ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

6 しょーもないお国事情

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刀を握って構えた男の姿を見て、一瞬怪訝そうな顔をしたローカス卿だが、
すぐに余裕の表情になると、子供たちの一人に、

「悪いけど、それちょっと貸してくれよ」

子供の持っていた木刀を指した。

「え?え?」

子供たちは本当に訳が分からなそうにしていたが、手を差し出すローカス卿に
黙って木刀を渡した。

「あ?てめぇ、木刀でやる気か?
こちとら真剣だぞ、手加減なんかしないからな!!」

男は意気揚々となった。
自分も木刀にするぐらいの気概みせーや、モテんぞ。

対してローカス卿は、

「別にそっちは真剣でいいよ、どーせお前の攻撃なんざ当たらねぇから」

「は、はあぁ!!
バカにするのもいい加減にしろや!!
折角、こっちの真剣貸してやろうと思ってたのによ!!」

うそこけ。
貸す気なんかさらさらないって、顔に書いてあんぞ。

そんな男の言葉に、耳を貸す価値もないと、

「だから貸してくれなくていいよ。
修練所さえマトモに卒業していない奴に、遅れなんざとらん」

面倒くさそうに言った。

「え…」

私もそれを聞いて驚いた。
だって…。

「騎士の修練所って、下位貴族であっても、令息は義務じゃなかった
ですっけ…」

そう、大陸のほぼ真ん中に位置し海もあるしで、貿易の拠点として大変
利便性のある我が国は、古来より戦争が避けて通れない…どころか、大変
起こりやすかった。
ゆえに学業より軍事が優先されるのだ。

私は思わずテオルド卿の顔をガン見してしまった。

「ええまあ…通常はそうなのですが…」

テオルド卿は話しにくそうだ…。
そこで私はピンときた。

「あ~、地獄の沙汰も金次第…ですか?」

「まあ…修練所の維持費は…施設が大きく数が多いだけに、結構かかる
のです…」

以前にも話したと思うが…この国…というか王家、ハッキリ言って金がねぇ。
だから公的施設(修練所もそう)に、一定額以上の寄付を行うと、行くのが
免除されるそう…。

まあ、向き不向きはあるだろうし、やりたがってない奴の世話は本当に大変
だろーから、システム的に悪いとは言えんがねぇ…。
ちなみに修練所は、一定の域に達するまで、卒業させてもらえんそーな。

「…よく決闘なんか申し込む気になりましたね、あいつら」

「まあ…ローカス卿をただの平民とでも思っているんでしょうな…」

テオルド卿…本当にほんとーに、呆れてる…。
だよね。

「ふっふざけんな―――――――――――!!
そんなデタラメを言って、オレをさらに侮辱するとは―――――!!」

男は激高するが、ローカス卿はシレっとして、

「デタラメじゃねぇよ…。
お前、剣の握り方から構えの仕方、重心に至るまで、全部めちゃくちゃじゃ
ねーかよ。
剣の基礎をしっかり習ってねぇことは、すぐわかるぜ」

「侮辱すんなって言ってんだろが!!
このオレを、レンス・ケルツィ小公爵と知っての事か!!」

「知らねぇし、どうでもいいよ、お前の名前なんざ」

ここまで二人の会話を聞いていた野次馬たちが、

「え?
アイツらっていつも、修練所トップで合格したって自慢してなかったっけ?」

「剣で何人もの血を吸ったとも…」

「全部デタラメだったってこと?」

なんだかクスクスと笑う声まで聞こえ始めたものだから、レンスは沸騰した
やかんのように、顔から湯気を吹き、

「ホンットにフザケンナ――――――――!!
オレの刀の錆にしてやる―――――――――――――!!」

剣を振りかざしてローカス卿に突っ込んだ…レンスが切ったのは、お決まりの
地面だった。

そしてレンスの視界から、ローカス卿が消えた。

「へ?え?」

突然目の前からいなくなったローカス卿を、彼が探そうとした時…。
いつの間にかレンスの斜め後ろに陣取っていた、ローカスの腕が…動いた。

乾いた空気の中、布団をたたいたような…鈍い音が響く。

その音と共に、レンスは地面に吸い込まれるように、倒れたのだった。

「え?え?」

他の2人はワケがわからず、半ば青い顔でぼーぜんとしている。
ローカス卿は、

「おい!!」

そんな2人に視線を送り、

「とっととコイツ、連れて帰れ!!」

と、顎で指示。

2人は倒れたレンスの体を抱え、

「おぼえてろ―――――!!」

という、子悪党の決まり文句を残し、一目散に逃げて行った。

余談だが、個の剣技がこの国で最強なのは、間違いなくギリアムだ。
子供のころから、大人をいなすことが、割と簡単にできたらしい。

そんなギリアムが本気を出した時…互角に戦えるのは数えるほどしか
いない。
その一人が…近衛騎士団団長のローカス卿である。

「ありがとよ」

ローカス卿は子供に木刀を返した。

「うおーっ!!
兄ちゃんスゲーっ!!」

「つよいじゃん!!」

「ドブさらいなんかやってないで、騎士団はいりなよ、騎士団!!」

「王立騎士団って、試験さえ受かれば、いくつからでも入れるんだぜ!!」

ずいぶんと眼をキラキラさせておるのぉ…。
まあ、当たり前か。

フム…。

午後の作業前に、言わなきゃと思っていたこと…。
これで随分言いやすくなったなぁ。

そーゆー意味では、あの三バカに感謝かな…。

「ハーイ、みんな!!
これから午後の作業に入りますが――――、その前にお伝えする
ことがあります!!」

私は目一杯、通りのいい声を出す。

自慢じゃないけど、発声練習は頑張ってんのよ。
いい声で鳴くのは、エッチの時、ムードを盛り上げる基本だかんね!!

……痛い、痛い!!
石はやめて、石は!!
石投げないで!!

「なんでしょうか?」

は!!
人の声で、私は正気に戻る。

改めて声を整え、

「今巷で騒がれているお茶会…私はできるだけ正確に皆さんにお話し
しました。
しかし…その後、あまりにも事実と違うことが飛び交っているので、
今日もう一度、お話しせねばと思った次第です!!」

「そ…それは…」

みんな不安そうに…バツが悪そうにざわざわしだした。
だからまずは…。

「安心してください!!
私は皆さんを、責めるつもりも罰するつもりも一切ありません!」

これはハッキリ言っとかんとね。

「ただその原因に基づいた、対処をしたいだけです」

私はテオルド卿の前まで行くと、

「ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが…、こちらは現王立騎士団
相談役のテオルド・ルイザーク伯爵です」

皆がざわつき、一斉にテオルド卿を見る。
正体を隠していたテオルド卿は、ちょっとバツが悪そうだ。

「私が訂正したのと同じことを、本日テオルド卿が皆さんに行って回って
下さったようで、まずはありがとうございました」

私はテオルド卿に頭を下げる。

「そ、そんな!!
やめてください、オルフィリア嬢!!
私は当然のことをしたまでです!!」

「その当然のことがなかなかできない事…人間の世界では意外と多い
ものです」

人々のざわつきは止まらない。
責める気はないと言ったけれど、やはり不安はぬぐいされないよね。

「私は…この施設の人たちがなぜ…テオルド卿の身内のことに触れず、
近衛騎士のみを悪しざまに言うのが直らないのか…、単純にフィリアム商会の
施設に世話になっているから以上のことが、あるような気がして…
調べたのです」

一呼吸置く。

「そして、突き止めました…テオルド卿」

「なんでしょう?」

「ベグダ村…と聞いて、思い当たりませんか?」

「え?」

テオルド卿だけでなく、ローカス卿も顔色が変わった。

そう…。
これがこの施設で、事実が曲げられ続ける、その根底にある物だった…。
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