多いから。
ボランティアに来た人間は…その悪臭に耐えられず、直ぐに逃げ帰ったそうじゃぞ?
何しに来たんじゃと、みんなが言うておったわ」

ちょっとからかい半分にケラケラ笑っているが…、目が笑っていない。
ラディルス同様、怒りも混じっているんだろう。

「まあ…一部のお貴族様ってな、勘違いしている奴いるんだよな。
自分たちが現場に立つだけで、褒め称えられるもんだって…。邪魔なだけだっつの!!」

ラディルスは、我が事のように怒っている…。
貴族に厄介な仕事を押し付けられることは、日常茶飯事の人間ならではだろう。

「もちろん全員がそうとは言わんがね…。
オレらが聞いた限りじゃぁ、真面目に取り組んだの、やっぱり全体の1割ぐらいみたいだぞ。
それ以外は大抵…こんな事やるために、騎士団に入ったんじゃない…って、言って逃げてった。
適材適所って言うように、できる人間は限られるからこそ…出来ない人間は出さなきゃいいのに
よお~」

「じゃな。まあ…上の完全な監督不行き届きじゃな。
所詮、貴族のお嬢さま。そうなるってわからんのかの?
下の世話まで行かんでも、劣悪な環境に慣れているとは思えんわ。
貴族がよくやる、形だけの支援じゃあ、下々の人気なんざ、取れん取れん!!」

「ホントだぜ。ポーズだけなら、家で取ってりゃいいっての。
外出てさもやりました…的な顔されたら、本当に困っている人間は、ムカつくだけだよ」

この後も…けっこう似たり寄ったりで、言いたいことを言いまくるイシュロとラディルス。
ローエンが…眉毛をへこませ、しかめっ面をしながら、

「お前さん達…遠慮がないのぉ…」

怒っているワケではなく、苦笑い…と、言う心境なんだろう。

「まあな。ギリアムの旦那に言われているからさ。
ジョノァドと戦うには、耳障りのいい言葉ばかり求める奴は、邪魔なだけ。
ちょうどいいから、下々の本音を聞かせてやれって」

「ちなみにわしらがこう言った事を言うと、ギリアム様は喜ぶぞ。
貴重な意見が聞けたって」

2人とも…とっても愉快そうに笑顔で言っている。
対して…上位貴族の皆様方は、顔が…暗~くなり、ゾンビの如く…と言った具合だ。

「大体さぁ…。流星騎士団については、オルフィリア公爵夫人を襲った理由がハッキリしてない
だろう?
だから…余計な憶測をうんじまうんだよ。
さっき話した、ギリアムの旦那狙いで、襲ったんじゃないか…とかな」

「横恋慕での刃傷沙汰など、裏の世界じゃ日常茶飯事じゃからのぉ…。
単純な嫉妬で、殺しの依頼をかける奴なんざ、後を絶たんしな」

2人が…妙に納得した顔して、頷いているから、

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれっ!!」

グレンフォが…机から飛び上がり、慌てて出る。
そして、襲ったいきさつを…二人に詳しく話すのだった。

「なんだい、アンタのカミさんかよ」

今度は2人の眉毛がへこむ…。
バツが悪いより、しょーもないと呆れているようだ。

「しっかし…あのダイヤが、貴族の血筋かも…って、何だかなぁ…」

「いや…わしらの世界じゃ、割とあるじゃろう?」

イシュロとラディルスの会話に、

「なんじゃ、そうなのか?詳しく聞かせてくれんか?」

ローエンが反応した。

「あ~、まあ、あんまり気分のいい話じゃないだろうが…。
貴族の中にゃ、お家騒動防止のために、庶子を捨てちまう奴、結構いるのさ。
そうなると…身分証なんて無いから、結局行きつく先は、オレらみたいな、ハズレ者コース。
それから…大人であっても、お家騒動に敗れて、身分がバレるとマズい…みたいな奴が、
たまに隠れて仕事してたり…なんてことがあるんだよ。
オレらの仕事は、成果報酬だから、やることやれば、出自なんて問わないからな」

「なるほどね…。
でも、ダイヤは大人になってから、お前らの世界に入ったわけじゃ、無いんだろう?」

ローカスの言葉に、

「そりゃあの。子供のころから…ちょいちょい見かけていたわ。
ジョーカーの下働きみたいに…な」

そんな中、グレンフォが大きな体を、再度せり出し、

「キミたちは…ダイヤと親しいのか?」

ちょっと詰め寄り気味に、聞いている。

「親しい…ってほどじゃない。何度か共同作業をした仲だな…。
爺さんの所は、もう少し関わってるだろう?」

「まあ…わしとジョーカーの腐れ縁が、長いっちゃ長いからの…」

両手を上げつつ、上を見て…ちょっとむすっとした顔をする。

「し、知ってくることがあったら、教えてくれないか!!頼む!!
特に…生まれ育った地域や、親の事とか…」

すると…2人は即座に、きまずそーな、顔をして、

「……オレらの世界じゃ、そういった事は、本人が喋らない限り、聞かないのが暗黙の
ルールなんだよ。
脛に傷持ってない人間の方が、少ないんだからさ」

吐き捨てるように言う。

「まあただ…ジョーカーから聞いた程度の話で良ければ…」

イシュロは…一応の仲間意識からだろう。
ある意味…目の前のグレンフォと言う人物を、試そうとしているのかもしれない。

「そ、それで構わない!!」

必死なグレンフォに、少々驚きつつ、

「ほんの子供の時に…どこぞで拾ったと言っとったな、確か…。
最初は養護施設に預けようとしたらしいが、ダイヤが嫌がって…結局育てることにした…とか
なんとか…」

昔の事なのだろう…。
ひどく記憶がおぼろげなようで、どこにでもありきたりにある話の様だった。

「まあでもよ。
拾われたのが、ジョーカーの爺さんで良かったんじゃねぇの?
養護施設だって、酷い所は酷いしな…」

「なんじゃい。経験者みたいじゃな」

ローエンの鋭い指摘に、ラディルスはちょっと止まる。
…まあ、こいつ等ならいいか…と、思ったようで、再び口を開くと、

「オレじゃなくて…ウチの№2の話さ。そいつの育った養護施設じゃ…子供は奴隷より酷かった。
小さいころからノルマが課せられて、少しでも出来なかったら、飯抜きと体罰は当たり前。
体罰も…悪い事をしたんじゃなく、職員の気晴らしで行われたってんだから、オレみたいな人間すら
胸糞悪くなった。もちろん死んだ子供も何人も見たって。
何とか逃げ出して…ウチの先代に拾われて、生き延びたんだよ」

「本当に胸糞が悪いな!!」

ベンズは…小さい子供がいるからこそ、余計に怒りを露にしている。

「そんなもんを放置するとは何事じゃ!!」

ローエンも怒りを露にするが、

「あ~、その施設なら、捕まった時ギリアムの旦那にチクっといた。
ちょっと前に見たら、地図から消えてたよ」

ひっじょーに愉快爽快と言う具合に、手を振っている。

「……坊主は相変わらず、仕事が早いの。わしらも見習うぞ、ローカス」

きりっとした顔でのたまう。

「……まあ、この件に関しては、大いに見習うべきですね」

ギリアムについては、いつも素直に認めないローカスだが、この時ばかりは同意した。

「でも…結局ダイヤの事は、本人に直接聞くしかない…か…」

ローカスが最もな言を吐いていると、

「まあ…それが一番確実じゃがね。わしらが知っているのは、そんなもんじゃ」

2人とも同意した…その世界には、その世界の理があるという事だろう。
その後…私的な話は抜きにして、今後の展望などを…話し合うのだった。


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9はこれで終ります…。
どうなってしまうのか…次回乞うご期待。
一週間後に発表しま~す。
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感想 5

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みんなの感想(5件)

うねまま
2025.06.08 うねまま

今回もとても読み応えがあって面白かったです。
今後の展開がますます楽しみです。
新章が始まるまで、また再度読み込みます。

2025.06.16 木野 キノ子

お返事遅くなりました😭

楽しみにしてくださって、ありがとうございます😊

ここのところ、更新遅れがちですが、続編必ず出しますので、お待ち下さい😆😊😃

解除
mitubayasi
2025.05.06 mitubayasi

この3章は開始からどきどきするものでしたが、今日の7話は息を詰めて読みました。
ギリアム·····凄いそして恐い!こんなギリアムをフィリーも初めて見ましたよね。どう感じたのでしょう。
まあどんなギリアムでもフィリーは受けいれるでしょうが。
こんな凄い事があったのですからギリアム視点での話を読みたいなと思います。

2025.06.16 木野 キノ子

お返事遅くなりました😭
いろいろ楽しみにしてくださって、ありがとうございます😊
今後、気合いを入れていきたいと思います😅😁😊

解除
mitubayasi
2025.03.30 mitubayasi

第9部開始、嬉しい~ ざっくり数えたら昨日ので412話。大作になりますね。
部に分けられその中も章があってタイトルが付いていて良かったです。
読み返したい所がすぐに見つかりますので。
それにしても、フィリーとギリアムが再会してからまだ1年も経っていないのに
色々有り過ぎて、作中の皆様にお疲れ様ですと言いたいくらいです。
今回は何やら楽しそうな事柄から始まりましたね。何が出てくるか楽しみです!

2025.06.16 木野 キノ子

長々とお返事出来ず、申し訳ございません😓
私も改めて振り返ると、長くなったと思います😅
ただまあ、せっかく浮かぶ物語は、形にしたいので、これからも、頑張ります☺️😆☺️
応援有り難うございます😊😊😊

解除

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