ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

文字の大きさ
36 / 43
第4章 飄々

9 私の願いは!!

しおりを挟む
私は腹に力を入れて、言葉を紡ぐ。

「今回のお茶会…私は深刻なことにはなりませんでしたが…。
痛くなかったわけではありません!!」

ホントにね。

「けれど私は、そういった痛みには耐性がある。
それによって、あなたもあなたの家族も、運よく次の機会に恵まれた!!」

「……」

「これは偶然以外の何物でもない!!
けれど少なくとも…、私としては、私が傷に耐え抜いたことで、与えられた
折角の機会を…ふいにしようとしている人を見たら、それこそ悲しくなります」

「!!」

「だってそうでしょう?
折角痛みに耐えたのに、不幸な人が増えるばかりじゃ、たとえそのために
耐えたんじゃなくても、つらいですよ。
ハッキリ言って」

は~、声がでかくなってきちゃったな~。
深呼吸、深呼吸。

「どうか私を助けてくださいませんか、テオルド卿」

「助け…る?」

テオルド卿、呆けちゃった。
構わず続ける、わたくし。

「先ほど言いましたよね?
話をしてください…ほんの少しでいいから、折れてください…って」

「この施設の全容を見た時…、このままでは不幸な人しか残らないと、
感じました」

「ですが一方で…テオルド卿がしっかり話をすれば、それは防げるとも
感じたのです」

そうなんだよ。
ホント、そう。
そうすれば、近衛騎士を悪く言う事も止まるだろうし、身内の件は…
これからの頑張りを見て欲しいと言えばいい。
それでバカにするやつは、あら捜しして最初からバカにしたい奴だろうから
ほっとけばいい。

「だから助けてくださいと、申し上げたのです」

「……」

これでも言葉が無いのかぃ。

「それとも私を助けるためであっても、ご自分の意地は曲げられませんか?」

「そ…そのようなことは、決して!!」

「だったら…折れてくださいますね?」

するとテオルド卿が初めて、

「私は…何をおいてもあなたを助けたいと思っている…。
しかし、私の身内が犯した罪は…あまりにも重い…」

長い言葉を発す…。

…………………………………。

あ~~~~~~~、もう、めんどくせぇ!!!!

「それについては!!
切り離してお考え下さい!!」

だから、ぶった切る!!!!

「罪を消せと言っているんじゃない!!
そもそも罪は消えない!!
この先、何年何十年たったって!!
あなたやあなたの身内を、責める人は責めます!!」

一気にまくし立て、再度大きく息を吸う。

「でもそれと、テオルド卿やテオルド卿の家族が…幸せになる、ならないってのは
別です!!
だいたい!!」

正直もう、ムカついてきたわ。
なぜかって?

「今回の一番の被害者である私が!!
火消しをしてくれ、機会を生かしてくれ、みんなを幸せににしてくれ、折れてくれ
って、自分の希望をさんざん言っているのに!!
どーして1つも素直に、はい…って言えないんですか!!」

「う…」

テオルド卿、ようやっとバツの悪い顔したね。

「私は!!
元来被害者が、加害者のバツを決めていいと思っている!!
同じ事例でも、傷の深さは人によって違うから!!」

一気に行くよ~。

「けどそれじゃあ、手間がかかりすぎるし、第三者への説明も複雑になってしまう。
だから法というもので、一律に縛る制度を、人間は作った!!」

「こんなこと、王立騎士団に在籍が長いテオルド卿の方が、よくご存じでしょーが!!」

「ええ…まあ…」

押してるね~、いいぞいいぞ。

「今回…近衛騎士2人以外は…法になぞらえて裁くのは難しいと、私は感じました。
ですから、私の裁量で裁くことにしたのです。
本当はもう少し、市勢については放置するつもりだったんですがね…」

この世界だって、侮辱罪や名誉棄損、傷害罪などで訴えを起こすことはできる。
しかしここで重要になるのは、私の身分だ。
私が公爵夫人であればまだしも、今はしがない男爵令嬢。
いくらギリアムがバックにいるとしても、法を曲げることはできないし、させたくも
ない。
だから私が上位貴族を訴えたところで、あちらにとっては痛くもかゆくもない額の、
罰金を払うだけで終わるだろう。
これも一つ、ギリアムの婚約者であった私を、軽々しく痛めつけられた理由だ。

だから、そいつらのいいようになんて動いてやらねぇ。

私は裁判でキッチリ終わらせることは、最初から除外した。

代わりに、エマをはじめ、ギリアム、フィリアム商会の利権関係をよくよく理解した
上で、彼女ら…というより、彼女らの家や周りを締め上げることにしたのさ。
もちろん、一刀両断なんかせんよ。
じっくり被害が出るように、しといたから。

おかげで頭のいい家は、すぐに泣きを入れてきた。
最初の余裕、どこいった?
まったく…。

「しかし、この施設や市勢の状態を見て、今回動くことにしたのです」

私がぜぇぜぇした呼吸を整えていると、テオルド卿が

「私には…本当にわからない…見当もつかないのです…」

「なにが?」

敬語とか、もうどうでもいい。

「フェイラやクレアは…なぜあんなことができたのか…まったく…」

うん、まあね。
そこがわかんないと、話がうまくいかんだろうね。

「ギリアム様への恋慕の情ですよ」

「は…?」

分かんないか~。
まあ、クレアは3年前の件の意趣返しが入ってるけどね。

「クレア嬢もフェイラ嬢も、わかりやすくギリアム様に好意を寄せていました。
テオルド卿は恋慕の情を甘く見過ぎたんですよ!!」

「……」

「私は恋慕の情と言うものは…人を悪魔に…いえ、悪魔以上の何かにしてしまう
物だと思っています。
人の良識や理性など、全て通用しません」

「本当に…それだけ?」

「ええ、根底はそれです。
それ以外の付属については、実際聞いてみなければわからない。
どうかそのことも頭において、ご家族と話してください。
何度も言いますが、ゆめゆめ恋慕の情を甘く見ないように!!」

「わ…わかりました…」

勢いになったけど、何とかなった~。
というわけで。

「話がそれましたけど…どうなんですか?
テオルド卿」

「は?」

「私のお願い!!
聞いてくれるんか?くれないんか―――――――?」

あーもー、せっかくご令嬢らしく、お上品にまとめようと思ったのに~。
まあ、お下品なのが私のキャラだから、いいけどさ、ふっ…。

「私は…」

「はい」

「私たちは…幸せになって良いのですか…?」

…………………………………。

なぜ!!
それを私に聞く!!

「私は幸せになるのに、誰かの許可がいるとは思っていません」

これホント。
まじ、ホント。

「でも、あえて今回、答えさせていただくなら…、テオルド卿はギリアム様を
常日頃から助けてくださっている。
私とあなたの家族に接点はないですが、少なくともギリアム様に対し、
あなたの家族は、安らぎと温もりを、与えてくださいました」

「だからこそ…、私はこうして話をしているし、与えられた機会を、存分に
活かして欲しいと、思っています」「

「……」

「そしてその結果…あなたとあなたの家族が、幸せになれたなら…。
私はとても嬉しいです」

なんか自然と…笑えた。

……って、テオルド卿泣いちゃったよ。
けっこー涙もろいのね、そういうのも好きやけど。

「私のお願い…聞いてくださいますね?」

「………はい」

…………………………………。

ぶっは――――――――――――――――――――!!

長かった――――――――!!

しんどかった――――――――――!!

ごーじょー親父の相手は、ホント骨が折れる。
ま、テオルド卿ならやる価値あるから、別にいーんだけど。

おお、いつの間にやらギャラリーのざわざわが、不安から歓喜に変わっとるな!!

よっしゃよしゃー。

じゃ、ついでにもう一つ。

「ハーイ、皆さん!!
もう一ついいですか――――――!!」

私はさりげなーくローカス卿の方に、移動する。

皆の注目が集まったのを見越し、

「こちらは近衛騎士団団長のローカス・クエント・ケイシロン公爵閣下で~す」

さらっと言う。

あ…ローカス卿、このタイミングでバラすの…って顔しとる。

いや、このタイミングでバラさないで、いつバラすんだい?
逆に。

そしたら少しの間、群衆が固まる。
そんでまたざわざわに悲壮感が出てきた。

さてと、結構きついがもう一仕事!!
頑張らんとね。

私は大きく息を吸った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...