ひとまず一回ヤりましょう、公爵様4

木野 キノ子

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第4章 結婚

3 ダメですよぉ、クァーリア夫人…油断しちゃあ

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皆さまが私とギリアムの結婚発表を聞いて、様々な思いを抱く中…当の私は
ファルメニウス公爵家で、朝っぱらからクァーリア夫人とお茶していた。

「なるほど…すべてのからくりがわかりました。
ご説明ありがとうございます」

昨日のサロンの名簿の件と、その後のガルドベンダ公爵家でのやり取りを、
クァーリア夫人がすべて報告してくれた。

「私を責めないのですか?オルフィリア嬢…」

「責める?なぜですか?」

私が素っ頓狂な声を出したのは、芝居じゃない、本心からそう思っている。

「人は常に、試し試され生きるものだと思っています。
ましてクァーリア夫人は悪意のある方ではない。
どうぞ、これからも…お好きなだけ私を試してください」

「本当にあなたは…孫より年若いのに、なんだか同年代と話をしているみたいだわ」

ぐおおっ!!さすが、するでぇぇっ!!

「アハハ…まあ、生き方が凝縮されすぎているせいかと…」

「そうですねぇ…」

ごまかし完了、あぶねー。

「しかし、自分の力でサロンへの出席をもぎ取ったのは、見事です。
一体どうやったのですか?」

まあねぇ。
アナタは私が、あなたに頼むと思っていたんだろう、アイリン夫人はクァーリア夫人の頼みなら
大抵聞くだろうから。

「ん~、いずれすべて片付いたら必ずお話しますので…今は企業秘密とさせてください」

「わかりました」

この人本当に、上質だよねぇ。
だから私はこの人に頼んだのさ。
サロンでの私の様子を見ていてください…とね。

私とギリアムもサロンを見ていたが、クァーリア夫人も別の所からサロンを見ていた。

「しかし…アナタの力は十分わかっていましたし、あの場では致し方ない所もありましたが…、
それを差し引いても、少しやりすぎの部分はありましたよ」

「そうですね…ですが、見て見ぬふりをするよりは、やりすぎでも守りたいものを守るほうを、
私は選びます」

「あなたのそう言うところ…私は好きですけどね…」

「だいたい私、昨日のサロンの状態を見て、アイリン夫人と仲良くなるのは止めることに
致しましたので」

「まあ…気持ちはわかります…ですが…」

言いたいことはわかるよ。
現在の王立騎士団には、侯爵以上の夫人がほとんどいない。
サーシャ夫人はフィリアム商会関係だし。
そしてフィリアム商会は、商人というその性質上、王立騎士団と同じで平民率高いし。

だからアイリン夫人のサロンは、格好の交流場所だ。
私だったらうまく立ち回れるのはわかってるし、味方にすべき人も見極められる。

それともう一つ。
上位が上位と、下位は下位と結びつくのが、暗黙の了解となっているため、男爵令嬢である私と
懇意にしたいと思っている上位貴族がいたとしても、安易に声はかけられない。
それだけでバカにされるネタになるからね。
そういった状況を回避できるのが、お茶会や舞踏会よりサロンなんだ。
趣味ってくくりの方が、幅広い身分で付き合うことができるしね。

「仰りたいことは、わかります…ですが…あの方はあまりに私の中のタブーを犯しすぎました」

私は静かにお茶をすする。

「サロンも社交界の一部である以上、ある程度自分の身は自分で守るものです。
だから最初から守られることを期待するのは、よくないです。
しかし…同時にポリネア嬢とラファイナ嬢はあまりに質が悪い。
それがわかった時点で、即追い出すべきです…アイリン夫人にはその力があった」

そう…主催者…特にその身分が客より高ければ、客を追い出すことは容易だ。

「私がアイリン夫人の立場だったら…、こう言いますね。
誰とわからなくても、そもそもあなた方の言っていることは誹謗中傷。
そんなの自分も聞きたくないし、自分のサロンに来る人も、聞いていて気持ちのいい人はいない。
だから帰れ…とね」

「そうですね…。
でもだったら、なぜ彼女たちを追い出さなかったのです?」

「そりゃあ、自分たちで持ち込んだごみを、他人に始末させようとする人間の意図に乗る意味が
無いからです」

そしたら噴き出してたなぁ、クァーリア夫人。

「あなたは面白いです、本当に…。
ですが私は、それを踏まえて、あの場ではあなたが二人を追い出すべきと思いました」

「なぜですか?」

「あなたがあの場であの二人を追い出せば…、少なくともアイリンはアナタに感謝した
でしょう…」

だろーね。

「そしたら、何かとあなたを助けてくれるはずです。
あなたにとって、ガルドベンダ公爵夫人の手助けは、後々様々な場所で生きて来ると思います」

「私も最初はアイリン夫人を味方にできれば…そう思っていました…。
しかし…サロンの一連の流れを見て、私は味方にする価値が無いと判断いたしました」

「主催者でありながら、傍観者となり、ならず者を放置し、挙句の果てには自分に非が向かないよう
追い出そうとする…。
性格がどうあれ、行動だけ見れば、とても味方にしていいことがある…とは思えませんでした」

そう…アイリン夫人が私に、ファルメニウス公爵夫人としての身分を限定的に与えたのは、
あの2人に代表される、質の悪いのを炙り出すことと、追い出すこと。
そういう意図を、明確に持っていたとしか思えない。

まあ、しょうがねぇなぁ。
ツァリオ公爵閣下に喧嘩売る形になっちまったから。

「ですのでレベッカ嬢はもとより、アイリン夫人の意図通りにも、動くことを絶対拒否しただけです。
まあ…ポリネア嬢とラファイナ嬢があそこまでバカなのは、さすがに予想外でしたが」

「私も…あの2人に比べれば、動物の方がよっぽど頭が良いと思いました」

デスヨネー。

「しかし…難しい所ですが、僅差でやはりあなたがあの2人を追い出すべきでした」

その意見は変わらんのか~。

「あなたの身分が男爵令嬢である以上…誰か、上位の夫人の元で開かれたパーティーでしか…。
あなたが上位の夫人&令嬢と交流を持つことは、難しいですからね…」

ん?んんん?
何かがおかしい…。

「それにアイリンのサロンでのあなたの行動は…やはり本来の男爵令嬢の身分を考えれば、
横暴そのものの振る舞いになってしまいます」

「招待状という証拠が無い以上…アイリンはアナタを…それを盾に訴えることができる。
そういった弱みを握らせてしまった事になるのですよ」

うん、そらそーだ。
アイリン夫人は決して無能な人ではない。
レベッカやジュリアと同じくらいの力はあるだろう。
だから私を、意図通りに動かせると思ったのさ。

搦め手…それを幾重にも張り巡らせる力が無ければ、ガルドベンダ公爵夫人は務まらないだろう。
ツァリオ公爵閣下は…間違いなく実力本位主義者だ。

「そしてアイリンはあなたがその自分の意図を、見抜けるかどうか…も、見ていたはずよ。
だから意図通りにしたならば…見返りを支払うつもりはあったハズ」

それも当たり前。
自分のいいように動いてくれる人間に、何も払わないなんて、愚の骨頂。
そーゆーやつは、遅かれ早かれ味方が一人もいなくなる。

しかしそんなことを思いながら、私はどーも、さっきからクァーリア夫人と会話がかみ合わんなぁ…と
感じた。
ほんの僅か…なんだけど、重大な何かをクァーリア夫人は知らないんじゃないかって…。
で、ピンときた。

「あの…クァーリア夫人…ひょっとして…」

「はい?」

「今日…王宮からの知らせを見に行った人が、帰ってくる前にこちらへ来られましたか?」

「ええ…あなたとの話はとても楽しみですし…このところ、取り立てて事件も起こってないですしね」

それを聞いた私は、思わず大笑いした。
そりゃー、会話がかみ合わんハズだ。

「ダメですよぉ、クァーリア夫人…」

私もダメだぁ、笑いが止まらん。

「人間は…油断した時が、一番まずいってわかってらっしゃるでしょう?
まあ、私だって完璧じゃないですけどね。
案外何もないと思っている時ほど、ドカンと大きなものが来るものです」

「今日、王宮で何かがあると?」

「ん~、正確には…すでにあった…だと思いますよ」

さすがのクァーリア夫人も、狐につままれたような顔になったので、

「フォルト」

「すぐにお持ちいたします…、ああそれと」

フォルトは私の耳元で、

「ご指示された件…すべて奥様の指示通り…滞りなく完了した…と」

オッケーオッケー、楽しくなってきたぁ。

暫くしてフォルトが、立派な額縁を持って来た。
私はそれを受け取ると、中に入っている書類の日付を指さしながら、

「これを見れば一目瞭然だと思いますが…」

「わたくし…昨日づけで、正式なファルメニウス公爵夫人となっております。
ですから…アイリン夫人のサロンの時は…身分詐称では全くないのです」

まあ、男爵令嬢とは名乗ったが、これはオッケー。
だって日付の日って、男爵令嬢から公爵夫人になったんだから、両方が混在していなきゃ
おかしいもん。

なんて考えていたら…ありゃ。
クァーリア夫人のおめめが、どこかに旅立たれてしまったようだ。
まあこの人だって、王家の妨害がすごくて、私がなかなか公爵夫人になれないと思っていた
ろうからなぁ。

私はフォルトに額縁を渡すと、

「大切なものですので、戻してまいります」

「ありがとーう」

そんなやり取りをしていたら、

「オルフィリア嬢!!い、いえ、ファルメニウス公爵夫人!!」

すっごいがっしりと肩を掴まれた。

「お茶会?サロン?舞踏会?いいえ、全部やりましょう!!なんたってファルメニウス公爵夫人
なのですから!!」

いや…それ、あなたがやりたいだけでは?

「お、落ち着きましょう、クァーリア夫人…」

「これが落ち着いていられますか!!あああ、忙しくなるわ!!会場はこの家でいいとして、
飾りつけと、お料理は…ファルメニウス公爵家には一流のシェフが揃っているから、心配ない
として…あ、あとは、後は…」

だから、落ち着こうよ…。

「あの…確かにそういったものも大切かとは思いますが…」

私は一呼吸置く。

「一番の課題は…王立騎士団と近衛騎士団の交流会を…いかにして成功させるかだと思います」

するとクァーリア夫人は、ハッとなってくれた。
やっぱり優秀ね、この人。
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