ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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第一章 観劇

3 テオルド卿とリグルド卿の悩みに対して

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デイビス卿は、自分の知っている情報は、本当に全部話してくれた。
え?
それ話していいの?
と思うようなことまで、全部。
本当にこの人、潔くて良い人やね。
テオルド卿同様、味方にしとかんとね。

「わかりました。
では仮面舞踏会の前に、奥様とお目通りさせてください。
あくまで奥様の体調が良いときに…」

「わかりました」

「…しっかし本当にかなりひどいな、ルベンディン侯爵家」

ローカス卿、ある程度は情報を知っていたのだろうが、それにしても…と
言いたげだ。
まあ、私もそう思ったがね。

「ええ、私も妻と血がつながっているのが、信じられないんですよ」

まあ、親子は似やすいと言うだけで、中には全く似てないのもいるからね。

「それじゃあ、デイビス卿の件はそれでいいですね」

一人不満げなギリアムに、

「イ・イ・デ・ス・ネ?」

頭に青筋立てながら、静かにのたまう、わたくし。

ギリアムはもの凄い仏頂面で、ようやく首を縦に振った。
あ~、疲れた。
そして皆様からの、感嘆の眼…もう慣れたけど。

「あ、そうそう、テオルド卿、リグルド卿」

「は?はい」

二人は急に呼ばれて、あっけにとられる。

「先ほどの話、途中で止まってしまったので…改めて私の考えを言います。
私はリグルド卿の意見に、半分賛成で半分反対です」

「は?」

「まず、本人たちが家から出たくないと言っているのでなければ、親しい人間が
主催のお茶会や舞踏会は出席した方が良いと思います。
しかし、希望したとしても、大規模な物はお勧めしません」

「…理由をお聞きしても?」

「テオルド卿、私の第一の希望は、私に謝るとか迷惑をかけないとかでなく、
二度と同じことをしない事です。
それさえ守れそうなら、むしろ親しい人間とは会わせてあげた方が、良い刺激に
なると思います」

「しかしまた、あなたを悪く言う可能性も…」

「それを止めるのは、原則無理ですよ」

テオルド卿、眉間にしわ寄っちゃったね。

「先ほどギリアム様に言った話と被りますが、人によって考え方や大切なものは
違います。
だから、私が嫌いなら嫌いでいいです。
しかし彼女たちが深い考えを持たずにやったことは、一歩間違えれば大惨事に
なること…。
そのことをしっかり受け止めて、二度としなければ私は良いです」

「しかし…」

「それに相手がその悪口に同調するなら、私と仲良くしたくない人なのだと
判断できますので、むしろ手間が省けていいです。
逆にもし、付き合っている人が良い人なら、案外諭してくれたりするかもしれません。
家族より他人に言われた方が、心の中にスッと入る場合もあります」

「えっと…大規模な物は反対と言うのは…」

言葉を失ったテオルド卿の代わりに、リグルド卿が問う。

「大規模な物だと、かなり不特定多数の人がいるので…。
場合によって物見遊山的に蒸し返したり、ファルメニウス公爵家の好感を買おうと
して、誇張し悪しざまに罵る可能性があるからです」

「なるほど…」

リグルド卿、納得したね。

「なんだか…」

テオルド卿、

「申し訳ないです…そこまで配慮してくださっているのに…」

声ちっさいね。

「配慮できるのは、私にとって、それだけ傷が軽いからですよ。
だからお気になさらず」

「しかし…」

また しかし かい!!
しゃーない。
これはあまり題材にしたくないんだけど、ギリアムには後でたっぷりサービスして
あげよう!!

「これでは堂々巡りなので、話を少々変えます。
テオルド卿はギリアム様のお父様の代から、王立騎士団にいましたよね?」

「え? ええ…」

「ギリアム様の代になって、一定数の貴族及び平民が、王立騎士団を出ましたが…
あなたはその人たちすべてが、悪人だと思っていますか?」

するとテオルド卿は、途端に慌てて、

「とんでもない!!
確かにしょーもない奴もいましたが、やむにやまれぬ事情でやめた者も多い」

そこまで言ったテオルド卿は、ハッとした顔になる。
うん、いいね。
優秀な人は、水を向けるだけで分かってくれるから、楽やわ~。

「……そうですね、残念ながら善良でも、万人に好かれるわけでも、受け入れ
られるわけでもない」

「その通りです。
そして、受け入れられなかった人間が、悪人かと言えば、必ずしもそうでは
ありません」

「……」

「まあ、自分の好きになった人間を、同じように好きになって欲しいというのは、
わかります。
でもギリアム様の父母を間近で見たことがあるなら、わかると思います。
親と子は、元来、別の人間なんです」

師団長の面々とローカス卿に、ピインと緊張が走った。
ああ、やっぱりか。
親しい人間の間でも、ギリアムの前でギリアムの父母の話は禁忌なんやね。

「ギリアム様、フォルト、エマに聞いた限りで、完全な階級至上主義者です。
私は今、ギリアム様にもファルメニウス公爵家の使用人にも、ここにいる皆さん
にも気に入ってもらっていますが…。
ギリアム様のお父様とお母様は、私をゴミを見るような目でしか見なかったで
しょうね。
私の人柄などは一切考慮せず、私が名ばかり貴族の男爵令嬢だという理由だけで」

「そんなことをしたら、私が彼らを殺します!!」

ギリアムが机をたたき、怒鳴った。
みんなびくりとしていたが、私はひるまんよ。
想定内やし。

「ギリアム様、もうお亡くなりになっているとはいえ、ご自身の父母をそのように
言うのは、おやめください」

「嫌です!!私は…」

「私はあなたの父母に対し、尊敬はしていませんが、感謝はしていますよ」

「え…?」

ギリアムの顔が、呆けたようになった。

「だってそうでしょう?
あなたという存在を、この世に生み出してくれた人たちなのですから」

私がにこやかーに言うと、ギリアムは毒気を抜かれたような顔になる。
しかし、やっぱり納得いかんと言いたげに、じっとこちらを見る。
まさしく、拗ねたワンコのよう。

「そんな顔しないでください。
好きなわけではなく、感謝はしていると言っているだけです。
自分をさげずむとわかっている人間を、好きにはなれません。
でもあなたを生んでくれたことは事実ですから」

そう…私の前世の両親…。
生んでくれたことにだけは感謝しているけれど、やはり尊敬はできないし
好きにもなれない。
だって私を…最後までおもちゃにした人たちだから。

それでもやっぱり拗ねているので、私はギリアムの頭をよしよしと
撫でてやった。

「アナタには…本当にかなわない…」

そう言って、ギリアムは少し笑った。
良かった良かった。

…………………………………って。
あかん。
皆様の目玉がどこぞへ旅立ってしまった。

――――――――間―――――――――――

「まあだから、テオルド卿にとっては不本意かもしれませんが、私を好きか
嫌いかはまず頭から切り離してください。
そのことと、やってはいけないことをわかっているかどうかは、全く別物
ですから」

「はあ…」

まだ不満げやなぁ。

「アナタに好き嫌いがあるように、彼女らにも好き嫌いがあります。
それが残念ながら一緒とは限りません。
悪事に手を染めるわけでないなら、その自由は認めてあげてください」

「……わかりました、もう一度一から話をしてみます」

「そうしてください。
そして…」

「はい?」

「すぐに解決しようとすることも、やめることをお勧めします。
気持ちの問題と言うのは、長い期間がかかることが多いですから」

私はようやっと、本心で笑えた。
とりあえず、ルイザーク伯爵家はこれでいったん終了。
後は…。

「デイビス卿、奥様との顔合わせをいつにするかは…」

「オルフィリア嬢さえよければ、仕事が終わった後、我が家に来ていただき
たいです」

「え…?
そんな急で大丈夫ですか?」

「ええ、妻が非常に不安になっているので…。
むしろそうしていただけると、落ち着くと思います」

「だから、勝手に決めるなと…」

「わかりました。
では、お仕事が終わるまでお待ちしますね。
ギリアム様は…」

「当然一緒に行きます!!
いいな?デイビス卿!!」

「はい…こうなった以上、団長にも来ていただきたいです」

そうして私は、二人の仕事終わりを待ち、一路ホッランバック伯爵家に向かう
のだった。
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