ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

13 小悪党の末路

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「覚えているか?」

ベンズ卿の意味深な問いに、

「へ?」

親子は何も思い浮かばないようだった。

「前回、大叔母様が頼み込んできた時に、私がお前たちに書かせた
書類を」

「書類?」

親子の代わりに、ギリアムとローカス卿が聞く。

「ええ、爵位返上の書類です」

「へ~」

ありゃまあ、そんなの書いてたくせに、こんな事やるなんてね~。

あ、爵位返上の書類ってのは、その名の通り、貴族辞めますって
国に申請する書類の事ね。
まあ、出す奴は殆どおらんらしーわ。
当然っちゃ当然か。

「そ…それは…」

「キサマらに、選ばせてやる」

2人が何かしゃべる前に、ベンズ卿は、

「私が5数える間に、ここを立ち去れば、爵位返上の書類を出すだけで
許してやる。
5数えても残るなら、両閣下と決闘の意志ありとみなす!!」

「そ…そんな…な、なにとぞ…」

だからどうして、小悪党ってこういう時、潔くないかな…うん、だから小悪党の
ままなんだな。

「あの時…」

ベンズ卿、今日は一段と怖し。

「次はないと言ったハズだぞ。
コウドリグス家の面汚しども――――――――!!」

…音響設備が欲しいときは、ベンズ卿に頼も。

「ひっ…ひい!!」

「では、数える…1つ」

「お…お待ち…」

ベンズ卿はもちろんケルツィ親子のことなど、聞く耳持たない。

「…2つ」

「う…」

「…3つ」

「うっ…うわああああ!!」

お、レンスの方は逃げ出した。

「まっ…待て、こら…」

ケルツィ侯爵の方は…

「…4つ」

「ひっ…ひえええええ!!」

うん、逃げた。

逃げ去った2人が見えなくなったことを確認し、ベンズ卿は改めて
施設の人々の方に向き直る。

「この度は、我が家門のゴミが、皆さまに大変失礼なことを致しましたこと、
深くお詫び申し上げます」

静かに…深く、頭を垂れるのだった。

そんなベンズ卿に、施設のみんなは、温かい言葉をかけながら、笑いあった。

そんなこんなで、施設での仕事はお開きとなった。


----------------------------------------------------------------------


施設からの帰り、ローカス卿とベンズ卿は馬に乗って、二人並んで話をしている。

「いやしかし、今日は来て良かったよ」

ローカス卿は久々に、心の底から笑えているようだ。

「まったくです!!
私は前回煮え湯を飲まされた、家門のゴミを掃除できましたので!!」

ベンズ卿も大層上機嫌だ。

「はは…、でも、本当にやめてほしくない奴らが、とどまってくれて良かったよ」

「そうですね。
本当は、私はあまり期待していませんでした。
しかし団長が頑張っているさまぐらいは、見せておきたくて…連れてきたのですが
嬉しい誤算です」

「テオルド卿が一貫して、殴られようが嫌な顔されようが、近衛騎士団を庇って
くれたのも良かったです」

「あ~、あれな」

「団長が離れてからも、態度は変わらなかったから…団長に気を使っているワケでは
なく、本当にそう思ってくれているのが、わかりましたからね」

「だよなー」

「実は近衛騎士の中に、疑いを持つ者が出てきていたのですよ」

「疑い?」

ローカス卿は初めて聞く話だったようで、眉をしかめる。

「はい…、王立騎士団が火消しをあまりしていないようでしたから…それは近衛騎士団を
この機会に潰そうとしているのではないか…と」

「…ギリアムはそんな奴じゃねーよ」

ここだけはハッキリ言う、ローカス卿。

「ええ…ですが人は、一度疑いを持つと、どんどん疑心暗鬼になりますので」

「だなー」

「しかしオルフィリア嬢のおかげで、全ての疑いが晴れましたし、何より…これで
王立騎士団も火消しを積極的にしてくれるでしょう」

「だよなー、悔しいけど火消し能力はアッチが上だからなー。
あ~!!
レオニール卿!!
貴族なら絶対、スカウトしたのになー」

「まあ…仕方ありません。
しかし本当に爽快です。
私が昨今、色々と悩んでいたことが、今日1日で一気に解決いたしました」

「あれ?
何だか他にもあるような口ぶりだな」

「さすが鋭いですね、団長。
これでジュリアがオルフィリア嬢に会っても、特に問題にはならないので」

ジュリアはベンズ卿の妻。

「あれ?
会いたがっていたのかよ?」

ゆえに、近衛騎士団とベンズ卿の役割のため、何か名分がない限り、会うことは
はばかられる。

「ええ…、これ以上、オルフィリア嬢に会うことを禁止するなら、一回実家に
帰るとまで言われていて…」

「はあ?
何でまた?」

「デイビス卿の妻君のことを、頼みたいようなのです…。
いとこですが、姉妹のように仲が良く、今でも手紙のやり取りをかかしていません。
しかし最近…返事が来ないそうなのです」

「おいおい…デイビス卿が女房いじめるような奴なら、ギリアムと合うわけが
ねぇぞ」

「もちろんです。
デイビス卿が問題ではないでしょう…、しかし」

ベンズ卿は難しい顔をして、

「デイビス卿はただでさえ多忙なうえ、1年前の件のしがらみも解決していない。
ジュリアの話では、ホッランバック家は、だいぶギクシャクしているようです」

「まあなぁ。
あれはデイビス卿が悪いわけでも、妻君が悪いわけでもないけどな…。
しかし実際被害は出てるから、難しいよな」

「それに何より、デイビス卿は妻君の実家には、手が出しずらい…」

「そういや、あんまりいい人間達じゃないって、前にジュリア侯爵夫人が言って
たな~、確か」

「ええ…、ジュリアの実家も嫌っています。
私も何度か会いましたが、ハッキリ言って仲良くしたいと思えなかった」

「なるほどね…、ま、ひとまず良かったな!!」

「ええ…本当に…」

二人の陽気な笑い声と共に、馬は夕暮れの中に消えていくのだった。


---------------------------------------------------------------------------


その日の夕方、ローカス卿とベンズ卿が話をしているのと同時刻。

私とギリアム、師団長たちは、王立騎士団の会議室に集まった。

「でも、そのように頼む、レオニール卿」

「任せてください!!
今夜からバリバリやりまくりますよ~」

レオニール卿はとても楽しそうだ。

「では火消しはこれでいいとして…、テオルド卿、オペロント侯爵家について
なのですが…」

「ああ、それでしたらオルフィリア嬢とギリアム公爵閣下のお好きなように」

うん、ま、そうなるよね。

「実はそれについて、テオルド卿に1つ御願いがあります」

「なんなりと」

「テオルド卿からオペロント侯爵へ手紙を書いて欲しいのです」

「どういう内容で?」

「テオルド卿がオペロント侯爵と会って話し合ってくれるよう、私とギリアム様に
頼み込んで了承してもらった…と」

「そ…それは…」

渋ったね。
まあ事実と違うことをやりたがらないのは、テオルド卿のいいとこだけど。

でもさ、テオルド卿…。
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