ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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番外編1 過去

6 ファルメニウス公爵夫人の役割

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ベンズ卿はジュリアが重苦しい表情のまま、何も喋らないため、

「まあ、私も思い当たることはあるんだ。
王女殿下がファルメニウス公爵家に連れて行った団員に、家探しして婚約者を自分の前に連れてこいと
命じていたらしくて…。
しかし一晩中探し回ったが、見つけられなかったと…。
おそらくギリアム公爵閣下が、こういった事を見越して、安全な所に隠してしまったのだろうな。
だとしたら、とても大切に扱っているのだろう」

「事実、方々から建国記念パーティー前に、簡易的にでもお披露目を…と、かなりの数の貴族が
言いに行ったらしいのだが、全て門前払いされたらしい。
護衛の数も、いつもの倍以上配置しているそうだし」

自分の思ったことを、つらつらと述べだ。

「そんな付け焼き刃で、守れるうちはいいのですがね…」

ジュリアの顔は、かなり深刻そうだ。

「付け焼き刃…?」

ベンズ卿は少し不思議そうな顔をする。

「ええ…ギリアム公爵閣下がどうお考えかは存じませんが…」

前置きしつつ、

「貴族家の夫人の役割は…思っている以上に多いものです。
ましてそれが、この国の序列第一位であるファルメニウス公爵家ともなれば…その役割の重さや量は
ホッランバック伯爵家の比ではありません」

「ファルメニウス公爵夫人ともなれば、国内の王族・上位貴族の相手はもちろん、国内に駐留して
いらっしゃる大使たち、国外からいらっしゃる、国賓の方々の相手をせねばなりません。
高い知性と教養を兼ね備えていることは、最低限度のレベルで必要です。
政治、経済、歴史、学問、世相や流行など、あらゆる話題について行かねばなりません。
それだけでなく、何気ない会話の中でも、詩や文学作品の引用、哲学の問答などあらゆる分野に精通して
いる必要も生じるでしょう。
その上で相手に失礼のない皮肉や、ユーモアを織り交ぜた高等テクニックを要する話術を必要とします。
お相手が国外からの国賓ともなれば、その国での同等の知識もまた、必須となるでしょうね。
生活習慣や失礼に当たることなどが、全く違うならばそれも学ばねばなりませんし…国内と国外では、
また違ったセンスを要求されることもあります」

「お…お前には…感謝している…」

ベンズ卿が脂汗を流している。

「それに付け加え…」

「ま、まだあるのか?」

「ええもちろん」

ジュリアは少し皮肉った笑顔を向け、

「もし貴族の夫人&令嬢間での諍いが発生した場合、身分を踏まえた上での貴族同士のパワーバランスや、
落としどころを見つけ、仲裁に入る能力も必要になります。
特にファルメニウス公爵家は王立騎士団及び、有事の際には近衛騎士団やすべての軍事機関のトップとなる
家柄…そのことも踏まえ、己の立ち居振る舞いを決定せねばなりません」

「男の戦場が剣を持ち鎧をまとって戦う荒野なら、女の戦場はまさに社交界…。
武器は己の教養とセンス…と言ったところでしょうね」

ベンズ卿はもやは、脂汗しか出せない。

「私はあなたの元に嫁ぐことが、両家の話し合いで5歳の時に決まりましたが…その日から複数の
家庭教師に、様々なことを叩きこまれましたよ。
そんな私ですら、嫁いで社交界に出た最初の内は、冷や汗をかくことなど何度もありましたし、
悔しい思いも、何度もしました」

「……オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢は…ウチの諜報隊の情報が間違っていなければ…、
アカデミーへの通学経験もない上、平民同然の…食うや食わずのその日暮らしをしてきたそうなんだが…」

近衛騎士団内部には諜報隊というものが別途であり、諜報部隊長(通称・参謀長)の下、様々な諜報活動を
行っている。
王家の一連の火消しを担当するのも、この隊の役割だ。

「はっきり申し上げますが、アカデミーで習うことなど、最低限度の内にすら入りません!!」

ベンズ卿…典型的な仕事人間で、家の事は奥さんに丸投げっていう、一昔前の職業戦士タイプの人間なんや
なぁ…。
もちろん本人は、関われるところは関わっているらしいけど…多分それもジュリアの指示やろうし…。

「だ…大丈夫なのか?」

自分の事のように、気にしてしまうベンズ卿。

「わかりませんよ、そんなこと…本人の力量の次第ですし、周りからのサポートをどれだけ得られるかに
よっても、違ってきますから。
社交界を渡っていくには、ある程度の経験値も必要ですが、皆最初から出来るわけではありません。
程度の差こそあれ、年数を重ねるごとに、培っていくものです。
ただ…」

「あの王女殿下が…オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢にその時間を与えるとは、とても思えません。
あなたは王宮勤めなのですから、実際にその場を目撃したことがあるのではないですか?」

ベンズ卿は途端に苦しそうな顔になる。

「何度か目撃して、忠言したことはある。
団長もだ。
しかし、聞き入れて貰えたことは、一度もない」

「でしょうね…」

ジュリアを含め近衛騎士団関係者の夫人&令嬢は、どうしても王女殿下との接点が、密になりやすい。
実情が、社交界で言われている以上に酷いことはよくわかっているし、多かれ少なかれ被害にはあって
いる。

「最近では自分では動かず、取り巻きにやらせることも多くて…取り巻きとて上位貴族の出身ばかり
だから、下手に身分の低い団員では、そのご令嬢達より身分の高い団員に、報告するしかない状態だ」

近衛騎士団には、上位貴族も多いが、下位貴族もさらに大勢在籍している。
まあ、貴族の爵位は完全なピラミッド型だから、当然と言えば当然だ。

さらに王女殿下の取り巻きであることは周知の事実であるご令嬢たちを、たとえ身分が高い上位貴族
といえど、面倒ごとを嫌って見て見ぬふりすることも多い。

「ファルメニウス公爵家自体の仕事だって、大変なのに…そのうえあの王女殿下をどうかわすかまで、
考えねばならないのです。
こればかりはギリアム公爵閣下がどんなに守ろうとしても…、限界は必ず来ます」

……ギリアムがこの辺のことを、考えてなかったわけじゃない。
考えていたからこそ、私を社交界には一切出さず、家の中だけで過ごさせるつもりだった。
実際、婚約式と結婚式以外は、無視していいや~ぐらいに思ってたんだろう。
まあ、あの独占欲っぷりじゃぁ、そっちの方がむしろ希望だったんだろーな。
自分の信用する人間だけと会わせて、その人間さえ、少しでも私の不利益になろうもんなら、出禁を
くらわす気でいただろう。

私は前世の経験から、ギリアムのその下心を即見抜いた。

実際前世にもいたんよ。
私がテクと話術でNo.1にのし上がったころ…私を囲いたがる金持ちが。
でも全部断った。
だって私は自由に好きな時にエッチがしたかったし、一人の男で満足できるたぁ、とても思えなかった
からね。
私が欲しいのは金じゃない。
もちろんお金は大事だが、とにかくエッチあってのお金!!なんだよ、私は。

それにさ…餌をくれる誰かがいなくなったら、死に瀕する…なんて暮らしは、前世でも今世でも
イヤだった。
そんな暮らしするぐらいなら、貧しくても体一つで生きていきたかった。
これは良い悪いじゃなく、もう私の根底にある性分なんだろう。

幸いギリアムは、私のその気持ちを最大限尊重してくれたからね…だったらギリアムのそばに
居てみようって思ったのさ。
まあ、勉強量のすごさには、さすがに辟易したが…。
私がそれをどうやってこなしたかは、勉強の種類によって違うから、今回は割愛!!

「ギリアム公爵閣下は…この国で一番賢いハズなんだが…」

「賢いからこそ、わからないこともありますよ」

ジュリアはため息をつく。

「とにかく…あなたはお仕事第一にしつつ…出来るだけどんな方で、どんな様子だったか…
どんな小さなことでも構いませんので、ご報告ください」

「わかった…出来る限りはやってみる」


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建国記念パーティー後…ジュリアはベンズ卿の対面で、頭を抱えて唸っていた。
ベンズ卿は、ひじょーに居心地悪そうに、座っている。

「あ…あのな…その…色々…すまん」

ベンズ卿も自分がどんな失態を犯したか、なんとなくわかっているようだ。
セバスチャンがそんなジュリアに、

「あ、あの奥様…ご主人様も急なことでして…」

「わかっています…これは…私の失態ですわ…」

ジュリアが頭を抱えたまま、声を出す。

「せいぜい遠目から、どなたと親しくしているかなど…見れるぐらいだと思っていた
のに…」

がばりと起き上がり、

「ま・さ・か!!直接一対一でお話する機会が、巡ってくるなんてぇ~~~~~~!!」

ベンズ卿を押し倒さんばかりの勢いで、

「あなたも何ですか!!
私が散々気をもんでいることを、事前にお話ししたにもかかわらず!!」

迫りまくった。

「一から十まで、近衛騎士団の話しかしないなんてぇ~~~~~~!!」

「い、いや、聞かせて欲しいと言われたのでな…」

「ああああ、やっぱり使用人に化けてでも、忍び込めばよかったぁ~!!」

……ジュリアはやっぱ、行動的やね。
でも、ジュリアは社交的で広く顔が知られているから、難しかったろうなぁ。

「ま、まあでも、オルフィリア嬢からは、大変勉強になって助かったと言ってもらえたから…。
少なくともいつものように、怖がられたりせず、好感を持ってもらえたようだ…」

「そもそも!!怖がられるなんて論外中の論外です!!
あなただって、社交辞令や本音や建て前という言葉を、知らないわけではないでしょう!!」

「ま、まあ…」

「あなたや私が気にいられるよりも…レイチェルを気に入ってもらわなきゃいけないん
ですよ!!
本当にわかってらっしゃいますか!!」

ジュリアの表情は鬼面そのもので、ベンズ卿からは滝のような冷や汗が流れる。

「し、しかしだな…」

何とか言葉を絞り出す、ベンズ卿。

「私が色々言うとだな…確実にあらが出ると思うんだが…」

するとしばしの沈黙ののち、

「あああ、否定できないのがツライぃぃぃ」

ジュリアがまた、頭を抱える。

「ま、まあそう言うな。
実は今回、王女殿下の監視の命を受けたからこそ、間近でオルフィリア嬢と王女殿下の
やり取りを見聞きできたのだが…。
何とオルフィリア嬢は、あの王女殿下に謝罪させたんだ…それも皆の前で」

するとジュリアは再度がばりと顔を上げ、

「セバスチャン!!旦那様の一番お好きな茶葉と茶菓子を持ってきてちょうだい!!」

セバスチャンはそれを早急に…静々と準備する。
やがて準備が整うと、

「さあ、あなた。
お話になって」

最上級の笑顔を向ける。
ベンズ卿は、背中に少々嫌な汗をかきつつ、

「フム…それではだな、オルフィリア嬢はファーストダンスが終わった後、ギリアム公爵閣下と
共に、テラスに行ったのだが…」

ジュリアが私・フィリーの隠しまくった実力を知ることになるのは、もうしばらく後の事だ。
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