ひとまず一回ヤりましょう、公爵様3

木野 キノ子

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番外編2 依頼

1 ヴァッヘン卿のお母様のお茶会へ

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え~、今日は…待ちに待ったヴァッヘン卿のお母様のお茶会で~す。
ママンも一緒に参加するから、余計に楽しみだったんだよね~。
そんで、もう一つ…。

「今日はよろしくお願いします、オルフィリア嬢…」

レイチェルも参加することに、なりました~。
今日のお茶会に、フレイア伯爵夫人時代からお世話になっていた人たちも
参加するってことで…。
季節の付け届けとか、してくれている人たちだから、私と一緒なら安心だろうし
どう?って言ったら、ぜひってことになった。
ヴァッヘン卿のお母様にお聞きしたら、やっぱりぜひって言ってもらえた。
レイチェルの心配はしていたらしい。

そして会場へ…。
大分早く行ったのに…何と皆さんが全員集合でお出迎えしてくれた。

え~、なんで?

「初めまして、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢…。
わたくし、エティリィ・ラドフォールと申します。
ようこそいらして下さいました」

とてもお上品な挨拶をしてくださった、ヴァッヘン卿のお母様…。
まさに…一目でヴァッヘン卿のお母様とわかる顔だ…遺伝子すげぇ。
だが所作の美しさから、代々続く由緒正しい血筋をにおわせている。

ヴァッヘン卿のお父様は亡くなったわけではないのだが、もともと内気な人だったらしく
ヴァッヘン卿が王立騎士団の師団長になった時点で、自分の爵位と財産をすべて息子に
譲り、地方の領地に引っ込んで、悠々自適な隠居生活をしているらしい。
最初はエティリィ夫人も一緒に行ったらしいのだが、あまりのド田舎っぷりにすぐ帰って
きて、今は年に何回か、会うだけとなっている。
しかしもともと入り婿であったお父様は、自然大好きな方で、

「ウチの両親は、離れてからの方が、すこぶる仲良くなりましたよ…」

と、ヴァッヘン卿が微妙な表情で語っていた。
夫婦の形って、本当に様々やね。

しかしとりあえず…私はかなり気になっていることを聞かねばならない。

「あの…時間、間違えていませんよね?」

私の今の身分は、序列最下位の男爵令嬢だ。
ここにいる人間の中で、一番身分が低いのだから、一番早くに来ねばならん…はずなのだが。

「ご安心ください、オルフィリア嬢…。
今日、私どもがあなた様より早く来たのは…皆でそうしようと決めたからです」

「はあ…」

敵意はないようだが、いまいちわからん。

見れば当初聞いていたより、人数が多い気がする…。
そんなことを考えていたら、エティリィ夫人含め、皆が一斉に私の前に来て、礼の形を
とった。
なにがおこっとる?

「これより先…わたくしたち、王立騎士団員の夫人&令嬢に…、オルフィリア・ステンロイド男爵令嬢に
対し、ファルメニウス公爵夫人として接することを、お許しいただきたい」

ななな、なんですとぉ―――――――っ!!

髪の毛逆立つくらい驚くって、まさにこのこと。

「え…ええと、それは…私の一存では…」

「ギリアム公爵閣下の許可は、すでにいただいております」

静かに言われた…。
ヴァッヘン卿のお母様…出来る人や…。

でもこれで、私は今朝のギリアムの態度に納得がいった。
みょーに浮かれて…上機嫌だったからさぁ。
…帰ったら、仕置きじゃ!!

さて、どうするか…。
王立騎士団の規模はかなり大きいから、全員が集まっているわけではないだろうが…。
おそらくフレイア伯爵夫人関係の…いわばデキル夫人はだいたい集まってるんだろーな…。
とするといつもみたいに、奥様違う!!の一言で片づけるわけにはな…。

さりとて規模が大きいからこそ、おいそれと了承すれば、反発勢力みたいなのが出てきても
おかしくない。
ここは慎重にいかんとね…。

私は笑顔を浮かべ、

「皆様のお気持ちは大変うれしく思います。
ですがそのお返事をする前に…どうしてそうしようと思ったのかを、ご説明頂きたいです」

するとエティリィ夫人は、私がそう答えるのが想定内と言わんばかりに、

「わかりました…しかしその前に…一人ひとり名乗らせてください」

あ~なんか…。
外堀埋められていってる気分…。
元来私の身分なら、私から名乗るのが筋なんだが…。
さすがに場の雰囲気悪くなりそうだし…。

というワケで、この場は一人一人の挨拶を笑顔で受けるわたくし。
もちろんみんな、私より身分は上。
しかし驚いたのは、このお茶会に来ている約半分が、エティリィ夫人よりも身分が上だと
いうこと。
しかし全員険悪な雰囲気も、抑えつけられているという空気の悪さもない。
みな、エティリィ夫人を上にすることを、心から納得しているようだ。

……なるほどね。
フレイア伯爵夫人は、その爵位のみで上に君臨していたんじゃない。
実力で皆を認めさせたんだ。
そしてその後釜に座ったのが、エティリィ夫人だとすると…。
ギリアムが王立騎士団の確固たる信念としたことが、夫人&令嬢にもある程度浸透してるって
ことだ。

いいねぇ!!!!

特権階級が自らの意志で、一部とはいえ特権を放棄する。
これこそが、人間って生き物の面白さだ。
ヘドネの生きたい世界だ!

私は一人一人の自己紹介を聞いた後、テーブルに着いた。
もちろん私が上座…。

そして全員が席に座ると、エティリィ夫人はゆっくりと語りだす。

「王立騎士団が変革したことで…良いこともたくさんありましたが、同時に悪いことも
それなりに吹き出てきてしまいました」

だろーね。
いい事だけ起こるってのは、どこの世界でも奇跡と言っていいからね。

「王立騎士団を追われた上位貴族の夫人&令嬢たちが…社交界で残った団員の夫人&令嬢たち
の事を…悪しざまに罵るようになったのです。
根も葉もないことが殆どでしたが、中には全く違うと言えないこともありまして…」

ま、実力本位主義について行けない特権階級なんざ、多かれ少なかれそんなもんだろーな。

「フレイア伯爵夫人がかなり全面的に前に出て…頑張ってくださいましたし、ここにいる
皆さまも、できることはすべてやりました。
そのおかげで少しは落ち着いたのですが…根強く残った差別意識はそうそう簡単に消える
ものではありませんでした」

それが人間の、負の部分の性…。
王立騎士団と近衛騎士団の不仲は、こういった夫人&令嬢の軋轢によっても、より強固に
なってしまったんだろーな。

フレイア伯爵夫人には、本当に相当な負荷がかかったハズだ。

いくらギリアムがバックに控えているとはいえ、本人の身分は伯爵夫人だし、テオルド卿だって、
序列は上位と言えど、それはあくまで伯爵内での話…。

そしてそのころ王立騎士団を攻撃してきたのは…殆ど侯爵家の人間だったって聞いた。
もちろん取り巻きは、伯爵以下のもたくさんいたそうだが。

私はちらりとレイチェルを見る。

だからこそ、おそらくみんながレイチェルには期待したはずだ。
身分としては伯爵夫人になるが、本人は侯爵令嬢だったんだから…。
そしてもうそのころ…ジュリアはかなり有能で性格もいいと、有名になっていたはずだし。

だが蓋を開けてみれば…。

フレイア伯爵夫人だって、ここまで実家で社交界について、何の教育も受けていないとは、
内心思わなかっただろうな…。
それでもしっかりといい所を見つけてあげて、教育してあげたり…本当にできた人だったのね。
皆も思ってるだろうが、惜しい人を亡くしたなぁ…。

それにここにいる人達だって…自分たちの期待を裏切ったからって、変な態度取ったり、何かを
強要したりはしなかった。
質のいい人たち…。

「その状況が!!オルフィリア嬢の登場からわずか数カ月で!!
劇的に改善したのです!!」

へ?そうなん?
さすがに貴族の夫人&令嬢同士の細かいことにまで、探るのは難しかったし、そんな暇もなかった
からなー。

「オルフィリア嬢の能力の高さは、建国記念パーティーから遺憾なく発揮されていましたが…、
クレア嬢のお茶会を通し強化され、さらに例の施設…太陽の家での近衛騎士団との一件で、
まさに昇華されたのです!!」

すっごい乗り出してきてるな~。

「あの一件以来、近衛騎士団の心ある方々の発言力が強くなったんです」

「悪意を持つ人間達は、なりを潜めざるを得ず、皆安堵しました」

「まさにオルフィリア嬢の功績です!!」

他の婦人方もみんな、絶賛しとる…。
私ただの、エッチ大好きおばはんなんやけど…。

「しかし、さすがに…」

エティリィ夫人は一歩下がり、

「わたくしたちはファルメニウス公爵家の事情にまで、口を出す立場ではございません。
ですから皆さまと話し、本日は親交を深めるだけに、留めようと思っておりました…」

まあだよね…常識的で、理性的な人達やからね…。

「ですがその間に起こった、ルベンディン侯爵家での仮面舞踏会…その顛末を聞いて、皆さまの
意見は変わりました!!」

あ~、やっぱりか。

「もう言葉では言い尽くせないくらい、感嘆して…ギリアム公爵閣下のお目の確かさを、
絶賛いたしましたわ」

私は…レイチェルとは真逆の状態だったんだろうなぁ。
ギリアムが私を婚約者にと発表した時、私は歴史なんてない名ばかり貴族の男爵令嬢、おまけに
アカデミー通学経験もなし、おおよそ貴族らしい教育をまともに受けたこともないって、みんな
予想がついただろうから…。

そーいえば、人間って…まったく期待していなかったものが大当たりすると、期待した時の
何倍も嬉しいもんなんだった…。

「フィリー…」

ママンがこそっと、私の肩をつついてきた。
その眼はとっても、心配そう…。

わかってるよ、ママン。
ママンは生まれながらの貴族…それも男爵とはいえ歴史ある由緒正しいところの出だから、
社交界の世知辛さもよくわかってて、心配してくれてるんだ。

私がファルメニウス公爵夫人としての扱いを受ける…それはつまり、ファルメニウス公爵夫人と
しての役割を担うことを意味する。

この人たちは、私が断ると言えば、この場でそれ以上は言わないだろうし、態度を変えることも
しないだろう。

…………………………………だからこそ!!

味方にしておいたほうが良い。

私が今現在…ギリアムから離れることを、考えないんならさ。

「皆様のお考えとお気持ちは…よくわかりました」

私は手に持っていた茶器を置き、

「では、私の考えを述べさせていただきます」

目線を真っすぐに整えた。
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