ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第2章 事後

8 植物を甘く見ちゃいかんのよ

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私はちょっと一呼吸おいて、なぜキンラク商会の商品が潰れると
予想したのかを話す。

「ん~、原材料が問題なんですよ」

キンラク商会の特許を取った衣服の原材料は…正式名称を
サバクアシという植物から取った繊維をもとにしている。

このサバクアシ、その名の通り砂漠地帯が原産地の植物だ。

砂漠の一部地域で、原住民が衣服として使っているのを発見した
キンラク商会が自社農園で栽培を開始し、見事に成功。
しかも原産地と違い、肥沃な大地で水もたっぷりやった結果、
3か月ほどで生育が完了するという、コストパフォーマンス最高
の材料となった。

結果、安価な衣服として販売でき、大成功をおさめ、原材料を
買いたいという人間からも、二重に利益をとれるようになった。
あ、ちなみにサバクアシは、自分で生産するより原材料を買った
方が安いんだよね。

「サバクアシは大変いいと、評判ですが…(ギリアム)」

「サバクアシ自体はとてもいいものだと、私も思っていますよ。
事実私は、サバクアシを使った衣服には手を出さなかったけど、
サバクアシの原産地と契約を結んで、新商品を開発し、特許も
取りましたから」

あ、ちなみに私が開発した新商品は衣類じゃないから、原材料が
サバクアシでも、問題なく特許は取れた。

「え…?あれはしっかり利益を見込んだものだったのですか?
私はてっきり原産地の人達に対する、慈善活動かと…」

ギリアムが驚いとる…。
まあ、商売の方はあまりやる気がおきない人だからなぁ。

ここで補足だが、原産地の人々は、サバクアシを使い、衣類を
作って、細々と生計を立てていた。
しかしキンラク商会が大々的に安価で衣服を販売するようになり
原産地の人々が作る物は売れなくなった。
じっさいキンラク商会の販売する物の方が、繊維が柔らかくて
着心地がいいと評判なのだ。

「しかし驚きました。
原住民達は保守的だと聞いていたのに、随分簡単に契約できた
ようなので(フォルト)」

「あ~、運が良かったのよ。
3年前…最後に逃げている時、ちょうどその辺りに立ち寄って、
現地の人と仲良くなったから」

そう、私たちが行ったとき、若い人たちはキンラク商会の
サバクアシを生産する地域に、出稼ぎ労働者として取られ、
年寄りと子供しかいなかった。

だから、色々な仕事を手伝ったのだ。

その時に、私はサバクアシとはどういうものか…というのを
この目で見て触れたのが、新商品の開発にはデカかった。

私が開発した新商品とは…ズバリ‟たわし”だ!!

この世界にはたわしが存在しなかったのよ~。
あったら便利なのに~って常々思っていた。
んで、サバクアシに触れた時…これだ!!って思ったのよ。
けど、その当時の私に商品開発なんてやってる暇なかったし、
そんなことを考えている間に、またその地を離れちゃったから
すっかり忘れていた。

フィリアム商会の仕事をするようになって、なら作ってみようと
思い立って、父母と共に現地に行った。
急に出て行っちゃったし、お礼とお詫びもしたかったから。
そしたら、現状が予想以上にひどかった。

若い人たちは、サバクアシの加工技術がわかった段階で解雇され
ていたり、気候が合わなくて体調崩して戻ってきたりしていたん
だけど、職はない…。

私は急いでたわしをサバクアシで作り、使ってみた。
予想通り…いや、予想以上に出来が良くて、すぐに原住民の人達
に、これを商品として作って欲しい旨伝えた。

幸いたわしは、衣服より遥かに、簡単につくれるものだった。

なにせサバクアシを衣服にするためには、その硬い繊維を柔らかく
するために、何度も何度も叩いて叩いて叩いて…をしなければ
ならないからだ。

そして、出来高制ではなく、作ったモノはフィリアム商会で一括
買い上げするという、専属契約を結んだ。

完全に外から来た人間だったら、もう少し信頼を得るのに時間が
かかったかもしれないが、私たち親子の信頼と、ギリアムの名声
を使って、かなり早めに契約できた。

現在たわしは布教活動中だが、蜜蠟ラップとともに、かなり
好評だ。
たわしも一つあれば、結構持つし、サバクアシのおかげで安価に
つくれたし~。

「しかし…それがどうして、王家が頭を下げてくることと関係
あるのですか?」

うん、さすがに頭良くても、これだけじゃわからんわね。

「ギリアム…おっちゃんに薬草学を習った時…、おっちゃんが
口を酸っぱくして言っていたこと、覚えていますよね」

「当然です。
薬草は別地域で育つと、薬効成分が全く違うことがある。
例え同地域で育ったとしても、その年の気候によっても変わって
しまうことがある。
だから安易に、薬草を使ったから大丈夫と思わずに、症状をよく
観察するように…と」

「サバクアシで作った衣類の、うたい文句はなんでした?」

「大事に使えば、20年30年使うことができる…と(フォルト)」

「そう、実際に原住民の人たちが着ている物は、50年選手も
いましたからね」

これには私も、現地で実際に見て驚いた。
衣服や寝具など、本当に親子三代…下手すりゃその前の代から
受け継いで、使っている人たちがいるのだ。

「さっきおっちゃんの話をしたのは…植物ってのは、移動でき
ないからこそ、その地域地域の特徴に、自分を合わせて体の構造
を変えてしまうものがいるのです」

「本物のサバクアシを触ったことのある私としては…サンプル
としてキンラク商会が持ってきたサバクアシは、サバクアシでは
ない、別の植物のように感じました」

「……」

「サバクアシの特性…というか利点は、サバクアシの原産地の
気候があってこそ、成り立つものなんだと思うんですよ。
ついでに言うと、原住民の生活環境も…ね」

「もう少し、わかりやすく説明してくださいませんか?」

ギリアムが眉間にしわを寄せる。

「ん~、じゃあ逆に質問しますけど…一冬越して春の初め頃…
サバクアシを使った商品が全く売れなくなったら、どうなると
思います?」

するとギリアム・フォルト・エマは顔を見合わせ、

「それは…多大な損失が出ますね。
大赤字も大赤字…商会の存亡の危機でしょう(ギリアム)」

「衣類で大成功した資金をもとに、畑の拡大と新商品の開発を
熱心にやっているそうですから…(フォルト)」

「最近では、寝具や小物、カバンに至るまでの生活必需品を
サバクアシで作って、売り出していますからねぇ(エマ)」

「そう、そしてそれは、何もキンラク商会のみの話ではないです
よね?」

キンラク商会がサバクアシを使った商品で大儲けしたことと、
原材料を安く販売したことで、他の商会もこぞってサバクアシを
使った商品の開発&販売に勤しんでいる。
原材料の安さは、ちょっとぐらいの失敗をカバーできるからね。

あ、ちなみにたわしは、フィリアム商会の独占販売ね。
まあ今の所、こっちに注目している商会もないしね。

「つまりキンラク商会のサバクアシがダメになれば、他の商会も
余裕なんてなくなる…。
つまり、キンラク商会は大赤字を抱えつつ、他の商会からの支援
も得られなくなるという、ダブルパンチを食らうんです」

「なるほど、そうなればファルメニウス公爵家…フィリアム商会
に助けを求めてくることも、あり得ますね…。
王家にその補填をするだけの、資金力はありませんし…」

ギリアムは考えつつ、

「しかし、そううまくいきますかね?
だいたい、フィリーがなぜ一冬越したら、サバクアシを使った
商品がダメになると思っているのか、そこを聞かせて欲しいです」

私は少し考えて、

「そうですね…かなり不確かな要素を含みますが、ここにいる
人達には、話した方がいいですね」

私はサバクアシについての、私の考えを話した。

「そんなことが…しかしあり得ないと言い切ることも…」

みんな困惑しとる。
まあ、当たり前だけど。

「ですから正直、当てが外れる可能性も十分にあります。
もしそうなったら、ギリアム様の好きにして頂いて構いません」

「わかりました。
来春までは待ちましょう」

話し早くて助かるわ~。

ああそうそう。
あと一つ確認しとかんとね。

私はさらに言葉を紡ぐ。
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