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番外編1 過去
1 フィリーお披露目、一週間前
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フィリーが正式にお披露目される、建国記念パーティーの1週間前…。
コウドリグス侯爵家の屋敷前に、ベンズ卿の姿があった。
「お帰りなさいませ、あなた…」
品よく静かに迎えるジュリア。
「ただ今戻った」
ベンズ卿は本日早番のため、日があるうち…(午後3時ごろ)家に帰って来た。
するとそれを、待ち望んでいた二つの陰が、
「おかえりなさい!お父様!!」
「おきゃえりなさーい!!」
家の奥から全速力で飛び出してきた。
「おお、お前たち、いい子にしてたか~」
飛び出してきた子たちのタックルを、物ともせず受け止めたベンズ卿が、
片手に一人ずつ…二人の子供を軽々と抱き上げた。
「も、申し訳ありません、奥様、旦那様!!
突然の事で…」
「構わないわ。
他にお客様がいるわけではないし…」
ジュリアは使用人を下がらせる。
「この子たち…日増しにすばしこくなって…もう、使用人数人がかりでも捕まえられなくて
みんな泣いているわ…」
「ははは、まあ体が丈夫なのは良い事だ」
「そうですけど…お客様の前ではやらないようにと、あなたからもしっかり言い聞かせて
下さいませ」
「う…わかった」
言葉に詰まるベンズ卿。
子供たちは大人の都合など意に介さず、ベンズ卿に遊んでくれとせがみ、ひとつひとつ
律義に聞いてやるベンズ卿を、ジュリアは微笑ましく眺めていた。
(まったく…こういうところを普段から少しでも見せていたら…怖がられることもない
でしょうに…)
やがて力いっぱい遊んだ子供たちは、夕食前に寝てしまった。
そんな子供たちは、コウドリグス侯爵夫妻の寝室へと連れてこられる。
ベンズ卿とジュリアは、子供を乳母任せにすることは殆どなく、積極的に面倒を見て
関わっている。
「よく寝るなぁ…このまま起きないんじゃないか?」
「あら、いつもみたいに、夕食の時間が来ればぱっちり眼を覚ましますよ。
2人とも小さい体のどこにこんなに入るの…って言いたくなるくらい、よく食べますし、
食べるの大好きですから」
そんなどこにでもある夫婦の会話のあと、急にベンズ卿が真剣な目をして、
「建国記念パーティーは…本当に不参加でいいのか?」
建国記念パーティーは国内で一番大きいパーティーなだけあって、様々な交流の場として
重宝されている。
人脈を作り、己の顔を売り、自分と家族をより高みへと持っていくために、大抵の貴族が
利用している。
だが同時にそこに不参加だと、色々な噂が飛び交うことも往々にしてある。
そしてそれは…大抵悪い噂だ。
「あら、大丈夫よ。
人脈を広げるなら、別の方法なんていくらでもあるわ。
悪い噂を広げようとする人間はどこにでもいるんだから、そんなことがあれば突き止めて
反撃するだけ。
だいたいコウドリグス侯爵家は、そんなことで揺らぐものではないでしょう」
「お前は本当に頼もしいな」
ベンズ卿がしみじみと言う。
コウドリグス侯爵家は、侯爵家全体の中では、序列第二位だ。
派生した家門が一門となって、コウドリグス侯爵家を支えているため、かなり頑強な家と
なっている。
そう言った意味では、第一位の侯爵家よりもむしろ、コウドリグス侯爵家の方が栄えていると
いっても過言ではない。
「妻帯者はいつも参加できるよう、計らってくれるのだが…。
今回は娘や近しい親類…それに婚約者が、デビュタントする奴らが重なってな…」
「そう言った時に泥を被るのは、上として立派なお仕事でしょう?
ご苦労様です、あなた」
ジュリアは改めて頭を下げた。
「それに…」
ジュリアは眼に悲しみをたたえ、
「レイチェルは建国記念パーティーも…不参加らしいから…」
「……具合が相変わらず悪いのか?」
「体自体の問題も、あるかもしれないけれど…」
ジュリアは俯きながら、
「取り巻く環境がね…フレイア伯爵夫人が居なくなってしまったのが、何より大きい…。
あの方がご健在なら、あんなこと…」
唇をかみしめる。
「一年前の件か…、お前から詳しい事情を聞いたが、あれは酷いよな」
「ええ…」
フレイア伯爵夫人亡き後、レイチェルは王立騎士団副団長の妻であると同時に、王立騎士団内で
一番序列が高い夫人となった。
まして、毒実家とはいえ侯爵家の元令嬢…人々の関心を一身に集めるには、十分な要素があった
のだ。
ゆえに、お茶会や社交パーティーの誘いはひっきりなしに来たし、自身でも開催すべきという
周りからの無言の圧力もかなりあったようだ。
もちろんフレイア伯爵夫人が存命中から、お誘い自体はかなりあった。
しかしフレイア伯爵夫人は、レイチェルにそう言ったお誘いについては、しっかりと選別して
対処すること。
全てに参加する必要はないし、それで陰口をたたく人間は、他の事でも陰口をたたくから、
毅然とした態度で接すること。
などなど、社交界ではほぼお人形状態を強いていた毒実家のやり方に、一つ一つ注略を入れる
ように、丁寧にレイチェルを指導したそうな。
もちろんとても穏やかに…決してレイチェルの意志を無視しないように。
「フレイア伯爵夫人に、色々指導してもらっている時のレイチェルの手紙からは…本当に楽しそうな
感情が伝わってきた。
大変ではあるけれど、今まで知らなかったことを知れて楽しい。
フレイア伯爵夫人の元でしっかり学んで、早く夫…デイビス卿の力になれるような夫人になりたい
……って」
それを語るジュリアの眼もまた、とても楽しそうだ。
だが、次の瞬間それはなくなり、
「あの時には、想像もできなかった…」
「まさかフレイア伯爵夫人が…」
「それから一年も経たず、病気になられて…回復せぬまま逝ってしまわれるなんて…」
何ともやりきれない感情だけが、そこに残った。
「人の生死はわからんものだが…何とも惜しい人を亡くしたものだ。
お前の従妹の事を除いても、フレイア伯爵夫人は多くの人から慕われていたようだからな」
「ええ…。
私も何回かしかお会いしていなかったし、少ししかお話できなかったけど…とてもできた方だと
すぐにわかった。
おそらく生前、ディエリン夫人に対しても、それとなくレイチェルとの間に入ってくれていた
のだと思う」
ジュリアはため息しか出てこない。
さてそれではそろそろ…一年前に何があったか…ヘドネちゃんが実況いたします。
そのころのホッランバック伯爵家では…レイチェルが相変わらず忙しいデイビス卿を一生懸命支えようと、
奮闘しておりました。
しかし、如何せん慣れない場所に溶け込むのが苦手なため、使用人ともぎくしゃくして、うまくはいって
いなかったらしい。
まあ…これは絶対ディエリン夫人が、裏で糸を引いていたんだろーけど。
ただ本人もフレイア伯爵夫人という最大の理解者であり、協力者を失ったことはかなり重くのしかかり、
暗い影を落としていた。
それでもフレイア伯爵夫人が生前…死ぬ間際まで色々自分に指導してくれたことを胸に、色々な試みを
やっていこうと前向きに考えていたようだ。
そんな最中…。
「お茶会?」
帰って来たデイビス卿に、
「はい…、フレイア伯爵夫人が懇意にされていた方で…私と何度かお会いした方を中心に…小規模ですが
素敵なお茶会を開催しようと思って…」
笑顔で話す。
「そうか…キミがやると言うなら、最大限応援するつもりだが…大丈夫なのか?」
するとレイチェルの笑顔が少し陰ったが、
「ええ…。
フレイア伯爵夫人に、無理ない範囲で自分に合ったものでいいから、やっていくように言われていましたし…。
なにより、いつまでもふさぎ込んでいては、色々教えてくださったフレイア伯爵夫人に申し訳が立ちません
から…」
それでも気丈に頑張ろうとするレイチェル。
「わかった…やってみなさい。
何かあれば、私を頼ってくれていいから」
そんなレイチェルの手を取って、デイビス卿は優しいまなざしを向ける。
「はい…ありがとうございます、あなた…」
それからレイチェルは、本当に頑張った。
お茶会は単純に、茶を出せばいいわけじゃない。
簡単なものであったとしても、来賓を歓迎するために細部にまでこだわって、時には色々な催しも企画し、
茶葉や茶菓子など、時期や気候に合ったものを選び、当日の天候を読んで、外でやるか内部でやるか…それ一つ
とっても、そろえねばならない装飾品、茶器が異なるものだ。
そして最終的に、会場は外にした。
もし雨天になった場合、家の中でやれるよう、もちろん家の内装にもこだわり、丁寧に飾りつけも行った。
そしてあっという間に当日になった。
朝早く王立騎士団に行くデイビス卿を見送った後、レイチェルはお茶会のお茶と茶菓子のチェックをしていた
ようなのだが…。
その時、外のざわめきに気付き、庭に出た。
すると…。
なんとレイチェルが用意した会場に、たくさんのご婦人やご令嬢が集まっていた。
テーブルと椅子は当然足りないので、使用人たちが急遽用意していたところだった。
レイチェルは当然、何が起こったかわからず、半ば放心状態で立ち尽くしていた。
「レイチェル!!」
耳をつんざくような、キッツイ声だった。
ディエリン夫人だ。
「何をぼーっとしているのです!!
早くこちらに来て、お客様のお相手をなさい!!
何ですか、あなたは!!
マトモにテーブルや椅子も用意できていないじゃないですか!!」
「え…え…え…」
やはりレイチェルは何が起こっているのか、理解できない。
だがそんな中でも、
「あ、あの、お義母様…。
今日は私のお茶会を主催する日で…」
何とか絞り出すように、言葉を紡げば、
「ええ、わかっていますよ」
ディエリン夫人のキツイ言葉が返ってくる。
「ですから…さっさとこちらへきて、お客様の相手をなさいってば!!」
因みに当然だが…ディエリン夫人が客だという、その場に集まった人たちで、レイチェルの
知っている人間など、一人もいなかった…。
コウドリグス侯爵家の屋敷前に、ベンズ卿の姿があった。
「お帰りなさいませ、あなた…」
品よく静かに迎えるジュリア。
「ただ今戻った」
ベンズ卿は本日早番のため、日があるうち…(午後3時ごろ)家に帰って来た。
するとそれを、待ち望んでいた二つの陰が、
「おかえりなさい!お父様!!」
「おきゃえりなさーい!!」
家の奥から全速力で飛び出してきた。
「おお、お前たち、いい子にしてたか~」
飛び出してきた子たちのタックルを、物ともせず受け止めたベンズ卿が、
片手に一人ずつ…二人の子供を軽々と抱き上げた。
「も、申し訳ありません、奥様、旦那様!!
突然の事で…」
「構わないわ。
他にお客様がいるわけではないし…」
ジュリアは使用人を下がらせる。
「この子たち…日増しにすばしこくなって…もう、使用人数人がかりでも捕まえられなくて
みんな泣いているわ…」
「ははは、まあ体が丈夫なのは良い事だ」
「そうですけど…お客様の前ではやらないようにと、あなたからもしっかり言い聞かせて
下さいませ」
「う…わかった」
言葉に詰まるベンズ卿。
子供たちは大人の都合など意に介さず、ベンズ卿に遊んでくれとせがみ、ひとつひとつ
律義に聞いてやるベンズ卿を、ジュリアは微笑ましく眺めていた。
(まったく…こういうところを普段から少しでも見せていたら…怖がられることもない
でしょうに…)
やがて力いっぱい遊んだ子供たちは、夕食前に寝てしまった。
そんな子供たちは、コウドリグス侯爵夫妻の寝室へと連れてこられる。
ベンズ卿とジュリアは、子供を乳母任せにすることは殆どなく、積極的に面倒を見て
関わっている。
「よく寝るなぁ…このまま起きないんじゃないか?」
「あら、いつもみたいに、夕食の時間が来ればぱっちり眼を覚ましますよ。
2人とも小さい体のどこにこんなに入るの…って言いたくなるくらい、よく食べますし、
食べるの大好きですから」
そんなどこにでもある夫婦の会話のあと、急にベンズ卿が真剣な目をして、
「建国記念パーティーは…本当に不参加でいいのか?」
建国記念パーティーは国内で一番大きいパーティーなだけあって、様々な交流の場として
重宝されている。
人脈を作り、己の顔を売り、自分と家族をより高みへと持っていくために、大抵の貴族が
利用している。
だが同時にそこに不参加だと、色々な噂が飛び交うことも往々にしてある。
そしてそれは…大抵悪い噂だ。
「あら、大丈夫よ。
人脈を広げるなら、別の方法なんていくらでもあるわ。
悪い噂を広げようとする人間はどこにでもいるんだから、そんなことがあれば突き止めて
反撃するだけ。
だいたいコウドリグス侯爵家は、そんなことで揺らぐものではないでしょう」
「お前は本当に頼もしいな」
ベンズ卿がしみじみと言う。
コウドリグス侯爵家は、侯爵家全体の中では、序列第二位だ。
派生した家門が一門となって、コウドリグス侯爵家を支えているため、かなり頑強な家と
なっている。
そう言った意味では、第一位の侯爵家よりもむしろ、コウドリグス侯爵家の方が栄えていると
いっても過言ではない。
「妻帯者はいつも参加できるよう、計らってくれるのだが…。
今回は娘や近しい親類…それに婚約者が、デビュタントする奴らが重なってな…」
「そう言った時に泥を被るのは、上として立派なお仕事でしょう?
ご苦労様です、あなた」
ジュリアは改めて頭を下げた。
「それに…」
ジュリアは眼に悲しみをたたえ、
「レイチェルは建国記念パーティーも…不参加らしいから…」
「……具合が相変わらず悪いのか?」
「体自体の問題も、あるかもしれないけれど…」
ジュリアは俯きながら、
「取り巻く環境がね…フレイア伯爵夫人が居なくなってしまったのが、何より大きい…。
あの方がご健在なら、あんなこと…」
唇をかみしめる。
「一年前の件か…、お前から詳しい事情を聞いたが、あれは酷いよな」
「ええ…」
フレイア伯爵夫人亡き後、レイチェルは王立騎士団副団長の妻であると同時に、王立騎士団内で
一番序列が高い夫人となった。
まして、毒実家とはいえ侯爵家の元令嬢…人々の関心を一身に集めるには、十分な要素があった
のだ。
ゆえに、お茶会や社交パーティーの誘いはひっきりなしに来たし、自身でも開催すべきという
周りからの無言の圧力もかなりあったようだ。
もちろんフレイア伯爵夫人が存命中から、お誘い自体はかなりあった。
しかしフレイア伯爵夫人は、レイチェルにそう言ったお誘いについては、しっかりと選別して
対処すること。
全てに参加する必要はないし、それで陰口をたたく人間は、他の事でも陰口をたたくから、
毅然とした態度で接すること。
などなど、社交界ではほぼお人形状態を強いていた毒実家のやり方に、一つ一つ注略を入れる
ように、丁寧にレイチェルを指導したそうな。
もちろんとても穏やかに…決してレイチェルの意志を無視しないように。
「フレイア伯爵夫人に、色々指導してもらっている時のレイチェルの手紙からは…本当に楽しそうな
感情が伝わってきた。
大変ではあるけれど、今まで知らなかったことを知れて楽しい。
フレイア伯爵夫人の元でしっかり学んで、早く夫…デイビス卿の力になれるような夫人になりたい
……って」
それを語るジュリアの眼もまた、とても楽しそうだ。
だが、次の瞬間それはなくなり、
「あの時には、想像もできなかった…」
「まさかフレイア伯爵夫人が…」
「それから一年も経たず、病気になられて…回復せぬまま逝ってしまわれるなんて…」
何ともやりきれない感情だけが、そこに残った。
「人の生死はわからんものだが…何とも惜しい人を亡くしたものだ。
お前の従妹の事を除いても、フレイア伯爵夫人は多くの人から慕われていたようだからな」
「ええ…。
私も何回かしかお会いしていなかったし、少ししかお話できなかったけど…とてもできた方だと
すぐにわかった。
おそらく生前、ディエリン夫人に対しても、それとなくレイチェルとの間に入ってくれていた
のだと思う」
ジュリアはため息しか出てこない。
さてそれではそろそろ…一年前に何があったか…ヘドネちゃんが実況いたします。
そのころのホッランバック伯爵家では…レイチェルが相変わらず忙しいデイビス卿を一生懸命支えようと、
奮闘しておりました。
しかし、如何せん慣れない場所に溶け込むのが苦手なため、使用人ともぎくしゃくして、うまくはいって
いなかったらしい。
まあ…これは絶対ディエリン夫人が、裏で糸を引いていたんだろーけど。
ただ本人もフレイア伯爵夫人という最大の理解者であり、協力者を失ったことはかなり重くのしかかり、
暗い影を落としていた。
それでもフレイア伯爵夫人が生前…死ぬ間際まで色々自分に指導してくれたことを胸に、色々な試みを
やっていこうと前向きに考えていたようだ。
そんな最中…。
「お茶会?」
帰って来たデイビス卿に、
「はい…、フレイア伯爵夫人が懇意にされていた方で…私と何度かお会いした方を中心に…小規模ですが
素敵なお茶会を開催しようと思って…」
笑顔で話す。
「そうか…キミがやると言うなら、最大限応援するつもりだが…大丈夫なのか?」
するとレイチェルの笑顔が少し陰ったが、
「ええ…。
フレイア伯爵夫人に、無理ない範囲で自分に合ったものでいいから、やっていくように言われていましたし…。
なにより、いつまでもふさぎ込んでいては、色々教えてくださったフレイア伯爵夫人に申し訳が立ちません
から…」
それでも気丈に頑張ろうとするレイチェル。
「わかった…やってみなさい。
何かあれば、私を頼ってくれていいから」
そんなレイチェルの手を取って、デイビス卿は優しいまなざしを向ける。
「はい…ありがとうございます、あなた…」
それからレイチェルは、本当に頑張った。
お茶会は単純に、茶を出せばいいわけじゃない。
簡単なものであったとしても、来賓を歓迎するために細部にまでこだわって、時には色々な催しも企画し、
茶葉や茶菓子など、時期や気候に合ったものを選び、当日の天候を読んで、外でやるか内部でやるか…それ一つ
とっても、そろえねばならない装飾品、茶器が異なるものだ。
そして最終的に、会場は外にした。
もし雨天になった場合、家の中でやれるよう、もちろん家の内装にもこだわり、丁寧に飾りつけも行った。
そしてあっという間に当日になった。
朝早く王立騎士団に行くデイビス卿を見送った後、レイチェルはお茶会のお茶と茶菓子のチェックをしていた
ようなのだが…。
その時、外のざわめきに気付き、庭に出た。
すると…。
なんとレイチェルが用意した会場に、たくさんのご婦人やご令嬢が集まっていた。
テーブルと椅子は当然足りないので、使用人たちが急遽用意していたところだった。
レイチェルは当然、何が起こったかわからず、半ば放心状態で立ち尽くしていた。
「レイチェル!!」
耳をつんざくような、キッツイ声だった。
ディエリン夫人だ。
「何をぼーっとしているのです!!
早くこちらに来て、お客様のお相手をなさい!!
何ですか、あなたは!!
マトモにテーブルや椅子も用意できていないじゃないですか!!」
「え…え…え…」
やはりレイチェルは何が起こっているのか、理解できない。
だがそんな中でも、
「あ、あの、お義母様…。
今日は私のお茶会を主催する日で…」
何とか絞り出すように、言葉を紡げば、
「ええ、わかっていますよ」
ディエリン夫人のキツイ言葉が返ってくる。
「ですから…さっさとこちらへきて、お客様の相手をなさいってば!!」
因みに当然だが…ディエリン夫人が客だという、その場に集まった人たちで、レイチェルの
知っている人間など、一人もいなかった…。
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