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番外編1 過去
3 デイビス卿登場
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何も言えなくなった使用人を置き去りにし、もともとのお客さんは颯爽と馬車に乗り、
王立騎士団へ行って、あったことをすべて、デイビス卿に知らせたそうな。
それを聞いたデイビス卿も出来る人だったから、すぐにギリアムと師団長たちに頭を
下げて、その日は帰らせてもらい…お茶会に乗り込んだ…と。
……まあ、何だね。
言っちゃーなんだけど、この時の皆さんに対応した使用人もさ…。
皆さんが帰ったすぐ後に、事の顛末をディエリン夫人に伝えりゃーいいのにさ。
自分が怒られるのが嫌で、一切報告なしってんだから。
まあ、ディエリン夫人程度じゃー、そのレベルのしか侍らせられないか…。
私が今回の黒幕(実行犯)に、一目置いているのは、まさにそれ。
後で聞いた話だけど、王立騎士団は仮面舞踏会会場をくまなく探した。
でもバカ王女の痕跡も王后陛下の痕跡も、一切発見できなかったって。
バカ王女は私が痛めつけられるのを、いつまでも見ていたかったはずだ。
でも、おそらく…黒幕(実行犯)が王后陛下を動かして、バカ王女もろとも引かせたんだ。
私が相手を一流と判断する基準はいくつかあるけど…。
損切りの能力が高い奴は、間違いなく一流だと思っている。
黒幕(実行犯)は、自分たちが咎めを受けることも覚悟のうえで、クライアントの
最大限の利益を確保した。
だから対応は、本当に慎重に…抜かりなくやらなきゃならない。
ギリアムを止めたのもそのため。
悪評を消さないことで、あちらのメンツを保ち、なおかつ次の手を封じた。
その上でどう出て来るのか…ひとまずは様子見だ。
応対の仕方を間違えたら、大やけどどころの話じゃないと思うしね。
だからこの時の使用人が、ディエリン夫人にあったことをしっかりと報告していれば…
この後のディエリン夫人の受ける被害はかなり小さくて済んだかもしれない。
まあ、報告されたディエリン夫人の行動次第じゃ、変わらなかったかもしれないけどね…。
だいぶ脱線しちゃったから、デイビス卿がお茶会に乗り込んで、男2人をぶっ飛ばした
所に戻ります。
「な…なんだよ…」
「こっ、こんな事して、ただで済むと思ってんのか!!」
威勢は良いが、完全にビビっている。
だろうなぁ。
デイビス卿はこの時、これ以上は無いってくらいの怒りの表情を、一切隠さなかったらしいから。
「ふ、ふんっ!!もう帰ろうぜ」
「そうだな!!興ざめだっ!!たく…」
逃げようとするときに、さも自分の方が上みたいな言い方をするのは、小悪党の特徴なのかねぇ。
爵位が上ならまだわかるが、この2人…デイビス卿よりも爵位の順位は下だって聞いたぞ。
もちろんギリアム3号君…もといデイビス卿が、こんな失礼を働いた連中を、黙って帰すわけがない。
ましてこの2人が失礼を働いたのが、レイチェルなのだからなおの事。
「誰が帰っていいと言った?」
そのデイビス卿の声は静かだからこそ…余計に不気味だった。
そしてその声とほぼ同時に、
「ぎゃっ!!」
「うわっ!!」
2人の男は、再度地面に転がされた。
男たちが地面から起き上がる間もなく、デイビス卿の攻撃が男たちの体に浴びせられる。
それはもう、文字通り雨のようだと表現できる。
あ、一応言っておくけど、真剣じゃなく鞘に納められた剣ね。
でも、鞘だって木製…いわば木刀と一緒だ。
この2人…ケルツィ侯爵の息子ほどではないが、修練所にイヤイヤ言って、ぎりぎりの
お情けで出してもらったような状態…しかもその後、修練することもなく、遊んでばかりの
典型的なドラ息子だった。
当然、王立騎士団副団長の地位に、実力でのし上がったデイビス卿に、2対1程度で
勝てるわけもない。
あれよあれよという間に、男たちは血だらけになる。
最初こそ、
「こんな事していいと、思ってんのかてめぇ!!」
みたいな、威勢のいい事言っていたが、しだいに、
「も、もう、やめてくれ…」
という、弱々しい声に変わり、
「助けてください、お願いします、もうしません」
などの懇願になったかと思えば、
「うう……」
頭を抱え四つん這いで地面に突っ伏するような姿のまま、動かなくなった。
こうなるまでに、5分とかかっていない。
特権階級…この世界では貴族階級だが、その貴族のお屋敷内で、何か揉め事が起こった場合、
それを裁く権利が、その家の当主に与えられている。
これはよほど悪質な法律違反や、国家転覆罪などの疑いが無い限り、守られるべき不文律。
ゆえにデイビス卿が、この場で男2人の首をはねても、罪に問われることは無い。
ただ首をはねられた者が平民ならまだしも、貴族となると、相手側の要望で真相究明のために、
調査機関が入ることも少なくない。
だから、不文律とはいえ貴族相手の場合は、行使する者はあまりいない。
これが、ルベンディン侯爵邸でのイカガワシイパーティーに、王立騎士団が最初から介入できなかった
理由でもある。
男たちが言葉を発せなくなっても、デイビス卿が手を緩めることは無かった。
ディエリン夫人は、
「おやめなさい!!仮にもお客様です!!」
などと言い、必死に止めようとしたが、それを予想していたデイビス卿に命令されてたであろう騎士が
しっかりとディエリン夫人を抑えた。
「私は私の妻に無礼を働く人間など、客とは認めません」
デイビス卿は事務的に…機械的にそう言うだけで、攻撃の手は緩めなかった。
一見すると…というか素人から見れば、男2人が今にも叩き殺されそうに見えたことだろう。
しかしそこは、仮にも王立騎士団副団長たるデイビス卿。
致命傷を与えないようにしながら、最大限の苦痛を与えるなどお手の物だ。
この世界では、犯罪者に対する拷問の施行が許されている。
実力本位主義になった王立騎士団の…ある程度上になった者たちは、同時に優秀な拷問官だと思って
いい。
デイビス卿が拷問的手法をとったのは、もちろん男2人を痛めつける目的もあったが、他にも重要な
目的があった。
そして、その目的は、割とすぐに果たされた。
「や、やめて!!もうやめてぇぇっ!!」
「うちの子を殺す気なのっ!!」
ディエリン夫人のお客の中から、2人の年配夫人が飛び出してきた。
だがそんなお客たちに、デイビス卿は冷たい目を向け、
「別に殺す気はありませんよ?
痛めつけているだけです」
サラッと答え、また始める。
「や、やめて、やめてぇっ!!」
年配夫人たちがどれだけ叫んでも、デイビス卿はどこ吹く風だ。
そのうち震える年配女性たちが、
「ディエリン!!一体どういうこと!!」
「アナタが迷惑をかけないから、協力してって言うから、手を貸したのに!!
さっさとあなたの息子を止めさなさいよ!!」
口々に言いだした。
「ちょっ…何を言って…」
ディエリン夫人が動揺し始めると、デイビス卿は動きを止め、
「オイ」
2人の男の頭を交互に叩き、
「誰に頼まれたか、正直に言え。
言わないなら、再度続ける」
氷で全身を貫かれたような衝撃だったのだろう。
男2人は震えながら、
「あ、あんたの母親に頼まれたんだよ!!」
「嫁さんに、ちょっとちょっかいかけてくれればいいからって…。
迷惑はかけないからって…くそぉっ!!」
息も絶え絶えながら、悪態だけはつくんだな、これが。
デイビス卿は満足げに、
「わかった…では、最後の罰をあたえて終わりにしよう」
そう言うと、騎士たちに指示して男たちの手足を抑えさせた。
地面に磔にされる男たち。
「な、何をするんだよ…」
異様な空気を察したのだろう。
男の一人が問えば、
「ん?私としては、お前たちの首をすぐにでも飛ばしたいのだがな。
お前たちは仮にも貴族…後々の処理が面倒だ」
言いながら、剣をゆっくりと鞘から出す。
「幸い我が王立騎士団の団長が…戦時中に女性に不埒なことをする輩への…
最適な処罰方法を示してくださったからな…。
それで許してやろう」
口の端を吊り上げて、笑うデイビス卿の顔は…悪魔でも逃げ出したくなるもの
だったろうな…うん。
「ひっ、ひいいいいっ!!い、嫌だぁっ!!それだけは!!」
「た、助けて…許してぇ!!」
力の限りに泣き叫び、抵抗しようとするが、抑える騎士たちの力に抗えるわけも
ない。
ギリアムが戦時中に与えた罰…それについて知らない貴族はいない。
戦時下では、占領した地域で略奪や凌辱行為が起こるのは、なにもこの国だけではなく、
他の国の戦争でも、軍隊でもごくごく当たり前…黙認されている公然の事実だった。
だからこそ、戦争が始まって先発隊を率いていた指揮官(テオルド卿じゃないよ)も
占領した地域での自軍の行動を、止めようとはしなかった。
だがそこは…そういった事を想定していたギリアムが、いち早く駆けつけた。
この時のギリアムは…当然、救国の英雄ではない。
それどころか、ただファルメニウス公爵家の当主と言うだけで、成人すらしていない
お飾りの総大将…誰もがそういう認識だった。
もちろん本人は、非凡な才能を幼い時から隠してはいなかったが、父母の悪評ももちろん、
ファルメニウス公爵家を意のままにしたい貴族たちの策略もあり、本人の能力が、不当に低く
公表されていたのだ。
だから、この時の指揮官も命令故、一度は略奪・凌辱をやめさせたが、ギリアムがいる時だけ
取り繕って、また再開させればいいと軽く考えていた。
そしてその浅はかな考えは…当然の如くギリアム・アウススト・ファルメニウスには見抜かれて
いた…。
結論から申し上げますと…まず略奪に加担したものは、貴族・平民を問わず鞭打ち。
そして凌辱をした者たちは…やっぱり貴族・平民を問わず、等しく去勢されたそーな。
…………………………………うん。
ひとっ欠片も、同情できねぇし、したくもねぇな。
ちなみに去勢された貴族たちは、戦後ギリアムを訴える準備を虎視眈々と進めていたようだが…。
ギリアムはご存じのように、己の不世出の天才っぷりをこれでもかってくらい示し、救国の英雄に
なったものだから、残らず泣き寝入りしたそうな。
へっ!!ざまっ!!
王立騎士団へ行って、あったことをすべて、デイビス卿に知らせたそうな。
それを聞いたデイビス卿も出来る人だったから、すぐにギリアムと師団長たちに頭を
下げて、その日は帰らせてもらい…お茶会に乗り込んだ…と。
……まあ、何だね。
言っちゃーなんだけど、この時の皆さんに対応した使用人もさ…。
皆さんが帰ったすぐ後に、事の顛末をディエリン夫人に伝えりゃーいいのにさ。
自分が怒られるのが嫌で、一切報告なしってんだから。
まあ、ディエリン夫人程度じゃー、そのレベルのしか侍らせられないか…。
私が今回の黒幕(実行犯)に、一目置いているのは、まさにそれ。
後で聞いた話だけど、王立騎士団は仮面舞踏会会場をくまなく探した。
でもバカ王女の痕跡も王后陛下の痕跡も、一切発見できなかったって。
バカ王女は私が痛めつけられるのを、いつまでも見ていたかったはずだ。
でも、おそらく…黒幕(実行犯)が王后陛下を動かして、バカ王女もろとも引かせたんだ。
私が相手を一流と判断する基準はいくつかあるけど…。
損切りの能力が高い奴は、間違いなく一流だと思っている。
黒幕(実行犯)は、自分たちが咎めを受けることも覚悟のうえで、クライアントの
最大限の利益を確保した。
だから対応は、本当に慎重に…抜かりなくやらなきゃならない。
ギリアムを止めたのもそのため。
悪評を消さないことで、あちらのメンツを保ち、なおかつ次の手を封じた。
その上でどう出て来るのか…ひとまずは様子見だ。
応対の仕方を間違えたら、大やけどどころの話じゃないと思うしね。
だからこの時の使用人が、ディエリン夫人にあったことをしっかりと報告していれば…
この後のディエリン夫人の受ける被害はかなり小さくて済んだかもしれない。
まあ、報告されたディエリン夫人の行動次第じゃ、変わらなかったかもしれないけどね…。
だいぶ脱線しちゃったから、デイビス卿がお茶会に乗り込んで、男2人をぶっ飛ばした
所に戻ります。
「な…なんだよ…」
「こっ、こんな事して、ただで済むと思ってんのか!!」
威勢は良いが、完全にビビっている。
だろうなぁ。
デイビス卿はこの時、これ以上は無いってくらいの怒りの表情を、一切隠さなかったらしいから。
「ふ、ふんっ!!もう帰ろうぜ」
「そうだな!!興ざめだっ!!たく…」
逃げようとするときに、さも自分の方が上みたいな言い方をするのは、小悪党の特徴なのかねぇ。
爵位が上ならまだわかるが、この2人…デイビス卿よりも爵位の順位は下だって聞いたぞ。
もちろんギリアム3号君…もといデイビス卿が、こんな失礼を働いた連中を、黙って帰すわけがない。
ましてこの2人が失礼を働いたのが、レイチェルなのだからなおの事。
「誰が帰っていいと言った?」
そのデイビス卿の声は静かだからこそ…余計に不気味だった。
そしてその声とほぼ同時に、
「ぎゃっ!!」
「うわっ!!」
2人の男は、再度地面に転がされた。
男たちが地面から起き上がる間もなく、デイビス卿の攻撃が男たちの体に浴びせられる。
それはもう、文字通り雨のようだと表現できる。
あ、一応言っておくけど、真剣じゃなく鞘に納められた剣ね。
でも、鞘だって木製…いわば木刀と一緒だ。
この2人…ケルツィ侯爵の息子ほどではないが、修練所にイヤイヤ言って、ぎりぎりの
お情けで出してもらったような状態…しかもその後、修練することもなく、遊んでばかりの
典型的なドラ息子だった。
当然、王立騎士団副団長の地位に、実力でのし上がったデイビス卿に、2対1程度で
勝てるわけもない。
あれよあれよという間に、男たちは血だらけになる。
最初こそ、
「こんな事していいと、思ってんのかてめぇ!!」
みたいな、威勢のいい事言っていたが、しだいに、
「も、もう、やめてくれ…」
という、弱々しい声に変わり、
「助けてください、お願いします、もうしません」
などの懇願になったかと思えば、
「うう……」
頭を抱え四つん這いで地面に突っ伏するような姿のまま、動かなくなった。
こうなるまでに、5分とかかっていない。
特権階級…この世界では貴族階級だが、その貴族のお屋敷内で、何か揉め事が起こった場合、
それを裁く権利が、その家の当主に与えられている。
これはよほど悪質な法律違反や、国家転覆罪などの疑いが無い限り、守られるべき不文律。
ゆえにデイビス卿が、この場で男2人の首をはねても、罪に問われることは無い。
ただ首をはねられた者が平民ならまだしも、貴族となると、相手側の要望で真相究明のために、
調査機関が入ることも少なくない。
だから、不文律とはいえ貴族相手の場合は、行使する者はあまりいない。
これが、ルベンディン侯爵邸でのイカガワシイパーティーに、王立騎士団が最初から介入できなかった
理由でもある。
男たちが言葉を発せなくなっても、デイビス卿が手を緩めることは無かった。
ディエリン夫人は、
「おやめなさい!!仮にもお客様です!!」
などと言い、必死に止めようとしたが、それを予想していたデイビス卿に命令されてたであろう騎士が
しっかりとディエリン夫人を抑えた。
「私は私の妻に無礼を働く人間など、客とは認めません」
デイビス卿は事務的に…機械的にそう言うだけで、攻撃の手は緩めなかった。
一見すると…というか素人から見れば、男2人が今にも叩き殺されそうに見えたことだろう。
しかしそこは、仮にも王立騎士団副団長たるデイビス卿。
致命傷を与えないようにしながら、最大限の苦痛を与えるなどお手の物だ。
この世界では、犯罪者に対する拷問の施行が許されている。
実力本位主義になった王立騎士団の…ある程度上になった者たちは、同時に優秀な拷問官だと思って
いい。
デイビス卿が拷問的手法をとったのは、もちろん男2人を痛めつける目的もあったが、他にも重要な
目的があった。
そして、その目的は、割とすぐに果たされた。
「や、やめて!!もうやめてぇぇっ!!」
「うちの子を殺す気なのっ!!」
ディエリン夫人のお客の中から、2人の年配夫人が飛び出してきた。
だがそんなお客たちに、デイビス卿は冷たい目を向け、
「別に殺す気はありませんよ?
痛めつけているだけです」
サラッと答え、また始める。
「や、やめて、やめてぇっ!!」
年配夫人たちがどれだけ叫んでも、デイビス卿はどこ吹く風だ。
そのうち震える年配女性たちが、
「ディエリン!!一体どういうこと!!」
「アナタが迷惑をかけないから、協力してって言うから、手を貸したのに!!
さっさとあなたの息子を止めさなさいよ!!」
口々に言いだした。
「ちょっ…何を言って…」
ディエリン夫人が動揺し始めると、デイビス卿は動きを止め、
「オイ」
2人の男の頭を交互に叩き、
「誰に頼まれたか、正直に言え。
言わないなら、再度続ける」
氷で全身を貫かれたような衝撃だったのだろう。
男2人は震えながら、
「あ、あんたの母親に頼まれたんだよ!!」
「嫁さんに、ちょっとちょっかいかけてくれればいいからって…。
迷惑はかけないからって…くそぉっ!!」
息も絶え絶えながら、悪態だけはつくんだな、これが。
デイビス卿は満足げに、
「わかった…では、最後の罰をあたえて終わりにしよう」
そう言うと、騎士たちに指示して男たちの手足を抑えさせた。
地面に磔にされる男たち。
「な、何をするんだよ…」
異様な空気を察したのだろう。
男の一人が問えば、
「ん?私としては、お前たちの首をすぐにでも飛ばしたいのだがな。
お前たちは仮にも貴族…後々の処理が面倒だ」
言いながら、剣をゆっくりと鞘から出す。
「幸い我が王立騎士団の団長が…戦時中に女性に不埒なことをする輩への…
最適な処罰方法を示してくださったからな…。
それで許してやろう」
口の端を吊り上げて、笑うデイビス卿の顔は…悪魔でも逃げ出したくなるもの
だったろうな…うん。
「ひっ、ひいいいいっ!!い、嫌だぁっ!!それだけは!!」
「た、助けて…許してぇ!!」
力の限りに泣き叫び、抵抗しようとするが、抑える騎士たちの力に抗えるわけも
ない。
ギリアムが戦時中に与えた罰…それについて知らない貴族はいない。
戦時下では、占領した地域で略奪や凌辱行為が起こるのは、なにもこの国だけではなく、
他の国の戦争でも、軍隊でもごくごく当たり前…黙認されている公然の事実だった。
だからこそ、戦争が始まって先発隊を率いていた指揮官(テオルド卿じゃないよ)も
占領した地域での自軍の行動を、止めようとはしなかった。
だがそこは…そういった事を想定していたギリアムが、いち早く駆けつけた。
この時のギリアムは…当然、救国の英雄ではない。
それどころか、ただファルメニウス公爵家の当主と言うだけで、成人すらしていない
お飾りの総大将…誰もがそういう認識だった。
もちろん本人は、非凡な才能を幼い時から隠してはいなかったが、父母の悪評ももちろん、
ファルメニウス公爵家を意のままにしたい貴族たちの策略もあり、本人の能力が、不当に低く
公表されていたのだ。
だから、この時の指揮官も命令故、一度は略奪・凌辱をやめさせたが、ギリアムがいる時だけ
取り繕って、また再開させればいいと軽く考えていた。
そしてその浅はかな考えは…当然の如くギリアム・アウススト・ファルメニウスには見抜かれて
いた…。
結論から申し上げますと…まず略奪に加担したものは、貴族・平民を問わず鞭打ち。
そして凌辱をした者たちは…やっぱり貴族・平民を問わず、等しく去勢されたそーな。
…………………………………うん。
ひとっ欠片も、同情できねぇし、したくもねぇな。
ちなみに去勢された貴族たちは、戦後ギリアムを訴える準備を虎視眈々と進めていたようだが…。
ギリアムはご存じのように、己の不世出の天才っぷりをこれでもかってくらい示し、救国の英雄に
なったものだから、残らず泣き寝入りしたそうな。
へっ!!ざまっ!!
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