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番外編1 過去
5 超のつく、重大発表
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「ごっ、ご主人様!!奥様!!」
かなり騒々しく部屋に入って来たのは、コウドリグス侯爵家の執事、セバスチャンだった。
「静かになさい!!子供たちが起きてしまうでしょう!!」
と言いつつ、
「何があったの?」
セバスチャンがこうも慌てることは、非常に珍しい。
コウドリグス侯爵家の執事だけあって、いつも礼儀正しく、所作の美しい人間だからだ。
「た…たった今、入った…情報なのですが…」
「王宮に何かあったか?」
ベンズ卿の立場では、非常事態は当然、呼び出しがかかる。
「い…いえ、そうではなく…」
かなり息が切れている。
「とにかく息を整えろ」
ベンズ卿が背中をさすってやる。
セバスチャンはすでに70に差し掛かろうという歳だ。
少し剥げあがった頭に、全面白髪となった白髪を綺麗に整えている。
顔は全体的に丸く、愛嬌のある顔だが、眼はとても鋭い。
ベンズ卿の父親…どころか祖父の代から仕えており、コウドリグス侯爵家の半ば生き字引化して
いる。
引退も勧めたが、自分は死ぬまで仕事すると言ってきかない、頑固者だ。
「こっ、今年の建国記念パーティー…」
「ゆっくりでいいぞ」
大分息は整ってきているが、顔が真っ赤で急いできたのが、よくわかる。
「ギ、ギリアム公爵閣下が…」
「うんうん」
ベンズ卿はおじいちゃんを気づかう孫のように、ゆるやかに促す。
「ご婚約者様をパートナーとして伴い…ご出席すると…」
これはベンズ卿もジュリアも、青天の霹靂と言わんばかりの顔を隠せない。
まあこれは、2人じゃなくて、聞いた全貴族がそうだったろう。
それくらいギリアムには浮いた話どころか、女性の影さえなかったから。
「…ご婚約者様のお名前は?」
ジュリアは動揺を隠すように、聞く。
「オ、オルフィリア…・ステンロイド…男爵令嬢と、おっしゃるそうで…」
「ステンロイド男爵…聞いたことが無いな…。
ジュリアは…」
「私も聞いたことがありませんわ」
だろうねぇ。
父娘共々、勝手に寄ってくる物好き除いて、貴族との付き合いなんざ一切してないから。
ママンの実家繋がりじゃなきゃ、まず知らないだろう。
「わかった…ご苦労だった、セバスチャン」
そのままセバスチャンを下がらせた後、
「すまんが、ちょっと団長の所に行ってくる」
「ええ、留守はお任せください」
ベンズ卿が明日ではなく、すぐに行動したのは…やはり軍事を司るファルメニウス公爵家の
事だからだろう。
ベンズ卿を見送ったジュリアに、セバスチャンが、
「奥様…いかがされましょう?
建国記念パーティーへの不参加を、取り消すのならば…」
「いいえ…それはやめておきましょう」
「え…ですが…」
セバスチャンが怪訝な顔をする。
「オルフィリア嬢…とおっしゃる方の性格が、今は全く分かりませんからね。
それにギリアム公爵閣下は、元来特権を使ったごり押しは、大変お嫌いな方です」
そーなんだよねー。
そのくせ私の為に、あっさりやろうとしやがるから…今後も手綱しっかり握らんと。
「万が一不況を買うようなことがあれば、コウドリグス侯爵家にとってもよくありません」
う~む、さすがジュリア。
「わ、わかりました」
セバスチャンは静かに下がるのだった。
「オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢…。
レイチェルの良い所を、見てくれる方であることを祈らなければね…」
----------------------------------------------------------------------------------------
そして国中に衝撃が走った、ギリアムの電撃婚約者発表から数日後…。
バカ王女がファルメニウス公爵家に、突撃かます直前。
ホッランバック伯爵家。
「ご苦労だった…」
「いえ…かなりの代金を頂いたにも関わらず、こんな程度の情報しか仕入れられず…」
デイビス卿が誰かと話している。
王立騎士団の団員ではない。
どう見ても、闇に近い所にいる情報屋…というところだ。
「仕方がない。
情報源が国中に散らばっているようなものだ。
引き続き頼む」
「はい…」
そんな事務的な会話のみで、情報屋は出て行った。
「ふう…」
デイビス卿は眼鏡をはずし、椅子の背もたれに寄りかかる形で、天井を仰ぎ見る。
「表でも裏でも…さしたる情報はなし…か」
眼を細め、虚空を見つめる。
「あなた…」
そんな時耳に聞こえてきたのは…、
「レイチェル?起きて大丈夫なのか?」
実家に無理して行ったため、臥せっていたレイチェルだった。
「あの…心配をかけて…ゴホッゴホッ」
せき込むレイチェルに駆け寄り、
「まだダメなんだろう?いいから、休みなさい」
そのまま寝室へと連れて行くデイビス卿。
レイチェルの体をベッドへと横たえ、すまなそうな眼を向ける、レイチェルの額を
撫でてやる。
「一体どうしたんだ?何か言いたいことがあるなら、私を呼んで構わないぞ」
するとレイチェルは、少しの沈黙の後、
「お義母様から…ギリアム公爵閣下が、ご婚約者様を持たれたと聞いて…。
だから私も…いつまでも甘えていないで、気を引き締めるように…と」
デイビス卿は、明らかに余計なことを…と、言いたげな表情を隠さず、
「大丈夫だから、心配するな。
そもそも私たち団員に対するお披露目の日も、まだ決まっていないし…。
建国記念パーティーの出欠を提出する期限は過ぎているのだから、それをごり押しで
変える必要もない。
まして団長は、体調の悪いお前に無理をしろなどと、言う人じゃない」
それを聞いたレイチェルは、ホッとしたようで、
「ありがとうございます、あなた…。
早く元気になって、しっかり役に立てるように…ゴホッゴホッ」
「だから、無理はするな。
大丈夫…私が何とかするから…何も心配いらない」
己を最大限いつくしんでくれる、温かい体温に安心したのか、レイチェルはすぐに
眠りについた。
それを愛おしそうに見つめつつ、
(しかし参ったな…父娘共に貴族との付き合いは殆ど無いから、実体が全くつかめない。
ステンロイド男爵夫人の実家は、懇意にすれば逆に不況を買いそうだし…)
デイビス卿は頭を痛める。
(ひとまずは調査を続けつつ…本当に何もわからなければ、出たとこ勝負をするしか
ない…。
16歳のご令嬢に、フレイア伯爵夫人のような関わり方をして欲しいなどと、高望みを
する気は毛頭ないが…)
眠っているレイチェルの前髪を、そっと撫で、
(レイチェルの性格の良さをわかってくれて…、嫌がることを強要さえしなければ…。
それ以外のサポートできる部分はすべて…私が担えば何とか…)
愛する妻の寝顔を眺めつつ、いつまでも思案に暮れるのだった…。
---------------------------------------------------------------------------------
時は少し移り、バカ王女がファルメニウス公爵家へ突撃後、ローカス卿が王立騎士団へと
赴いたその日の夜…。
「そういうワケで、めぼしい情報は相変わらず得られなかったよ…」
ベンズ卿が本当に疲れた顔をして、ジュリアに話している。
「本当にお疲れ様でした、あなた…。
王女殿下のお相手は、骨が折れたでしょう」
「ああ…そのことなんだが…」
ベンズ卿はバカ王女が外へ出るのを阻止した立役者のため、
「国王陛下とケイルクス王太子殿下には、お褒めの言葉をいただいたのだが…
王女殿下は終始私を睨んでいたから…いずれお前に粉をかけるかもしれん…すまん」
「何を言うかと思えば…」
ジュリアは毅然とした表情で、
「あなたは自分の職務をしっかり全うしただけです。
私とて、それなりに社交界の荒波を渡っているのですから、その時はその時で何とか
してみますし、どうしようもなければ、また二人で話し合いましょう」
この切符の良さと度胸が、近衛騎士団の夫人&令嬢に一目置かれ、近衛騎士団の夫人たちの
顔として認められている理由だろーな。
「そう言ってもらうと、私も気が楽になったよ」
ベンズ卿はホッとした顔をする。
「ああ、そうそう。
これはあくまで、団長の推測の域を出ないのだが…一応お前にも言っておく」
「なんでしょう?」
ベンズ卿はギリアムが私に恋慕の情があると、ローカス卿が予測したことを話す。
「そうですか…」
ジュリアはなぜか、重苦しい表情になる。
かなり騒々しく部屋に入って来たのは、コウドリグス侯爵家の執事、セバスチャンだった。
「静かになさい!!子供たちが起きてしまうでしょう!!」
と言いつつ、
「何があったの?」
セバスチャンがこうも慌てることは、非常に珍しい。
コウドリグス侯爵家の執事だけあって、いつも礼儀正しく、所作の美しい人間だからだ。
「た…たった今、入った…情報なのですが…」
「王宮に何かあったか?」
ベンズ卿の立場では、非常事態は当然、呼び出しがかかる。
「い…いえ、そうではなく…」
かなり息が切れている。
「とにかく息を整えろ」
ベンズ卿が背中をさすってやる。
セバスチャンはすでに70に差し掛かろうという歳だ。
少し剥げあがった頭に、全面白髪となった白髪を綺麗に整えている。
顔は全体的に丸く、愛嬌のある顔だが、眼はとても鋭い。
ベンズ卿の父親…どころか祖父の代から仕えており、コウドリグス侯爵家の半ば生き字引化して
いる。
引退も勧めたが、自分は死ぬまで仕事すると言ってきかない、頑固者だ。
「こっ、今年の建国記念パーティー…」
「ゆっくりでいいぞ」
大分息は整ってきているが、顔が真っ赤で急いできたのが、よくわかる。
「ギ、ギリアム公爵閣下が…」
「うんうん」
ベンズ卿はおじいちゃんを気づかう孫のように、ゆるやかに促す。
「ご婚約者様をパートナーとして伴い…ご出席すると…」
これはベンズ卿もジュリアも、青天の霹靂と言わんばかりの顔を隠せない。
まあこれは、2人じゃなくて、聞いた全貴族がそうだったろう。
それくらいギリアムには浮いた話どころか、女性の影さえなかったから。
「…ご婚約者様のお名前は?」
ジュリアは動揺を隠すように、聞く。
「オ、オルフィリア…・ステンロイド…男爵令嬢と、おっしゃるそうで…」
「ステンロイド男爵…聞いたことが無いな…。
ジュリアは…」
「私も聞いたことがありませんわ」
だろうねぇ。
父娘共々、勝手に寄ってくる物好き除いて、貴族との付き合いなんざ一切してないから。
ママンの実家繋がりじゃなきゃ、まず知らないだろう。
「わかった…ご苦労だった、セバスチャン」
そのままセバスチャンを下がらせた後、
「すまんが、ちょっと団長の所に行ってくる」
「ええ、留守はお任せください」
ベンズ卿が明日ではなく、すぐに行動したのは…やはり軍事を司るファルメニウス公爵家の
事だからだろう。
ベンズ卿を見送ったジュリアに、セバスチャンが、
「奥様…いかがされましょう?
建国記念パーティーへの不参加を、取り消すのならば…」
「いいえ…それはやめておきましょう」
「え…ですが…」
セバスチャンが怪訝な顔をする。
「オルフィリア嬢…とおっしゃる方の性格が、今は全く分かりませんからね。
それにギリアム公爵閣下は、元来特権を使ったごり押しは、大変お嫌いな方です」
そーなんだよねー。
そのくせ私の為に、あっさりやろうとしやがるから…今後も手綱しっかり握らんと。
「万が一不況を買うようなことがあれば、コウドリグス侯爵家にとってもよくありません」
う~む、さすがジュリア。
「わ、わかりました」
セバスチャンは静かに下がるのだった。
「オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢…。
レイチェルの良い所を、見てくれる方であることを祈らなければね…」
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そして国中に衝撃が走った、ギリアムの電撃婚約者発表から数日後…。
バカ王女がファルメニウス公爵家に、突撃かます直前。
ホッランバック伯爵家。
「ご苦労だった…」
「いえ…かなりの代金を頂いたにも関わらず、こんな程度の情報しか仕入れられず…」
デイビス卿が誰かと話している。
王立騎士団の団員ではない。
どう見ても、闇に近い所にいる情報屋…というところだ。
「仕方がない。
情報源が国中に散らばっているようなものだ。
引き続き頼む」
「はい…」
そんな事務的な会話のみで、情報屋は出て行った。
「ふう…」
デイビス卿は眼鏡をはずし、椅子の背もたれに寄りかかる形で、天井を仰ぎ見る。
「表でも裏でも…さしたる情報はなし…か」
眼を細め、虚空を見つめる。
「あなた…」
そんな時耳に聞こえてきたのは…、
「レイチェル?起きて大丈夫なのか?」
実家に無理して行ったため、臥せっていたレイチェルだった。
「あの…心配をかけて…ゴホッゴホッ」
せき込むレイチェルに駆け寄り、
「まだダメなんだろう?いいから、休みなさい」
そのまま寝室へと連れて行くデイビス卿。
レイチェルの体をベッドへと横たえ、すまなそうな眼を向ける、レイチェルの額を
撫でてやる。
「一体どうしたんだ?何か言いたいことがあるなら、私を呼んで構わないぞ」
するとレイチェルは、少しの沈黙の後、
「お義母様から…ギリアム公爵閣下が、ご婚約者様を持たれたと聞いて…。
だから私も…いつまでも甘えていないで、気を引き締めるように…と」
デイビス卿は、明らかに余計なことを…と、言いたげな表情を隠さず、
「大丈夫だから、心配するな。
そもそも私たち団員に対するお披露目の日も、まだ決まっていないし…。
建国記念パーティーの出欠を提出する期限は過ぎているのだから、それをごり押しで
変える必要もない。
まして団長は、体調の悪いお前に無理をしろなどと、言う人じゃない」
それを聞いたレイチェルは、ホッとしたようで、
「ありがとうございます、あなた…。
早く元気になって、しっかり役に立てるように…ゴホッゴホッ」
「だから、無理はするな。
大丈夫…私が何とかするから…何も心配いらない」
己を最大限いつくしんでくれる、温かい体温に安心したのか、レイチェルはすぐに
眠りについた。
それを愛おしそうに見つめつつ、
(しかし参ったな…父娘共に貴族との付き合いは殆ど無いから、実体が全くつかめない。
ステンロイド男爵夫人の実家は、懇意にすれば逆に不況を買いそうだし…)
デイビス卿は頭を痛める。
(ひとまずは調査を続けつつ…本当に何もわからなければ、出たとこ勝負をするしか
ない…。
16歳のご令嬢に、フレイア伯爵夫人のような関わり方をして欲しいなどと、高望みを
する気は毛頭ないが…)
眠っているレイチェルの前髪を、そっと撫で、
(レイチェルの性格の良さをわかってくれて…、嫌がることを強要さえしなければ…。
それ以外のサポートできる部分はすべて…私が担えば何とか…)
愛する妻の寝顔を眺めつつ、いつまでも思案に暮れるのだった…。
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時は少し移り、バカ王女がファルメニウス公爵家へ突撃後、ローカス卿が王立騎士団へと
赴いたその日の夜…。
「そういうワケで、めぼしい情報は相変わらず得られなかったよ…」
ベンズ卿が本当に疲れた顔をして、ジュリアに話している。
「本当にお疲れ様でした、あなた…。
王女殿下のお相手は、骨が折れたでしょう」
「ああ…そのことなんだが…」
ベンズ卿はバカ王女が外へ出るのを阻止した立役者のため、
「国王陛下とケイルクス王太子殿下には、お褒めの言葉をいただいたのだが…
王女殿下は終始私を睨んでいたから…いずれお前に粉をかけるかもしれん…すまん」
「何を言うかと思えば…」
ジュリアは毅然とした表情で、
「あなたは自分の職務をしっかり全うしただけです。
私とて、それなりに社交界の荒波を渡っているのですから、その時はその時で何とか
してみますし、どうしようもなければ、また二人で話し合いましょう」
この切符の良さと度胸が、近衛騎士団の夫人&令嬢に一目置かれ、近衛騎士団の夫人たちの
顔として認められている理由だろーな。
「そう言ってもらうと、私も気が楽になったよ」
ベンズ卿はホッとした顔をする。
「ああ、そうそう。
これはあくまで、団長の推測の域を出ないのだが…一応お前にも言っておく」
「なんでしょう?」
ベンズ卿はギリアムが私に恋慕の情があると、ローカス卿が予測したことを話す。
「そうですか…」
ジュリアはなぜか、重苦しい表情になる。
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