ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第1章 茶会

7 名に懸けた言葉の代償

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階級・身分関係なく、‟騎士”の称号を持つもの(貴族はすべて
持っている)は、同じ騎士の称号を持つ者に限り、名誉を侮辱
された場合、決闘を申し込める。

……ということになってるけど、ほとんどの人はやらない。
というのも、文字通り真剣勝負、使うのは切られれば死ぬ可能性
のある、本物の剣。
殺しちゃったりすると、そのあとの遺恨処理が大変だから、半ば
形骸化しとる…ただ一人を除いて!!

皆さまもう、お分かりかと思いますが…例外はギリアム公爵閣下
です。
39戦39勝、しかも勝利=死者の数という、エゲツナイ戦績を
お持ちでございます。

「つまりギリアム公爵閣下は現在正式に、お前たちに決闘を申し
込む大義名分がある」

「そ…そんな!!助けてください、団長!!」

うっわー、縋りつき方、ハンパねぇ。

「みぐるしい!!」

ベンズ卿が2人を引っぺがして、脇に放る。
大の男を二人同時に…すげぇ!!

「団長はお前たちに、何度も言った…。
名を懸けられるか!!と。
そしてお前たちは、名を懸けると言った!!
騎士が一度言った以上、ジタバタするな!!」

その通り過ぎて、何も言う事ねーわ、うん。

「レ…レティア王女殿下!!」

お、やっぱり次は、王女に行ったか。

「わ…私たちは自分の仕事を、しっかりやりました!!
何卒お助けください!!」

…まーねー。
規則違反だってわかってたのに、あなたに協力しましたって
言いたいんだよね~。

「レティア王女殿下!!」

お、ギリアムが割って入った。

「この騎士の決闘については…国王陛下も犯すことのできない
この国創立以来からの不文律…当然わかっていらっしゃいます
よね?」

さーて。
バカ王女はどうすんのかねぇ。
ここが正念場だよー。

「あ…」

汗だくで出た言葉が、

「アナタたちが、決闘でギリアムに勝てばいいでしょ!!」

それかい!!
一番不可能なやつ…。

あ~あ、それにしても…やっちゃったねぇ~。

こーゆー小悪党ってさー、バカで金や褒美をちらつかせれば
簡単に動くから、ちょっとした時の使い勝手はいいように見える
んだけど~。
切り捨てるときは、よくよく注意が必要なんだよね…。
自分のことしか考えない奴ほど、‟窮鼠猫を嚙む”をしやすい
からさ~。

そしてやっぱり…。

「そ…そもそもレティア王女殿下の指示ではないですか!!
お茶会の会場に残って、オルフィリア嬢がフェイラ嬢にお茶を
かけたと証言し、取調室に連れて行けと!!
私たちは規約違反だとハッキリ言ったのに、自分がもみ消して
やる、何も心配はいらない、取調室まで連行すれば、後の手はず
は整っている!!
ギリアムをぎゃふんと言わせられる!!と!!」

んん?
私の脳内に、ぴくっと来たもんがあったが…今は目の前のことに
集中せな。

「な!!なにを!!でたらめを言うんじゃありません!!
事実無根です!!」

こんな感じでギャーギャー…。
ポテチとコーラでも用意しときゃ良かったかねぇ。
この世界にゃ、どっちもないけどね。

そんな時、別の近衛騎士団4人が来た。
ローカス卿が、自分が一定時間戻らなかったら、来るように
言っていたらしい。
そしてグラン卿、ナーリス卿は、その4人に連行されていった。
ローカス卿とベンズ卿はバカ王女の護衛(実質見張りだろう)の
ために残った。

「オルフィリア嬢!!
この度は、うちの団員が大変なご迷惑をおかけし、面目次第も
ございません。
本当に申し訳ございませんでした」

という、とっても丁寧な謝罪を2人にしてもらった。
もちろん、笑顔で許した。
実害なかったしー。
さて、一番デカいの片付けたから、次いこかー。

「フェイラ嬢」

私が動く前に、ギリアムが動く。

「お聞かせいただきましょうか?
なぜ自らお茶を被っておきながら、それをフィリーにやられたと
言ったのか?」

ギリアムの声は、静かだが強い…。
フェイラ嬢は近衛騎士の一件もあり、すっかり怯えていた。
ルイーズ嬢の腕の中から出てこず、もちろん何も答えない。

さてと、どうすっかなー。
さっきの騎士たちに関しては、ギリアムに丸投げでよかったん
だけど。
これ以上は…うん、やめさせた方がいい。

「ギリアム様…これ以上はおやめください」

「!!?なぜ?」

ギリアムは不思議そうだし、悲しそう…。
まあ私だって、大切な誰かに濡れ衣着せられたら、絶対はがそうと
躍起になると思う。
けど、ごめんね。
これ以上はホント、やめた方がいい。
ギリアムのために!!

「フェイラ嬢が怯えています」

「…?」

「このまま詰問を続ければ…、ギリアム様が強く圧をかけ、自分の
望む答えを言わせた…と、周囲にうつってしまいかねません」

「そんなこと!!」

「ギリアム様…。
人は所詮、自分の目で見た物と…自分の見たいものしか信じない
生き物です」

「……」

「このお茶の一件の真実を、ギリアム様が見て知ってくださって
いるだけで、私には十分です。
あとはギリアム様が、フェイラ嬢との個人的な付き合いをどうす
るか、考えればよいだけに留めてください」

そう…たとえそれが冤罪ではなかったにせよ、冤罪をひっ被せて
いるように、周囲に見えるのはよろしくない、やらない方がいい。
不確かなままの方がいい。
まして私の体も精神も、さして被害らしい被害など受けていない
のだから。

何事にも引き際がある。

それを間違うと…ロクなことになったことがないんよ。
これ、60年以上生きてきての実感ね。

ギリアムは目をきゅっとつぶってから、ゆっくりと開け、

「……それがフィリーの希望なら」

と、言ってくれた。
良かった~。

(!!!…引いた…、ギリアムが…)

ローカス卿…ぎょっとした顔しとるね。
やっぱりここで引くような人間じゃないんだね、ギリアムは。
今後も矯正が必要やな。

ギリアムはやっぱり怯え顔なルイーズ嬢に視線を移し、

「ルイーズ嬢」

「は…はい…」

姉の方は当事者じゃないから、少し落ち着いとる。

「フィリーの希望ゆえ、私はこれ以上フェイラ嬢に何も言いま
せんが…、今後フェイラ嬢との交流は、一切お断りします」

「え…あの…」

あ~、ルイーズさんも、反応なかなかできないよね。

「私は、私の目で見た事実を信じますので、テオルド卿にも後日
そう伝えます」

それだけ言うと、さっさと背を向け、私の方に来た。

「さて…もう一つ片付けたら、帰りましょうフィリー」

んじゃ、クレアとタニアおばはんとこへ…と思ったら、

「もっ申し訳ありません!!ギリアム様!!」

振り返らなくてもわかる、フェイラ嬢の声だ。

「わ…私が自分でお茶をかけて…、オルフィリア嬢のせいにした
んです…」

あ~あ、これでバカ王女がみんなに嘘ついたこと、完全に確定
やわ~。

「ク…クレアおねーさまに言われたんです!!
調子にのってるオルフィリア嬢を、こらしめてやるだけだって…。
それがあんな大ごとになるなんて…私…私…。
申し訳ありません、ギリアム様!!」

「ちょっ!!フェイラ!!
私そんなこと、言ってないわよ!!」

「ひどい!!クレアおねーさま!!
私、おねーさまの指示で…」

あ~、ギリアム終始振り向きもせんわー。
もう今更遅いよ、フェイラ嬢。
第一、謝る相手がそもそも違う。

ローカス卿とベンズ卿は、ギリアムじゃなく私に頭を下げた。
さすがだなって思った。

16の子供(まあ、この世界じゃ成人だけど)に同じことは
なかなかできんと思うけど…せめて私に謝ったら、ギリアムは
振り返るぐらいは、したかもしれんよ。

んで私らは、もう半ば放心状態のタニアおばはんの所へ行き、

「一つだけあなたに言いたいことがある、タニア侯爵夫人」

「ギ…ギリアム様…あの…」

「私のフィリーに届いた招待状は…確かにお茶会の時間は
PM3時から、ドレスコードは灰色になっていました。
私の真実は、誰が何と言おうと、そうです」

タニアおばはんは何かを言おうとしたが、ギリアムは振り返りも
せずに、私を連れてすたすた去った。

うん…。
何だね…・
デカい花火を、打ち上げるつもりではあったけど…。

超×10ぐらいのヤツを、打ち上げた気分だ…。

はあ…。

疲れたよぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~。

ん…。
なんか…。
忘れとる…。

…………………………………。

あ~~~~~~~~!!
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