ひとまず一回ヤりましょう、公爵様12

木野 キノ子

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第2章 急襲

5 匿名にするわけ

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阿鼻叫喚…。

正にその表現が相応しいと思われるこの場で…私はちょっと思考の波に乗った。
もう複雑に、絡み過ぎててちょっと疲れたのかもね…。
少し前まで、東西冷戦の真っただ中みたいなところにいたこともあるのだろう…。

そんな時、ふっと思った私の脳裏に…浮かんだのは…私の前世の実親だ。
私に対して…悪事を働いていたわけじゃない…。
無いけど…。
私には結局…ぽっかりと開いた大きな穴を…絶対に消えない遺恨を残した。

2人を法律で裁くことは出来ない。

でも…私は実際…辛かったんだ。

グレッド卿だってそうだろう。
私が…初めてグレッド卿の日記を読んだ時…、何だか途方もない虚しさを感じた。
前世の私と…とてもよく似た状況…そう思えたから。

そう言えば…。
私がこうやって転生したってことは、私の親も…転生したりしたかもしれん。
もし…まみえることがあったなら、私はどうするんだろう。

私の心には…舞子さんの海が広がっていた。
その海に…深く深く沈むような心情だ。

そして…再び浮いて、実親が居たら…。

言いたいことを言う…だろうな、やっぱり。
憎むとか恨むとかじゃなく…飲み込んだ数々の言葉を言うだろうな。
気持ちのわかってくれない相手に…何言ったって無駄だと諦めたが…言わずにため込んだ
ところで、消えるわけじゃないってもうわかったから。

でも…。

……もしも…逆だったら?

私が何かで先に死んで…もし、親の恨みつらみを書いたものでも見つかったら…。

あの2人は…どうしたのかな?

…………………………………………。

認めなかったろうな、結局…。

私を…愛していないワケじゃ無かった…。
それはわかる。
ただ…愛し方が利己的で、自分のいいと思った物を、相手もいいと思うと、思い込んでいた。
子供だから…自分の分身だから、余計だったんだろう。

そう言えばよく言われたっけ…。
アンタも子供が出来たらわかる…って。

だから…親を否定する手紙なんて、破いて捨てるだろう…。
そして…無かったことにするのかな…。
それで…満足なのかな?
子供の気持ちを…最後までわかろうとしなくて…。

その場にいても、その場にいない…。
どこか遠い場所にトリップしていた私は…。

「……リー、フィリー!!」

ギリアムの声で、現実へと帰る。

「どうしました?疲れましたか?もう休みますか?ここは私がやりますよ」

心配そうに覗き込むのは…ギリアムだけではなかった。
フィリー軍団の皆も…フォルトもエマも同様の顔をしていた。

そのみんなの顔を…ぐるっと見回して…私はまた思考の渦に飲まれる。

ああ…。
そうだ…。

大事な事を…一つ忘れていた…。
死んだ当時…大人だったとしても、あの日記の半分以上は!!!
グレッド卿が子供の時の事だ!!
年端もいかない子供の気持ちを…わかろうともしなかった人間が善?

フザケンナ!!

人でなしの大悪党に決まってるだろうが!!

「大丈夫です…」

私は…心を決めた。

「ローエン閣下…。グレッド卿の日記と遺書は…実名で発表させていただきます!!」

私のこの言葉が…口から出たと同時に…その場に激震が走ったようだ。
ギリアムならまだしも…私がそう言うとは、思ってなかったって事か…。

するとまるで…勝ち誇ったの如く、声高な笑いが…。

「ほらごらんなさい!!結局…その女は弱いものがどうなろうと、お構いなしなのよ!!
事はラスタフォルス侯爵家全体…使用人にも及ぶ!!
その状態で実名公表などすれば…何の罪もない者たちが、苦しむだけ!!
先代ファルメニウス公爵と同じだと、私が言ったことが、これで証明できる!!!
グレッドの日記など、今更公表したところで、誰も得など」

「口を慎みなさい!!ダリアッッッ!!」

ヒルダ夫人のその声は…おおよそ、しわがれた…90歳越えの老婆から出たとは思えない…
物凄くハッキリとした、大きい声だった。

「私も…実名公表を望みます!!」

「なっ!!」

ダリアは…ヒルダ夫人を睨みつけながら、

「何を仰っているんですか!!!そんなものを今更公表したところで、誰も…」

「損得の問題ではありません!!
そして…当事者であるアナタに、それを言う権利もありません!!」

この人は…やっぱり私の考えがわかってる…。
スゴイや…。

「ギリアム公爵閣下…。オルフィリア公爵夫人…。
声を荒げて申し訳ございませんでした…。私の意見を言わせていただきたいです」

「もちろんです、どうぞ」

私の代わりに、ギリアムが答えた。
ギリアムも…私がそう言った理由をわかっているみたい…。

「今回のグレッドの件は…大人になってからの話ではなく、子供の頃の話が主なのでしょう?」

やはり…わかっていたか…。

「つまり…その罪を軽くしろと望むこと自体!!
子供を虐待した人間に、温情をかけろと言っているようなものです!!
そしてダリアの今更公表しては…とは、一見すると使用人を擁護しているようですが、己自身を
擁護しているにすぎません。
例えダリアの心情がどうであれ…ローエン閣下とツァリオ閣下に対し…あのような遺書を残したことを
考えれば!!
ダリアはグレッドを虐待していたと、私は判断します!!」

「馬鹿な事を言わないでください!!
私はグレッドを…本当に大切に育てました!!」

……私の前世の実親だって、私を大切に育ててたよ。
その事実は…確かに変わらない。でもさ…。

「侮辱でもいじめでも、受け取る側がそう捕らえたら、そうなるのです!!
グレッドは…アナタの育て方を、虐待と判断した!!
アナタがどう思おうと、その事実は変わりません!!」

ダイヤに対するイザベラ夫人の時もそうだったが…。
イザベラ夫人の事情を知っていれば、同情から少しぐらいダイヤに会ってやれと言いそうなものだ。
大人なのだから…。
でも…この人は二度と…一生会わなくていいと言った…。
その人だからこそ…自分の家だから…身内だからと、擁護はしないのだろう…。

「だいたい…先ほど先代ファルメニウス公爵の事が出てきましたがね!!
グレッドの子供の頃に、台頭してきたわけではないでしょう!!
あの時代は…さして問題もなかった。
グレッドの日記の大半は…先代ファルメニウス公爵とは関係ない時に起こっている!!
その事実を混同してはいけません!!」

「お義母様は、どこまで私を嫌うのですか!!」

涙ながらに言ってるけどさ…。それ…被害妄想だよ、ダリア…。
ヒルダ夫人は…事実と状況を鑑みて、正当な評価を下しているに過ぎない…。
そして…ヒルダ夫人としては、ダリアを気にする素振りもない。
言っても無駄だと思ってるのかねぇ…。

そんなヒルダ夫人は、改めてグレンフォ卿の方を向き、

「全く我が息子ならが、グレンフォには呆れます。
50年!!近衛騎士団で一体何を守ってきたのやら…。情けなくて涙も出ません!!」

おかーちゃんて、息子に甘い傾向があるけど…。
この人には、期待するだけ無駄やな。

ヒルダ夫人の鋭い目は…誰ともなく虚空を切り裂くようだった。
ここにいる者たちに…言葉少なに、核心を突く…。
やっぱり大したもんだよ、この人は…。

「ギリアム公爵閣下…」

ヒルダ夫人の言葉を受けて、

「下らぬことで、お手間を取らせ、大変申し訳ございませんでした」

グレンフォ卿が深々と頭を下げる。
ローエンじい様は、眉間に深い皺をよせているが、言葉は発しない。
ヒルダ夫人の言葉の重みを…正確にとらえているからだろう。

そして私の前に改めてきて、

「オルフィリア公爵夫人は…さすが、ギリアム公爵閣下が選んだ方だと思います…。
グレッドが子供の時…使用人は、少なくとも全て大人でした。
いい大人が…子供を虐待した事実を、隠蔽しようなど、許されることではありません。
わしは…騎士として、そんな恥ずべき行為に手を貸す気はありません」

この人…本当にいい人なんやな…。
ダリアだって…昔はいい人だったんだろう…。
でも…ねじ曲がっちまった。
残念でならない…。

グレンフォ卿のこの言葉が出ると…ダリアは、そのまま地面に突っ伏して…嗚咽するだけとなった。

私は…心の中で、改めて両頬を両手で張った。
これなら…私の交渉したいことを、自然と話せるから…な。

「グレンフォ卿」

私は静かに言葉を紡ぐ。

「ヒルダ夫人の仰ったこと、わかっていただけたようなので…。
その上で…取引…しませんか?」

「え…?」

グレンフォ卿が…小さな眼を真ん丸に見開いた。
私はヒルダ夫人の方に向き直り、

「ヒルダ夫人…私の気持ちをわかって下さり、本当にありがとうございました。
でも、私が言ったことは…罪人の親族にも言える事です。
私やギリアムがここまで温情をかけたのは…ひとえに今回の罪状を公表すると、必ず
親族に…それも弱い者に被害が行くからです。
ローエン閣下とて、それを思えばこそ、匿名でとおっしゃったのでは?」

「ん…まあな…」

ローエンじい様は…ため息つきつつ、わかってくれたか…みたいな安堵感がある。

「まず…今から言う条件を飲んでいただけるなら…、ひとまず明日の発表は全ての登場人物を
匿名で出します」

「!!その条件とは?」

「もう一回…。
あと一回でも、ダリア夫人がこちらに人を介してでも、迷惑をかけたなら…。
日記と遺書は実名公表いたします。
ですが…迷惑をかけないうちは、匿名のままにしておくとお約束しますよ。
そしてその事…使用人にもしっかりと周知してください!!
いかがいたしますか?」

グレンフォ卿は…一瞬だけ下を向いたが、

「わかりました…。その条件飲ませていただきます…」

直ぐに私の目を見て…答えたのだった。

ひとまず…しっかりと証書にしてもらい、その場は収めた。
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