ひとまず一回ヤりましょう、公爵様4

木野 キノ子

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第3章 二頭

10 舞子さん…私…

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舞子さん…私ちょっと疲れちゃったよ…。

少しの期間だけだけど、王都から離れなきゃいけない用事もあったし…もう、いいや。
ギリアムは自分が明日どうなったって、私が隣で…元気に笑っていればそれでいい人だ…。

好きになってくれた皆には申し訳ないけれど…私には私の人生があるよ。

もう十分…頑張ったよ、私…。

この後の事は…ファルメニウス公爵家に帰ってから、ゆっくりと考えよう。

「ギリアム様…少し疲れました…」

そう言った私を、ギリアムは黙って抱き上げてくれた。
その表情がとても優しくて…暖かくて…この世の何より美しいものに見えて…私はものすごく
安堵した。
そして…何よりも嬉しかった。

もういいや。
ギリアムがこの顔をずっとしててくれたら、私何もいらないよ。
もともと貧乏は慣れてるし。
どうにかなったら、私だって稼いだる!!
私はクリーンな頭に、ギリアムとこれから作りたい未来だけを描こうと決めた。

だがそこを去ろうとした私とギリアムに、

「待て…」

待ったをかけたのは、ツァリオ公爵閣下だった。

「オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢は、妻のサロンに出席するために来たのではないのか?」

「加減が良くないので、帰ります」

「フン…ま、条件を満たしていないと、後で難癖をつけねば良いわ」

私はクリーンになった頭で、その声を…まるで音…というよりオーラのような…そういうものとして
感じ取っていた。

「…出席を許可していただいた段階で、③の条件はクリアです」

「まあ、お前ならそう言うと思ったわ」

「ですが④の条件に関しては…ツァリオ公爵は不合格とさせていただきます」

「なっ!!」

「では、ごきげんよう」

ギリアムは振り向きもせず、去ろうとする。

「まてっ!!今日の事が理由だというのなら!!」

「今日ではありません、私がこの条件を出した時の、ツァリオ公爵閣下の反応を見てです」

「なに…」

「では、失礼します」

「だから待て!!理由を」

するとギリアムはやっぱり振り向かないが、ぴたりと足を止め、

「アナタがアカデミー時代、口を酸っぱくして仰っていましたね。
正解を簡単に人に聞く前に、まずは自分の頭でよく考えろ…と」

「ぐっ……!!」

何か…いつもだったら脳みそにぴしぴしと入れて、次の場面を想像したり、いろんな言葉を
思い浮かべたりするんだけどなぁ…今は何も浮かばないなぁ。

ああ舞子さん…私が転生したってことは、舞子さんも転生してるのかなぁ。
だったら、嬉しいなぁ。
たとえこことは別の世界でも…楽しくヤってたらいいなぁ…。

私の心も体も…なんだかとっても不思議だ…。
このまま水面に沈むように…静かにしていたいなぁ…。
ギリアムの熱が…心臓の音が、とても心地いいよ…。
うつらうつらしながらギリアムを見れば、ぼやけた視界でもわかるくらい、ギリアムは穏やかな
優しい表情をたたえていた。

ギリアムはそのまま、歩を進めようとしたのだが…。

「ギリアム公爵閣下」

ドルグスト卿だ。

「先ほど私が言った事…お忘れなきように」

この瞬間だった。
ドルグスト卿の言葉…というよりも、言葉が耳に届いたギリアムの…何とも苦しそうな…悲しそうな…
辛そうな…そのすべての感情を込めて、歪んだ顔…。
それが目に…というより脳に入った時、私のぼやけた頭の霧が、さぁっと晴れた。
同時に脳細胞の一個一個が…すべからくすべて電撃を放ち……輝く。

この時の私は…後で思うと本能…ううん、細胞一個一個に備わった…オーラ?生命力?みたいなもので
動いていたように感じる。
頭で何が正しいとか、何をしたらこうなる…とか、考えて行動する所からは一番遠くにいた。
そう…魂だ。
良い悪いじゃなく、魂の動きと体の動きがぴったり一致した。
そんなカンジだった。

「ギリアム様…」

私はギリアムに耳打ちする。

「えっ…いいのですか…!!」

「顔色変えない!!」

小声で、ハッキリ指示する私。

「すぐ手配できます?」

「もちろん」

ギリアムは、口笛を吹いた。
この口笛は普通の人の耳には、まず聞こえない。

ジェードにコッソリ指示する時に使うものだ。

「おろしてください、ギリアム様」

その声は…いつもの私の声だった。
さっきまでの…なんか別の空間にいるようなふわふわとした感覚じゃない。
しっかりと地に足をつける…その感覚だ。

地面におろされた時…私の足から電気が放たれ、地面をしっかりと嚙む感覚になった。

ああ…。
私は生きている…。
この世界の…この地で…確かに生きているんだ!!

舞子さん…コロコロ意見変えてごめんね!!
でも…舞子さんだったら、言ってくれるよね!!
アンタが幸せなら、それでいーじゃんって!!

私は…。

戦う…。

ギリアムのために…!!。

「ですが…」

「大丈夫です。ギリアム様が抱いてくださったおかげで、よくなりました」

私の脳みそはいつも通り…いや、いつも以上にフル回転を始めた。

「ドルグスト卿…ギリアム様が私がお辞儀している間、時間を計っていたのは、何も
アイリン夫人に、同じことをするためだけではありませんよ」

「存じております…。
礼儀行為における、突然死の事例ですね」

エコノミークラス症候群…と言えばわかりやすいだろう。
この世界、上の立場の人間がいいと言うまでお辞儀していなければならない。
いいと言われるまで、微動だにせずだから…当然起こるのがエコノミークラス症候群だ。

だがメカニズムは、当然この世界の医療レベルではわからないので、原因不明の奇病扱い。
私は前世の記憶があるから、お辞儀の仕方などを見ていて、そりゃー起こるでしょ?
と、思った。

んで、私はエコノミークラス症候群を引き起こさない為の、あらゆる予防グッズを秘密裏に
開発している。
こう言ったことからも、おっちゃんの力が必要だったんだよね~。

だから事例を基に、礼儀作法としてお辞儀する時間を、設定した方がいいんじゃない?
という声も出ているのだが、そこは昔からの特権を離したがらない保守派が邪魔をする。

彼らは下の命など、虫けらほども思っていない。
自分たちの権力を誇示するためには、そんな法律など邪魔なだけだ。
私はこれを聞いて随分と、怒りを覚えた。

だって事例ってさ…全部、下位貴族から出てるから。

結局は、上の弱い者いじめに過ぎない。

「知っていて、あのようなことをおっしゃったのですか?」

「実際やってはおりませんし、やるとも申しておりません」

うん、そう。
さすがガルドベンダ公爵邸の騎士の隊長というべきだろうが、先ほどの表現…かなりあいまいな言葉だ。
だから、どうとでも言い逃れができる。

ツァリオ公爵閣下は原則ギリアムと同じで、まがったことが大嫌い。
そしてエコノミークラス症候群の事も当然知っているから、1時間ぐらいを目途に、私を開放する気で
いただろう。
ただ、予測が外れた時のために、私はあえて何時間でもやってやる精神でいたけどね。

だがギリアムが時間を計っていると知ったことで、その意図する所を、頭がいいからこそ即座に分かった。

だから早めに私を開放したのだ。

「そうですか…では…ギリアム様」

「なんでしょう?」

「まず、アイリン公爵夫人に、ギリアム様が私の仕返しのようなことをするのは、一切おやめください」

「……なぜっ」

「前にも申し上げた通り…まずギリアム様がやったのでは、体裁が悪すぎます」

フェイラの時の二の舞だっつの。
場合によっちゃ、もっとひどいぞ。

「それに私は…原則私の望んだ時と事以外で…ギリアム様に私の傷の仕返しをして欲しいと思って
おりません」

「……わかりました」

よしよし。
いいこいいこ、いいワンコ。

「私は…されたことに関する仕返しは…自分でする主義でございます」

その時…その場の空気が変わったのが分かった。
……だよねぇ。

「オルフィリア嬢…迂闊なことを仰らないことを、お勧めします」

ドルグスト卿…顔は穏やかだが、眼から殺気がにじみ出とる。
ただの男爵令嬢が、侯爵夫人にちょっかいかけるって、言ったようなもんだ。

「あら?私、誰に何をされたとも、誰にどう、仕返しするとも言っておりませんよ?
ただ…善人でも礼儀をわきまえなければ、刈り取られても致し方ないでしょう」

にこやかーに、笑いかける。
残念だが貴族は…そう言う世界を作っちまった。

「…私もそう思います」

いいねいいね。

「まあ、さすがガルドベンダ公爵邸の騎士隊長様はしっかりわかっていらっしゃる。
でしたら…」

狸と狐の化かし合い…。

「私がファルメニウス公爵夫人であれば…、話は全く変わってきますが…。
それもご存じでしょうね?」

さっきまでこういう事とは無縁な空間にいたのになぁ…。
女ってホント、変わり身ハエ~。

「もちろんでございますよ、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢…」

うん、男爵令嬢を強調したね。
終始、顔は変わっていないが、激怒しているのがわかるよ。
忠誠心が熱いのは良い事なんだけど…アンタは迂闊だ!!
やっぱり…根は武人なんだろーね。

本当はもうちょっと突っ込みたいんだけど…今進めている事の当てが外れたら、
火傷すんのはこっちだから、そろそろやめておかないとね。
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