ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

10 近衛騎士団について

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ローカス卿の正体を知ったみんなは、どんどん顔色が悪くなる。
そしてどよめきが起こりだしたので、

「お静かに!!」

私は一喝した。

「ローカス卿があなた方を、無礼打ちするつもりなら、とっくにしてます!!」

この世界には、前世日本の江戸時代に存在した無礼打ちと似たような制度が
存在する。
平民が貴族をあからさまに侮辱した場合、貴族がその平民を殺しても、
罪に問われない。

「ローカス卿をここにお連れしたのは、ローカス卿に市勢の状態を直接見て
頂きたかったことと…、逆にローカス卿という人間を、皆さんに見ていただき
たかったからです」

ハッキリキッパリ通りのいい声で!!
自己満足のための発声練習が、こんなとこで役に立つんやから、人生って本当に
わからんなぁ…。

「ローカス卿は私を助け、近衛騎士2人の罪を、正当に裁いてくださいました。
そして副団長のベンズ卿も!!
そんな方だからこそ!!
この施設で起きている事例を、直接見ていただきたく、私が連れてまいりました。
決して皆さんに何かするわけではないことは、私が保証いたします」

多少小さくなったが、やっぱりまだざわざわしとる。
しかも明るいもんじゃなく、暗いもんだ。

近衛騎士団って、王立騎士団とギリアムの人気に押される形もあるんだけど、
実際あんまり評判良くないんだよね…。
ただでさえ貴族しかいなくて、平民には敷居高いんだけど…。
王立騎士団から移った連中が、階級至上主義だったせいで、平民から嫌われて
いたらしいんだよね。

さて、どーすっかな~って考えてたら、ローカス卿の周りにいた子供たちが、

「兄ちゃんって強いと思ったら、近衛騎士団の団長だったんだ…」

ちょっと残念そう。

「ん…?ああ。
だから王立騎士団には入れないよ、スマンね」

ローカス卿はちと寂しげだ。
避けられると思ってんだろーなぁ。
でも…。

「別にいいよ、そんなの。
オレ、兄ちゃん好きだよ」

「オレも!!」

「オレだって!!」

「あたしも~」

「お前ら…」

ローカス卿、ちょっとうるうるしとる。
それにしても…、子供ってやっぱり大人と違って、本質見抜くね。

「だって兄ちゃん、ちゃんと言ってたじゃんか。
貴族だろーと、平民だろーと、悪いことしたらバツを受けるべきだって」

「兄ちゃんは近衛騎士でも、立派な騎士だよ」

みんないい顔で笑っとる。
いいねぇ。
これだけで、ローカス卿を連れてきたかいがあったよ。

「あ、そだ!!
オレ、近衛騎士だから悪いって言ってるヤツいたら、ちゃんと訂正するよ」

「あたしも!!
すごく優しくて、いい人もいるって言うよ!!」

「王立騎士団とか近衛騎士団とかじゃなくて、いい人か悪い人かでちゃんと
見なきゃダメだって!!」

するとローカス卿は、子供の頭をなでながら、

「ありがとな、でも無理すんな」

「え?」

「大人の中にはさっきの連中みたいに…子供でも手を挙げる奴、いる
からよ…」

すると、

「じゃあ、子供だけにする!!」

「この辺で遊んでる子、みんなに言っとく!!」

するとローカス卿は、

「はは…ありがとうな。
それで十分だよ」

子供たちの頭を、すごく優しくなでてあげた。

その光景を微笑ましく見ていた私の横を、人影がすり抜けて行った。
あの双子ちゃんの父親だ。

「あの…」

おずおずとローカス卿に歩み寄り、

「私は…ベグダ村の出身なんです…」

「え…?」

「だからテオルド様にはとても感謝しています…。
私や家族の命が今あるのは…あの方のおかげだからです。
そしてベグダ村で暮らせなくなった時…、国の施設に厄介になったの
ですが…、女房が病気になってしまって、働けなくなったら、追い出されて…」

「途方に暮れていたら、運よく同じような一団に入れて貰えて、この国の施設に
流れてきたのです…。
この施設の人たちはとても親切で…、女房は初めてマトモに治療を受けられました。
だから…オルフィリア様にも大変感謝しております」

「オルフィリア様を痛めつけた人間を許せなくて…でもテオルド様を悪く言えない
から…ついつい近衛騎士の悪事ばかりを、強調して…本当に申し訳ありません
でした!!
大人の方は、私が訂正します!!
テオルド様も、それを望んでらっしゃると、わかりましたから!!」

するとローカス卿は、静かに立ち上がり、

「アンタの事情は分かったよ。
近衛騎士2人がわるいことをしたのは、紛れもない事実だ。
それを否定する気はない。
アンタがそう言ってくれただけで、十分だ。
どうもありがとう」

ありゃ…双子ちゃんのお父さん、泣いちゃったよ…。
まあ、勇気振り絞ってやったことが、認められたら嬉しいよね。
そうこうしてたら、

「オ…オレもちゃんと、事実を言います!!」

「申し訳ありませんでした!!」

大人たちが次々、ローカス卿に謝罪した。
とりあえず、大団円になったようだね…。
よか、よか、それでは…。

「さあ、皆さん!!
話もまとまったところで、午後の作業に移りましょう」

と、声をかけると

「その前に、いいですか?」

深くフードを被った、長身の男が話しかけてきた。
ん~、何か聞いたことある声だなぁ…と、思っていたら、男がフードを
取った。

「べ…ベンズ卿?」

ローカス卿を見れば、私と同じく、ナンデインノーって顔しとるから、
作戦とかじゃない。

「すみません…やはり団長が心配で、来てしまいました。
ついでに警備の人間以外、すべて連れてきました」

やっぱりフードを被っていた人たちが、フードを取る。
私は知らない顔だったが…ベンズ卿が連れてきた近衛騎士の人たちなんだろう。

「お…お前ら…」

するとベンズ卿以外が、ローカス卿の前に来て、

「団長…ご心配をおかけして、申し訳ありません」

「自分らもう少し…、近衛騎士として頑張ろうと思います」

あ~、近衛騎士の不始末で、辞めようかどうか考えていた人たちを、連れて
来たのか…。

ベンズ卿…。

できる男やのぉ。

「こっちこそ…よろしく頼むよ!!
お前ら頼りにしてるからさ~」

ああ…ローカス卿…、本当に嬉しそうだ。
よかったなぁ。

「上手くいったようで、何よりですフィリー」

「へ?」

越えのする方向を見れば…、何でいるの?
ギリアム…それに師団長たちも!!

…………………………………。

お仕事は?

「すみません…フィリーを信じてはいましたが、やはりみんな心配で…」

まあ、テオルド卿のことやからねー。
お小言は言わんでおこう。
ギリアムの事だから、仕事には支障ないように手配してきたハズやし。

「オルフィリア嬢~」

ん?
リグルド卿?

「本当にありがとうございましだ~」

ありゃりゃ、こっちも泣いてるよ…。
そんなリグルド卿は、テオルド卿にしばかれとった…。

んで、皆さまの午後の作業。
近衛騎士団にも王立騎士団にも、帰っていいと言ったのだが、みんな
快く手伝ってくれた。
そのおかげで滞りなく終わったんやけど…。
私はその中で、ちょっと違和感を感じた。
ほんのわずかなことだったんだけどね…けど、こういうものを無視して
いいこと無いのはわかっていたから、追求させてもらった。
その結果…私も知らなかった、驚くべきことが分かったのだ。

それは…。
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