ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第4章 飄々

15 王宮での密談

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オリバー卿は静かに…ゆっくりと話し始める。

「例の近衛騎士の件…新事実がわかりまして…」

するとケイルクス王太子殿下の顔も、途端に曇り、

「あ~、もう、その話はやめてくれよ~、一気に頭いてぇ!!
あれは近衛騎士2人の独断で行ったってことにして、近衛騎士2人には、十分な金を
定期的に渡すってことで、話しついただろ!!
その金だって、キンラク商会の金から出したんだぞ!!」

最初は王女殿下に出せともちろん言ったのだが、王后陛下がレティア王女殿下の金を
どこかに隠してしまい、結局すぐに必要だったため、キンラク商会の金庫から出した…と。

「まあ、その金はレティアに今後渡す金から差し引くことで、父上と話がついているから、
別にいいけどよ…、問題は…」

「ローカスとあれから、ぎくしゃくしてるってことだ!!クソ!!」

ケイルクス王太子殿下はそっちの方が問題だと言いたげだ。
まあ、そうだろう。
ローカス卿はギリアムがキンラク商会に腹を立てた時、それとなく間に入ったりした
経緯があるのだ。
行動を制限することはできないが、ギリアムに対し、臆面なく意見できる数少ない
一人がローカス卿だ。

しばし間があり…。

「で?
新事実ってなんだ?」

あまり聞きたくなさそうだ。
オリバーの表情から、悪い知らせであることは、容易に想像がつくから。

「実は…」

オリバーの口は、やはり相当重そうだ…。

「例の近衛騎士2人が…取り調べで気になることを言っていたのです。
自分たちは取調室にオルフィリア嬢を連れていくことだけの役目だった…と。
後のことは、本当に知らない…と」

「まあ、密室に連れて行くだけで、悪い噂は飛ぶからなぁ…」

貴族のご令嬢に関しては、男と手をつないでいただけで、悪評が立つことも
あるくらいだ。

「ですが私はどうしてもそれが気になり…、独自に調査したのです」

「おお、相変わらずだなぁ」

ケイルクス王太子殿下がオリバー卿を重宝するのはこういうところだ。
非常に気が利く、鼻も効く、何より行動が早い。

「その結果…」

オリバー卿は唾をのむ。

「レティア王女殿下が取調室にて…オルフィリア嬢を襲わせる手筈を整えていた
ようです」

「な!!」

その場の空気が凍り付き、時間が強制的に止まったように動かなくなった2人。

「しょ…しょうこ!!証拠は?
いや…あったとして、跡形もなく消したんだろうな!!」

「順を追って、ご説明します…」

オリバー卿は、眉間にできた深いしわを手で抑えつつ、

「私がこの疑惑をもった時…、王女殿下の侍女を問い詰めました。
全て知っていると言って…」

「そうしたら、意外とすんなり白状してくれましたよ。
レティア王女殿下の命令で、そういったことを依頼する場所に、使いに出された
…と。
ああ、この侍女は私の方で確保してあります」

「でかした!!
本当に助かった、オリバー」

「ただ…」

「ん?」

「私が人員を整え、くだんの使いに出された場所に行ったところ…もぬけの殻
でした。
まるで最初から、何もなかったかのように…」

「つまりあれか?
ギリアムの不況を買うのが怖くて、金だけ持ってトンズラしたか?
まあ、ラッキーだな」

ケイルクス王太子殿下は、ようやっと明るい顔になった。
しかし対してオリバー卿は、暗い顔のまま…。

「いい方向に考えるなら、そうですね」

「…悪い方向に考えるなら?」

するとオリバー卿は、物凄く詰まったような口調で、

「ギリアム公爵閣下に…確保されたのかも…」

するとケイルクス王太子殿下は、途端に立ち上がり、

「バカ言うな!!
アイツは戦時中、平民の女を襲おうとした貴族に、厳しすぎるバツを与えた!!
見ず知らずの女さえそれなのに、自分の婚約者が襲われそうになったら、
黙っているわけない!!」

「確かにそうですが…逆も考えられます」

「逆?」

「最愛の者を傷付けられそうになったからこそ…万全の準備を整えようとして…
あえてすぐには動かないのかも…」

さっきよりさらに、場の空気が凍る…。

「カンベンしてくれ…」

ケイルクス王太子殿下のあきらめとも、嘆きともつかない小さな声だけが、
部屋に落とされる。

「あくまですべて…私の推測にすぎませんが…。
とにかく、王家傍流のご令嬢を近づける際、あまり強引な手段はとらないことを
お勧めします。
虎の尾を踏む可能性は、十分考えられますので…」

「わかった…」

大きなため息をついたのち、

「オレはこのことを父上に報告し、相談と場合によっては対策を練る。
キンラク商会の諸々は、しばらくお前にすべて任せる…。
緊急事態でもなければ、報告もしなくていい。
とにかくできるだけ、稼いでくれ」

「承知いたしました」

ケイルクス王太子殿下には見えなかったようだ。

この時、深々と頭を垂れたオリバー卿の顔は…何とも愉快そうに笑っていた
ことが。


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さて、施設での一件から一週間後。

テオルド卿がオペロント侯爵に出した手紙の返事は、速攻で帰ってきた。

そしてほぼこちらの要求通りに、事が運んだ。

私がオペロント侯爵に要求したのは、オペロント侯爵が持つある領地。
実はこの領地、オペロント侯爵の持ち物の中で、もっとも役に立たないという
位置づけだったので、すんなりと譲ってくれた。
この土地が今後どうなるにせよ、もし何かの利益が出たにせよ、絶対にこちらに
何か言わないという、条件も付けてね。

そして私とギリアムは、現在ルイザーク伯爵邸に向かう馬車の中にいる。

「んじゃ、タニア侯爵夫人とクレア嬢は、夫人の実家に戻されたの?」

「ええ、そもそも」

ギリアムがあまり興味は無さげに、

「オペロント侯爵は3年前の件で一度、今度何か問題を起こしたら離婚だと
ハッキリ言って、離婚承諾書にサインもさせていたようです」

あ~つまり、記入済みの離婚届がすでにあったと…。

「なのにあんな馬鹿なことするなんてねぇ…」

「まったくです」

これはきっぱり答えたね、ギリアム。

「しかしこれで良かったのですか?」

私の顔を覗き込み、

「実家に返しただけでは、またあなたに突っかかってくる可能性も…」

「それは確かにあり得ますが、社交界に出てくることは、殆どないと思いますよ」

「なぜ?」

不思議そうに聞く。

「だって、タニア侯爵夫人の実家は、伯爵家でしょう?
階級至上主義者が自信の階級が下がったことを、自ら公表して回るとは思えません」

「フム…」

不満そうやね、ギリアム。

「突っかかってくるかどうかは、未知数ですが、今考えても仕方ないです。
私への罪は、断頭台に送れるようなものではありませんからね」

「アナタがそう言うなら…」

まあ、不満なのはわかるけど、今はこれでいいよ。
白黒はっきりさせられないなら、しょーがないと思わな。

そうこうしているうちに、馬車はルイザーク伯爵邸に着いた。

出迎えは…家族全員と使用人全員…。

まあ、今回のことを考えれば当たり前っちゃ当たり前か…。

そして応接室に案内され、ルイザーク伯爵家の全員との話が始まる。
応接室にはルイザーク伯爵家の執事であるハンスさんと、使用人数人が控えた。

「さて…今回のお茶会の件で、私も色々と考えさせられた」

ギリアムが最初に口を開く。

「しかしテオルド卿・リグルド卿には、今後とも王立騎士団で鋭意活躍して
欲しいと切に願っている」

これはギリアムの紛れもない本心。

「それを踏まえて、今後どうしていくかを2人と話し合った結果…、
私はしばらく、ルイザーク伯爵邸への訪問を差し控えることにした」

あ~、これはざわざわしてるね。

ギリアムって公私合わせても、かなりの頻度で立ち寄ってたみたいだから。
まあ、と言っても他の貴族宅に比べればと言う事だから、せいぜい月一くらいだ
そうだけど。

すると当然っちゃ当然の如く、

「どっ、どうしてですか!!」

フェイラ嬢が声を上げる。

ギリアムはそれに対し…。

「私が足繫くこちらに通っていたせいで、あらぬ噂が色々立ったようですし、
盛大な勘違いをされる方が、出たようですからね…」

ギリアムは淡々と話す。

「そ、そんな…。
わ…私、本当に反省しているんです!!
あのようなことは、二度とやりません!!」

泣きながら訴えているが、ギリアムはフェイラ嬢に顔を向けもせず、

「まず、誰に対してでも二度とやらないのは当たり前です。
そして、反省しているから何なのですか?」

冷たく言い放つ。

「加害者が反省しただけで、被害者の傷がいえるなら、私たちの仕事は
今よりずっと楽なんですがねぇ」

まあねぇ。
被害者や被害者家族が、加害者じゃなくて王立騎士団に対して、何かを
保証しろとか言ってくる場合も、一定数あるからね。

泣き崩れるフェイラ嬢。
対してルイーズ嬢は、

「あの…、しばらくと言うと…どのぐらい…」

と、小さな声で言う。
平静を装っているようだけど、大分動揺しているね。
声が上ずっているし、体も震えている。

「期限がどこまでとは、正確に答えられません。
今後のあなた方の態度によって、決めようと思っていますから」

するとルイーズ嬢は、さらに動揺したようで、

「なぜ…私も…」

とだけ言った。

本当に…わからないのかねぇ…。

「なぜ?
ルイーズ嬢、あなたが王女殿下に加担して、私をはめようとした人間だから
ですよ」

するとルイーズ嬢の顔が、見るみる険しくなっていった。
しかし漂うのは怒りではなく、悲壮感そのものだ。

「い…一体…何を言って…」
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