ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

7 ベグダ村とは…

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ベグダ村…それこそがこの施設で、事実が曲げられ続ける根底にある物…。

ベグダ村とは、5年前戦争を仕掛けた隣国の、辺境にある村だ。
いや、あった…と言ったほうが、正確だろう。

戦争末期…ギリアムの早すぎる進軍速度を落とすため、隣国では焦土作戦が
取られていた。

焦土作戦とは、自国の物資をあえて燃やすことにより、敵軍がそれを利用し
勢いずくのを防ぐというもの。
しかしギリアムは、自国からの兵站補給ルートをしっかり確保していたから、
あんまり意味はなかったんだよね…。
もっともそれは、隣国軍の上層部には伝わってなかったみたいやけど。

話を戻すが、ベグダ村も焦土作戦の地に入れられたんやけど…辺境の上、
道が険しくて、通達が遅れた。
さらに避難しようにも、やっぱり道が険しいせいで、逃げ遅れた人が多数いた。

にもかかわらず、予定通り火はつけられた。
結果、多くの人々が火に巻かれてしまったのだ。

その時ちょうど、斥候隊として進んでいたテオルド卿の部隊が、それに
遭遇した。

テオルド卿は火に巻かれる村人を保護し、火を食い止め、逃げ遅れた人々を
助けることに尽力した。

しかしこのことにより、テオルド卿は斥候隊の役目をはたしていない…もとい
自ら放棄した。
まだ近くにいたであろう、敵軍を追うべきだったなどと言う声もあがって
しまった。

……………戦後に!!

ギリアムは庇おうとしたらしいが、それよりも早くテオルド卿は第一線を
退く胸を公表したのだ。

まあこれは…ギリアムが王立騎士団を改革したことに対する、上位貴族の
やっかみだったんだとさ。
だから抵抗すれば、何とかなったのかもしれないが、後に遺恨を残さない
為にと…なんともテオルド卿らしい。

「不思議なものですね…。
元来守るべき方が火を放ち、見捨て…。
蹂躙し、皆殺しにしてもよい方が、助け、支援することに尽力した」

ベグダ村の人たちは、手厚い支援を受けられたが、村や畑が焼かれ、その地で
生活ができなくなり、方々に散っていったのだ。

「ベグダ村の人々の一部が、この施設にいるのです。
それが、私が訂正したことが、なかなか直らない理由でした」

人々のざわつく声はやまない。
私は構わず、

「テオルド卿…今回のお茶会の件…レオニール卿に火消しはするなと指示した
そうですね…」

「え…?」

ローカス卿…驚いてら、だよねぇ…。

「それは普段からテオルド卿が、罪を犯した以上、等しく罰せられるべきだと
思っているからでしょう?
そしてそのことから、逃げも隠れもするべきではない。
高潔なテオルド卿らしい判断といえます」

私はテオルド卿の眼を真っすぐに見る。

「私はそんなテオルド卿だからこそ、お聞きしたい」

「ここの人たちがいつまでたっても、あなたの身内に対する罪は伏せて、
近衛騎士のみを悪しざまに言うのは…、あなたから受けた多大な恩義を
何とか返したいから…いいえ、もっと簡単に言えばあなたが好きだから
ですよ、テオルド卿」

「……」

「でも彼らが、間違いを犯しているのも、紛れもない事実です」

「……」

私は少し間を置いた。
そして声を低くする。
重要な所やから。

「だから彼らが鞭打ちになったり、首を切られたとしても…テオルド卿は
当然のことと思われますか?」

「な…っ!!
バカを言わないでください!!」

テオルド卿は身を乗り出す。

「人が罪を犯す時は、様々な理由があり、それに応じて処罰の重さを変える
べきです!!」

「近衛騎士のみを悪しざまに言った理由も、私のことを悪く言わない理由も
もうわかったのです!!
この人たちには、もう一度私からよく言って聞かせます。
そのうえで今後、言ったことを守ってくれるかどうか、見るべきです!!」

ああ…。

「それまでは、バツを与えるべきではありません!!」

よかった。
ちゃんと答え…わかってるじゃん。

「なるほど…ではもう一つお聞きします」

「はい」

「アナタが近衛騎士を悪しざまに言ってほしくない、超個人的な理由があり
ますよね?」

「え…ええ」

「それを皆さんに、言えますか?」

「もちろん…。
私の恩師が近衛騎士だったからです。
そして私の命の恩人でもあります。
今私が生きてこの場にいられるのは、その人のおかげです」

お…かなりざわめきが強くなってる。
そりゃそーか。

近衛騎士庇うのが、カッコつけじゃないってわかったろうからね。

さてさて。
もう一押ししますかね。

私は改めて、みんなの方を向き、

「皆さん!!
わかりましたか?
近衛騎士を悪く言う事を、テオルド卿は心底望んでいません」

言い終わるとすぐに、テオルド卿の方を向き、

「でも、テオルド卿も悪いです」

「え…」

テオルド卿、いきなりの事で呆けちゃった。
構わず続けるけどね。

「だって、何が嫌か、言わないんですから!!
言わなきゃ人は、わかりませんよ!!
そして、何か間違っていることをしているなら、言い聞かせるだけじゃなく、
その原因を探らなきゃ!!」

「まあ…そうですな…。
そういえば、近衛騎士を悪く言う理由を、一度も尋ねませんでしたね」

自分の悪いとこ、しっかり認められるのは器がデカい証拠だ。
だからテオルド卿、あなたには幸せになって欲しいし、長く王立騎士団に
いて欲しい。

「あと、もう一つお聞きしますが…、さっきご自身でおっしゃった、
罪と罰の話…」

ここ最重要。

「どうして他人にはああ言えるのに…、ご自身とご自身の家族には言えない
のですか?」

「そ…それは…」

おや、慌てだしたね。
予想通りか…頭いたっ!!

「なぜ罪を犯したのか…その理由は何か…そして今後どうすればいいのか…。
…何一つ、家族とは話していないのではないですか?」

「……」

「どうか頭ごなしに起こるのではなく、一つ一つ話をしてくださいませんか?」

テオルド卿は何も言わなくなってしまった。
しかしやがてポツリと…。

「オルフィリア嬢に…お聞きしたいことがある」

本人の普段の声量からは、信じられないぐらい小さい声だ。

「なんでしょう?」

「アナタは…許してくださるのですか?」

「……」

「あんな非道なふるまいを…許していいのですか?」

テオルド卿の頬には、いつの間にやら涙の筋が。
ああ、この人…。
やっぱちゃんとわかってらぁ。

「許していいとは思っていませんよ」

後ろ、ざわざわがまた出たねー。
ま、聞いてくれぃ。

「あのお茶会での出来事は、ハッキリ言って悪質すぎます。
大抵の人は、同じことされたら、人間不信に陥ってしまうでしょうね。
最悪…一生引きこもるか、自殺を考えてしまうレベル…」

「……」

「テオルド卿はそれがわかっているから、私に詫びるどころか、会う事すら
控えたのでしょう?
その資格すらないと…」

「その通りです…」

テオルド卿…顔色悪いけど、神妙やね。
弁解などする気が無いんだね…いさぎよし。

「ではそんな非道な目に実際あった、私の率直な気持ちや心情を言わせて
頂きます」

「はい」

テオルド卿は静かに私の眼を見ている。

「これはあくまで、私に限りのことですが…。
お茶会に対する気持ちなど、すでにきれいさっぱり忘れました」

「は…はあぁ?」

テオルド卿…信じらんネーって顔になってる…、まあそうか。

「あの~、私の経歴ご存じですよね?
あの程度の出来事、何度も経験済みですし、もっとひどいのもあり
ましたよ(前世含めてね)。
私はいちいち気にして落ち込んでるほど、やわでもなければ、弱くもあり
ません。
第一、暇でもないし」

「……」

テオルド卿…メダマドコーになってるみたい。
まあ、気にせず続けよ。

「もちろんお茶会時、やられて痛くないワケじゃなかったですよ?
けど、しょーもねー連中が、しょーもねーこと言って、しょーもねーこと
やってんなー…。
ぐらいに思ってましたね~。
あ、その日帰って、美味しいご飯食べて(ギリアムとエッチして)寝たら、
忘れました。
私にとってはその程度の事です」

あ…テオルド卿、眼玉が旅立っただけじゃなく、顎外れたっぽい。
…気づかないふりして、続けよ。

まだまだ言うことは沢山あるからね~。
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