ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第2章 事後

1 とりあえずやることが山積みだ~

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――――さて、翌朝。

ギリアムは少しは落ち着いたようだが、やっぱりベッドで私の
腰にしがみつき、離そうとしない。

「そろそろ起きないと…仕事の時間ですよ。
私も今日は、やることが山積みで…」

「……あなたはなぜ」

んん?

「平気なのですか?」

なんか、すっきりして頭動くようになったら、いろんな疑問が
出てきたようじゃのう。

「…平気なわけではありません。
あなたより慣れているだけです」

「慣れている…とは?」

ん~、前世のことは言えねぇから…。

「私は三度も夜逃げを経験しました。
そんな私が…人に蔑まれなかったとお思いですか?」

「!!」

「昨日と同じようなこと、結構経験してますよ。
ハッキリ言えば、もっとひどいのもありました」

ギリアムは自分の体と一緒に、私を起こし、

「どこの誰ですか!!
リスト作ってください!!」

「お断りします」

「なぜ!!」

「キリが無いからです」

「そんなに…たくさん…」

「ええ」

何だかギリアム、ぼーぜんとしてしまった。

「それに私もあまり思い出したくないのです。
ハッキリ言って不快ですから。
関わらずに済ませられるのなら、済ませたい」

これはホントの話。
仕返し考える時間あったら、エッチのこと考えたいわ。

「…わかりました」

「でも…」

これはハッキリ言っとく。

「何かでまた、私に害を与えるようなことをしてきたら、
その時はあなたに、しっかり言います」

「もちろんです!!」

「では…起きましょう」

そして朝食をともに取り、仕事に行くギリアム。
休みたそうにしていたが、テオルド卿が何かしら言ってくる
可能性があるから、行けと言った。

見送った後、一息ついている私に、

「本当にお疲れさまでした、フィリー様」

フォルトがお茶を出してくれた。
さすが、気が利く。

「エマに聞いた部分だけでもすごかったですが…さらに続きが
あるのでございましょう?」

「まーね。
お父様とお母様が来たら、全部話します」

んで、離宮から来たパパン、ママン、エマ、フォルト、私の五人
が揃ったので、私はお茶会で起きた、一連の出来事をすべて
話した。

「そ…そ…」

最初に動いたのは、パパン。

「そんな~~~~~~~!!」

私に抱き着き、

「なんで、ひどい、フィリーは何も悪いことしてないのに~、
なんでみんないじめるの~」

滝涙を流す。
滝涙って初めて見た。

う~ん、こうなるのわかってたから、ここにパパンを呼ぶか
どうかは迷ったんだけど…一人だけのけ者にして、後で周りから
バレても面倒だしな~。

とりあえず、私に抱きつき泣きじゃくる、パパンの頭をなで

「お父様…私は大丈夫ですから」

と言えば、

「フィリー!!
お前はなんていい子なんだ~~~~!!!」

と、さらに泣く…。
……好きにしてくれ、もう。

そんなパパンを、ママンが引っぺがす。

「まったくアナタは…、落ち着いてください。
ある程度、予想できたことです」

おりょ、ママンの声が震えている。
珍しい。

「とはいえ私も…ここまでひどいとは、思いませんでしたが」

うん、まあ…そうだよねー。

「しかし、そのような状態を一人で耐えきるとは、フィリー様は
素晴らしいです」

フォルトに言われたが、

「いやー、ギリアム様いるってわかってたし」

「例えそうだとしても、最初に私の口を塞いだ判断は、見事で
ございました」

今度はエマに褒められた。

「まーこれも建国記念パーティーで、レティア王女殿下が悪い例
見せてくれたからねー。
あの令嬢二人は間違いなく脅されたんじゃなく、進んで協力したん
だろーけど…少なくとも自分より、立場が下の人の発言は、意味
ないと思わなきゃだめよ。
自分を擁護するために、言わせたとか言われるだけだし」

「その判断を、ご自身で的確にされたのが、素晴らしいのです」

そんなに褒められると、こそばいい。

「んじゃ、エマに一個、やってほしいことがある」

「一つと言わず、いくつでも…」

おお、太っ腹。

「例の私に名乗りもせずに、絡んできた三人の令嬢の、マナー
講師の人って…どんな知り合い?」

「二人は教え子、一人は友人です」

「仲いい?」

「定期的に、手紙のやり取りをしておりますし、会えば歓談
いたします」

「そう…なら」

私は少ーし間をおいて、

「例の三人のマナー違反は、しっかりと耳に入れて差し上げなく
てはねぇ…」

「…よろしいのですか?」

「ええ、もちろん。
私はタニア侯爵夫人に、私に対する無礼を許すとは言ったけど、
…マナー講師に対する無礼を許すとは、一言も言ってない」

「…で、ございますね」

エマもわかってるっぽい、よしよし、さすが!!

「ただ、エマと会うってあちらのご令嬢方が知ると、何か理由
つけて、邪魔してくるかも…」

ちと悩む。

「ご心配には及びません、フィリー様」

エマが静かに答える。

「わたくし、三日後のマナー講師の集まりに、参加することに
なっておりますが…主催者には、私が参加することは、サプライズ
にして頂くよう、お願いしてあります。
つまり会場に来るまで、参加者はみな、私が欠席とおもっている
事と思います…」

なんつーか……ホント優秀すぎるよね、公爵家の面々!!
私がクレアのお茶会(敵ばかり)に参加するって言った時点で、
ある程度こうなること、予想してなきゃ無理な仕込みだ。

「フォルト!!
お茶会に出席した令嬢の身分、どこまでわかってる?」

「すでに名前、身分、親戚関係に至るまで、調べはついて
おります」

ホントに本当に優秀。

「とりあえず本人の身分だけ、教えて」

「侯爵令嬢と伯爵令嬢でございます」

「あそ…じゃあ」

私はくるりと向きを変え、

「お母様!!お願いがある」

「なに?」

「ヴァッヘン卿のお母様から、お茶会のお誘いが来てたよね」

「そうね、どうしようか迷ってるけど…」

「参加して!!」

「アンタのお茶会のことを、話せってこと?」

「それは向こうが聞いてきたらでいい。
あと、お茶会に参加した令嬢の身分が原則上だから、それだけ
注意して!!
その辺のさじ加減は任せる」

「わかったわ」

娘として見てきたが、ママンは人づきあいでの押し引きがうまい。
ママンがいなかったら、パパンが騙されたのは、三回どころじゃ
すまなかったろう。

「あともう一つ…、宣伝して欲しいものがある」

私が満を持して開発した商品を、ご披露するときが来たのですよ~。
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