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番外編2 依頼
2 ファルメニウス公爵夫人というもん
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「まず私が今から言う条件をお聞きくださるなら…皆様のご要望をお受けしようと
思います」
皆が歓喜の声を上げる中、
「フィリー!!」
ママンがさすがに声を上げたが、私は目配せで、
「大丈夫だから…任せて…」
と、送ったら、引き下がってくれた。
ありがたや。
「まず…私は現時点で、正式な夫人ではありません。
ですので、あくまで仲間内…非公式かつ、王立騎士団関係の集まりでのみ、
私をファルメニウス公爵夫人として扱っていただくよう、お願いいたします」
「そして、私の経緯は皆さまご存じかと思いますが…私の礼儀作法その他は、
まだまだ荒削りです。
そこを皆様に補佐、および指導していただきたく存じます」
「あと…現時点で市勢に流れている私の悪評については、事実と異なるところだけを
訂正していただくようにお願いいたします。
これは王立騎士団内部でも同じと思ってください」
お、二つ目までは静かだけど、三つめはさすがにざわついたね。
「王立騎士団内部でも…ですか?」
「ええ」
「理由をお聞きしても?」
「わかりやすく言えば…ディエリン夫人のような方は一定数いるし、いなくなることは
無いと思っているからです」
フム…ざわざわしているけれど、その中でも一部静かなのがいるね…。
エティリィ夫人と…他数人。
ふふ…やっぱ悪評残しておいて、正解やな。
こんなに簡単に、優秀でいい人たちの中の…さらに上位者を見分けられるなんて。
「つまり…」
静かな人…クァーリア・アレンフォス伯爵夫人は上品に…唇を動かす。
60をゆうに超えていることは、顔の皺から見て取れる。
しかし白髪を一切染めない潔さと、その髪を綺麗に纏め、束ねた髪型は、皺を蓄えつつも、
整った顔立ちと相まって、まさに美しいという言葉がよく似合う。
「負け犬の遠吠えは、好きなだけさせておけ…ということですね?」
私はにこりと笑い、
「ええ、そうですわ。
下手に口を塞いで、暴れたり噛みつかれると、逆に厄介ですので。
ただし!!」
これは重要。
「もし私の悪評にかこつけて、皆さまを非難するような人間が居たら…速やかに私にお知らせ
下さい。
しかるべき対処を致します」
「やはりオルフィリア嬢は、非凡な方ですねえ」
本当に楽しそうやね、クァーリア夫人。
少しざわついたが、私が話すことはまだあるよ。
「最後に…私が今後、皆さまに対し、協力を要請することがあると思います。
その時の皆様の状態に応じ、協力するしないは、皆さまご自身でお決めください。
私からは以上です」
結論を言うと…皆様は全員一致で私の条件をのんでくれた。
ママンが最後まで心配そうにしていたのは申し訳なかったが…、まあやれるところまでやるって
私が決めたと、また家で再度言っておこう。
この後は、本当に楽しい談笑タイムになった。
皆、なんだかんだとレイチェルの事は気にかけていたらしく、元気になったことを喜んでもらっている
レイチェルは、本当に楽しそうだった。
色々な情報交換をしつつ、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
そしてみんなが別れを惜しみつつ、帰っていく。
私は最後まで残った。
そして…。
「フィリー、あなたは帰らないの?」
ママンが不思議そうに聞いてきたので、
「ん~、まだ少しエティリィ夫人と話があるの」
「そう、遅くならないようにね」
心配そうなママンを見送ると、それと入れ替わるように、3台の馬車がこちらに
引き返してきた。
「あら、皆さん引き返して来たみたいですねぇ…それでは場所を用意いたします」
「感謝いたします、エティリィ夫人」
戻ってきた馬車の主は…先ほど静かだった人…。
クァーリア・アレンフォス伯爵夫人。
ケイティ・ヴァンフェート子爵夫人。
イリヤ・カルグレド男爵夫人。
この3人だ。
実は私、この3人の馬車の御者に、小さな手紙を渡していた。
彼女たちが戻ってきたら、渡して欲しいと言づけて。
改めて私・エティリィ夫人とこの3人でテーブルを囲む。
「では改めまして…お話する前に、一つ私の質問にお答えいただきたいです。
イリヤ・カルグレド男爵夫人…」
イリヤ夫人は痩せ型で色白…ただ顔をベールで覆っているため、顔貌と歳はわからない。
火傷を負ったため、喋りずらいとのことで、今日ずっと静かにしていた人。
痩せた腕に、サイズの合わない腕輪をはめているのが印象的だ。
「間違っていたら、誠心誠意お詫びいたします。
アナタは…サーシャ・ジェグダラ侯爵夫人ではありませんか?」
「……なぜ、そうお思いに?」
ベールを脱がず、かすれた声を発する。
「…その腕輪です」
「その腕輪は、エリオット・ジェグダラ侯爵が家宝だと言って、肌身離さず持っていらしたものです。
月桂樹をモチーフにしたオーダーメイドゆえ、同じものは二つとない。
そんな大切なものを貸すとすれば、相手は奥方以外に考えられない。
確認はできませんでしたが、中央の宝石の裏に家紋が刻まれているハズです」
ああ、エリオット・ジェグダラ侯爵は、フィリアム商会の幹部の1人よ。
「仮にオルフィリア嬢の言う通り…私がサーシャ・ジェグダラ侯爵夫人だとして…。
私がなぜ…そのような回りくどいことを、せねばならないのです?」
当然の疑問だね。
「回りくどいことをした理由…ですか?
そうですね…一番大きな理由は…私・オルフィリア・ステンロイドを試すため…でしょうね」
ベールで顔を隠しているのは、非常にいい手だね。
表情が読めない。
「…面白いですねぇ。
私がオルフィリア嬢を試さねばならぬ理由も、お聞きしたいです」
「それは…エリオット卿だけが、フィリアム商会幹部の中で、特殊な雇われ方をしている
からです」
フィリアム商会の幹部連には、現在3人の貴族がいる。
2人は応募した時の試験に突破し、普通の形で入って来たのだが…エリオット卿だけは違う。
もちろん試験で優秀な成績が取れることは確認したが、募集に応募した訳じゃない。
3年前フィリアム商会が発足してすぐ、エリオット卿の領地は自然災害により、大打撃を
受けた。
基本的に貴族の領地に関しては、治めている貴族がその補填をするようになっている。
ただ規模がでかければ、国からの支援も出るのだが…このころは戦争直後+キンラク商会も
始動前で、王家とにかく金がねぇ。
結果、色々理由をつけて、雀の涙の方がまだマシ…程度の見舞い金しか出さなかった。
しかしそれに泣き言ひとつ言わず、エリオット卿は金策に奔走するとともに、自分の財産を
切り崩して、領地民の支援をした。
しかしやっぱりお金は足りなくて…領地やお屋敷を売ることを決めた。
ただまあ…いつの世でもこういった売り方をする場合、足元は見られるもので…。
ここで救いの手を差し伸べたのが、ギリアムだ。
ギリアムは買い叩こうとしていた者たちを押しのけ、ほぼ正規の値段どころか、それに色を
つける形で買い取った。
まあ、エリオット卿の人柄に感銘を受けたからだろうが。
それに感謝したエリオット卿が、自らフィリアム商会で働きたいと言ってきたのだ。
これが経緯。
で、何が特殊かというと…ギリアムはエリオット卿の領地を、そのままエリオット卿に治める
よう、指示したのだ。
領地民には大変慕われていたから、いい判断だと思う。
ただ領地も屋敷もすべてギリアムが買ったから、現時点で治めている領地も屋敷もすべて法律上
ファルメニウス公爵家の所有物となっている。
つまり許可なく突然、売り払ってしまうこともできる…という事だ。
ギリアムは絶対しないと思うけどね。
「エリオット卿がフィリアム商会に入ってから3年…しっかりと蓄財していらっしゃるでしょうが、
問題はそこではありません」
そう、領地も屋敷も明日売っぱらわれたって、路頭に迷わないくらいの蓄えはしているだろう。
逆にそれぐらい優秀じゃなきゃ、フィリアム商会の幹部は務まらない。
「エリオット卿と一緒にお仕事させていただいているからこそ…感じたことですが…」
私は一呼吸置き、
「エリオット卿はすでに…ギリアム様に殉ずる覚悟を決めております」
エリオット卿は…真面目で凄く一本気で、恩義というものを何より重んじる人。
だからこの先、領地を買い戻すことがあっても、ギリアム様から離れることはしないと思う…。
「この先…ギリアム様が乗る船が、たとえ沈むと確定した泥船になったとしても…ギリアム様が
降りるという決定をしない限り…エリオット卿もまた、降りることはしないでしょう」
私はここまで話して、
「ああ、ちなみに…エリオット卿から、サーシャ夫人の事はよく伺っております。
若いころから、苦しいときはいつも…となりにいてくれたと」
サーシャ夫人は天災が起こった時、真っ先に自分の持ち物をすべて金に換え、自分の人脈から
ありったけの金をかき集め、全てエリオット卿に渡した。
この話をしている時のエリオット卿は…本当に嬉しそうだった。
「だからこそサーシャ夫人は、できるだけ早く私に会ってみたかったし、試したかったはずです。
なぜなら…」
「古来より当主がボンクラで家を滅ぼした例と同じくらい…夫人がボンクラで家を滅ぼした例も
あるからです」
私たちの場を、少し強めの風が吹き抜け、
「一見筋が通っているようですが、一つ見落としていますよ、オルフィリア嬢」
木々の枝葉が揺れる。
「サーシャ夫人はエリオット卿の妻…わざわざ手の込んだことをせずとも、正式にあなたに
お会いすることができると思いますが…」
「通常はそうですが…そうもいかない事態になってしまいましたからね…」
クレアのお茶会のあと…私は事後処理に奔走して、お茶会のお誘いはすべて保留にした。
太陽の家でのひと悶着後、ようやっと落ち着いたから、またお茶会の選別を…と、ギリアムに
報告したのが間違いだった…。
まあ、報告なしで行くことはできないから、どっちにせよだけど。
今まで来ていた手紙及び、届く手紙を片っ端から、ギリアムが全部隠した…。
そうとは知らないエリオット卿が、ギリアムにオルフィリア嬢に対し送った、妻のお茶会のお誘いの
事なのですが…と、それとなく聞いたら、100回殺されそーな勢いで、睨まれた…。
そして、お茶会・舞踏会にまつわる話は、しばらく禁句!!
破ったら自宅謹慎!!という、命が下った。
(あ、フィリアム商会の幹部の仕事は、家でもできる物が大半故、仕事に支障はない)
これはエリオット卿は何も悪くなくて、タイミングが最悪だっただけ。
私がルベンディン侯爵家の仮面舞踏会に行くことを、了承した直後だったから。
んで、ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会のち…皆さまのご想像通り、この禁句状態は、強化されこそ
すれ、緩む気配など毛ほどもない。
「だからもし、サーシャ夫人が正攻法で行くなら、ギリアムの気が静まるのを待たねばならない。
これは下手をすると、年単位になります。
かといってごり押しみたいな形は、ギリアムは持ちろん、エリオット卿も嫌うでしょうから、
使うことはできない」
「そして私は…少々活躍しすぎました」
人間が最も恐れるものは…予測できないもの。
天災なんかがまさにそれ。
私がギリアムの婚約者として発表された当時…私に期待した人は殆どいなかったはずだ。
バカ王女に潰されて終わり。
それが大方の人間の、予想だったろう。
だが…。
思います」
皆が歓喜の声を上げる中、
「フィリー!!」
ママンがさすがに声を上げたが、私は目配せで、
「大丈夫だから…任せて…」
と、送ったら、引き下がってくれた。
ありがたや。
「まず…私は現時点で、正式な夫人ではありません。
ですので、あくまで仲間内…非公式かつ、王立騎士団関係の集まりでのみ、
私をファルメニウス公爵夫人として扱っていただくよう、お願いいたします」
「そして、私の経緯は皆さまご存じかと思いますが…私の礼儀作法その他は、
まだまだ荒削りです。
そこを皆様に補佐、および指導していただきたく存じます」
「あと…現時点で市勢に流れている私の悪評については、事実と異なるところだけを
訂正していただくようにお願いいたします。
これは王立騎士団内部でも同じと思ってください」
お、二つ目までは静かだけど、三つめはさすがにざわついたね。
「王立騎士団内部でも…ですか?」
「ええ」
「理由をお聞きしても?」
「わかりやすく言えば…ディエリン夫人のような方は一定数いるし、いなくなることは
無いと思っているからです」
フム…ざわざわしているけれど、その中でも一部静かなのがいるね…。
エティリィ夫人と…他数人。
ふふ…やっぱ悪評残しておいて、正解やな。
こんなに簡単に、優秀でいい人たちの中の…さらに上位者を見分けられるなんて。
「つまり…」
静かな人…クァーリア・アレンフォス伯爵夫人は上品に…唇を動かす。
60をゆうに超えていることは、顔の皺から見て取れる。
しかし白髪を一切染めない潔さと、その髪を綺麗に纏め、束ねた髪型は、皺を蓄えつつも、
整った顔立ちと相まって、まさに美しいという言葉がよく似合う。
「負け犬の遠吠えは、好きなだけさせておけ…ということですね?」
私はにこりと笑い、
「ええ、そうですわ。
下手に口を塞いで、暴れたり噛みつかれると、逆に厄介ですので。
ただし!!」
これは重要。
「もし私の悪評にかこつけて、皆さまを非難するような人間が居たら…速やかに私にお知らせ
下さい。
しかるべき対処を致します」
「やはりオルフィリア嬢は、非凡な方ですねえ」
本当に楽しそうやね、クァーリア夫人。
少しざわついたが、私が話すことはまだあるよ。
「最後に…私が今後、皆さまに対し、協力を要請することがあると思います。
その時の皆様の状態に応じ、協力するしないは、皆さまご自身でお決めください。
私からは以上です」
結論を言うと…皆様は全員一致で私の条件をのんでくれた。
ママンが最後まで心配そうにしていたのは申し訳なかったが…、まあやれるところまでやるって
私が決めたと、また家で再度言っておこう。
この後は、本当に楽しい談笑タイムになった。
皆、なんだかんだとレイチェルの事は気にかけていたらしく、元気になったことを喜んでもらっている
レイチェルは、本当に楽しそうだった。
色々な情報交換をしつつ、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
そしてみんなが別れを惜しみつつ、帰っていく。
私は最後まで残った。
そして…。
「フィリー、あなたは帰らないの?」
ママンが不思議そうに聞いてきたので、
「ん~、まだ少しエティリィ夫人と話があるの」
「そう、遅くならないようにね」
心配そうなママンを見送ると、それと入れ替わるように、3台の馬車がこちらに
引き返してきた。
「あら、皆さん引き返して来たみたいですねぇ…それでは場所を用意いたします」
「感謝いたします、エティリィ夫人」
戻ってきた馬車の主は…先ほど静かだった人…。
クァーリア・アレンフォス伯爵夫人。
ケイティ・ヴァンフェート子爵夫人。
イリヤ・カルグレド男爵夫人。
この3人だ。
実は私、この3人の馬車の御者に、小さな手紙を渡していた。
彼女たちが戻ってきたら、渡して欲しいと言づけて。
改めて私・エティリィ夫人とこの3人でテーブルを囲む。
「では改めまして…お話する前に、一つ私の質問にお答えいただきたいです。
イリヤ・カルグレド男爵夫人…」
イリヤ夫人は痩せ型で色白…ただ顔をベールで覆っているため、顔貌と歳はわからない。
火傷を負ったため、喋りずらいとのことで、今日ずっと静かにしていた人。
痩せた腕に、サイズの合わない腕輪をはめているのが印象的だ。
「間違っていたら、誠心誠意お詫びいたします。
アナタは…サーシャ・ジェグダラ侯爵夫人ではありませんか?」
「……なぜ、そうお思いに?」
ベールを脱がず、かすれた声を発する。
「…その腕輪です」
「その腕輪は、エリオット・ジェグダラ侯爵が家宝だと言って、肌身離さず持っていらしたものです。
月桂樹をモチーフにしたオーダーメイドゆえ、同じものは二つとない。
そんな大切なものを貸すとすれば、相手は奥方以外に考えられない。
確認はできませんでしたが、中央の宝石の裏に家紋が刻まれているハズです」
ああ、エリオット・ジェグダラ侯爵は、フィリアム商会の幹部の1人よ。
「仮にオルフィリア嬢の言う通り…私がサーシャ・ジェグダラ侯爵夫人だとして…。
私がなぜ…そのような回りくどいことを、せねばならないのです?」
当然の疑問だね。
「回りくどいことをした理由…ですか?
そうですね…一番大きな理由は…私・オルフィリア・ステンロイドを試すため…でしょうね」
ベールで顔を隠しているのは、非常にいい手だね。
表情が読めない。
「…面白いですねぇ。
私がオルフィリア嬢を試さねばならぬ理由も、お聞きしたいです」
「それは…エリオット卿だけが、フィリアム商会幹部の中で、特殊な雇われ方をしている
からです」
フィリアム商会の幹部連には、現在3人の貴族がいる。
2人は応募した時の試験に突破し、普通の形で入って来たのだが…エリオット卿だけは違う。
もちろん試験で優秀な成績が取れることは確認したが、募集に応募した訳じゃない。
3年前フィリアム商会が発足してすぐ、エリオット卿の領地は自然災害により、大打撃を
受けた。
基本的に貴族の領地に関しては、治めている貴族がその補填をするようになっている。
ただ規模がでかければ、国からの支援も出るのだが…このころは戦争直後+キンラク商会も
始動前で、王家とにかく金がねぇ。
結果、色々理由をつけて、雀の涙の方がまだマシ…程度の見舞い金しか出さなかった。
しかしそれに泣き言ひとつ言わず、エリオット卿は金策に奔走するとともに、自分の財産を
切り崩して、領地民の支援をした。
しかしやっぱりお金は足りなくて…領地やお屋敷を売ることを決めた。
ただまあ…いつの世でもこういった売り方をする場合、足元は見られるもので…。
ここで救いの手を差し伸べたのが、ギリアムだ。
ギリアムは買い叩こうとしていた者たちを押しのけ、ほぼ正規の値段どころか、それに色を
つける形で買い取った。
まあ、エリオット卿の人柄に感銘を受けたからだろうが。
それに感謝したエリオット卿が、自らフィリアム商会で働きたいと言ってきたのだ。
これが経緯。
で、何が特殊かというと…ギリアムはエリオット卿の領地を、そのままエリオット卿に治める
よう、指示したのだ。
領地民には大変慕われていたから、いい判断だと思う。
ただ領地も屋敷もすべてギリアムが買ったから、現時点で治めている領地も屋敷もすべて法律上
ファルメニウス公爵家の所有物となっている。
つまり許可なく突然、売り払ってしまうこともできる…という事だ。
ギリアムは絶対しないと思うけどね。
「エリオット卿がフィリアム商会に入ってから3年…しっかりと蓄財していらっしゃるでしょうが、
問題はそこではありません」
そう、領地も屋敷も明日売っぱらわれたって、路頭に迷わないくらいの蓄えはしているだろう。
逆にそれぐらい優秀じゃなきゃ、フィリアム商会の幹部は務まらない。
「エリオット卿と一緒にお仕事させていただいているからこそ…感じたことですが…」
私は一呼吸置き、
「エリオット卿はすでに…ギリアム様に殉ずる覚悟を決めております」
エリオット卿は…真面目で凄く一本気で、恩義というものを何より重んじる人。
だからこの先、領地を買い戻すことがあっても、ギリアム様から離れることはしないと思う…。
「この先…ギリアム様が乗る船が、たとえ沈むと確定した泥船になったとしても…ギリアム様が
降りるという決定をしない限り…エリオット卿もまた、降りることはしないでしょう」
私はここまで話して、
「ああ、ちなみに…エリオット卿から、サーシャ夫人の事はよく伺っております。
若いころから、苦しいときはいつも…となりにいてくれたと」
サーシャ夫人は天災が起こった時、真っ先に自分の持ち物をすべて金に換え、自分の人脈から
ありったけの金をかき集め、全てエリオット卿に渡した。
この話をしている時のエリオット卿は…本当に嬉しそうだった。
「だからこそサーシャ夫人は、できるだけ早く私に会ってみたかったし、試したかったはずです。
なぜなら…」
「古来より当主がボンクラで家を滅ぼした例と同じくらい…夫人がボンクラで家を滅ぼした例も
あるからです」
私たちの場を、少し強めの風が吹き抜け、
「一見筋が通っているようですが、一つ見落としていますよ、オルフィリア嬢」
木々の枝葉が揺れる。
「サーシャ夫人はエリオット卿の妻…わざわざ手の込んだことをせずとも、正式にあなたに
お会いすることができると思いますが…」
「通常はそうですが…そうもいかない事態になってしまいましたからね…」
クレアのお茶会のあと…私は事後処理に奔走して、お茶会のお誘いはすべて保留にした。
太陽の家でのひと悶着後、ようやっと落ち着いたから、またお茶会の選別を…と、ギリアムに
報告したのが間違いだった…。
まあ、報告なしで行くことはできないから、どっちにせよだけど。
今まで来ていた手紙及び、届く手紙を片っ端から、ギリアムが全部隠した…。
そうとは知らないエリオット卿が、ギリアムにオルフィリア嬢に対し送った、妻のお茶会のお誘いの
事なのですが…と、それとなく聞いたら、100回殺されそーな勢いで、睨まれた…。
そして、お茶会・舞踏会にまつわる話は、しばらく禁句!!
破ったら自宅謹慎!!という、命が下った。
(あ、フィリアム商会の幹部の仕事は、家でもできる物が大半故、仕事に支障はない)
これはエリオット卿は何も悪くなくて、タイミングが最悪だっただけ。
私がルベンディン侯爵家の仮面舞踏会に行くことを、了承した直後だったから。
んで、ルベンディン侯爵家の仮面舞踏会のち…皆さまのご想像通り、この禁句状態は、強化されこそ
すれ、緩む気配など毛ほどもない。
「だからもし、サーシャ夫人が正攻法で行くなら、ギリアムの気が静まるのを待たねばならない。
これは下手をすると、年単位になります。
かといってごり押しみたいな形は、ギリアムは持ちろん、エリオット卿も嫌うでしょうから、
使うことはできない」
「そして私は…少々活躍しすぎました」
人間が最も恐れるものは…予測できないもの。
天災なんかがまさにそれ。
私がギリアムの婚約者として発表された当時…私に期待した人は殆どいなかったはずだ。
バカ王女に潰されて終わり。
それが大方の人間の、予想だったろう。
だが…。
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